- 更新日 : 2025年10月6日
退職勧奨を受けた際の退職届の書き方ガイド【例文・テンプレート付】
突然の退職勧奨に「どうしたらいいのかわからない」と困惑しているなか、さらに退職届の提出を求められ、不安や焦りを感じていませんか?
言われるがままに退職届を出してしまうと、思わぬ不利益を被る可能性があるため注意が必要です。
本記事では、退職勧奨を受けた際の退職届の正しい書き方や注意点を、例文付きでわかりやすく解説します。
目次
退職勧奨を受けて退職届を書く前に知っておきたい注意点
退職勧奨とは、労働者に対して退職を促すものであり、労働者の合意を前提とした制度です。しかし、「早く退職届を出してほしい」と圧力をかけられるケースもあります。
民法第627条第1項において、雇用期間に定めがない場合の退職の意思表示は、原則として退職日の14日前までに伝えれば有効と定められています。会社から「すぐに退職届を提出してほしい」と求められた場合であっても、法的には拒否することが可能です。
退職届は、一度提出すると原則として撤回ができないため、書面の内容と提出のタイミングを慎重に判断することが重要です。
退職勧奨により退職する場合は、退職理由の記載にも注意が必要です。
退職勧奨による退職は会社都合退職に該当しますが、退職届の書き方を誤ると「自己都合退職」として処理されるリスクがあります。
自己都合退職扱いになると、失業給付の給付制限や所定給付日数などで不利益を被る可能性があるため、正しい書き方を理解しておきましょう。
退職勧奨や退職に関するルールについて詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。
関連記事:退職勧奨とは?円滑な進め方や言い方、通知書のひな形や文例を紹介
労働基準法や民法による退職は何日前?1ヶ月、2週間、即日ルールを解説
退職勧奨による退職届の書き方【例文・テンプレート付】
多くの退職届のテンプレートには、退職理由として「一身上の都合により」と記載されています。これは労働者本人の都合による退職を意味するため、退職勧奨にもとづく退職とは理由が異なります。
退職勧奨を受けて退職届を書く場合は、退職理由に「退職勧奨に伴い」または「会社都合により」といった表現を使用し、会社側の事情で退職する旨を明示しなければなりません。
会社が指定するフォーマットに「一身上の都合により」と記載があっても、労働者には文言を修正する権利があります。
退職勧奨による退職届の例文は次のとおりです。
退職届 令和△年△月△日 株式会社〇〇〇〇 代表取締役社長 ×× ×× 様 営業部 第二課 山田太郎 印 私儀 このたび、貴社からの退職勧奨に伴い、令和〇年〇月〇日をもって退職いたします。 以上 |
「退職勧奨に伴い」と記載することで、会社都合による退職であることを証明できます。記録として残すことで、退職後のトラブル回避や失業給付の円滑な受給にも役立ちます。
退職届を提出する際には、内容をよく確認し、不明点や不安があれば労働相談窓口や弁護士に相談しましょう。
なお、退職届は縦書きが一般的ですが、横書きでも必要事項が記載されていれば受理されます。
退職勧奨では必ずしも退職届を提出する必要はない
退職勧奨に応じる場合でも、退職届を提出する義務は法律上ありません。
退職勧奨は、会社からの申し出により労働者が退職に応じる「合意退職」の一種であり、労働者が自ら退職を申し出る自己都合退職とは性質が異なります。それにもかかわらず退職届を提出してしまうと、形式上は自己都合退職と見なされ、失業保険や退職金の条件で不利になる可能性があります。
退職勧奨においては、会社との合意内容を明記した「退職合意書」を交わすのが一般的です。会社都合退職として正しく処理されるためにも、退職届の書き方に悩む前に、本当に提出が必要かどうかを慎重に判断しましょう。
退職勧奨では退職届ではなく退職合意書を提出すべき4つの理由
退職勧奨に応じて退職する場合、会社に提出すべきは「退職届」ではなく「退職合意書」です。
ここでは、労働者が退職勧奨に応じる際に、退職合意書を提出すべき4つの理由を解説します。
1. 会社側の合意を証拠として残せる
退職勧奨に応じて退職する場合は、会社と労働者の間で交わされる「退職合意書」によって、退職に関する合意内容を明確な証拠として残すことが非常に重要です。
退職届はあくまで労働者の一方的な意思表示に過ぎず、会社側の同意や条件は一切反映されません。
