- 更新日 : 2025年11月5日
中堅社員が辞めるのはなぜ?退職理由や兆候を理解し、会社の損失を防ぐ対策を解説
企業の成長を支える「中堅社員」が辞めることに、頭を悩ませていませんか?経験とスキルを兼ね備え、組織の中核を担う彼らの離職は、単なる人員減以上の深刻なダメージを会社に与えます。
この記事では、なぜ中堅社員が辞めるのか、その根本的な理由と見逃してはならない退職の兆候を詳しく解説します。さらに、貴重な人材の流出を防ぎ、彼らが活躍し続けられる組織を作るための具体的な対策まで、人事労務の視点から分かりやすくご紹介します。
目次
なぜ、会社を支えるはずの中堅社員が辞めてしまうのか?
中堅社員の退職は、キャリアの停滞感、正当に評価されないことへの不満、そして過剰な業務負荷などが複合的に絡み合って引き起こされます。
入社から数年が経過し、業務にも慣れた中堅社員は、自身のスキルや会社への貢献度を客観的に把握できるようになります。同時に、今後のキャリアパスや社内での立ち位置、市場価値を冷静に分析し始めます。その結果、現状の待遇や環境に疑問を抱き、より良い条件や成長機会を求めて転職を決意するケースが増えるのです。
キャリアパスが見えないことへの将来的な不安
中堅社員が抱える主要な不満の一つとして挙げられるのが、この会社で働き続けても成長できるのか、将来どのような役職や役割を担えるのかが見えないという不安です。
入社当初の成長実感も落ち着き、日々の業務がルーティン化してくると、「このままで良いのだろうか」という停滞感を覚え始めます。会社が具体的なキャリアパスや成長の選択肢を提示できなければ、社員は社外に自身の可能性を求めるようになるでしょう。
特に、管理職ポストが詰まっている、あるいは専門性を高める道が用意されていない場合、自身の市場価値を客観的に把握している人材ほど、より良い機会を求めて離職を検討する可能性があります。
評価や待遇に対する根強い不満
自身の貢献度が給与や役職といった待遇に正しく反映されていないという不満も、退職の大きな引き金となります。
中堅社員は、後輩の指導や部署間の調整役など、目に見えにくい貢献をしている場合が少なくありません。しかし、評価制度が成果“だけ”に偏重するものであったり、評価基準が曖昧であったりすると「頑張っても報われない」という無力感を抱きます。
このような制度は、短期的な数字だけを追う文化を助長し、プロセスやチームへの貢献といった見えにくい価値が軽視されるリスクも指摘されています。同世代の他社の友人と比較して待遇が低いと感じた場合、その不満は一気に高まるでしょう。
業務負荷の増大と責任の重さ
中堅社員は、実務能力の高さから多くの業務を任されがちです。プレイヤーとしての役割に加え、若手の育成やチームのマネジメントといった役割も期待されるようになり、業務負荷が特定の個人に集中してしまうことがよくあります。
上司と部下の板挟みになりながら、増え続ける業務と責任を一人で抱え込み、心身ともに疲弊してしまうケースは後を絶ちません。適切なサポートや権限移譲がないまま放置されれば、WHOが「適切に管理されなかった慢性的な職場のストレスに起因して発生する症候群」と定義する燃え尽き症候群(バーンアウト)の状態に陥り、パフォーマンスの低下や離職につながるリスクが著しく高まります。
出典:世界保健機関(WHO) 職場のメンタルヘルス対策 ガイドライン|厚生労働省
組織文化や人間関係の問題
風通しの悪い組織文化や、上司・同僚との人間関係も、中堅社員の離職理由として挙げられます。トップダウンの意思決定が強く、現場の意見が尊重されない環境では、中堅社員の持つ改善提案や問題意識が生かされません。
また、ハラスメントが横行していたり、チーム内のコミュニケーションが希薄だったりすると、働くこと自体が大きなストレスとなります。会社へのエンゲージメントが低下し、より健全な職場環境を求めて転職を決意します。
ワークライフバランスの崩壊
中堅社員は、プライベートにおいて役割や責任が変化しやすい時期と重なります。例えば、自身の家庭環境の変化や子育て、家族のサポートといった、仕事以外の場面でも多様な状況への対応を求められることが増えてくる方もいるでしょう。
