• 更新日 : 2025年11月25日

算定基礎届の年間平均とは?条件や申立書の書き方・記入例、デメリットまで解説

算定基礎届(定時決定)における年間平均適用(保険者算定)とは、繁忙期などの影響で算定基礎届(定時決定)の算定で用いる4月〜6月の給与が一時的に高くなる従業員の社会保険料を、過去1年間の月平均報酬で算定する特例制度です。この制度を利用することで、従業員の給与実態と社会保険料負担の乖離を防げます。

この記事では、算定基礎届(定時決定)で年間平均を適用するための条件、具体的な計算方法、申立書の書き方、手続きの流れ、そしてデメリットや随時改定との違いまで解説します。

算定基礎届(定時決定)の年間平均適用とは?

算定基礎届(定時決定)の年間平均適用(保険者算定)とは、社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額を、通常の4月〜6月の給与の3ヶ月平均額ではなく、前年7月〜当年6月の12ヶ月平均の給与の額で決定する特別な算定方法です。

この方法は、季節的な業務の繁閑によって特定の月の報酬が突出して高くなり、実態よりも高い社会保険料が課されるという不利益を是正するために設けられています。事業主が「年間報酬の平均で算定することの申立書」を提出し、日本年金機構や健康保険組合など(保険者)がその内容を妥当と判断した場合に適用が認められます。

参考:算定基礎届(定時決定のため、4月~6月の報酬月額の届出を行う際、年間報酬の平均で算定するとき)|日本年金機構

通常の算定基礎届(定時決定)との違い

通常の算定基礎届(定時決定)と年間平均による保険者算定の主な違いは、標準報酬月額を計算する際の対象となる期間と、その手続きです。

項目通常の算定基礎届
(定時決定)
年間平均による算定
(保険者算定)
目的すべての被保険者の標準報酬月額を年に一度(7月)見直す報酬の月額変動が大きい被保険者の実態に即した算定
算定対象期間当年4月、5月、6月の3ヶ月間前年7月~当年6月の12ヶ月間
対象者原則としてすべての被保険者算定基礎届(定時決定)の原則通りの算定方式では著しく不当となる特定の被保険者
手続き算定基礎届を提出算定基礎届に加えて「申立書」と「被保険者の同意書」を添付
根拠法令健康保険法第41条、厚生年金保険法第21条健康保険法第44条、厚生年金保険法第24条

このように、年間平均による算定はあくまで特例であり、適用されるためには一定の要件を満たし、適切な手続きを踏む必要があります。

参考:定時決定(算定基礎届)|日本年金機構

算定基礎届(定時決定)の年間平均適用が認められる条件

算定基礎届(定時決定)の年間平均の適用を受けるには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。

1. 標準報酬月額に2等級以上の差があること

当年4月〜6月の3ヶ月間の平均報酬から算出した標準報酬月額と、前年7月〜当年6月の12ヶ月間の平均報酬から算出した標準報酬月額との間に、2等級以上の差が生じることが必須です。

標準報酬月額等級表は、全国健康保険協会(協会けんぽ)や日本年金機構の公式サイトで確認できます。

参考:令和7年度保険料額表(令和7年3月分から)|協会けんぽ|全国健康保険協会

2. 業務の性質上、報酬の差が例年発生すると見込まれること

報酬の差が、一時的な業績向上などの単発の理由ではなく、会社の繁忙期や季節的な手当など、事業の特性によって生じるものであり、今後も同様の理由で繰り返し発生すると合理的に予測する必要があります。

該当しやすいケースの例
  • 引越し業など、特定の時期に残業が集中する業種
  • 年度末や特定の季節にインセンティブ(業績給)が支払われる職種
  • 繁忙期と閑散期で労働時間や日数が大きく変動するパートタイマー・アルバイト

3. 被保険者本人が書面で同意していること

年間平均の適用によって標準報酬月額が下がると、毎月の社会保険料負担は軽減されますが、将来受け取る厚生年金の額や、病気やケガで休業した際の傷病手当金、出産手当金などの給付額も減少する可能性があります。

このため、制度のメリットとデメリットを従業員本人が正しく理解した上で、書面(被保険者の同意書に同意欄があります)で同意することが絶対条件となります。

算定基礎届(定時決定)で年間平均を適用するための手続き

算定基礎届(定時決定)で年間平均を適用するには、通常の「算定基礎届」に加えて、「年間報酬の平均で算定することの申立書」「保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等」を添付し、管轄の年金事務所または事務センター、健康保険組合へ提出します。

1. 必要書類の準備

まず、以下の書類を準備します。申立書などの様式は、日本年金機構のウェブサイトなどからダウンロードできます。

  1. 健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届(算定基礎届)
    通常通り作成し、備考欄の「8.年間平均」を〇で囲みます。
  2. 年間報酬の平均で算定することの申立書
    事業主が申立内容(年間報酬の平均で算定すべき理由など)を記入します。
  3. 保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等
    前年7月~当年6月の報酬の平均額と、当年4月~6月の報酬の平均額や、両者の標準報酬月額の2等級以上の差の発生有無、被保険者による同意の署名等を記入します。
  4. (必要に応じて)添付書類
    申立内容の事実確認のため、年金事務所や健康保険組合などから賃金台帳やタイムカード、出勤簿などの写しの提出を求められることがあります。

