- 更新日 : 2025年3月19日
退職手続きでは何をするべき?従業員側と会社側に分けて解説
退職手続きでは、従業員と会社の双方が適切に進めることが重要です。従業員は退職届の提出や引き継ぎ、貸与物の返却などを行い、会社は社会保険や雇用保険の喪失手続きを進めます。
本記事では、従業員側と会社側それぞれがすべき手続きを徹底解説します。スムーズな退職のために、必要な手続きを確認しておきましょう。
会社がすべき7つの退職手続き
従業員が退職する際、会社が行うべき手続きは大きく分けて7つあります。適切に手続きを進めることで、法的リスクを回避し、スムーズな引き継ぎにつながります。社会保険の脱退を含む各種手続きは、従業員の今後にも影響するため、漏れなく対応することが重要です。
以下では、会社が行うべき退職手続きを順番に解説します。
1. 退職届を受け取る
会社が従業員の退職手続きを進める際、正式な書面として「退職届」または「退職願」を受け取る必要があります。
退職届は、従業員が会社の意思とは関係なく退職を決定する書類であり、原則として提出後に撤回できません。一方、退職願は会社に対する退職の申し入れであり、承認前であれば撤回が可能です。
民法上、退職の申し入れは原則として退職予定日の2週間前までに行えば有効であり、会社は拒否できません。就業規則に「1ヶ月前までに提出」と定められていても、法的には民法が優先されます。
退職の申し入れから14日未満での退職は原則認められませんが、会社が合意すれば可能です。
2. 貸与物を回収する
退職手続きでは、会社は貸与物を回収することが重要です。貸与物が返却されないと、情報漏えいやセキュリティリスクの原因となる可能性があります。
回収対象の貸与物は、PCやスマートフォンを含むすべての機器や資料です。回収後は、PCやスマートフォンのデータをチェックし、業務情報の漏えいの可能性がないかの確認が必要です。また、紛失や破損がないかもあわせて確認し、問題があれば報告を求めましょう。
貸与物の回収漏れを防ぐためには、事前にチェックリストを作成し、すべての貸与物が返却されたことを確実に確認することが重要です。
3. 社会保険の資格喪失手続きをする
従業員が退職した際、会社は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」や「厚生年金保険70歳以上被用者不該当届」などを提出し、社会保険の資格喪失手続きを行う必要があります。
提出時期は事実発生から5日以内で、資格喪失年月日は被保険者資格を失う日のことです。退職による資格喪失日は退職日の翌日となるため、たとえば3月31日退職なら4月1日が資格喪失日となり、4月5日までに手続きを行う必要があります。
提出先は事務センターまたは管轄の年金事務所で、電子申請・郵送・窓口持参の方法で提出可能です。
添付書類は保険の種類によって異なります。全国健康保険協会の場合、資格確認書や健康保険被保険者証(本人・被扶養者分)などが必要です。60歳以上の方が退職後すぐに再雇用される場合は、退職日と再雇用日が確認できる書類を添付します。
また、厚生年金保険の資格取得月の月末前に資格を喪失した場合は、保険料の納付が必要です。
4. 雇用保険の資格喪失手続きをする
従業員が退職した場合、会社は「雇用保険被保険者資格喪失届」と「離職証明書」をハローワークに提出し、雇用保険の資格喪失手続きを行います。
提出期限は、労働者が離職した翌々日から10日以内です。提出が遅れると、退職者が失業給付を受ける際に影響が出る可能性があります。
離職証明書を提出する際は、賃金台帳・労働者名簿・出勤簿など、離職前の賃金支払い状況や離職理由を確認できる書類も必要です。離職票を希望しない退職者には、資格喪失届のみを提出すれば問題ありません。
ただし、59歳以上の退職者には、本人の希望にかかわらず離職票の発行が必要なため、離職証明書と賃金関連書類もあわせて提出します。
5. 所得税の手続きをする
会社は従業員の給与から所得税を差し引く源泉徴収を行っています。従業員が退職する際には、退職した年の納税額が記載された源泉徴収票を発行する必要があります。
