- 更新日 : 2023年10月20日
アンダーマイニング効果とは?定義や防ぐ方法を例を用いて解説
仕事やスポーツで目的を達成するためには、モチベーションの維持が重要です。しかし、はじめた当初と同じモチベーションを維持することは容易ではありません。
当記事では、モチベーション低下につながる「アンダーマイニング効果」について、具体例を挙げて解説を行っています。ぜひ参考にしてください。
目次
アンダーマイニング効果とは?
この現象は、金銭などの外的報酬を受けることによって起きる心理的効果の1つです。この現象が起きると、当初達成感や満足感を得るためであったはずの行動でも、外的報酬を得ること自体が目的へと変わってしまいます。
過剰正当化効果とも言われる
心理学用語において、アンダーマイニング効果は、「過剰正当化効果」とも呼ばれます。また、「抑制効果」と呼ばれることもありますが、意味として異なるものではありません。
内発的動機づけと外発的動機づけの違い
モチベーションを得るための動機づけには、「内発的」と「外発的」の2種類が存在します。両者の違いは以下の通りです。
- 内発的動機づけ
達成感を得ることや、好奇心を満たすことなど、内的な欲求によりモチベーションが発生します。 - 外発的動機づけ
金銭的報酬や他者からの評価など、外的要因によって、モチベーションが発生します。
アンダーマイニング効果の提唱者
アンダーマイニング効果は、1971年にアメリカの心理学者であるデシとレッパーの実験により提唱されました。
アンダーマイニング効果の心理学における実証
アンダーマイニング効果の実証は、デシらによって、行われました。実験では、対象となる学生を2つのグループに分け、以下の3つのセッションを行っています。
セッション2:1つのグループにはパズル解答の報酬を与える一方で、もう1グループには報酬を与えない
セッション3:両グループにパズルを解かせるが、どちらにも報酬を与えない
すると、報酬を与えないグループは、パズルに触れる時間に変化が見られないものの、報酬を与えたグループは、パズルに触れる時間が減少しました。このことから、外的報酬によって、パズルへのモチベーションが低下することが判明しました。報酬を与えられたグループは、パズルを単なる報酬を得る手段と捉えたわけです。
アンダーマイニング効果の具体的な例
アンダーマイニング効果の具体例としては、子どもに絵を描かせるような場合が挙げられるでしょう。まず、子どもたちを以下のグループに分けます。
B.ご褒美の約束はしないが、描いた後にシールを与える
C.何も伝えず、何も与えない
上記のように分類し、実験を行うとBとCでは意欲の低下が見られません。しかし、報酬の約束をしたAの子どもだけは、意欲が低下することになります。
エンハンシング効果との違い
同じようにモチベーションに関わる心理的効果として、「エンハンシング効果」が存在します。エンハンシング効果では、昇進や表彰などの外発的動機によって内発的動機が高まる(モチベーションが向上する)点で、アンダーマイニング効果とは異なる効果です。
アンダーマイニング効果がおこってしまう原因
アンダーマイニング効果が発生する原因は、いくつか考えられます。原因を知ることによって、発生を抑制可能なため、しっかりと把握しましょう。
仕事や遊びの目的が報酬に変わってしまう
原因の1つとして、目的が報酬に変わることが挙げられます。仕事の場合であれば、給与などの外的報酬を支払うことになります。しかし、給与のみを仕事の目的としていては、モチベーションの維持は困難です。
周囲からの評価が目的になってしまう
周囲からの評価を気にすることも原因として挙げられます。企業において、仕事に対する評価を行うことは当然です。しかし、評価のみを目的としていては、やはりモチベーションの維持は困難となるでしょう。
やりたいことと会社・周りが求めていることがマッチしていない
従業員自身がやりたいことと、企業が求めることがマッチしていない場合も、アンダーマイニング効果が起こり得ます。本来のやりたい仕事と異なっている場合には、動機づけを給与や周囲の評価といった外部要因に求めるしかないでしょう。
強制されていると感じてしまう
強制されていると感じてしまえば、内発的動機づけは困難です。このような場合には、自ずと外的要因にモチベーションの維持を求めるようになってしまいます。
締め切り・ノルマがある
締切りやノルマに追われた作業も、内発的動機づけに繋がらず、アンダーマイニング効果を引き起こす原因となります。
