- 更新日 : 2025年11月11日
法定雇用率とは?引き上げに伴う企業の対応、未達成のリスクを解説
法定雇用率とは、企業に義務付けられた障害者雇用率(従業員に占める障害者の割合)のことです。障害者雇用率の計算は複雑で未達成企業には罰則もあるため、計算方法を詳しく説明します。
また、法定雇用率は段階的に引き上げられ、企業は障害者の新規採用や離職防止が必要です。対策も紹介しますので、障害者雇用率を高めるために活用してください。
目次
法定雇用率とは?
法定雇用率とは、法律で企業に義務付けられた「従業員に占める身体・知的・精神障害者の割合」をいいます。法定雇用率が適用されるのは、企業規模が一定以上の事業主です。
未達成の事業主には罰則が科されたり、社会的な批判を受けたりする恐れもあるため、人事労務担当者には正しい知識が必要です。まずは、基本事項について確認しましょう。
障害者法定雇用率の計算方法
障害者の法定雇用率は、事業主の種類(民間企業や国など)ごとに次の通り計算します。
- 法定雇用率=(障害者の常用労働者数+失業している障害者数)/(常用労働者数+失業者数)
各企業が計算するときは、失業者数を除いて次の通り計算します。
- 障害者雇用率=(障害者の常用労働者数)/(常用労働者数)
障害者数のカウントには特別な方法が定められていますが、詳細は後述します。
事業主別の法定雇用率
法定雇用率は事業主の種類ごとに次の通り定められています。
- 民間企業:2.5%
- 国や地方公共団体:2.8%
- 都道府県等の教育委員会:2.7%
公共性の高い国や地方公共団体などについては、民間企業より高く設定されています。
法定雇用率の対象となる企業
法定雇用率の対象となるのは、民間企業では従業員を40人以上雇用している企業です。法律には「40人」という数字はありませんが、従業員39名以下の企業を対象とすると法定雇用率2.5%を上回る障害者雇用を義務付けることになるため、40名未満の企業は対象から外されています。
法定雇用率が2.7%に引き上げられた場合、37.5人以上の従業員を雇用する企業が対象です。法定雇用率が高くなるほど、対象企業が広がります。
2024年4月~障害者の法定雇用率の段階的な引き上げ
1960年に法定雇用率が設けられて以来、法定雇用率は段階的に引き上げられています。直近では2024年4月に引き上げが行われ、2027年7月にも引き上げ予定です。法定雇用率の推移は次の通りです。
(法定雇用率の推移)
| 民間企業 | 国や地方公共団体 | 都道府県等の教育委員会 | |
|---|---|---|---|
| 2021年3月~ | 2.3% | 2.6% | 2.5% |
| 2024年4月~ | 2.5% | 2.8% | 2.7% |
| 2026年7月(予定) | 2.7% | 3.0% | 2.9% |
法定雇用率の対象となる障害者の範囲
障害者雇用率を計算するときに使用する労働者数や障害者数の数え方は、労働時間や障害の程度に応じて異なります。
常用労働者数については、1週間の所定労働時間に応じて次の通り計算します。
- 30時間以上:1人
- 20時間以上30時間未満(短時間労働者):0.5人
また、障害者数の数え方は、労働時間と障害の程度に応じて次の通りです。
(障害者数のカウント)
| 1週間の所定労働時間 | |||
|---|---|---|---|
| 30時間以上 | 20時間以上 30時間未満 | 10時間以上 20時間未満 | |
| 身体障害者 | 1人 | 0.5人 | - |
| 重度身体障害者 | 2人 | 1人 | 0.5人 |
| 知的障害者 | 1人 | 0.5人 | - |
| 重度知的障害者 | 2人 | 1人 | 0.5人 |
| 精神障害者 | 1人 | 1人 | 0.5人 |
除外率制度とは?