源泉徴収票の交付期限は、年の途中で退職した場合、退職日から1ヶ月以内です。適切に交付することで、退職者が年末調整や確定申告を行う際に必要な情報を得られます。
また、会社は退職者の給与支払報告書を、退職時の住所地の市区町村へ翌年1月31日までに提出しなければいけません。ただし、退職者の年間給与が30万円以下の場合は提出を省略できます。
6. 住民税の手続きをする
住民税は地域社会の費用を分担するための税金で、事業主には特別徴収が義務付けられており、会社員は原則として給与天引きされて住民税を納めます。
従業員が退職して特別徴収できなくなった場合、特別徴収義務者(給与支払者つまり会社)から「給与所得者異動届出書」を自治体へ提出する義務があります。
転職する場合、転職前の会社が異動届を作成し、転職先を記入しての提出が必要です。退職者が転職先を伝えたくない場合は、退職時に「給与所得者異動届出書」を作成して転職先に提出し、転職先の会社が必要事項を記入して自治体に提出することも可能です。
また、転職先が未定の場合は、退職する会社で給与所得者移動届を作成・提出し、「普通徴収」に切り替えます。つまり、転職までの間は普通徴収として自分で住民税を納付することとなります。退職後、自治体から納付書が届くため、金融機関やコンビニで支払いましょう。
提出が遅れると、従業員へ納税通知書の送付が遅れ、一度に多額の税額を支払うことになったり、会社に督促状が届いたりする可能性があります。そのため、異動のあった日の翌月10日までに必ず提出してください。
7. 退職後の手続きに必要な書類を発行・郵送する
会社は退職者の手続きが円滑に進むよう、必要書類を発行・郵送する必要があります。
郵送する書類は、以下のとおりです。
源泉徴収票 | 退職者が確定申告や転職先での年末調整に使用するため、退職翌年1月中に郵送する |
---|---|
離職票(希望者のみ) | 失業保険の申請に必要で、退職から数週間後に郵送する |
健康保険資格喪失証明書 | 国民健康保険への切り替えや扶養手続きに必要な書類 |
上記のような書類を発行・郵送することで、退職者の手続きを円滑にサポートできます。
従業員にしてもらう6つの退職手続き
従業員が退職する際は、従業員がすべき手続きがあります。事前に手続きの流れを周知することで、スムーズな退職手続きが可能です。会社と従業員双方の負担を軽減するためにも、以下では従業員に行ってもらうべき手続きを紹介します。
1. 退職することを1〜3ヶ月前に伝えてもらう
従業員が退職を決めた場合、1〜3ヶ月前に会社へ伝えることが重要です。
早めの申告により、会社は業務の引き継ぎ期間を確保でき、後任の採用や社内調整もスムーズに進められます。また、社内規定で「〇ヶ月前までに申告」と定めている場合があるため、確認が必要です。
一般的な流れは、まず直属の上司に口頭で報告し、正式に退職届を提出します。上司への直接報告を徹底することで、社内の混乱を防ぎ、円滑な退職手続きが可能です。
2. 退職の1ヶ月前に退職届を提出してもらう
退職届は退職の1ヶ月前に提出するのが理想的です。
民法では、退職の2週間前までに申し出れば退職可能と定められています。ただし、2週間では余裕を持った引き継ぎが難しく、職場に負担をかける可能性があります。さらに、突然の退職は職場にも支障をきたす可能性があるため注意が必要です。
そのため、1ヶ月前に提出することで、業務の引き継ぎや後任の調整がスムーズに進み、会社との関係も良好に保てるでしょう。ただし、就業規則で「1ヶ月前までに申告」と定められている場合は、規則に従う必要があります。
3. 業務を引き継ぎする
退職時の業務引き継ぎは、業務の混乱を防ぎ、スムーズな業務継続を実現するために重要です。後任者が困らないよう、必要な情報を整理し、明確に伝える必要があります。
適切に引き継ぐためには、まず現在の業務内容をリストアップし、優先度や進捗状況を整理しましょう。業務マニュアルや手順書を作成すれば、後任者は迷わず作業を進められます。口頭説明のみでは情報が抜け落ちる可能性があるため、文書化が必要です。
適切な引き継ぎを行うことで、会社やチームに対する責任を果たし、円満な退職につながるでしょう。