しかし、業務負荷の高さから恒常的な長時間労働が続いたり、柔軟な働き方(リモートワークや時短勤務など)が認められなかったりすると、仕事と家庭の両立が困難になります。自身の生活を犠牲にしてまで働き続けることに限界を感じ、より良いバランスを実現できる環境を求めて離職を決意します。
会社の将来性や事業戦略への疑問
経験を積んだ中堅社員は、自社の業界での立ち位置や事業の方向性を冷静に分析する視点を持っています。その中で「会社の成長が頭打ちになっている」「時代遅れの事業モデルから脱却できていない」「経営陣に明確なビジョンがない」と感じると、自身のキャリアをこの会社に預けることに強い不安を覚えます。より成長性のある市場や、将来のビジョンが明確な企業へと移るのは、彼らにとって合理的な判断なのです。
会社の理念や価値観とのミスマッチ
若手の頃は業務を覚えることに必死だった社員も、中堅になると「自分は何のために働くのか」という価値観が明確になってきます。その価値観と、会社の理念や利益の追求方法、社会への姿勢などが大きく異なっていると感じた場合、仕事へのモチベーションを維持することが難しくなります。「この会社の一員として働くことに誇りを持てない」という思いが、転職を後押しする大きな要因となり得ます。
中堅社員が辞めると会社にどのような損失がある?
中堅社員の離職は、単なる人員減にとどまらず、組織全体の生産性低下、技術・ノウハウの流出、若手育成の停滞、そして採用コストの増大といった、経営の根幹を揺るがす深刻な損失をもたらします。
中堅社員は、業務の中核を担う実務家であると同時に、経営層と現場をつなぐ結節点であり、自らの経験を若手に伝える伝承者の役割も担っています。そのため、彼らの離脱は組織の様々な機能不全を連鎖的に引き起こすリスクをはらんでいるのです。
チーム全体の生産性が低下する
チームの要として実務を牽引していた中堅社員が一人抜けるだけで、業務の停滞は避けられません。残されたメンバーでその穴を埋めようとしても、チーム内の業務負荷が増大し、一時的に業務の質やスピードが低下する可能性があります。
結果として、部署全体のパフォーマンスが低下し、企業の業績にも直接的な悪影響を及ぼす可能性があります。
培われた知識やノウハウが失われる
中堅社員は、マニュアル化されていない「暗黙知」ともいえる業務知識や顧客との信頼関係、トラブル対応のノウハウなどを豊富に蓄積しています。彼らの退職は、これらの貴重な知的資産が社外へ流出することを意味します。この損失は、後任者が一人前になるまでの時間やコストを考えると、非常に大きなものになります。
後輩や若手社員の育成が滞る
多くの場合、中堅社員はOJT(On-the-Job Training)担当者として、新入社員や若手社員の指導・育成を担っています。最も身近な相談相手であり、ロールモデルでもあった中堅社員の離職は、残された若手社員の成長機会を奪い、彼らのモチベーション低下や連鎖退職につながる恐れもあります。
他の社員の離職を誘発する可能性がある
人望の厚い中堅社員や、チームのエース格だった人材が辞めるという事実は、他の社員に「この会社は大丈夫だろうか」「自分も考えたほうが良いかもしれない」という不安を抱かせます。
一人の退職が組織の雰囲気を悪化させ、他の社員の離職を誘発する「離職の伝染(Turnover Contagion)」と呼ばれる現象の引き金になる可能性も指摘されています。
採用と再教育に多大なコストがかかる
退職した中堅社員と同等のスキルを持つ人材を採用するには、求人広告費や人材紹介手数料といった直接的なコストが発生します。
しかし、本当のコストはそれだけではありません。採用した後も、後任者が自社の文化や業務に慣れて前任者と同等のパフォーマンスを発揮できるようになるまでには、長い時間と教育コスト、そしてその間の機会損失が発生します。これらの目に見えないコストを考慮すると、一人の離職がもたらす総体的な金銭的損失は、当初の想定を大きく上回ることがあります。
中堅社員が辞める前に見せる退職の兆候は?