除外率制度とは、障害者の就業が困難であると思われる業種に対して障害者雇用の負担を抑えるための制度です。常用労働者数から一定人数を差し引いて(除外して)、障害者雇用率を計算します。除外できる人数は、常用労働者数に業種ごとの除外率を掛けた人数です。
常用労働者が100人で除外率10%の場合、常用労働者を90人(=100人-100人×10%)と見なして障害者雇用率を計算します。2025年4月に除外率の10%引き下げが予定されていて、引き下げ後の除外率は業種別に次の通りです。
(2025年4月以降の業種別除外率)

引用:障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について|厚生労働省
法定雇用率の引き上げによる企業の対応
法定雇用率の引き上げに合わせて、企業は障害者雇用率を正しく把握するとともに、障害者雇用を増やさなければなりません。企業に求められる主な対応は次の通りです。
- 障害者情報の管理
- 障害者が働きやすい環境の整備
- 助成金の活用
それぞれについて解説します。
障害者情報の管理
法定雇用率を下回らないように障害者雇用率を正しく把握するため、企業は障害者の情報をきちんと管理しなければなりません。採用候補者だけでなく、既に雇用している従業員の情報管理も必要です。
障害に関する情報を取得するときは、利用目的を明示したうえで本人の同意を得なければなりません。また、取得した情報の利用目的以外の使用や、情報提供を拒んだ従業員に対する不利益取扱いは禁止されています。
また、従業員の障害等級の変更にも注意しましょう。障害の程度によって障害者雇用率を計算するときの障害者数が変わるケースもあります。
障害者が働きやすい環境の整備
雇用する障害者を増やすためには、新規に障害者を採用するとともに雇用している障害者の離職を防ぐことが必要です。新規採用と離職防止の対策として、障害者が働きやすい環境を整備することが効果的です。具体的には、次の対応が考えられます。
- バリアフリー化(通路の段差をなくす、手すりを設ける、点字で表示する、など)を進める
- 在宅勤務や短時間勤務などの勤務制度を設ける
- 障害者の希望や特性に応じた配置や教育訓練を行う
- 障害に対する管理職や従業員の理解を深め適切な配慮ができるようにする など
環境整備によって障害者が能力を発揮し活躍すれば、職場全体に活気が出る、生産性がアップする、などの効果も期待できます。
助成金の活用
障害者の雇用や教育訓練などを行う企業に対し、国ではさまざまな助成金を設けています。助成金を有効活用して、障害者の新規採用や定着率の向上を図りましょう。主な助成金を、いくつか紹介します。
(障害者の雇用などに関する主な助成金)
| 助成金 | 主な内容 |
|---|---|
| 特定求職者雇用開発助成金・特定就職困難者コース | ハローワーク等の紹介による障害者の雇用に対する助成 |
| 同・発達障害者・難治性 疾患患者雇用開発コース | 就職の難しい発達障害者などの雇用に対する助成 |
| トライアル雇用助成金・ 障害者トライアルコース | 障害者の試行的雇用に対する助成 |
| 人材開発支援助成金・ 障害者職業能力開発コース | 障害者の職業能力開発訓練のための施設・設備の設置・整備に対する助成 |
| キャリアアップ助成金・ 障害者正社員化コース | 契約社員の障害者を正社員や無期雇用社員に転換する措置の実施に対する助成 |
法定雇用率が未達成の場合どうなる?
企業が法定雇用率を達成できない場合、行政指導を受けたり「障害者雇用納付金」を徴収されたりします。障害者雇用率の低い企業には、ハローワークより「雇入れ計画」の作成命令が出ます。実施状況が悪いと「特別指導」を受けたり、企業名が公表されたりするため注意が必要です。
「障害者雇用納付金」は、法定雇用率が未達成の企業に対する罰則的な制度です。従業員数100名超の未達成企業には、未達者数1人につき月5万円の納付金が課されます。納付金は法定雇用率を超過達成した企業への給付(「障害者雇用調整金」)などに使われます。
障害者雇用率を高めるために企業の対策が必要
障害者雇用率の計算は複雑なため、人事労務担当者は労働者数や障害者数のカウント方法をきちんと理解しましょう。
民間企業の法定雇用率は、2027年7月に現在の2.5%から2.7%に引き上げられます。法定雇用率が未達成の場合、行政指導を受けたり、納付金を徴収されたりするため、障害者雇用数の確保が必要です。国の助成金を活用して職場環境を整備するなど、対策を検討しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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