4. 取引先への挨拶を促す
退職時の取引先への挨拶は、後任担当者へのスムーズな引き継ぎを促し、良好な関係を維持するために重要です。取引先との関係性に応じて、メール・電話・直接訪問のいずれか適切な方法を選びましょう。
挨拶では、退職日程の報告や今までの感謝の気持ち、後任者の紹介(氏名・連絡先)を伝え、引き続きのご愛顧をお願いする一言を添えます。
誠意を持って対応することで、将来的に再び関わる可能性を考慮し、良い印象を残せるでしょう。
5. 貸与物を返却してもらう
退職時には、会社から貸与された物を適切に返却してもらいましょう。
社員証や入館証はセキュリティ管理上、最優先で返却してもらう必要があります。また、社用PCやスマートフォン、タブレットはデータの処理方法を指示したうえで返却してもらうことが重要です。
さらに、オフィスやロッカーの鍵、業務用資料・書類(紙・データ)も適切に回収し、返却物が揃っているか確認しましょう。
健康保険証は退職日に回収し、必要に応じて国民健康保険の手続きのための資格喪失証明書を渡します。会社のルールを確認し、最終出社日までに返却を完了させることが基本です。未返却の貸与物があるとトラブルの原因となるため、確実に手続きを行いましょう。
6. 退職書類を受け取ってもらう
退職書類は転職や公的手続きに必要なため、漏れなく受け取り、大切に保管することが重要です。
書類名 | 用途・必要な手続き | 詳細 |
---|---|---|
離職票 | 失業保険の申請 | 希望者のみ発行する |
雇用保険被保険者証 | 転職先で雇用保険の手続き | 転職先の会社に提出する |
年金手帳 | 転職先や年金手続き | 会社が保管していた場合のみ受け取る |
源泉徴収票 | 確定申告・転職先の年末調整 | 退職後に郵送されることが一般的である |
健康保険資格喪失証明書 | 国民健康保険・扶養手続き | 退職後の健康保険手続きに必要である |
退職証明書 | 転職先から求められる場合がある | 希望者のみ発行する |
また、会社から郵送される場合もあるため、受け取り先の住所を確認しましょう。離職票や退職証明書などは、労働者からの申し出がないと発行されないため、希望する場合は忘れずに申請する必要があります。
詳しい退職の流れや受け取る書類については、以下の記事で詳細に解説しているため、ぜひ参考にしてください。
退職後、すぐに再就職しない場合に必要な3つの手続き
退職後、再就職までに期間が空く場合、必要な手続きを忘れずに行うことが重要です。手続きを怠ると、保険や年金の未加入や給付金の受け取り漏れなどのトラブルにつながる可能性があります。事前に手続き内容を把握し、すぐに対応できるよう準備しておきましょう。
以下では、退職後に必要な3つの手続きについて詳しく解説します。
1. 健康保険の手続きをする
退職後すぐに再就職しない場合、健康保険の手続きが必要です。選択肢は「国民健康保険への加入」と「健康保険の任意継続」の2つがあります。
国民健康保険に加入する場合、退職日の翌日から14日以内に居住地の市区町村役所で手続きが必要です。たとえば、東京都渋谷区の場合は以下のとおりです。
手続き先 |
|
---|---|
期限 | 14日以内 |
必要書類 |
|
参考:手続き・届出|渋谷区
健康保険の任意継続の場合、退職前に2ヶ月以上健康保険に加入している際は退職後も最長2年間同じ保険に加入できます。
手続き先 | 協会けんぽ、または健康保険組合 |
---|---|
期限 | 退職日の翌日から20日以内 |
必要書類 | 任意継続被保険者資格取得申請書 |
任意継続の保険料は退職時の標準報酬月額をもとに決定され、2年間変わりません。上記をもとに、期限内に手続きを済ませましょう。
2. 国民年金の手続きをする
退職後すぐに再就職しない場合、国民年金への加入手続きが必要です。会社員は厚生年金に加入していますが、退職すると国民年金へ切り替える必要があります。
手続きを怠ると未納扱いとなり、将来の年金受給額に影響するため、速やかに対応しましょう。
手続き先 | 住民票のある市区町村の役所 |
---|---|
期限 | 14日以内 |