中堅社員の退職兆候は、業務への意欲低下、会議での発言減少、急な休みや遅刻の増加、将来に関する話題を避けるといった、日々の行動やコミュニケーションの変化に現れます。
退職を決意、あるいは検討し始めた社員は、現在の職場に対する関心やエンゲージメントが低下します。意識が転職活動や次のキャリアに向かうため、無意識のうちに行動パターンが変化するのです。これらのサインを早期に察知することが、離職防止の第一歩となります。
仕事へのモチベーションが明らかに低下する
これまで意欲的に取り組んでいた業務に対して、明らかにやる気が感じられなくなったら注意が必要です。
- 新しい仕事や役割を避けるようになる
- 残業が急に減り、定時で帰るようになる
- 業務のクオリティが以前より下がる
- 「言われたことしかやらない」という姿勢が目立つ
これらの変化は、現在の仕事に対する興味を失っているサインかもしれません。
周囲とのコミュニケーションを避けるようになる
職場での人間関係をリセットしようと考え始めると、周囲との関わり方が変わってきます。
- 会議やミーティングでほとんど発言しなくなる
- 同僚との雑談やランチの誘いを断ることが増える
- チームでの飲み会など、社内イベントに参加しなくなる
- 報告・連絡・相談が遅れがちになる
会社の将来やキャリアに関する話題に消極的になる
長期的な視点を会社と共有しなくなるのも、退職を考えている社員の特徴的な兆候です。
- 数年後のキャリアプランについて尋ねても、曖昧な返事しかしない
- 会社のビジョンや長期目標に関する話題に興味を示さない
- 異動や昇進の話に対して、乗り気でない反応を見せる
勤怠に変化が見られる
転職活動のために時間を確保する必要が出てくると、勤怠に変化が現れることがあります。
- これまであまり休まなかったのに、有給休暇の取得が増える
- 遅刻や早退が目立つようになる
- プライベートな用事を理由に、急な休みを取ることが増える
これらは、転職活動等で時間を確保しようとしている可能性の一つと考えられます。ただし、家庭の事情など他の要因も考えられるため、一つの兆候だけで断定せず、対話を通じて本人の状況を理解することが重要です。
中堅社員が辞めるのを防ぐにはどのような対策が有効か?
中堅社員の離職を防ぐには、キャリアパスの明確化、公正な評価制度の構築、業務負荷の適正化、そしてエンゲージメントを高めるための対話が不可欠です。退職理由の裏返しとなる施策を組織的に実行することが、人材定着において重要なアプローチとなります。
中堅社員が抱える不満や不安は、個人の問題だけでなく、会社の制度や組織文化に起因することも少なくありません。したがって、表面的な引き留め交渉ではなく、社員が「この会社で働き続けたい」と思えるような、魅力的で公正な環境を整備することが根本的な解決策となるからです。
キャリアプランを共に描き、成長機会を提供する
社員任せにするのではなく、会社として多様なキャリアパスを提示し、社員一人ひとりが自身の将来像を描けるよう支援します。
- キャリア面談の実施:上司と部下が1対1で、本人の志向や強み、今後のキャリアについて話し合う機会を定期的に設けます。
- 多様なキャリアパスの提示:管理職を目指すコースだけでなく、専門性を極めるスペシャリストコースや、社内公募制度、部署横断プロジェクトへの参加機会などを設けます。
- スキルアップ支援:資格取得支援制度や、外部研修への参加費用補助、学習プラットフォームの導入など、社員の学びたい意欲を後押しする制度を充実させます。
キャリアパスについては、以下の記事で目的や具体的な作り方などを詳しく紹介しています。
貢献度に見合った評価と待遇を実現する
社員の働きぶりや貢献を正しく評価し、それが給与や昇進などの処遇に適切に反映される、透明性と公平性の高い評価制度を構築します。
- 評価基準の明確化:成果だけでなく、プロセスやチームへの貢献度、後輩育成といった多面的な視点から評価する基準を設けます。
