• 更新日 : 2025年11月5日

団体交渉のルールは?具体的な進め方ややってはいけないことまで徹底解説

団体交渉は、労働組合法などの法律で定められたルールに則って進める必要があります。 労働者の権利を守り、健全な労使関係を築くための重要な制度ですが、そのルールには複雑な側面もあります。

この記事では、労働組合法に定められた団体交渉のルールを基礎から分かりやすく解説します。交渉の基本的な流れ、会社側が負う誠実交渉義務、そして交渉を拒否できる正当な理由とは何か、具体的な手順や双方の注意点までチェックしておきましょう。

そもそも団体交渉とは?

団体交渉とは、労働者が団結して労働組合をつくり、使用者と対等な立場で労働条件や待遇の維持・改善について交渉することです。この権利は、日本国憲法第28条で保障されている団結権、団体交渉権、団体行動権という労働三権の一つです。個々の労働者では弱い立場になりがちなため、労働組合という形でまとまることで、使用者と対等な交渉の実現を目指します。

具体的には、賃金、賞与、退職金、労働時間、休日、人事、福利厚生など、労働者の待遇や職場環境に関する事項が交渉の対象です。この労使交渉を通じて、労使間の合意形成を図り、紛争を未然に防ぐ、あるいは解決することが重要な役割です。

団体交渉の当事者

団体交渉の当事者は、原則として労働組合と使用者(会社側)です。

  • 労働組合
    労働組合の代表者や執行委員などが交渉に出席します。 労働組合法は、労働組合と使用者との間の交渉を前提としているため、労働組合に加入していない個人による交渉の申し入れは、法律上の団体交渉にはあたりません。 ただし、個人で加入できるユニオンと呼ばれる外部の労働組合に加入すれば、個人が抱える問題について会社と団体交渉を行えます。
  • 使用者
    会社の代表取締役のほか、交渉事項について実質的な権限を持つ役員や人事部長なども使用者側の当事者に含まれます。

団体交渉と労使協議との違い

団体交渉と似た言葉に労使協議がありますが、両者は目的と法的拘束力において明確な違いがあります。団体交渉が労働条件の決定・変更を目的とする交渉で、合意内容が労働協約の形で明文化され、法的拘束力を持つのに対し、労使協議は経営情報の共有や意見交換を目的とする話し合いであり、その場で出された労働組合側からの要求を会社側が実現する法的義務はありません。

項目団体交渉労使協議
目的労働条件の維持・改善に関する合意形成労働条件に関する内容の他、経営・会社施策全般に関する情報共有、意見交換
法的根拠労働組合法、憲法(団体交渉権)法律上の明確な定めはない
拒否の可否正当な理由なく拒否できない拒否しても法律上の罰則はない
合意の効力労働協約として法的拘束力を持つ原則として法的拘束力はない

団体交渉のルールを定める労働組合法とは?

団体交渉の具体的なルールは、主に労働組合法によって定められています。 労働組合法は、憲法で保障された労働三権を具体化するための法律です。

この法律の最も重要なポイントは、使用者が正当な理由なく団体交渉を拒否することを不当労働行為として禁止している点です(労働組合法第7条2号)。 労働組合法では、主に以下の内容が定められており、労使双方が守るべき基本的なルールとなっています。

  • 使用者が団体交渉を正当な理由なく拒否してはならないこと
  • 使用者が誠実に交渉に応じなければならない義務(誠実交渉義務)
  • 不当労働行為に対する救済手続き

これらのルールがあることで、労働組合は実効性のある交渉を行えます。

団体交渉の基本的な進め方は?