必要書類 |
|
配偶者が厚生年金に加入している場合、一定の条件を満たせば「第3号被保険者」として扶養に入れます。
手続き先 | 配偶者の勤務先 |
---|---|
期限 | 退職から5日以内 |
必要書類 |
|
参考:従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き|日本年金機構
収入が減少した場合、申請すれば保険料の免除や納付猶予を受けられる可能性があります。該当する場合は市区町村の窓口で相談しましょう。
3. 雇用保険の受給手続きをする
退職後すぐに再就職しない場合は、雇用保険(失業保険)の受給手続きを行いましょう。雇用保険は、失業中の生活を支えるために支給される給付金です。受給するには一定の条件を満たし、ハローワークで手続きを行う必要があります。
受給資格要件は以下のとおりです。
- 離職の日以前2年間に12ヶ月以上被保険者期間がある
- 倒産・解雇等による離職の場合や期間の定めのある労働契約が更新されなかったこと、その他やむを得ない理由による離職の場合、離職の日以前1年間に6ヶ月以上被保険者期間がある
雇用保険の受給手続きをする際は、以下の書類を持参しましょう。
- 雇用保険被保険者離職票
- 個人番号確認書類(マイナンバーカード、通知カード、個人番号の記載のある住民票など)
- 本人確認書類(マイナンバーカード、免許証、パスポート、健康保険証など)
- 最近撮影した写真2枚(正面上三分身、縦3.0cm×横2.4cm)※マイナンバーカードを提示する場合は不要
- 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
申請後、7日間の待期期間があり、その後に給付が開始されます。求職活動の実績が必要なため、ハローワークの指示に従い適切に対応しましょう。
失業保険に関する詳しい情報は下記で解説しているため、ぜひあわせてご覧ください。
退職手続きを適切にするための注意点
退職手続きには、法律や社内規定に従う必要があり、適切に進めなければトラブルにつながる可能性があります。以下では、適切な退職手続きを行うための具体的な注意点を解説します。
従業員が注意すべきこと
退職手続きを適切に進めるためには、事前の準備が重要です。まず、就業規則を確認し、退職の申し出期限や手続きの流れを把握しておきましょう。企業ごとに独自のルールがあるため、トラブルを防ぐためにも事前の確認が必要です。
また、退職日から逆算してスケジュールを立てることも大切です。有給休暇の消化を希望する場合、退職日までに計画的に取得する必要があります。さらに、引き継ぎの期間や再就職の予定を考慮し、適切なタイミングで上司と相談しましょう。
スムーズな退職のためには、企業のルールを守り、余裕を持って準備を進めることが重要です。
会社が注意すべきこと
会社が退職手続きで注意すべき点は、従業員情報の適切な管理と法令に基づく保存期間の遵守です。
健康保険・厚生年金保険に関する書類は2年間、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿(タイムカード含む)は5年間の保管が義務付けられています。給与所得者の扶養控除等申告書は、提出期限の翌年1月10日の翌日から7年間の保存が必要です。
また、源泉徴収簿も7年間保存が推奨されます。退職後も法定期間の保管を徹底し、漏洩や不正使用を防ぐための管理体制を整えることが重要です。
会社と従業員がするべき退職手続きを確認しておこう
退職手続きは、従業員・会社双方が適切に対応することが重要です。従業員は、退職の意思表示・引き継ぎ・貸与物の返却・退職書類の受領などを確実に行いましょう。
一方、会社側も退職届の受理・社会保険や、雇用保険の手続き・必要書類の発行・郵送などを適切に進める必要があります。双方がスムーズに手続きを行うことで、トラブルを防ぎ、円満な退職を実現できます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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