2. 年間平均報酬月額の計算

年間平均報酬月額は、「前年7月から当年6月までの報酬総額 ÷ 12ヶ月」で算出します。(支払基礎日数が17日(特定事業所の短時間労働者は11日)未満の月は除いて計算します。)

  • 報酬に含まれるもの
    基本給、残業代、通勤手当、住宅手当などの各種手当、および年4回以上支給される賞与など、労働の対償として支払われるもの全般です。
  • 報酬に含まれないもの
    年3回以下の賞与、見舞金、実費弁償としての出張旅費などです。
【具体的な計算例】
  • 当年4月~6月の報酬:50万円、48万円、52万円
  • 前年7月~当年6月の報酬総額:420万円

通常の算定(定時決定)

3ヶ月の平均:(500,000 + 480,000 + 520,000) ÷ 3 = 500,000円

→ 標準報酬月額:500,000円

年間平均による算定

12ヶ月の平均:4,200,000 ÷ 12 = 350,000円

→ 標準報酬月額:360,000円

このケースでは等級に大幅な差(5等級差)が生じるため、他の条件を満たせば年間平均での算定が認められる可能性が高いです。

3. 申立書・同意書の記入方法

「年間報酬の平均で算定することの申立書」には、報酬の状況に加え、なぜ2等級以上の差が生じたのか、その理由を具体的に記入する必要があります。

申立書・同意書

出典:算定基礎届(定時決定のため、4月~6月の報酬月額の届出を行う際、年間報酬の平均で算定するとき)(様式1)年間報酬の平均で算定することの申立書 記入例

「保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等」には前年7月~当年6月までの報酬の平均額と、当年4月~6月の報酬の平均額、両者の間での標準報酬月額の2等級以上の差の発生状況と、被保険者による同意の署名などを記入します。

4. 保険者(年金事務所、健康保険組合など)への提出

作成した書類一式を、毎年7月10日(休日の場合は翌営業日)までに、事業所の所在地を管轄する年金事務所または事務センター、または健康保険組合などに提出します。年金事務所への提出方法は、電子申請、郵送、窓口持参があります。

算定基礎届(定時決定)の年間平均を適用するデメリットと注意点

算定基礎届(定時決定)の年間平均の適用には、社会保険料の負担が減るメリットがある一方、将来の給付額に影響が出るなどのデメリットも存在します。手続きを進める前に、以下の注意点を必ず確認してください。

必ず本人の同意書が必要

会社が一方的に手続きを進めることはできません。従業員に対して、社会保険料の負担が減るメリットだけでなく、将来の年金受給額や傷病手当金、出産手当金などが減少する可能性があるデメリットも丁寧に説明し、納得を得た上で書面による同意を得てください。

申し立てが承認されないケースもある

申立書を提出しても、その理由が業務の性質によるものと認められない場合や、例年発生するとは考えにくいと判断された場合には、申し立てが承認されず、通常の定時決定による標準報酬月額が採用されることがあります。最終的な判断は、日本年金機構など(保険者)が行います。

遡及しての適用はできない

算定基礎届の提出時に申し立てをしなかった場合、後から遡って申請することはできません。必ず算定基礎届の提出と同時に手続きを行う必要があります。

4月~5月入社(資格取得)の従業員の取り扱い

4月~5月で入社した従業員の場合、3月以前に給与が支給されておらず、4~6月以外の報酬月額の平均額を計算できないため、年間平均の適用ができません。従って4月~5月の間に入社した従業員は、翌年以降の定時決定で要件を満たした場合に年間平均の適用を検討することになります。

算定基礎届(定時決定)の年間平均に関してよくある質問(FAQ)

最後に、算定基礎届(定時決定)の年間平均に関してよくある質問とその回答をまとめました。

パートタイマーやアルバイトも対象になりますか?

はい、対象になります。 雇用形態にかかわらず、繁忙期と閑散期の労働時間の差が大きいなど、3つの適用条件をすべて満たす場合は年間平均の申し立てが可能です。

毎年、申立書の提出は必要ですか?

はい、毎年必要です。業務の性質上、例年発生することが見込まれるかどうかを毎年判断するため、算定基礎届を提出する都度、申立書の添付が必要となります。

申し立てが承認されなかった場合はどうなりますか?

通常の算定方法である、4月、5月、6月に支払われた報酬の平均額にもとづいて標準報酬月額が決定(定時決定)されます。

算定基礎届(定時決定)の年間平均の適用を適切に活用しよう

この記事では、算定基礎届(定時決定)における年間平均(保険者算定)の適用について、その概要から対象者、計算方法、手続き、注意点までを詳しく解説しました。この制度は、繁忙期などにより特定の月の給与が高くなる従業員の社会保険料負担を、年間の業務実態に合わせて適正化するための重要な仕組みです。

算定基礎届(定時決定)の年間平均の適用を検討する際は、対象者の要件を正しく確認し、従業員本人へ丁寧な説明と同意を得ることが不可欠です。本記事で解説した手順と注意点を参考に、適切な事務処理を進めてください。


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