- 更新日 : 2025年3月31日
労働基準法第5条とは?強制労働の禁止についてわかりやすく解説!
労働基準法第5条は、強制労働の禁止を規定しています。暴力や脅迫などによって本人の意思に反して働かせることを禁止しており、労働者の尊厳を守るための基本的な原則とされています。
本記事では、この条文の考え方や適用される条件、違反時の法的な影響、処罰の内容について、わかりやすく説明します。あわせて、企業側・働く側の両方が意識しておきたいポイントについても整理します。
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労働基準法第5条とは?
労働基準法第5条は、いわゆる「強制労働の禁止」について定めた規定です。
条文では
「使用者(=雇用主)は、暴行や脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない」
と明記されています。
つまり、労働者が自分の意思に反して働かされるような状況を作り出すことは、どんな手段であれ許されないということです。
条文の目的
この規定が設けられた背景には、日本国憲法第18条があります。憲法18条では「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」と定められており、国民が奴隷のように拘束されたり、本人の意思に反する労役を強いられたりしない自由を保障しています。
この憲法の精神を具体化するため、労働基準法でも労働者の意思に反する労働を禁止する条文として第5条が制定されました。
戦前の日本の強制労働と法制化の背景
戦前の日本では、一部の炭鉱や建設現場などで労働者を長期間閉じ込め、過酷な環境下で働かせる「タコ部屋」と呼ばれる強制労働の慣行が横行していました。
タコ部屋とは、労働者を収容する宿舎に監視を付けて外出させず、まるで壺に入れられたタコのように自由を奪って働かせる酷使の方法です。
当時は北海道や樺太の炭鉱でこのようなことが当たり前に行われており、社会問題となっていました。こうした歴史的経緯もあり、憲法と労働基準法で強制労働の禁止が明文化され、現代の職場に奴隷的な労働を持ち込ませないようになっています。
労働基準法第5条は労働基準法の中でも特に重要かつ厳格な規定であり、これに違反した場合の罰則も最も重いものとなっています。労働者の基本的人権を守る根幹規定として位置づけられており、その目的は労働者が人間としての尊厳を保ちながら働ける環境を確保することにあります。
使用者・企業側は、この趣旨を十分に理解し、自社の労務管理に反映させる必要があります。
労働基準法第5条|強制労働にあたる具体例
強制労働というと、かつてのタコ部屋労働のように、「暴力で脅して働かせる」「監禁して逃げられなくする」といった極端な例を思い浮かべるかもしれませんが、強制労働は暴力的な手段に限られません。
現代の職場で問題になるのは、一見すると暴力や違法行為ではない方法によって労働者の自由を奪い、事実上働かせ続けるようなケースです。
労働基準法第5条が禁止するのは「不当な手段」による労働の強制であり、刑法に触れないような方法でも、労働者の自由を奪うものであれば違法となる可能性があります。
つまり、過重労働の中で労働者が「嫌だ」「帰りたい」と言えない状態になっているなら、それは強制労働に近い状況だと言えます。逆に、働くかどうかを自分の意思で決められる状態であれば、強制労働とは言えません。
経済的・心理的拘束による引き止め
近年問題となっているのが、経済的拘束や精神的プレッシャーによるケースです。「従業員が退職を申し出ても認めず、辞めさせない」という行為も強制労働にあたる可能性があります。
実際の事例では、従業員が会社から資格取得費用を支援された後に退職しようとした際、「辞めたければ資格取得費用を返せ」と迫られたケースが報告されています。会社が従業員に研修費用等の返還義務を課す契約を結んでいると、従業員は多額の借金を背負う不安から退職の自由が奪われ、事実上働き続けざるを得ない状態に追い込まれかねません。
これは使用者が労働者を不当に引き止める経済的拘束となり、労基法で禁じられている「賠償予定の禁止」(第16条)に抵触する行為です。会社側が実際に費用返還を請求した場合、状況によっては違法と判断される可能性が高く、就業規則や誓約書でそのような取り決めをしている企業は早急に見直す必要があります。
過酷なノルマ
過酷なノルマを課して「達成するまで帰宅させない」ようにする行為も強制労働の一例です。例えば、営業職に厳しい販売ノルマを与え、達成するまで職場から帰れない雰囲気を作ったり戸締まりしてしまったりするのは、労働者の行動の自由を不当に制限するものです。