団体交渉は、一般的に申し入れ、事前準備、交渉当日、交渉後の4つのステップで進められます。

1. 団体交渉の申し入れ

まず、労働組合が使用者に対し、団体交渉申入書といった書面で交渉を申し入れ、その後、双方が協議して開催日時や場所を決定します。通常、労働組合側から以下のような内容を記載した申入書が提出されます。

  • 交渉を申し入れる旨
  • 交渉したい議題(要求事項)
  • 希望する日時・場所の候補
  • 交渉に出席する組合側のメンバー

申入書を受け取った会社側は、回答をいたずらに引き延ばさず、速やかに対応しなくてはなりません。 日時や場所は一方的に決めず、労使双方の都合を考慮して誠実に協議し、合意の上で決定します。

2. 事前準備

交渉当日に向けて、労使双方がそれぞれの主張を整理し、その根拠となる資料を準備します。

  • 労働組合側の準備
    要求事項の正当性を裏付けるための情報(他社の労働条件、経営状況に関するデータ、関連法規など)を収集・整理します。また、交渉でどこまで譲歩できるか、落としどころをどこに設定するかといった交渉方針を内部で固めておきます。
  • 使用者側の準備
    組合の要求事項を精査し、会社の経営状況や就業規則、他の従業員との公平性などを踏まえて、どこまで回答・譲歩できるかを検討します。必要に応じて、要求事項に関連する財務データや人事資料などを準備し、組合の主張に対して根拠を持って回答できるようにしておきます。

3. 団体交渉の当日

交渉当日は、事前に定めた議題に沿って、労使双方が冷静かつ建設的な議論を行います。 一般的な交渉の進行は以下の通りです。

  1. 冒頭の挨拶と出席者の確認
  2. 議題の確認
  3. 組合側からの要求説明
  4. 使用者側からの回答・見解表明
  5. 議論・交渉
  6. 次回日程の調整
  7. 議事録の確認

 4. 交渉後の対応

交渉で合意に至った事項については、後日の紛争を防ぐため、必ず労働協約や合意書などの書面にまとめ、双方が署名または記名押印します。交渉の都度、議事録を作成し、労使双方で内容を確認することが重要です。これにより、言った・言わないのトラブルを防げます。

最終的に何らかの事項で合意が形成された場合は、その内容を明確にした合意書を作成します。特に、労働条件などに関する包括的な合意は労働協約として締結します。

団体交渉で議題にできること・できないこと

団体交渉で話し合える議題は、その性質によって3つに分類されます。

議題にできること(義務的団交事項)

義務的団交事項とは、労働者の労働条件や待遇、その他労使関係の運営に関する事項で、使用者に交渉義務が生じる議題のことです。これらは労働者の基本的な権利や労働環境に直接関わる重要なテーマであり、会社側はこれらの議題について交渉を拒否できません。具体的には以下のようなものが含まれます。

  • 賃金に関する事項:基本給、賞与、諸手当、退職金など
  • 労働時間・休日に関する事項:所定労働時間、時間外労働、休日、休暇など
  • 人事に関する事項:解雇、懲戒、配置転換、昇格(昇級)・降格(降級)、人事評価の基準など
  • 労働安全衛生に関する事項:職場の安全対策、健康診断など
  • 教育訓練・福利厚生・職場環境改善に関する事項
  • 組合活動に関する事項:組合事務所の貸与、チェック・オフ(組合費の給与天引き)など

議題にしなくてもよいこと(任意的団交事項)

任意的団交事項とは、使用者に法律上の交渉義務はないものの、任意で交渉に応じてもよい議題のことです。 直接的な労働条件ではないものの、労使関係の円滑化のために話し合うことが望ましいとされる事項で、将来の経営計画や工場の移転計画などが該当する場合があります。なお、これらの内容が労働条件の変更等に関わる場合、その労働条件そのものは義務的団交事項と考えられる可能性があります。

議題にできないこと

団体交渉の議題とすることが不適切な事項もあります。例えば役員の経営責任の追及、株主総会の運営方針や人事権といった、使用者の専権に属する経営専決事項や、他の労働者のプライバシーに関わる事項などが含まれます。ただし、これらの事項であっても、労働者の解雇や配置転換といった労働条件に直接影響を及ぼす場合には、その影響する範囲で義務的団交事項に転化することがあります。

団体交渉を会社側(使用者)は拒否できる?