一方で、退職合意書には労働者と会社双方の署名・押印が必要であるため、労働者と会社の双方が合意していた事実が証拠として残ります。
退職勧奨に関するトラブルを避け、正当な権利を守るためにも、退職合意書の作成は必須といえるでしょう。
なお、退職合意書は、紙ベースで保管するとともに、紛失に備えてPDFで自分のPCなどに保存することをおすすめします。
2. 退職勧奨による退職であることを明確にできる
退職届には労働者が退職理由を自由に記載できますが、会社の見解と必ずしも一致しているとは限りません。退職勧奨に応じて退職届を提出しても、会社から「自発的な退職だった」と主張されるリスクがあります。
一方で、退職合意書には「退職勧奨による退職」や「会社都合退職」である旨を、労働者と会社の双方の合意のもとで記載します。
こうした記載があることで、離職票における退職理由の誤認を防止し、失業給付の受給に際して不利益を被ることを回避することが可能です。
制度面での不利益やトラブルを避けるためにも、退職勧奨に応じる際は退職合意書を作成するようにしましょう。
3. 退職条件の交渉がしやすくなる
退職勧奨は、会社が労働者に退職を勧める行為ですが、応じるかどうかはあくまで労働者の自由です。したがって、退職に応じる代わりに、労働者側から労働条件や保障について交渉する余地があります。
たとえば、次のようなものが交渉対象です。
- 特別退職金の支給
- 退職日までの給与保障
- 有給休暇の買い取り
- 再就職支援の提供
退職届ではこうした条件が一切書面に残らないため、会社とどのような話し合いがあったかを後から証明するのは非常に困難です。
退職合意書を作成すれば、会社と交渉して決定した条件を明確に記載でき、約束を反故にされるリスクも減らせます。
4. 退職後の守秘義務や誹謗中傷禁止条項を明記できる
退職合意書には、退職後の言動に関するルールも盛り込むことが可能です。
たとえば、次のような条項が代表例です。
- 互いに誹謗中傷を行わない
- 社内情報を口外しない(守秘義務)
- 退職条件を第三者に漏らさない
これらの条項は、単に会社と円満に関係を終えるためだけでなく、労働者自身の社会的信用や今後のキャリアを守るためにも重要な役割を果たします。
退職届ではこのような内容を明記できないため、退職後のSNSや口コミでの発言を通じて思わぬトラブルに発展するリスクがあります。
あらかじめ退職合意書で双方の合意を明文化しておけば、不要な誤解や争いを未然に防ぎ、安心して次のキャリアへ踏み出せるでしょう。
退職合意書に記載すべき項目
退職勧奨を受け入れて退職する際には、後々のトラブルを防ぐために「退職合意書」に記載する内容が重要です。退職金の上乗せや就労免除の有無など、退職勧奨に特有の条件も明確にしておく必要があります。
主な記載項目は次のとおりです。
- 退職日
- 私物の取り扱い
- 退職金の金額と支払い方法
- 秘密保持義務
- 清算条項(これ以上の債権債務がないことの確認)
これらの事項を明確に取り決めておくことで、退職後の労使間の誤解や争いを回避できます。
各項目の具体的な書き方については、以下の記事で詳しく解説しています。
退職勧奨で退職届を求められた場合の対処法4選
ここでは、退職勧奨で退職届を求められた場合に労働者が取るべき具体的な対処法をわかりやすく解説します。
1. その場で提出せず一度持ち帰る
退職勧奨を受けて退職届の提出を求められても、その場で書いて出す必要は一切ありません。退職届は労働者の退職の意思表示であるため、一度提出すると撤回が極めて難しくなります。
そのため、会社側から「今すぐに出してください」と急かされたとしても、「検討の時間をください」または「弁護士に相談したいので、一度持ち帰らせてください」と冷静に伝えましょう。
勢いで提出してしまうと、希望していた退職条件やタイミングと合わないまま手続きが進んでしまうこともあります。退職届の内容を理解し、必要であれば第三者の意見を聞く時間を確保するためにも、一度持ち帰って慎重に検討しましょう。
2. 退職条件を交渉する
退職勧奨を受けても、退職するかどうかは労働者の自由です。会社から提示された退職条件に納得がいかない場合は、以下のような条件について交渉が可能です。
- 特別退職金の支給
- 退職日
- 就労免除期間の給与保障
- 有給休暇の消化
- 退職理由の扱い