表面的には「サービス残業」「自主的な残業」のように見えても、その背後に圧力があって労働者が帰宅の自由を奪われている場合には強制労働と判断される可能性があります。
タイムカードを押させた後に働かせるサービス残業
タイムカードを押して「退勤」した後も仕事をさせる、いわゆる「サービス残業」も、場合によっては強制労働とみなされるおそれがあります。
例えば「タイムカードを押さないと早く帰りづらい雰囲気がある」「上司がまだ残っていて帰りにくい」といった職場では、表面的には退勤していても、実際には拘束されている状態だと感じる人もいるでしょう。そうした心理的なプレッシャーが社会的に見て無視できないレベルであれば、単なる賃金の未払いだけでなく、労基法5条にも違反する可能性が出てきます。
外国人労働者・技能実習生への強制労働
外国人労働者・技能実習生に対する強制労働も深刻な社会問題です。例えば、中国人技能実習生4名が最低賃金以下の賃金で長時間働かされ、逃亡防止のためにパスポートや預金通帳を取り上げられていたという事件が報じられました。
このケースでは実習生たちが受入れ企業や管理団体に対して損害賠償を求めて訴訟を起こしており、明らかに労働者の自由を奪う悪質な強制労働として問題視されました。
技能実習生制度では、実習生が途中で失踪するケースが後を絶ちませんが、その背景には劣悪な労働条件や違法な長時間労働、パスポートの取上げといった人権侵害が指摘されています。企業が直接関与していない場合でも、下請け企業や仲介業者がこのような行為を行えば、自社のサプライチェーン上の人権リスクとなりえます。
現代ではグローバルに見ても強制労働への風当たりが強く、海外の人権デューデリジェンスの観点から日本企業の技能実習生受入れ慣行が「強制労働ではないか」と問題視されることもあります。
人事労務担当者は、自社および関連企業でそのような事態が起きていないか目を光らせる必要があります。
労働基準法第5条|強制労働にあたらない具体例
労働基準法第5条が禁じているのは、暴力や脅し、監禁などによって無理やり働かせる「強制労働」です。したがって、労働者が自分の意思で働いている場合は、たとえ長時間の労働であっても、第5条違反にはあたりません。
単に長時間働かせているだけでは直ちに労基法5条違反とはなりません。労働者本人が合意・了承して残業している場合や、自発的に長時間勤務している場合は、それ自体は強制労働ではありません。
例えば、自分の判断でスキルアップのために残業しているケースや、納得したうえで会社の業務命令に従って残業している場合は、強制労働には該当しません。36協定を結び、その範囲内で労働時間が延長されている状況も、法律上は正当なものとされています。繁忙期に一時的に業務量が増え、労働者の合意を得て残業が行われている場合も同様です。業務の都合によって会社が指示した勤務時間に従うことは、通常の労働契約の範囲内にあるとされます。
労基法5条が問題とするのは「労働者の意思に反して」「不当に拘束する手段によって」働かせることです。
労働基準法第5条|企業に求められるコンプライアンス対応
労働基準法第5条の遵守は、企業にとって重大なコンプライアンス課題です。違反すれば重い罰則を受けるだけでなく、企業の信用や労働者からの信頼も大きく損なわれます。ここでは、企業が講じるべき実務対応を紹介します。
社内の管理体制を整える
社内で強制労働につながる行為が決して行われないよう管理体制を整えることです。経営者や人事担当者自身はもちろんのこと、現場の管理職や先輩社員に至るまで、暴行・脅迫・監禁などの行為は絶対に行ってはならないと周知徹底する必要があります。
上司や同僚によるハラスメントや私的制裁がエスカレートして強制労働まがいの状況になるケースも考えられます。そのため、就業規則などに明確に懲戒事項として定める、研修で教育するなど、組織全体で違法行為の抑止に取り組みましょう。
労働契約や社内規程を見直す
労働契約や社内規程に、労働者の自由を不当に制限する内容が含まれていないか確認することも重要です。以下のような取り決めは労働基準法で明確に禁止されています。絶対に行わないようにしましょう。
- 不当に長期の労働契約を結ぶこと(労基法14条の上限を超えるような長期契約は無効
- 違約金や過大な損害賠償額をあらかじめ定める契約(労基法16条で全面禁止)
- 前借金と給与を相殺する契約(労基法17条で禁止)
- 賃金の一部を強制的に貯蓄させ企業が管理すること(労基法18条の強制貯金の禁止)
例えば、退職時に一定額の違約金を支払わせるような合意は労基法16条違反で無効です。また、従業員から預り金として保証金を徴収したり、貯蓄名目で給料から天引きして積み立てさせたりするのも原則できません。このような契約を結んでしまうと、それ自体が違法になるだけでなく、労働者の経済的自由を奪って強制労働を招く温床となります。