- 評価プロセスの透明化:評価者への研修を徹底し、評価のばらつきをなくします。また、本人へのフィードバックを丁寧に行い、評価への納得感を高めます。
- 賃金テーブルの見直し:自社の給与水準が、業界や地域の平均と比較して見劣りしていないか定期的に確認し、必要に応じて見直しを行います。
業務量の偏りをなくし、マネジメントをサポートする
特定の社員に業務負荷が集中しないよう、チーム全体の業務量を見える化し、適切に分担する仕組みを整えます。
- 業務の棚卸し:誰がどのような業務をどれくらいの時間かけて行っているかを把握し、偏りがあれば再配分します。
- 権限移譲の推進:中堅社員が抱える業務の一部を後輩に任せるなど、積極的に権限移譲を進め、次世代の育成と自身の負担軽減を両立させます。
- マネジメント層への支援:プレイングマネージャーとなりがちな中堅社員に対し、マネジメント業務に集中できるようなサポート体制(補佐役の配置など)を検討します。
1on1ミーティングで定期的に対話の機会を設ける
業務の話だけでなく、社員が感じていることや考えていることを自由に話せる場を設けることで、不満や不安のサインを早期にキャッチし、信頼関係を構築します。上司は「評価者」ではなく「支援者」としてのスタンスで、部下のキャリアや成長に寄り添うことが重要です。
以下の記事でも、1on1ミーティングについて効果的なシート活用の方法を紹介しています。
柔軟な働き方を認め、ワークライフバランスを支援する
リモートワークやフレックスタイム制度、時短勤務など、社員がライフステージの変化に対応しながら働き続けられる制度を整備します。仕事とプライベートの両立を会社が支援する姿勢を示すことは、社員のエンゲージメント向上につながる重要な要素です。ただし、制度が形骸化せず、上司の理解や利用しやすい雰囲気といった運用面の配慮が伴って、その効果は最大化されます。
心理的安全性を高め、良好な組織文化を醸成する
中堅社員は、上司と部下の間で意見の対立や調整事に直面することも多く、精神的な負担を感じやすい立場です。そのため、失敗を恐れずに挑戦できたり、役職に関わらず率直な意見を交わせたりする心理的安全性の高い職場環境は、彼らにとって非常に重要です。
会社としてハラスメント防止を徹底することはもちろん、チームの成功を共に喜び、課題には全員で向き合うといった、ポジティブで協力的な組織文化を意図的に作り上げることが、エンゲージメントの向上と離職防止につながります。
裁量権を与え、主体的な活躍を促進する
指示された業務をこなすだけでなく、自分の判断で仕事を進めたいという欲求は、経験を積んだ中堅社員ほど高まります。彼らの能力と知見を信頼し、より大きな裁量権を与えることは、責任感と当事者意識を引き出し、仕事の「やりがい」を最大化する効果が期待できるでしょう。
例えば、新規プロジェクトのリーダーを任せる、予算管理の一部を委ねるなど、彼らがこれまで以上に主体的に活躍できる機会を提供することで、会社への貢献意欲と定着意識を高めることができます。
未来への投資として、中堅社員の定着を考える
この記事では、中堅社員が辞める背景にある理由から、会社が被る深刻な損失、そして具体的な離職防止策までを解説しました。
中堅社員の離職は、単なる「個人の選択」ではなく、会社の制度や文化が発している危険信号です。彼らが抱える不満や不安のサインを見逃さず、キャリア支援や公正な評価、働きやすい環境の整備といった組織的な対策を講じることこそ、中堅社員の定着につながります。貴重な人材を守り育てることは、会社の持続的な成長を実現するための、最も重要な投資といえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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