- 更新日 : 2025年11月4日
 
社会保険料の調査(監査)に対応するには?書類一覧や当日の流れ、追徴まで解説
社会保険料の調査(監査)への対応は、事前の準備と当日の誠実な対応がすべてです。この調査は、従業員の加入漏れなどを是正し、制度の公平性を保つために行われ、指摘されると最大過去2年分の保険料を追徴される可能性があります。
人事や会計の担当者にとって、突然の調査通知は「何を準備すればいいのか」「どう受け答えすれば良いのか」といった不安の種になりがちです。
本記事では、年金事務所による社会保険の調査について、その目的から具体的な流れ、必要書類、そして万が一指摘を受けた場合の対応まで、わかりやすく解説します。
目次
社会保険の調査(監査)とは?
社会保険の調査とは、事業所が健康保険や厚生年金保険といった社会保険の加入手続きや保険料の計算を正しく行っているか、日本年金機構が確認する手続きです。多くの企業では「監査」という言葉で認識されていますが、正式には「適用調査」や「定時決定時調査」などと呼ばれます。
社会保険の調査(監査)の目的
社会保険の調査の目的は、加入義務のある従業員が正しく社会保険に加入しているかを確認することにあります。特に、パートタイマーやアルバイトなど、加入要件が複雑な従業員の加入漏れは指摘の対象になりやすい点です。これにより、すべての労働者が適切に社会保険制度で保護されることを目指しています。公平な制度運用のために、定期・不定期に事業所への確認が行われるのです。
参照:厚生年金保険・健康保険などの適用促進に向けた取り組み|日本年金機構
なぜ「監査」ではなく「調査」と呼ばれるのか?
一般的に「監査」は、不正や誤りがないかを監督し検査するという、やや厳しいニュアンスで使われます。一方で、年金事務所が行う手続きの公式名称は「調査」です。これは、必ずしも不正を疑っているわけではなく、あくまで社会保険の適用状況や算定基礎届の内容が適正であるかを確認するための手続き、という位置づけだからです。
とはいえ、調査の結果、誤りが発覚すれば是正指導や保険料の追徴が行われるため、事業者側は監査と同様の緊張感をもって対応する必要があります。
社会保険の調査の主な対象となるポイント
社会保険の調査では、社会保険の加入漏れの有無や標準報酬月額の妥当性などを含め、主に以下の点が重点的に確認されます。
| 調査ポイント | 主な確認内容 | 
|---|---|
| 加入漏れの有無 | パート・アルバイトを含め、加入要件を満たす全従業員が適切に被保険者となっているか。 | 
| 標準報酬月額の妥当性 | 「算定基礎届」や「月額変更届」が給与の実態と合っており、正しく提出されているか。 | 
| 賞与支払の届出 | 賞与を支払った際に「被保険者賞与支払届」を提出し、保険料を納付しているか。 | 
| 二以上事業所勤務 | 複数の事業所で働く従業員の保険料が、合算された報酬月額で正しく計算されているか。 | 
これらの項目について、賃金台帳や出勤簿などの書類と提出済みの届出書を照合し、整合性が確認されます。
年金事務所の調査で指摘されやすい企業の特徴とは?
すべての企業に調査の可能性がありますが、特に調査対象として選ばれやすい、あるいは指摘を受けやすい企業には一定の傾向が見られます。自社が該当しないか、事前に確認しておきましょう。
調査対象に選ばれやすい企業の傾向
調査対象の選定基準は公表されていませんが、実務上、以下のような企業は対象になりやすい傾向があるといわれています。
- 新規適用事業所
会社設立から数年以内の企業。手続きに不慣れな場合が多いため。 - パート・アルバイトが多い企業
飲食業、小売業、サービス業など。従業員の労働時間が変動しやすく、加入要件の判断が複雑なため。 - 従業員の入退社が頻繁な企業
人材の流動性が高い業界。資格取得・喪失手続きの漏れが起きやすいため。 - 過去に指摘を受けたことがある企業
以前の調査で是正指導を受けた事業所。改善状況の確認のため。 
また、これらに該当しなくても、数年に一度のサイクルで定期的な調査対象となる場合もあります。「うちは調査が来ない」と考えるのではなく、いつ通知が来ても良いように日頃から適正な労務管理を心掛けるべきでしょう。
加入漏れが起こりやすい従業員の条件
調査で最も多く指摘されるのが、パートタイマーやアルバイトといった短時間労働者の加入漏れです。社会保険の加入義務は、正社員か非正規社員かという雇用形態ではなく、所定労働時間や賃金などの実態によって判断されます。
特に以下の条件を満たす従業員は、加入義務が発生するため注意が必要です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
 - 月額賃金が8.8万円以上
 - 雇用期間が2ヶ月を超える見込みがある
 - 学生ではないこと(休学中や夜間学生は加入対象)
 
これらの条件は段階的に適用範囲が拡大されており、法改正を見落としていると意図せず加入漏れの状態になっているかもしれません。
参照:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大|日本年金機構
社会保険の調査(監査)はいつ・どのように行われる?
