• 更新日 : 2025年3月19日

労使協定方式の締結方法とは?派遣先均等・均衡方式の違いとあわせて解説

派遣労働者の同一労働同一賃金に対応するため、労使協定方式の導入を検討している人もいるでしょう。

しかし労使協定を締結する際に必要な情報を把握していなければ、派遣労働者に対して適切な労働環境を提供していないとみなされる可能性があります。

労使協定方式の概要や派遣先均等・均衡方式との違い、労使協定方式の締結方法について解説します。

派遣労働者の同一労働同一賃金とは?

派遣労働者の同一労働同一賃金とは、派遣労働者が派遣先の通常の労働者と同様の業務を行う場合、給与や待遇が不合理に差別されることを禁止する制度です。労働者派遣法の改正にもとづき、2020年4月に施行されました。

同一労働同一賃金で定めているおもな内容は以下のとおりです。

  • 派遣先で働く派遣労働者と職務が同じ通常労働者との間で、基本給・賞与・手当・福利厚生などの待遇に不合理な違いを設けてはいけない。
  • 待遇差を設ける場合は、合理的な理由を説明できる必要がある。
  • 同一労働同一賃金における待遇には、賃金のほかにも、休暇や福利厚生、教育制度などが含まれる。

派遣労働者の同一労働同一賃金は、派遣労働者が正社員と同様の待遇を受けられるようにすることが目的です。派遣元企業だけでなく、派遣先の企業も遵守する義務があります。

同一労働同一賃金の概要や法律の根拠などについて、以下の記事で解説していますので、あわせてお読みください。

また同一労働同一賃金を遵守する企業や職場が増えたなか、派遣労働者と正社員との違いについて、派遣労働者のメリットとデメリットについて、以下の記事で解説しています。こちらもあわせてお読みください。

同一労働同一賃金の適用方法は2種類

派遣労働者を受け入れたり派遣したりする場合、賃金や派遣先で利用できる福利厚生などについても取り決めなくてはなりません。同一労働同一賃金を遵守するために必要な方式は、おもに2種類あるため、自社に適した方式を選択します。以下で、それぞれの特徴について解説します。

「労使協定方式」とは従業員と派遣元で取り決める方式

労使協定方式とは、労働者と企業の間で締結される協定にもとづき、労働条件や賃金を定める方式です。

労使協定方式では、労働者の代表と会社の経営者が直接交渉し、合意に達することで賃金や労働条件が決定します。労使協定は、一般的に労働組合を通じて成立しますが、労働組合がない場合は労働者の代表と会社が協議することで成立する仕組みです。

労使協定方式の特徴のひとつに、企業ごとの事情に応じた柔軟な条件設定が可能な点があります。たとえば、特定の職場環境や経済状況に応じて賃金や労働時間を調整できます。ただし、同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準を下回るような賃金を設定することはできません。

労使協定方式は派遣労働者の待遇に関しても用いられ、派遣業界においては派遣元と派遣先の双方が協力することで、派遣労働者の賃金水準を決められるのです。

派遣労働者の待遇を決める際に注意しなければならない労働者派遣法について、以下の記事でわかりやすく解説しています。水準を決める際の参考として、あわせてお読みください。

「派遣先均等・均衡方式」とは派遣先とで取り決める方式

派遣先均等・均衡方式とは、派遣労働者の待遇を派遣先企業で同じ職務に従事している正社員と均等にするよう取り決める方式です。

派遣先均等・均衡方式では、賃金・賞与・福利厚生・教育訓練・安全管理などすべての労働条件が、同じ業務に就いている正社員と同様になるよう考慮する必要があります。

派遣先均等・均衡方式の場合、派遣労働者は正社員と同じ仕事内容であれば、同じレベルの報酬や待遇を受ける権利が生じます。そのため、派遣労働者の不利益を解消し、同一労働同一賃金の原則が実現できるのです。

派遣労働者が正社員と同じ業務を行っている場合、派遣労働者も正社員と同じ賃金や福利厚生が受けられます。

派遣先均等・均衡方式は労使協定方式と異なり、派遣元企業の派遣労働者全員ではなく、派遣先で同じ業務に就いている従業員にあわせるため、派遣先における不平等さの解消が期待できます。

労使協定方式のメリットとデメリット

雇用している派遣労働者の権利を守るため、または派遣労働者の受け入れ体制を整えるため、派遣労働者の待遇に関する決まりを定める企業や職場も多いはずです。その際、労使協定方式または派遣先均等・均衡方式のどちらを採用するかは、それぞれのメリットとデメリットを把握したうえで比較検討するとよいでしょう。

