- 更新日 : 2025年3月24日
生活保護を受けていても社会保険に加入できる?会社の対応方法
日本では、貧困化が進んでいるといわれています。厚生労働省「被保護者調査」によると、令和6年7月分ですと、生活保護の被保護実人員は2,013,327人となっています。
生活保護における扶助は衣食住がよく知られていますが、医療などの社会保険はどのようになっているのでしょうか。受給者の中には事業所に勤務している人もいます。
本稿では、生活保護を受けている場合の社会保険の加入可否の他、勤務している場合の取り扱いなどについて解説します。
目次
生活保護を受けていても社会保険に加入できる?
生活保護には衣食住の生活扶助・住宅扶助を含めて、教育、介護、出産など8つの扶助があります。
もちろん、疾病や負傷した場合の治療や療養のために医療機関に支払う費用に対する医療扶助もあり、全額を扶助で負担するのが原則となっています。
日本の社会保険には医療保険制度として健康保険・国民健康保険がありますが、生活保護の医療扶助とどのような関係になっているのでしょうか。
生活保護とは?各種保険との関係
生活保護は生活に困窮している人々に対し、生活保護法によって憲法が定める健康で文化的な最低限度の生活を保障し、積極的にそれらの人々が自立した生活ができるよう援助する制度です。
国が制度の枠組みや全国的な基準を設定しますが、実施機関は市町村を管轄する都道府県です。
医療保険制度は、会社員のように雇用される労働者が加入する「被用者保険」と自営業者などが加入する「地域保険」のに分けられます。ただし、75歳になると全員が「後期高齢者医療制度」に加入することになります。
被用者保険は健康保険が該当し、全国健康保険協会と健康保険組合が保険者として運営しています。地域保険は国民健康保険が該当し、生活保護と同様に市町村や都道府県が運営しています。
生活保護の受給者の大半は傷病者世帯、高齢者世帯、障害者世帯、母子世帯などですが、最近はその他の世帯も増えています。
これらの世帯は無職、非正規社員、自営業者が大半を占め、医療保険では国民健康保険や後期高齢者医療制度の対象となります。
しかし国民健康保険、後期高齢者医療制度のいずれも、生活保護受給者は加入できません。すでに被保険者となっている場合は、国民健康保険・後期高齢者医療制度から脱退する手続きが必要です。
一方、被用者保険である健康保険に加入している労働者が生活保護受給者になっているケースもあります。確認できるデータでは、被用者保険加入率は2.4%(平成18年被保護者全国一斉調査)です。
国民健康保険、後期高齢者医療制度とは異なり、生活保護受給者となっても脱退する必要はありません。
生活保護受給者の社会保険について会社はどう対応する?
健康保険では、適用事業所に正社員として雇用されれば本人の意思に関係なく、自動的に被保険者となります。事業主は、資格取得の手続きをしなければなりません。
資格取得に給与の金額は問われないため、不況が長引く中、事業所によっては最低賃金程度の低賃金で雇用することもあります。
収入が最低生活費に満たない場合は、不足部分を補うために生活保護費が支給されるため、生活保護受給者であり健康保険の被保険者になっている被用者が生じることになります。最近はその他の世帯が増加していますが、このようなケースもあるでしょう。
生活保護受給者は健康保険を脱退する必要はありませんが、どのような対応関係になっているのでしょうか。
事業所としては対応関係の他、保険料や保険証の扱いについても本人に説明しておく必要があります。
医療扶助と健康保険の対応
生活保護の医療扶助と健康保険の給付は併用されます。
疾病にかかったり負傷したりすると、場合によっては健康保険から療養のための保険給付(原則7割)が優先され、自己負担となる3割部分が生活保護の医療扶助から給付される関係になっています。
自己負担分については自治体から医療券を発行してもらい、本人が医療機関に提出することで無料になりますが、自治体によっては医療機関に医療券を直接送付するところもあるので、確認しておきましょう。
社会保険料は発生する?
生活保護受給者となっても健康保険の被保険者であり、医療費の7割分の保険給付は受けられるため、健康保険料は発生します。また、40歳以上65歳未満であれば介護保険料の納付義務もあります。
なお、生活保護費に加算して支給されるため、実質的な負担はありません。
保険証は発行する?
国民健康保険の場合と異なり、健康保険では被保険者の資格は継続しており、保険証(被保険者証)は発行されます。
前述のとおり自己負担分を生活保護で無料にするために、医療券も発行してもらう必要があります。
生活保護を受けていても社会保険に加入できるか知っておこう!
生活保護を受けている場合の社会保険の加入可否や、事業所に勤務している場合の取り扱いなどについて解説しました。
生活保護受給者数のピークは過ぎたとはいえ、減少に向けた効果的な施策があるわけではありません。
会社が非正規社員として雇用した短時間労働者が、生活保護受給者となる可能性もあります。ギリギリのところで社会保険の適用基準を満たしていれば、健康保険の被保険者になることもあるでしょう。
会社としては、生活保護と社会保険の関係を理解しておくことが大切です。
よくある質問
生活保護を受けていても社会保険に加入できますか?
健康保険には加入できますが、国民健康保険と後期高齢者医療制度には加入できません。詳しくはこちらをご覧ください。
生活保護受給者に対して、会社はどう対応すればよいですか?
健康保険と生活保護の対応関係や、保険料・保険証などについて説明しましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
国民年金基金とは?国民年金との違いやメリットを紹介!
年金制度として、国民年金、厚生年金があることは、多くの方がご存知かと思います。では、国民年金基金とはなんでしょうか。自営業者、サラリーマンなど、すべての国民が関係するものなのでしょうか。この記事では、国民年金基金とはどのようなものなのか、国…
詳しくみる建設業における労災保険の特徴は?単独有期と一括有期の違いなど
事業主は、労働者を雇用すれば原則として労働保険(労災保険、雇用保険)の適用事業所として加入義務が生じ、所定の手続きを行う必要があります。 一般的な業種の手続きは共通していますが、建設業など一部の業種の手続きは別に取り扱われます。 本稿では労…
詳しくみる基礎年金番号とは?番号の確認方法なども解説
「基礎年金番号」とはなんでしょうか。公的な番号には、マイナンバー(個人番号)、保険証の保険者番号など紛らわしいものもあるため、あらためて聞かれると、正確には何だかよく分からない、ということもあるかもしれません。 今回は、知っているようでよく…
詳しくみる健康保険の年齢は何歳まで?70歳以上を雇用する場合の手続きを解説
健康保険は、労働者が医療機関を受診する際に必要となる制度です。年齢によって扱いが変わるため、労働者を雇用する際には注意しなければなりません。手続きに誤りがあれば、一旦治療費を全額自己負担しなければならない場合もあります。今回は70歳以上の健…
詳しくみる育休(育児休業)中も住民税は支払う?税金・社会保険料は?わかりやすく解説
育児休業中で給料の支払いがなくても、住民税の納付は必要です。しかし、給料天引きできない住民税はどうやって支払えばよいのでしょうか。 本記事では、育児休業中の住民税について解説します。育児休業中の住民税の納付方法や育休終了後の手続き、住民税の…
詳しくみる退職後も出産手当金がもらえる?要件と手続きについて解説!
出産手当金は被保険者が出産のために休職し、その間に給与を得られなかった場合に支給される給付金です。 このお金は、在職中の休業であれば受け取ることができますが、受け取る前後において退職した場合はどうなるのでしょうか? この出産手当金は退職する…
詳しくみる