人事担当者は、雇用契約書や社内規則を作成・改定する際に、これら禁止事項を盛り込んでいないか十分にチェックしましょう。
相談や通報体制を整備する
社内で強制的な働かせ方や不当な引き留めが起きた場合に備え、労働者が安心して声を上げられる相談体制を構築しておくことも欠かせません。匿名で利用できるホットラインや、労務問題を専門に扱う窓口を設けておけば、早期発見と是正につながります。
匿名でも相談できるホットラインや、労務問題を専門に扱う人事課・コンプライアンス窓口を設置しておけば、早期に実態を把握して是正措置を講じることが可能です。
相談窓口では強制労働に関する訴えだけでなく、サービス残業の強要やパワーハラスメントなど幅広い労働上の悩みに対応できる体制を整えておくとよいでしょう。
退職希望者への適切な対応
従業員が退職を申し出た際、会社がこれを理由なく引き止める行為は強制労働とみなされるおそれがあります。「代わりを見つけるまで辞めるな」「損害賠償を請求する」などの圧力は、法的にも不適切です。
企業側の都合があっても、原則として退職の意思は尊重しなければなりません。引き継ぎのお願いはできますが、労働者の自由な選択を妨げないよう注意が必要です。退職の自由を認めることは、他の社員にとっても安心感をもたらします。
労働基準法第5条|強制労働が起きやすい業界とリスク
現代では明らかな強制労働は減少しましたが、それでも中小零細企業や閉鎖的な職場、一部の特殊な業界において依然としてリスクが残されています。
強制労働が起こる背景として、まず「人手不足」があげられます。人員の確保が難しい中で、企業側が違法と知りつつ無理な働かせ方を容認してしまうケースがあります。また、「昔からこうだった」「うちの業界では当たり前」という慣習が、法令意識を鈍らせていることも少なくありません。
外国人技能実習生を受け入れている業界
農業、建設、製造業(縫製工場など)などの現場では、人手不足を補うため外国人技能実習生の受け入れが進む一方で、中には法律違反の長時間労働や低賃金で酷使したり、パスポートを取り上げて事実上逃げられなくするような事例が報告されています。
実習生は言語や制度に不慣れで、泣き寝入りしやすい立場にあり、悪質な企業に狙われやすいという背景があります。
日本の技能実習制度には国際的な批判も多く、政府も2023年以降制度見直しに乗り出しています。実習生の労働環境は、人権保護や国際的な企業責任の観点からも重大なリスク要因といえます。
サービス業・販売業などノルマが課される業界
飲食業・小売業などのサービス業や販売業の一部では深刻な人手不足から長時間労働が常態化しており、店長や上司が半ば強制的にサービス残業をさせているケースがあります。
営業職が多い業界(保険営業、不動産販売など)でも、高い売上ノルマ達成のために上司が夜遅くまで詰めてプレッシャーをかけ、「帰りづらい」雰囲気を作ることで、労働者の自由を実質的に奪うことになれば、強制労働にあたる可能性があります。
表向きは各人の自主的残業に見えても、実態として上司の威圧によって帰れないのであれば、それは強制労働の疑いがあります。特に数字至上主義の営業文化や、体育会系の上下関係が強い職場では心理的強制が発生しやすいと言えるでしょう。
夜の産業・特殊な雇用形態
夜の産業(風俗業界)やそれに準じる夜間産業でも、強制労働のリスクは無視できません。風俗業界では、従業員(従業員扱いでない場合もありますが)が暴力団関係者等に脅されて働かされているようなケースが昔から指摘されています。そうした明白に違法なケースはここでは論外ですが、仮に合法的に営業している業者であっても、従業員の意思に反して過激なサービスを強いたり、辞めさせないように監視下に置いたりすれば強制労働に該当し得ます。
これらの業界は閉鎖的で外部の目が届きにくく、被害者も表に出にくいため、発覚しづらい分野ほど強制労働の闇が深いという側面もあります。
労働基準法第5条に違反した場合の企業責任と罰則
労働基準法第5条に違反して労働者に強制労働をさせた場合、企業や関係者には重大な法的・社会的責任が問われます。以下にその主なリスクを整理します。
刑事責任:最重クラスの刑罰が科される
労働基準法第117条により、第5条違反には「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」という厳罰が定められています。これは労基法に規定された罰則の中で最も重い部類に属し、強制労働の禁止が極めて厳格に扱われていることを示しています。
初犯であっても懲役刑の可能性があり、残業時間超過など他の違反(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)と比べても、処罰の厳しさは明らかです。
会社ぐるみで強制労働が行われていた場合
