- 更新日 : 2025年11月5日
【記入例付き】介護現場での転倒時の事故報告書の書き方は?テンプレートをもとに解説
介護現場で利用者の転倒事故が発生した際、必須となるのが事故報告書の作成です。しかし、「書き方が分からない」「どこまで詳しく書けばいいのか」と、その都度頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、介護現場に特化し、すぐに使える転倒時の事故報告書の記入例を具体的に示しながら、書き方の基本、再発防止につなげるためのポイントを解説します。
目次
介護施設における転倒時の事故報告書の目的は?
転倒時の事故報告書の最大の目的は、事故の客観的な事実を正確に記録・共有し、原因を分析して効果的な再発防止策を立案することです。
厚生労働省は介護保険サービス事業者に対し、重大事故が発生した際には市町村等への報告を義務付けています。その目的は、市町村が事故の再発防止や介護サービスの質の確保・向上につなげていくことと定められています。
事故の記録が曖昧だったり、担当者しか状況を把握していなかったりすると、組織として適切な対応ができません。報告書によって、経営層から現場スタッフまで、関係者全員がいつ、どこで、誰が、どのようにして転倒し、どのような対応が行われたかという事実を正確に共有できます。この情報共有が、効果的な原因究明と、実効性のある再発防止策の策定に向けた第一歩となります。
介護施設での転倒時の事故報告書の書き方は?
転倒時の事故報告書では、「5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)」に「How much(どの程度)」と「How do(どう対応したか)」を追加した情報を、客観的な事実にもとづいて記載することが大切です。これらの要素を漏れなく記載することで、事故の全体像が明確になり、第三者が読んでも状況を正確に理解できます。
様式は、事故状況、事業所の概要、対象者、事故の概要、事故発生時の対応、事故発生後の状況、事故の原因分析、再発防止策から構成されています。以下に、事故報告書に含めるべき各項目のポイントを解説します。
事故状況
受診や入院、死亡など、事故の状況を記入します。
事業所の概要
法人名や施設名、事業所番号など、事故に関わった事業所の情報について記入します。
対象者
事故の対象となった利用者の氏名、年齢、性別、要介護度といった基本情報を正確に記載します。
事故の概要
発生日時や事故の場所、事故の種別などを記入します。
- 発生日時
事故が起きたと推定される正確な時刻を記載します。発見した時間ではなく、実際に転倒した時間を可能な限り正確に書くことが重要です。 - 発生場所
転倒が起きた具体的な場所を記載します。例えば、単に廊下と書くのではなく、〇〇号室前の廊下のように、誰が読んでも場所を特定できるように詳細に記述しましょう。 - 事故の種別
転倒、転落、誤嚥、誤薬など、発生した事故の種類を選択します。今回のケースでは転倒となります。 - 発生時状況、事故内容の詳細
いつ、どこで、誰が、何をしていた時に、どのように転倒したのか、見聞きした客観的な事実のみを時系列で記述します。ここでは、〜と思う、〜かもしれないといった推測を含めないように注意してください。
事故発生時の対応
発生時の対応については、事故発生時、誰が、どのような処置や連絡を行ったかを時系列で具体的に記録します。看護師への報告、患部の冷却、協力病院や家族への連絡といった対応を詳細に残します。受診方法や受診先、診断名、診断内容、検査、処置等の概要について記入することも必要です。
事故発生後の状況
利用者の状況を5W1Hで、分かりやすく簡潔に記入します。また、報告した家族の続柄と日時を記入することも必要です。関係機関に連絡した場合には、その連絡先も併せて記入しましょう。
事故の原因分析
事故の直接的な原因だけでなく、その背景にある環境的要因や本人の心身の状態など、多角的な視点で分析した内容を記載します。利用者要因と環境要因、介護者要因の3つの視点から分析を行いましょう。
再発防止策
原因分析を踏まえ、具体的な再発防止のための対策を立てます。誰が、何を、いつまでに行うのかを明確にした、実行可能な計画を記載することが重要です。原因分析で挙げた要因に対し、以下のような視点で具体的な対策を検討します。
- 本人の要因への対策