適切な交渉を行うことで、今後の生活やキャリアを守るために有利な条件を引き出せることもあります。
退職届の書き方だけでなく、交渉のポイントを押さえ、後悔しない退職を実現しましょう。交渉は一度で決めず、専門家のアドバイスを受けながら進めることがおすすめです。
3. 退職合意書を締結する
退職条件について会社と合意に至った場合は、口頭やメールのやり取りだけで終わらせず、必ず「退職合意書」を作成して内容を明文化しましょう。
退職届とは異なり、退職合意書は退職条件(退職日、退職金、有給消化など)を具体的に記載し、労働者と会社双方が署名・押印する正式な文書です。そのため、退職後のトラブルや「言った・言わない」の争いを防ぐ有力な証拠となります。
ただし、退職合意書には労働者に不利益な条項が含まれることもあります。内容をよく確認したうえで、不明点や不安がある場合は労働問題に詳しい弁護士などの専門家に相談しましょう。
4. 弁護士に相談する
退職勧奨に対する対応で少しでも不安や疑問がある場合は、迷わず弁護士に相談しましょう。
退職届の書き方や提出のタイミング、交渉すべき条件、退職合意書の内容確認などについては、専門家のアドバイスを受けるのが安心です。弁護士に相談することで、自分の権利を守りながら円滑に退職手続きを進められます。
労働問題に強い弁護士であれば、会社とのやり取りや交渉を適切にサポートし、不当な退職勧奨に対しても的確に対処してくれるでしょう。
ひとりで悩まず、まずは無料相談や労働相談窓口などを活用して、早めに専門家の意見を聞くことをおすすめします。
退職勧奨と退職届に関するよくある質問
最後に、退職勧奨と退職届に関して労働者が抱えやすい不安や疑問をわかりやすく解説します。
Q1:退職勧奨による退職は自己都合?それとも会社都合?
退職勧奨は会社が従業員に対して退職を促す制度であり、労働者が同意して退職届を提出した場合でも、原則として「会社都合退職」として扱われます。
ハローワークの基準でも、事業主から直接または間接的に退職を勧められたケースは「特定受給資格者」に該当する旨が規定されています。この基準は、退職勧奨の理由(業績悪化・人員整理・病気等)に関係なく適用され、正社員・契約社員・パート問わず対象です。
離職票の退職理由が「自己都合」とされていないかを確認し、誤って処理されている場合は訂正の手続きを進めましょう。
参考:特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準|厚生労働省
Q2:退職勧奨で自己都合退職になった場合のデメリットは?
退職勧奨を受けたにもかかわらず、退職届の内容などにより自己都合退職とされた場合には、次のようなデメリットがあります。
- 失業保険の受給開始が1〜3か月遅れる
- 所定給付日数が短くなる可能性がある
- 退職金が減額される可能性がある
詳しくは以下の記事で解説しているので、あわせてご確認ください。
関連記事:自己都合か会社都合か?退職理由で違う失業保険の給付
Q3:退職勧奨で退職届を提出した場合でも会社都合退職にできる?
退職勧奨で退職届を提出する場合でも、内容によっては会社都合退職として認められます。
ただし、退職届に「一身上の都合」と記載すると、自己都合退職と誤解されやすいため注意が必要です。「業績悪化に伴う人員整理のため」「会社の倒産のため」など、会社都合の具体的な理由を明記することが重要です。
会社から渡されたフォーマットに署名する際も、記載内容に「自己都合」と取れる表現がないか必ず確認しましょう。控えは必ず手元に残し、記録を取ることがトラブル時の証明に役立ちます。
Q4:退職届を提出して自己都合退職とされた場合の対処法は?
退職勧奨による退職にもかかわらず、退職届を提出したことで自己都合退職と処理された場合でも、後から訂正が可能です。
離職票の「一身上の都合による離職」にチェックが入っている場合は、ハローワーク窓口で異議を申し出ましょう。
ただし、退職勧奨が事実であることを示す証拠(メール、録音、メモなど)が必要です。証拠があれば、離職理由を「会社都合」に訂正できるため、失業保険の給付制限や給付日数の不利益を回避できます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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