仮に会社ぐるみで強制労働を行っていた場合は、行為に関与した経営者や上司だけでなく、法人としての会社も罰金刑の対象になります(両罰規定)。「個人の責任」として逃れることはできず、組織全体として刑事責任を問われる可能性があります。
つまり「部下が勝手にやったことだ」と言い逃れすることはできず、会社としても刑事責任を問われるリスクがあるのです。
過去には、技能実習生に対する強制労働で経営者が逮捕・起訴された事件や、鉄工所での監視下労働をめぐる有罪判決なども報告されています。強制労働は明確な企業犯罪とされており、摘発・処罰の対象となります。
民事責任:損害賠償請求のリスク
強制労働を受けた労働者は、企業に対して精神的苦痛や損失についての慰謝料を請求することができます。たとえ刑事事件に発展しなくても、「安全配慮義務違反」や「不法行為」として民事訴訟を起こされる可能性があります。
例えば、外国人実習生が違法な労働を強いられた事例では、受け入れ企業や団体に対して損害賠償や未払い賃金の支払いが請求されており、裁判で賠償命令が出れば、企業にとって大きな金銭的負担となります。
社会的制裁と企業イメージの失墜
強制労働が発覚すれば、メディアやSNSで一気に拡散され、企業は深刻な社会的制裁を受けます。「監禁労働」「ブラック企業」などの評判が広がれば、取引停止、人材確保の困難化、株価下落といった波及リスクも避けられません。
近年では、労働環境や人権保護への取り組みがCSR(企業の社会的責任)として重視されており、強制労働はその根幹を揺るがす深刻なスキャンダルとなります。法的な罰則以上に、企業活動へのダメージは極めて大きいといえるでしょう。
労働基準法第5条|労働者の救済策と通報制度
では、労働者が「これは強制労働ではないか?」という状況に置かれた場合、どのような救済策があるでしょうか。強制労働は労働者の人権を侵す行為ですから、遠慮する必要はありません。適切な機関に通報・相談して助けを求めることが何より重要です。
労働基準監督署
労働基準法違反の取り締まりを行う行政機関としては、各地の労働基準監督署があります。労基署は強制労働の疑いがあると通報を受けた場合、必要に応じて事前予告なしの立ち入り調査を実施する権限を持っています。
労基署には労働基準監督官という捜査権限を持つスタッフが配置されており、悪質な場合はそのまま捜査に移行し、逮捕や送検といった刑事手続きを取ることも可能です。
したがって、強制労働の被害にあった労働者は、証拠(メールや録音、写真など)があれば持参のうえ労基署に申告するとよいでしょう。匿名での相談や通報も可能です。労基署が動けば、会社側にとっては強制捜査のプレッシャーとなり、状況が一変する可能性があります。
総合労働相談コーナー
労基署以外にも労働者を支援する窓口があります。厚生労働省が各都道府県に設置している「総合労働相談コーナー」では、労働条件やハラスメントなど幅広い相談を無料で受け付けています。強制労働のような深刻な相談があった場合、コーナーの相談員が労基署への取次ぎを行ってくれることもあります。
そのほか、各地の労働局にも相談窓口があり、夜間や休日でも対応してくれる「労働条件相談ほっとライン」を厚労省が設けている地域もあります。これら公的機関に相談すれば、アドバイスを受けられるだけでなく必要に応じて行政指導や捜査につながります。
労働組合
労働組合も労働者の味方です。会社に労働組合がある場合は、信頼できる組合代表者に相談しましょう。組合は団体交渉を通じて会社に是正を要求できますし、組合の無い職場でも地域労組(ユニオン)や合同労組に駆け込む方法があります。特に強制労働の問題は組合にとっても看過できない重大な人権侵害ですので、積極的に支援してくれるでしょう。
内部通報制度
社内で信頼できる上司や人事担当者がいれば、内部通報制度を利用する手もあります。近年は「公益通報者保護法」により、内部通報した労働者が解雇等の不利益を受けることを禁止する仕組みが整備されています。企業は内部通報窓口を設置し、通報があった場合は適切に調査・対応する義務があります。
万一、自社内で強制労働につながる問題が発生していることに気づいた社員は、そうした内部通報窓口や上層部に匿名で知らせることも検討してください。もちろん、会社ぐるみで隠蔽される恐れがある場合や通報先が信用できない場合は、ためらわず外部の労基署等に通報すべきです。
労働基準法第5条で人事労務担当者が注意すべきポイント
人事労務担当者としては、労働者との契約を結ぶ段階から強制労働の芽を摘んでおくことが重要です。適正な労働契約の締結とは、端的に言えば法律に沿った公正な条件で労使合意を交わすことです。以下の点に注意して契約手続きを行いましょう。
契約内容は労働基準法その他の労働法規に適合させる
