• 更新日 : 2025年11月25日

一人での夜勤は違法?ワンオペのリスクと法的基準を解説

一人での夜勤(ワンオペ夜勤)が、直ちに法律違反となるわけではありません。しかし、適切な休憩が取れない状況や、安全への配慮が不十分な場合は、労働基準法違反や安全配慮義務違反と判断される可能性が高くなります。

そのため、企業の人事労務担当者や経営者は、夜勤体制が法令を遵守しているか、労働者の安全が確保されているかを点検しなくてはなりません。

この記事では、一人夜勤が違法とみなされるケース、業種ごとの規制、そして問題がある場合の対処法について詳しく解説します。

一人夜勤(ワンオペ夜勤)は違法?

一人夜勤(ワンオペ夜勤)そのものを直接禁止する法律はありません。ただし、法律が定める要件を満たせない運用になっている場合は、違法と判断されます。具体的には、「労働基準法に定められた休憩時間を付与できない」場合や、「企業が負うべき安全配慮義務を果たしていない」場合がこれにあたります。

一人夜勤が違法となる主なケース

一人夜勤が違法と判断される主な理由は、以下の2点です。

  1. 労働基準法違反(休憩時間の未取得):
    法律で定められた休憩時間を、業務の都合で一切取れない、あるいは自由に利用できない状態。
  2. 安全配慮義務違反:
    労働者の生命や身体の安全を確保するための配慮(緊急時の対応体制、防犯措置など)を企業が怠っている状態。

これらの条件に該当する場合、たとえ一人夜勤自体が禁止されていなくても、その運用実態が違法であるとみなされる可能性があります

一人夜勤で高まるリスク

一人夜勤(ワンオペ)では、犯罪のリスクや緊急事態への対応が難しい、精神的ストレスなどのリスクが通常勤務よりも高まります。

  • 犯罪のリスクが高まる:
    強盗、侵入者、利用者や顧客からの暴力・ハラスメントに一人で対処しなくてはならない。
  • 緊急事態への対応が困難:
    労働者自身の急病や負傷、または火災や設備の重大な故障が発生した際、通報や初期対応が遅れる。
  • 精神的ストレスがかかる:
    「何かあったらどうしよう」という孤独感やプレッシャーが、大きな精神的負担となる。

一人夜勤が労働基準法違反となる「休憩が取れない」とは?

労働基準法で定められた休憩時間を、一人夜勤(ワンオペ)であるがゆえに確保できない場合、その運用は違法となります。

法律は、労働時間に応じて一定時間の休憩を「労働の途中に」「自由に利用できる形で」与えることを使用者に義務付けています。一人夜勤では、この「自由利用」が実質的に困難になるケースが多く、問題視されます。

法定休憩時間(8時間超で1時間)の付与が必須

労働基準法第34条では、労働時間に応じた休憩時間を以下のように定めています。

  • 労働時間が6時間を超える場合:少なくとも45分
  • 労働時間が8時間を超える場合:少なくとも1時間

夜勤は多くの場合8時間を超えるため、最低でも1時間の休憩を与えなくてはなりません。

参照:労働基準法 第三十四条 休憩|e-Gov法令検索

「休憩時間の自由利用」が確保されない場合

法律が定める「休憩」とは、労働者が労働から完全に解放され、自由に利用できる時間(休憩時間自由利用の原則)を指します。

一人夜勤(ワンオペ)において、以下のような状況は休憩時間とは認められません。

  • 休憩中もナースコールや電話、来客対応を義務付けられている。
  • 緊急事態に備えて、常に待機しなくてはならない(手待ち時間)。
  • 事務所や休憩室から離れることが実質的に許可されていない。

これらの時間は、労働から解放されているとはいえず、「手待ち時間」として労働時間に含まれると判断される可能性が高いです。

実態が伴わない仮眠時間は休憩とみなされない

夜勤業務では「仮眠時間」が設けられることがありますが、この仮眠時間が法的な「休憩時間」と認められるかは、その実態によります。

例えば、仮眠中に電話や緊急呼び出しに対応する必要がある場合、それは労働からの完全な解放とは言えません。もし、この仮眠時間以外に1時間の自由な休憩が確保されていなければ、労働基準法違反(休憩の未付与)にあたる可能性があります。

また、仮眠時間が労働時間とみなされれば、法定労働時間(1日8時間)を超える部分は時間外労働となり、割増賃金(残業代)の支払い対象となります。

一人夜勤が安全配慮義務違反となるのは?