社会保険の調査は、通常は事前に通知があり、準備期間が与えられます。ある日突然、調査官が訪問してくるわけではありません。落ち着いて対応できるよう、一連の流れを把握しておきましょう。
STEP1:調査通知の受け取り
まず、管轄の年金事務所から「厚生年金保険・健康保険の適用に関する調査実施のお知らせ」といった趣旨の通知書が郵送で届きます。通知書には、調査の日時、場所(事業所への訪問または年金事務所への来所)、準備すべき書類などが記載されています。指定された日時に都合が悪い場合は、早めに年金事務所へ連絡し、日程調整を依頼しましょう。
STEP2:必要書類の準備
通知書に記載された書類を、指定された期間分(通常は過去1〜2年分)準備します。書類に不備や矛盾がないか、この段階で入念にチェックすることが極めて大切です. もし、この時点で加入漏れなどの誤りに気づいた場合は、隠さずに事実関係を整理し、専門家である社会保険労務士(社労士)に相談することをおすすめします。
STEP3:調査当日(実地調査または来所要請)
調査は、年金事務所の調査官が事業所を訪問する「実地調査」か、担当者が年金事務所へ出向く「来所要請」のいずれかの形式で行われます。当日は準備した書類を提示し、調査官からの質問に答えます。質問には、事実にもとづいて誠実かつ簡潔に回答することが重要です。
STEP4:結果報告と是正指導
後日、調査結果が口頭または文書で伝えられます。特に問題がなければ「適正」として終了です。もし加入漏れや保険料の計算誤りなどが指摘された場合は、「指導文書」が交付されます。この指導内容にもとづき、指定された期日までに是正報告書や関連する届出書を提出し、不足分の保険料を納付しなければなりません。
社会保険の調査で必要になる書類一覧と確認ポイントは?
社会保険の調査通知を受け取ったら、速やかに書類の準備に取り掛かる必要があります。書類が不足していたり、内容に矛盾があったりすると、調査が長引く原因にもなりかねません。
主要な書類リスト一覧
一般的に、調査で提示を求められる書類は以下のとおりです。事業所の状況によって追加の書類が必要になる場合もありますので、必ず通知書の内容を確認してください。
| 書類名 | 主な確認用途 | 
|---|---|
| 賃金台帳 | 全従業員の給与、各種手当、控除額の実態を確認する。 | 
| 出勤簿(タイムカード) | 労働時間・日数の実態を把握し、社会保険の加入要件を満たしているか確認する。 | 
| 労働者名簿 | 全従業員の氏名、生年月日、採用日などを正確に把握する。 | 
| 源泉所得税領収証書 | 税務署へ納付した所得税の記録から、従業員数を把握する。 | 
| 就業規則、雇用契約書 | 所定労働時間や休日など、契約上の労働条件を確認する。 | 
| 社会保険関係の届出書控え | 提出済みの書類と、他の帳簿との整合性を確認する。 | 
書類準備の際に注意すべき点(整合性の確認)
書類をただ集めるだけでなく、それぞれの書類間で内容に矛盾がないかを確認することが重要です。例えば、以下のような点は入念にチェックしましょう。
| チェック内容 | 注意すべき点 | 
|---|---|
| 賃金台帳と出勤簿の整合性 | 出勤簿の労働時間にもとづいて、残業代などが正しく計算され、賃金台帳に反映されているか。 | 
| 雇用契約書と労働実態の整合性 | 契約上の所定労働時間と、出勤簿に記録された実際の労働時間に大きな乖離(かいり)がないか。乖離がある場合、パートタイマーが意図せず社会保険の加入要件を満たしている可能性があります。 | 
| 賃金台帳と算定基礎届の整合性 | 算定基礎届に記載した報酬月額と、対象期間(4月〜6月)の賃金台帳の支払額に誤りがないか。 | 
これらの書類間の不整合は、調査官が特に注意して見るポイントです。事前にチェックし、もし矛盾点があればその理由を合理的に説明できるよう準備しておく必要があります。
社会保険の調査(監査)当日の対応方法は?