アンダーマイニング効果が起きた場合のデメリット
アンダーマイニング効果は、モチベーションの低下をもたらします。そのため、さまざまなデメリットを発生させることにもつながってしまいます。
離職率の増加
アンダーマイニング効果が発生し、モチベーションが低下すれば従業員の離職にも繋がってしまいます。外発的動機づけによるモチベーションは、長期間持続せず、仕事への意欲も失ってしまいます。
生産性の低下
アンダーマイニング効果による仕事への意欲低下は、生産性の低下にも繋がります。自身の達成感に繋がらない仕事では、どうしても業務効率が落ち、ミスも増えてしまうでしょう。
風通しの悪い職場に
報酬のためと割り切って仕事を行っているような職場では、密な人間関係は構築できません。また、自分がより高い報酬を得るために、他者の評価につながるようなことはしないと考える従業員が出てきても不思議はありません。
内発的動機付けに変えるのが難しくなる
アンダーマイニング効果によって、外発的な動機にモチベーション維持を求めるようになると、再び内発的動機づけに戻すことは困難です。従業員のパフォーマンス維持のためにも、発生させないように心掛けなければなりません。
アンダーマイニング効果の防止策
アンダーマイニング効果は、離職率の向上や生産性の低下など多くのデメリットがあります。そのため、防止策を講じることは重要です。
内発的動機づけを重視する
金銭的報酬などの外発的動機づけを重視しているような環境では、どうしてもアンダーマイニング効果が発生しやすくなります。従業員が達成感を得られるような環境を構築すれば、アンダーマイニング効果の発生を防げるようになるでしょう。
目標に段階を設ける
一気に高い目標達成を求められれば、どうしても強制感やノルマを感じてしまいます。しかし、段階ごとに目標を設定すれば、達成感を得やすくなり、アンダーマイニング効果発生を防止できます。
報酬の種類をお金とは別にする
金銭は非常に分かりやすい報酬ですが、それだけにアンダーマイニング効果を生みやすくなります。そのため、報酬を社内福利厚生施設の利用や、特別休暇の付与などの福利厚生に変更することも効果的です。
言語的報酬を積極的に活用する
言葉による賞賛は、自己決定感や有能感を低下させません。昇給や賞与といった物的な報酬ではなく、言葉による報酬を与えることは、内発的動機づけに繋がりアンダーマイニング効果の発生も防止できます。
モチベーション理論への理解を深める
どのような欲求によって、動機づけされているのかを研究した理論を「モチベーション理論」と呼びます。モチベーション理論への理解を深めることは、アンダーマイニング効果の発生防止のため有効な手段です。
アンダーマイニング効果を元に改善が試みられている分野
アンダーマイニング効果は、多くのデメリットを発生させます。しかし、原因と対策方法を知れば、問題改善にもつながります。ここでは、アンダーマインニング効果をもとに改善を試みている分野を紹介します。
教育
アンダーマイニング効果は、子どもの意欲を低下させます。そのため、教育現場では、アンダーマイニング効果をもとに、好奇心や達成感といった内発的動機づけによる学習意欲向上を図っています。
職場
職場でのアンダーマイニング効果の発生は、離職率を向上させ、生産性を低下させます。しかし、原因を取り除けば、仕事に対するモチベーションや、職場に対するエンゲージメントの向上も図れます。
ボランティア
ボランティアは本来、自発的意思によって行われるものです。しかし、他者からの評価のために行う場合も見られます。そのため、アンダーマイニング効果をもとに改善を行い、ボランティア本来の形に戻そうとしています。
スポーツ
スポーツの分野では、モチベーション維持が重要な要素となっています。年俸など報酬のためだけでは、優れたパフォーマンスも維持できません。そのため、モチベーションに関わるアンダーマイニング効果をもとにした改善が行われています。
アンダーマイニング効果への理解を深めよう
アンダーマイニング効果の発生は、多くのデメリットを生みだします。しかし、発生の原因を知れば、改善に繋げることも可能です。また、事前に予防することも可能なため、ぜひ本記事を参考に予防策を講じてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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