契約内容は労働基準法その他の労働法規に適合させることが大前提です。前述したように、違約金の定めや過度に長い契約期間の設定、強制貯蓄の取り決めなど法律で禁止された事項は契約書に絶対に入れてはいけません。
これらの条項は入れた時点で無効になるだけでなく、会社が違法行為の意図を持っていると疑われる原因にもなります。契約書や労働条件通知書のひな形は社労士や弁護士など専門家のチェックを受け、法に抵触する箇所がないか確認しておきましょう。
労働条件を書面で明示する義務を確実に果たす
労働条件を書面で明示する義務を確実に果たすことです。労働基準法15条では、賃金や労働時間、仕事内容など重要な労働条件は書面(または電子文書)で労働者に明示しなければならないと定められています。口頭の約束だけで曖昧にしておくと、後から「聞いていないことを強いられている」といったトラブルのもとになります。
特に時間外労働の有無や上限、異動の可能性、退職に関するルール(辞めるときの手続き)など、誤解が起きやすい点は丁寧に説明しましょう。労働者が自分の置かれた労働条件を正確に理解・納得したうえで契約することが、ひいては「こんなはずではなかった」という不満や強制感の防止につながります。
契約の更新・終了に関する取り扱いも適正にしておく
契約の更新・終了に関する取り扱いも適正にしておく必要があります。有期労働契約の場合は契約期間満了時の更新の有無を明示し、更新する場合の判断基準も伝えておきましょう。更新を重ねて無期限に働かせ続けると、期間の定めの意味がなくなりトラブルのもとです。
無期雇用で採用する場合でも、退職の申し出に対しては円満に対処できるよう就業規則に明文化しておくと安心です(例えば「退職は〇日前までに届け出ること」など)。円滑に辞められる環境が整っていることは、労働者にとって安心材料であり、結果として強制的に働かされているという印象を防ぐことになります。
採用時の説明や勧誘方法にも注意
採用時の説明や勧誘方法にも注意しましょう。もし採用面接時に「うちは忙しい会社だけど根性で乗り切ってもらう」「すぐ辞めるのは許さない」などと発言すれば、入社前から心理的強制を与えることになりかねません。最初にそう言われて入社した手前、労働者が「辞めづらい」と感じてしまう土壌が生まれます。
リクルート段階から誠実で正確な情報提供を心がけ、労働者の自由意思を尊重する姿勢を示すことが、その後の健全な労使関係につながります。
外国人労働者との契約の場合は言語の壁に配慮する
外国人労働者との契約の場合は言語の壁に配慮することです。日本語が十分わからない人に日本語の契約書だけ渡してサインさせるのは適切ではありません。
必要に応じて母国語の訳文を用意する、内容をゆっくり説明するなどして、相手が本当に理解・合意している状態を作りましょう。さもないと、後になって「説明されていないことを強制された」と訴えられる恐れもあります。契約は双方の合意に基づくものですから、労働者が対等に理解し納得できる状況で締結することが、強制労働とは無縁の良好な関係の第一歩となります。
強制労働を許さない健全な職場づくりを進めよう
労働基準法第5条は労働者の基本的人権を守る重要な規定であり、企業が順守すべき最低限のルールです。戦前のような暴力や監禁による強制労働は減ったものの、現代では精神的・経済的な拘束を通じた“見えにくい”強制労働が問題となっています。「極端なことはしていない」と思っていても、職場の実態によっては第5条違反とみなされるリスクがあるため、企業には日常的な点検と予防策が求められます。
まず、職場の労働環境を適正に管理することが基本となります。長時間労働や過度のノルマ設定が常態化していないか、定期的にチェックしましょう。もし特定の部署で残業が極端に多い、退職者が続出しているといった兆候があれば、人事部門として実態調査を行い改善策を講じます。労働時間や休暇取得の状況をモニタリングし、法令違反のない範囲で労働者に無理がかかりすぎないよう調整することが、強制労働の芽を摘むことにつながります。適正な36協定の範囲内で業務を回せるよう、生産性向上や人員配置の見直しなど経営課題として取り組みましょう。
次に、人権意識・コンプライアンス意識の醸成です。強制労働は人権侵害であり犯罪だという認識を社員全員が共有するよう、社内研修や啓発資料を通じて教育を続けてください。特に管理職には労基法やハラスメント防止に関する知識を定期的にアップデートさせ、部下指導の適正化に努めてもらいます。最近ではSDGsやESG投資の文脈で企業の人権尊重姿勢が問われる時代です。
強制労働を許さない職場づくりは、法令遵守というだけでなく企業の社会的責任を果たす上でも不可欠な取り組みと言えます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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