社会保険料に関連する書類の準備と並行して、調査当日の対応についても決めておく必要があります。協力的な姿勢を示し、質問には事実のみを回答しましょう。また、社労士の同席も可能です。誰が、どのように対応するか決めておきましょう。
調査当日の心構えと適切な受け答え
調査当日は、誠実かつ協力的な態度で臨むことが基本です。感情的になったり、不確かな情報を伝えたりすることは避けましょう。
- 協力的な姿勢を示す:
調査は法律にもとづく手続きです。丁寧な対応を心掛けましょう。 - 質問には事実のみを回答:
憶測や推測で答えるのは禁物です。不明な点や即答できない場合は、「確認して後ほど回答します」と伝え、正確な情報を準備します。 - 余計なことは話さない:
質問された範囲で、簡潔に回答します。不必要な情報を提供すると、かえって疑念を招くことにもなりかねません。 - 指摘事項は冷静に受け止める:
もし誤りを指摘された場合でも、その場で反論するのではなく、まずは指摘内容を正確に記録し、持ち帰って事実確認や専門家への相談を行いましょう。 
担当者の選び方は?
社会保険の調査の対応は、給与計算や社会保険手続きを日常的に担当している方が適任です。具体的には、人事・労務部門や経理部門の責任者や担当者が考えられます。
経営者自身が対応することも可能ですが、実務の詳細を把握している担当者が同席する方が、調査官の質問にスムーズに答えられます。
対応者は一人に絞るのではなく、責任者と実務担当者の2名体制で臨むのが理想的ではないでしょうか。
社会保険労務士(社労士)の同席は必要か?
社会保険労務士(社労士)に調査の立ち会いを依頼することも可能です。社労士が同席するメリットは多岐にわたります。
- 事前のリスク診断:
調査日までに必要書類をチェックし、指摘されそうな問題点を事前に洗い出してくれます。 - 当日の代理応答:
事業者の代わりに、専門的な見地から調査官の質問に的確に回答し、不当な指摘や過度な要求を防ぐ防波堤としての役割を担います。 - 是正指導への対応:
調査後に是正指導を受けた場合、報告書の作成や届出書の提出を代行し、円滑に手続きを進めてくれます。 
顧問社労士がいる場合は、調査通知が届いた時点ですぐに相談しましょう。顧問契約がない場合でも、スポットで調査対応のみを依頼できる社労士事務所もあります。特に、自社での対応に不安がある場合は、専門家の力を借りることを強く推奨します。
もし社会保険の調査で指摘を受けたらどうなる?
調査の結果、加入漏れや算定誤りなどを指摘された場合、速やかに是正措置を講じなければなりません。特に金銭的な負担を伴うのが、保険料の遡及(そきゅう)適用と追徴です。
指摘事項の確認と是正勧告への対応
調査官から指摘を受けた内容は「指導文書」として交付されます。まずは、その内容が事実と相違ないかを慎重に確認します。その上で、文書に記載された期日までに、指摘された従業員の資格取得届などを提出し、是正報告書を作成・提出する必要があります。
保険料の遡及(そきゅう)は最大何年分?
社会保険料の徴収権の時効は2年です。そのため、調査によって加入漏れが発覚した場合、最大で過去2年分に遡って社会保険に加入し、保険料を納付するよう求められます。例えば、3年前から加入要件を満たしていた従業員の加入漏れが発覚した場合でも、遡及期間は直近の2年間となります。
追徴保険料の計算と納付
追徴される保険料は、本来納めるべきだった保険料の全額です。社会保険料は会社と従業員で折半(労使折半)するため、追徴額も会社負担分と従業員負担分の合計となります。
- 標準報酬月額:200,000円
 - 健康保険料+厚生年金保険料の合計(令和6年度・東京都・介護保険第2号被保険者に該当する場合):約30%
 - 1ヶ月あたりの保険料:200,000円 × 約30% = 約60,000円
 - 会社負担分(月額):約30,000円
 - 従業員負担分(月額):約30,000円
 - 2年間の追徴額合計:約60,000円 × 24ヶ月 = 約1,440,000円
 
会社は、この合計額(約144万円)を日本年金機構に一括で納付する必要があります。その後、会社は従業員に対して、従業員負担分(この例では約72万円)を請求することになります。しかし、すでに退職した従業員から回収することは困難な場合が多く、結果的に会社が全額を負担するケースも少なくありません。このような事態を避けるためにも、日頃からの適正な手続きが不可欠です。
社会保険料の監査・調査は、事前の準備と誠実な対応で乗り切る
社会保険料の調査(監査)は、適切な手続きを行っていれば、決して恐れるものではありません。重要なのは、調査の通知を受け取った際に慌てず、本記事で解説した流れに沿って、必要書類を確実に準備し、誠実な態度で対応することです。特に、パート・アルバイトの加入要件の確認や、賃金台帳と各種届出書との整合性チェックは、日頃から徹底しておきましょう。
もし、自社での対応に少しでも不安を感じる場合は、速やかに社会保険労務士などの専門家に相談してください。専門家のサポートを得ることで、リスクを最小限に抑え、スムーズに調査を乗り切ることが可能になります。
調査をきっかけに、自社の労務管理体制を見直す良い機会と捉え、より健全な企業運営へとつなげていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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