企業が労働者の安全を守るための必要な措置を怠ったまま一人夜勤(ワンオペ)をさせた場合、安全配慮義務違反として法的な責任を問われることがあります。

一人夜勤は、二人以上の勤務体制と比べて、犯罪被害や緊急時の対応困難といったリスクが高まるため、企業にはより高度な安全対策が求められます。

使用者(企業)が負う安全配慮義務とは

労働契約法第5条により、使用者(企業)は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています。

これは、労働者が安全で健康に働けるような環境を整える義務であり、物理的な危険だけでなく、精神的なストレスへの配慮も含まれます。 (参照:労働契約法 第五条|e-Gov法令検索

企業が講じるべき安全対策の例

安全配慮義務を果たすため、企業は一人夜勤体制のリスクを評価し、適切な対策を講じる必要があります。

  • 緊急連絡体制の整備:
    すぐに連絡が取れる上司や警備会社へのホットラインを確立する。
  • 防犯設備の設置:
    防犯カメラ、非常通報ボタン(緊急ブザー)、人感センサーライトなどを設置し、外部からの侵入を防ぐ。
  • 安全な作業マニュアルの策定:
    緊急時(火災、急病、強盗など)の具体的な対応手順を定め、周知徹底する。
  • 定期的な巡回:
    管理職や警備員による定期的な巡回を行う。

これらの対策を怠り、労働者が被害に遭った場合、企業は安全配慮義務違反として損害賠償責任を負う可能性があります。

業種別の人員配置基準はある?

業種によっては、法律や省令、業界団体の基準によって、夜勤を含む人員配置の最低基準が定められている場合があります。

特に、人の生命や健康に直接関わる介護・福祉や医療の分野では、一人夜勤(ワンオペ)が認められるかどうかが厳しく規定されています。

介護施設では法定の配置基準あり

介護保険法に基づくサービス(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、グループホームなど)では、利用者の安全確保のため、施設の種類や規模に応じて夜勤帯の人員配置基準が定められています。

例えば、一部の施設では「夜勤職員の最低人数は1名以上」とされている場合もありますが、それはあくまで最低基準です。施設の規模や利用者の状態(要介護度など)によっては、一人夜勤が基準違反となるケースもあります。 また、人員配置基準を満たしていても、利用者の安全確保が前提であり、緊急時の対応体制が不十分であれば、別途、安全配慮義務違反が問われることもあります。

参照:介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準|e-Gov法令検索

医療機関は診療報酬の基準に基づく

医療機関における看護師の夜勤人数については、法律で一律に「何人以上」と定められているわけではありません。

ただし、看護職員の夜間配置評価の充実と勤務負担軽減に資する取組への評価として、看護職員夜間配置加算が定められています。この加算のための配置基準(例:「16対1」「12対1」など)を満たしている医療機関であれば、一人夜勤になることは少ないでしょう。

その他の業種(飲食、物流、セキュリティ、ITなど)

介護や医療と異なり、セキュリティ(警備業)、飲食業、物流倉庫、IT(サーバー監視)などの業種では、夜勤の最低人数を法的に定めた基準は多くありません。

しかし、これらの業種であっても、前述した「休憩時間の確保(労働基準法)」と「安全配慮義務(労働契約法)」は等しく適用されます。

特にセキュリティ業務では、警備業法に基づく規制がかかる場合がありますし、飲食業や物流業でも、防犯上のリスクや事故のリスクをふまえた体制構築が求められます。

一人夜勤で休憩が取れない場合、どう記録すればよい?