労使協定方式のメリットとデメリットについて解説します。

メリット

派遣労働者の待遇を決める際に労使協定方式を採用した場合、以下のメリットがあります。

  • 手続きが簡素化できる:
    労使協定方式では、派遣先からの詳細な情報提供が不要になるため、書類作成や事務手続きが簡略化できます。
  • 賃金に柔軟性を持たせられる:
    派遣先の賃金水準に縛られることなく、派遣元の企業が独自に賃金水準を決定できます。
  • 待遇に一貫性を持たせられる:
    派遣先が変わっても賃金が変動しにくいため、派遣労働者は安心して働けてモチベーションの維持につながります。
  • 不合理な格差が是正できる:
    同一労働同一賃金の原則にもとづき、待遇の均等性を確保できます。

労使協定方式であれば、派遣元独自で賃金水準を決められる点が大きなメリットといえるでしょう。

デメリット

一方で、労使協定方式を導入することで以下のデメリットが生じます。

  • 労働者の代表を選出する必要がある:
    労働組合がない場合、労使協定を締結するには、派遣元企業と労働者の過半数を代表する者との合意が必要です。代表者の選出や合意形成に手間がかかります。
  • 定期的に協定内容を見直す必要がある:
    労使協定の内容は定期的に見直し、派遣労働者の意見を聴取して反映する必要があります。
  • 賃金差が生じる可能性がある:
    労使協定方式では、ほかの企業や派遣労働者と比較して賃金が異なる場合があり、派遣先企業の正社員との間でも格差が生じる場合があります。

労使協定方式は、内容の決定から見直しまで、すべて自社で管理しなくてはなりません。そのため、派遣元において負担が発生する可能性があります。

派遣先均等・均衡方式のメリットとデメリット

派遣労働者の受け入れ体制や適切な労働環境を構築するため、労使協定方式としばしば比較される方式が、派遣先均等・均衡方式です。

双方のうちどちらが自社にふさわしいか判断できるよう、派遣先均等・均衡方式のメリットとデメリットについて解説します。

メリット

派遣労働者の受け入れ体制を整えるため、派遣先均等・均衡方式を導入する場合、以下のメリットがあります。

  • 優秀な人材の確保につながる:
    派遣先企業の待遇がよい場合、優秀な派遣労働者が集まりやすくなります。
  • 職場への高い定着率が維持できる:
    良好な待遇は、派遣労働者の離職率の低下につながります。安心して働ける環境を提供すれば、長期的な雇用を促進できます。
  • 労働生産性の向上につながる:
    派遣労働者が満足感を持って仕事に就けるため、モチベーションが上がりやすく、結果として生産性が向上します。
  • 同一労働同一賃金を実現できる
    派遣労働者の待遇が正社員と均等になるため、公平性が保たれます。

派遣先により賃金水準が異なるため、待遇がよい派遣先と取引できれば、優秀な人材が集まりやすくなり、長期雇用にもつながるでしょう。

デメリット

一方で、派遣先均等・均衡方式には以下のデメリットがあります。

  • 派遣先企業の業務負担が増加する:
    派遣先企業は、比較対象労働者の選定や待遇情報の提供が必要になるため、業務負担が増えます。
  • 派遣元企業の業務負担が増加する:
    派遣先から提供される情報量が多いため、処理に時間を要します。
  • 派遣労働者に対する好待遇の維持が必要:
    派遣先の待遇が悪く賃金が低い場合、派遣労働者が派遣を辞退する可能性が高くなります。

派遣先均等・均衡方式は、水準を決める際に派遣先の協力が不可欠なため、決定に時間と労力が必要な場合があります。

派遣労働者に対する一般賃金の計算方法

派遣労働者に適切な労働環境を提供するには、賃金に関する決まりを明確にする必要があります。労使協定方式を採用した場合の、派遣労働者に対する賃金の決め方や計算方法について解説します。

基本給・賞与の計算方法

労使協定方式にもとづく派遣労働者の基本給や賞与は、派遣元企業と従業員との間で結ばれた労使協定により決められます。基本給や賞与は、おもに以下の要素が考慮されます。

基本給・賞与の決定

基準値(0年)× 能力・経験調整指数 × 地域指数

基本給や賞与の額は、同一業務に従事する派遣労働者と正社員の賃金との均衡が取れるように設定されるため、業種や職務内容、勤務地などの統計調査等を参考に決定します。

通勤手当の計算方法

派遣労働者に通勤手当をどのように支給するかは、実費支給と定額支給のどちらで支給するかにより異なります。

  • 実費支給
    実費支給は、派遣労働者が実際に負担した通勤費用をそのまま支給する方法です。労使協定において上限額の設定が可能です。
  • 定額支給
    定額支給は、時給換算した額をもとに通勤手当が支給されます。一般的な基準額として73円(令和7年時点)と同等以上の金額が用いられ、派遣労働者の通勤手当が設定されます。