使用者は、正当な理由なく団体交渉を拒否できません。使用者には誠実交渉義務があり、労働組合からの団体交渉の申し入れを正当な理由なく拒否することは、不当労働行為として法律で禁止されています。

誠実交渉とは、具体的に以下のような態度を指します。

  • 労働組合の主張や要求に対して、真摯に耳を傾ける
  • 自社の主張や回答について、必要な説明や資料の提示を行う
  • 安易にゼロ回答に終始せず、合意形成に向けて努力する
  • 交渉権限のない担当者のみを交渉に出席させない

これらの義務を怠り、形式的に交渉の席に着くだけで実質的な話し合いを拒むような態度は団体交渉拒否(不誠実団交)と見なされ、不当労働行為に該当する可能性があります。

団体交渉を拒否できる正当な理由とは

例外的に団体交渉を拒否できるのは、交渉の前提を欠くような限定的なケースのみです。 要求内容が到底受け入れられない、組合の主張が一方的であるといった理由だけでは正当な理由とは認められません。

団体交渉の拒否が正当化される可能性のある具体的なケースは以下の通りです。

正当な理由と認められる可能性のあるケース理由
交渉を申し入れた団体が労働組合法上の労働組合ではない法律上の主体ではないため
交渉の議題が義務的団交事項に該当しない使用者に交渉義務がない事項であるため
交渉の日時・場所・参加人数などが著しく非常識
(組合側と変更等の調整が可能な場合は拒否できない)
社会通念上、受け入れがたい要求であるため
交渉において暴力行為や威圧的な言動が繰り返される正常な交渉環境が維持できないため

ただし、これらの判断は個別具体的な状況に応じてなされるため、会社側の自己判断で拒否することは非常に高いリスクを伴います。 判断に迷う場合は、弁護士などの専門家への相談が必要です。

団体交渉でやってはいけないこと

交渉を円滑に進め、建設的な合意を目指すためには、労使双方が守るべきルールと心構えがあります。特に、法律で禁止されている行為や、交渉の進行を妨げる言動は厳に慎むべきです。

使用者側がやってはいけないこと

使用者側は、誠実交渉義務を遵守し、不当労働行為と見なされる言動を避けることが最も重要です。特に注意すべき禁止事項は以下の通りです。

  • 不利益取扱いの禁止:労働組合員であることや、正当な組合活動を行ったことを理由に、解雇や降格などの不利益な扱いをすること。
  • 黄犬契約の禁止:労働組合に加入しないこと、または脱退することを雇用条件とすること。
  • 団体交渉拒否の禁止:正当な理由なく団体交渉を拒否することや、不誠実な態度で交渉に臨むこと。
  • 支配介入の禁止:労働組合の結成や運営に対して支配したり、介入したりすること。また、組合の運営経費を援助すること。

これらの行為は、労働組合の弱体化を狙ったものと見なされ、厳しく禁じられています。

労働組合側がやってはいけないこと

労働組合側も、円滑な交渉の実現のため、社会通念上相当な範囲で交渉を行う必要があります。以下の行為は、交渉拒否の正当な理由を与えかねないため避けるべきです。

  • 非常識な要求:深夜や早朝の交渉、長時間の拘束、会社の業務に支障をきたすほどの過大な人数の参加要求など。
  • 威圧的言動や暴言、暴力:暴力や脅迫、大声で罵倒するなどの行為は、交渉を破壊するだけでなく、刑事事件や民事上の損害賠償問題に発展する可能性があります。
  • 非建設的な態度の固持:単に要求を繰り返すだけでなく、会社の状況も理解し、実現可能な落としどころを探る姿勢が求められます。

団体交渉のルールを正しく理解し、誠実な対応を

この記事では、団体交渉のルールについて、その基本から進め方、注意点までを説明しました。団体交渉は、法律で定められた労働者の正当な権利であり、使用者は誠実に対応する義務を負います。拒否できるのは限定的なケースに限られます。労使双方が法律に定められた正しい団体交渉の進め方を理解し、お互いの立場を尊重しながら建設的な対話を行うことが、無用な紛争を避け、働きやすい職場環境を構築するための第一歩です。


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