一人夜勤(ワンオペ)の実態として、休憩時間が全く取れない、あるいは名目上休憩時間とされていても実際は業務に対応している場合、労働者はその分の賃金を請求できる可能性があります。

経営者や人事担当者は、このような実態が違法な状態であり、未払い賃金(残業代)のリスクを抱えていることを認識しなくてはなりません。

休憩が取れなかった事実の記録方法

もし休憩時間が取れていない実態があるならば、その証拠を残しておくことが後の交渉や請求において重要になります。

  • 業務日報:
    「休憩未取得(理由:〇〇対応のため)」など、具体的な事実を毎日記録する。
  • タイムカード:
    休憩開始・終了時刻を打刻せず、実労働時間として記録する(会社が許可する場合)。
  • メールやチャット:
    上司に「本日は業務多忙のため、所定の休憩が取得できませんでした」と報告の履歴を残す。

未取得の休憩時間分の賃金(残業代)請求について

労働から解放されていない「休憩時間」(実態は「手待ち時間」)は、労働時間とみなされます。

この時間が法定労働時間(1日8時間)を超える場合、企業は労働者に対して25%以上の割増賃金(時間外手当、いわゆる残業代)を支払う義務が生じます。 企業側が「休憩時間は給与から控除している」にもかかわらず、実際には業務をさせていた場合、これは未払い賃金にあたります。

休憩時間と仮眠時間の法的な違い

仮眠時間も、法的な「休憩時間」と認められるかどうかが鍵となります。

  • 休憩時間:
    労働から完全に解放され、自由利用が保障されている時間。賃金支払いの対象外。
  • 仮眠時間(労働時間とみなされる場合):
    仮眠中であっても、電話や警報、呼び出しに即応する義務がある時間。これは労働時間(手待ち時間)にあたり、賃金支払いの対象。

企業は、仮眠時間を設定する場合、それが休憩時間なのか労働時間なのかを明確にし、労働時間にあたる場合は適切な賃金を支払う必要があります。

一人夜勤の違法性が疑われる場合の相談先は?

一人夜勤(ワンオペ)の運用が違法かもしれないと感じた場合、労働者も企業担当者も、問題を放置せず専門家や行政機関に相談することが解決への道となります。

状況の改善を求める場合、段階的に相談先を選ぶことが有効です。

まずは上司や会社への改善を要求する

労働者として業務負担が大きい、休憩が取れない、安全面に不安があると感じたら、まずは直属の上司や人事・労務担当者に具体的な状況を相談しましょう。

人員配置の見直し、休憩時間の確実な確保、防犯カメラの増設など、具体的な改善策を申し出ることが第一歩です。企業側も、現場の声を把握し、法違反のリスクを回避するために対応を検討すべきです。

労働基準監督署への相談

社内での相談を経ても改善が見られない場合や、会社が労働基準法に違反している(休憩を与えない、残業代を払わないなど)疑いが強い場合は、労働基準監督署に相談(申告)します。

労働基準監督署は、申告に基づき事実調査を行い、法違反が確認されれば企業に対して是正勧告(改善指導)を行います。

参照:全国労働基準監督署の所在案内|厚生労働省

弁護士や労働組合(ユニオン)への相談

安全配慮義務違反による損害賠償を請求したい場合や、未払い賃金(休憩時間分の給与・残業代)を具体的に請求したい場合は、法的な専門家である弁護士に相談するのが有効です。 また、社外の労働組合(ユニオン)に加入し、団体交渉を通じて会社側に労働環境の改善を求める方法もあります。特に介護・福祉業界などでは、専門のユニオンが存在する場合もあります。

一人夜勤の適法性を確保し、安全な体制構築を

一人での夜勤(ワンオペ夜勤)が、直ちに違法となるわけではありません。しかし、その運用実態が「労働基準法上の休憩時間を確保できていない」または「安全配慮義務を果たしていない」場合には、違法と判断されます。 特に、休憩中も電話対応や緊急待機が必要な状態は「労働時間」とみなされ、休憩未取得や残業代未払いの問題につながります。

また、防犯体制や緊急連絡網の不備は、労働者の安全を脅かす重大な問題です。 経営者および人事労務担当者は、自社の一人夜勤体制がこれらの法的要件を満たしているか、労働者に過度な負担やリスクを強いていないかを点検し、必要な改善を行う責任があります。


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