労使協定の内容や通勤手当の算出方法は毎年見直されることがあるため、適切な情報を確認し、最新の条件をもとに決定することが重要です。

退職金の計算方法

退職金の計算方法には3つの方法があり、自社に適した方法で退職金の金額を算出します。

  • 前払い退職金制度
    基本給および賞与に対して、退職金相当の時給を加算して支払う方法です。具体的には、一般基本給・賞与の合計に対して5%を退職金相当額として加算します。
  • 中小企業退職金共済制度
    派遣労働者が中小企業退職金共済制度(中退共)に加入する場合、退職手当については一般退職金と同等以上であるとされます。
  • 派遣元企業独自で設けた退職金制度
    派遣元企業が定める退職金の支給条件にあわせて、退職金が支給されます。算出方法や金額は企業が独自で決められますが、一般的に「基本給×支給月給×支給率」で算出します。ほとんどの企業では、勤続年数3年以上であれば受け取れるとしており、勤続年数が増えるごとに金額も上昇する仕組みです。

一度採用した制度を変更する場合、就業規則の変更や従業員への説明と合意など、多くの手間がかかります。そのため、採用する制度においては慎重に決めましょう。

労使協定方式で派遣元企業が実施すべき対応

労使協定方式を採用し導入する場合、派遣元企業では、労使協定案を作成したり派遣契約書を作成したり、さまざまな事務作業や手続きが必要になります。派遣先企業に労働者を派遣する場合、派遣元企業で実施すべきことについて解説します。

派遣労働者の賃金項目を確認する

派遣元企業は、派遣労働者の賃金に関する項目を詳細に確認する必要があります。具体的には、基本給・賞与・通勤手当・退職金など、派遣労働者の賃金構成要素を整理し、ほかの通常の労働者と同様の待遇を提供することが求められます。

派遣法による同一労働同一賃金の原則を遵守するための基礎となり、派遣先との協議を行う際にも役立つでしょう。また、派遣労働者のスキルや経験に応じた公平な賃金設定が重要です。

労使協定案を作成する

労使協定案は、派遣元企業と派遣労働者の間で締結される重要な書類です。労使協定案では、派遣労働者に適用される賃金設定・業務内容・労働条件などを具体的に記載します。

とくに注意すべきは、労使協定案が派遣労働者が従事する業務において、関連性のある内容を記載することです。労使協定案の作成過程では、厚生労働省が定める様式や基準を参照し、法律に準拠した内容であることが重要です。必要に応じて、インターネット上に公開されている労使協定案のサンプルを参考にしたり、社内の法務担当者と連携したりしながら進めましょう。

労働者の代表を選出する

労使協定方式では、労働組合がない場合、労働者代表の選出が必要です。

代表者は、派遣労働者の意見を反映させる役割を担い、協定の締結に際して重要な役割を果たします。代表者の選出は、定期的な挙手制を通じて行われることが一般的です。選出された代表者は、労使協定案に関して派遣労働者の意見を集約し、適切にコミュニケーションを図ることが求められます。

派遣契約書を作成する

派遣契約書は、派遣元企業と派遣先企業の間で結ぶ正式な契約文書です。契約書には、派遣労働者の業務内容・勤務条件・賃金設定などが記載され、両者の合意を示す重要な証拠になります。

法令にもとづき、契約書には必要な項目が漏れなく含まれるように作成します。また、契約内容は定期的に見直し、法改正への対応も大切です。

適切な契約書の作成および維持は、のちのトラブル防止に役立ちます。

派遣先から派遣労働者に対する待遇の情報を得る

派遣元企業は、派遣先企業から派遣労働者に対する待遇に関する情報の取得が必要です。

情報には、教育訓練の内容や福利厚生の利用条件、同じ業務に従事する通常の労働者との待遇差などが含まれます。派遣先における労働環境を適切に把握することで、派遣労働者の待遇が適切かつ労働法に準拠しているかが確認できます。

労使協定方式で派遣先企業が実施すべき対応

労使協定方式のもと派遣労働者を受け入れる場合、派遣先企業では以下の対応が必要です。

  • 派遣労働者の待遇情報の提供:
    比較対象労働者の待遇情報を派遣元に提供する必要があります。
  • 派遣労働者に対する福利厚生施設の利用についての情報提供:
    業務に必要な能力を身に付けさせるための教育機会や、社員食堂や休憩室の利用など、派遣労働者に対する待遇の情報を提供する必要があります。

労使協定方式は、あくまで同一労働同一賃金を遵守するために取り決めるため、待遇差や不適切な待遇を提供しないよう注意が必要です。どのような待遇が不合理であり不適切なのかについて、以下の記事で解説しているため、あわせてお読みください。

労使協定方式を理解して派遣労働者の同一労働同一賃金の遵守を!

派遣労働者に対する同一労働・同一賃金には、労使協定方式または派遣先均等・均衡方式の導入が一般的です。

労使協定方式は、派遣元が独自に賃金水準を決められますが、労働組合がない場合、労働者代表を選出したうえで労使協定を締結しなければなりません。

一方で派遣先均等・均衡方式は、派遣先で同じ業務に就く従業員と同じ賃金水準や待遇が受けられますが、派遣先が変わるたびに待遇も変わるリスクがあります。

自社に適切かつ派遣労働者にとって最適な労働環境が提供できるよう、体制を整えましょう。


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