筋力トレーニングの導入、履物の見直し、服薬状況の確認など - 環境要因への対策
手すりの設置、床の滑り止め対策、動線を妨げる物の整理、照明の改善など - 介護側の要因への対策
見守り体制の強化、職員間での情報共有の徹底、ヒヤリハットの活用など
介護施設での転倒時の事故報告書の記入例
マネーフォワード クラウドでは、転倒時の具体的な記入例を含む事故報告書のテンプレートをご用意しました。以下のリンクからダウンロードして、ご自由にお使いください。
各事業所には、それぞれ特有の環境や利用者の特性があります。ダウンロードしたテンプレートをそのまま使用するだけでなく、自分たちの現場で本当に必要な項目は何かを検討し、最適化することで、より実用的なフォーマットになります。
介護施設での転倒時の事故報告書を記入するポイント
再発防止につながる質の高い事故報告書を作成するには、いくつかの重要な注意点があります。以下のポイントを押さえることで、報告書の価値は格段に向上します。
客観的な事実と主観を明確に分ける
事故報告書の基本は、見たまま・聞いたままの客観的な事実を記載することです。「滑ったように見えた」ではなく「床に水がこぼれていた」。「痛がっていた」ではなく「痛いと発言し、顔をしかめていた」のように、事実とそこから推測されることを分けて書きます。自分の意見や分析は、自分の意見や分析は、所定の原因分析欄に記載しましょう。
専門用語や略語を避け、誰が読んでも分かる言葉で書く
事故報告書は、職種や役職の異なるさまざまな人が読むため、一部の人にしか伝わらない専門用語や略語は避け、平易な言葉で記述することを心がけましょう。
たとえば「N/S(ナースステーション)」ではなく「詰所」、「デクビ」ではなく「褥瘡(じょくそう)」のように、正式名称や分かりやすい表現を用います。
感情的な表現や責任追及の言葉は含めない
「〇〇さんの不注意で」「いつも言うことを聞かないから」といった、特定の個人を非難するような表現は絶対に使用してはいけません。事故報告書の目的はあくまで再発防止であり、犯人探しではありません。感情的な記述は、事実を歪めるだけでなく、職場の人間関係を悪化させる原因にもなります。
事故発生後、記憶が新しいうちに速やかに作成する
事故報告書は、可能な限り事故発生後すぐに作成しましょう。時間が経つと記憶は曖昧になり、重要な詳細を忘れてしまう可能性があります。速やかに作成することで、情報の正確性が保たれ、迅速な対応と原因究明につながります。
介護施設での転倒時の事故報告書に関してよくある質問
ここでは、事故報告書の作成時によくある疑問とその回答をまとめました。
軽微な転倒でも事故報告書の記入は必要?
はい、必要です。怪我がない、または軽微な場合でも、ヒヤリハットとして記録を残すことが重要です。小さな事故の積み重ねが、重大な事故の背景にある可能性があります。記録し、分析することで、潜在的なリスクを発見し、事前に対策を講じることができます。
目撃者がいない場合はどう書けばよい?
発見時の状況を客観的に記述します。例えば、「物音がして駆けつけると、〇〇様が居室の床に座り込んでいた」「ナースコールがあり訪問すると、ベッド横で転倒していた」など、発見した事実をそのまま記載します。本人から状況を聞き取れた場合は、「本人の話によると〜」と、情報源を明記して記述します。
家族への報告はどのタイミングで行うべき?
事故発生後、利用者の安全確保と必要な処置を行った後、速やかに報告するのが原則です。特に、怪我がある場合や病院を受診した場合は、可能な限り早く連絡します。報告の遅れは不信感につながる可能性があるため、迅速かつ誠実な対応が望まれます。
介護施設では転倒時の事故報告書を必ず記載しましょう
この記事では、介護現場における転倒事故報告書の目的から具体的な書き方、そしてすぐに使える記入例を含むダウンロード可能なテンプレートまでを詳しく解説しました。重要なのは、報告書を単なる義務として終わらせず、未来の事故を防ぐための貴重な資産として活用することです。
客観的な事実にもとづいた質の高い事故報告書を作成・共有し、組織全体で原因分析と再発防止に取り組む文化を育むことが、利用者や患者、そして職員自身の安全を守ることにつながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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