• 更新日 : 2025年9月26日

労働基準法に沿った勤怠管理とは?タイムカードの扱いや必要な記録を解説

企業の健全な運営において、従業員の勤怠管理は避けて通れない重要な業務です。しかし、「どこまでが労働時間なのか」「自社の管理方法は法律に沿っているのか」といった不安を抱える経営者や担当者の方も多いのではないでしょうか。

勤怠管理は、2019年の法改正により、すべての企業で客観的な記録による労働時間の把握が義務化されています。この記事では、労働基準法で定められた勤怠管理の基本的な義務から、具体的な記録・保存方法、違反した場合のリスクまで、わかりやすく解説します。

労働基準法における勤怠管理の基本的な考え方

労働基準法にもとづく勤怠管理とは、企業が従業員の労働日ごとの始業・終業時刻を正確に記録し、それにもとづいて労働時間を把握・管理することです。これは、単に給与を計算するためだけでなく、従業員の健康を守り、長時間労働を防ぐ目的があります。

対象となる労働者の範囲

勤怠管理の対象は、原則としてすべての労働者です。管理監督者や裁量労働制の従業員は労基法上の労働時間規制は適用されませんが、健康管理の観点から安衛法にもとづき労働時間把握が義務付けられています。

以前は管理監督者については労働時間把握の義務が明確ではありませんでしたが、労働安全衛生法の改正により、健康管理の観点から労働時間の状況を把握することが義務づけられました。

  • 一般の労働者:労働基準法にもとづき、労働時間の把握が義務
  • 管理監督者:労働安全衛生法にもとづき、健康確保のために労働時間の状況把握が義務
  • パート・アルバイト:雇用形態にかかわらず、すべての労働者が対象

出典:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省

勤怠管理はなぜ法律で義務化されているのか

勤怠管理の義務化は、主に2つの目的があります。一つは、従業員の過重労働を防ぎ、心身の健康を守ることです。正確な労働時間を把握することで、時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間)を遵守し、長時間労働の是正につなげます。もう一つは、残業代などの割増賃金を正しく支払い、未払い賃金問題を防止するためです。客観的な記録は、労使間のトラブルを防ぐための重要な証拠にもなります。

労働安全衛生法にもとづく労働時間の客観的な記録と保存方法

労働安全衛生法では、労働時間の記録は客観的な方法で行うことが原則とされており、その記録は一定期間保存しなければなりません。

労働時間を記録する方法

労働時間の把握は、使用者が自ら現認するか、客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録することが求められます。具体的には、以下のような方法が挙げられます。

  • タイムカード、ICカード、IDカード:出退勤時刻を客観的に記録できる代表的な方法です。
  • パソコンの使用時間の記録:PCのログイン・ログアウト時刻の記録は、とくにデスクワーク中心の従業員の労働時間を把握するのに有効です。
  • 勤怠管理システム:打刻や労働時間の集計、残業時間の管理などを自動化でき、正確かつ効率的な管理ができます。

やむを得ず自己申告制をとる場合は、従業員へ労働時間の実態を正しく記録することの重要性を十分に説明し、必要に応じて実態調査を行うなどの措置が必要です。

勤怠記録の保存期間

労働基準法第109条では、「労働関係に関する重要な書類」の保存を義務づけており、勤怠記録もこれに該当します。法改正により、これらの記録の保存期間は原則として5年間(当分の間は経過措置として3年間)と定められています。

  • 対象となる主な書類
    • 労働者名簿
    • 賃金台帳
    • 雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類(タイムカードなどの勤怠記録も含まれる)
  • 起算日
    最後の記録がなされた日※賃金台帳やタイムカードなどで、記録に関する賃金の支払期日が記録の完結の日などより遅い場合には、当該支払期日

勤怠管理で労働基準法違反と判断されやすい注意ポイント

日々の業務の中で、これまでの慣行だからと続けている勤怠管理が、実は労働基準法に違反しているケースは少なくありません。ここでは、とくに企業が見落としがちな、労働基準法違反と判断される可能性が高い具体的な事例を解説します。自社の運用と照らし合わせて確認してみましょう。

労働時間の端数切り捨ては原則認められない

労働時間は、1分単位で計算し、その時間に応じた賃金を支払うのが大原則です。「15分未満は切り捨て」や「出勤時間を15分単位で切り上げる」といった運用は、切り捨てた時間分の賃金が支払われないことになるため、労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」に違反します。

違反となる例
  • 終業時刻が17時8分だった場合に、17時00分として記録する。
  • 始業時刻8時50分に出勤打刻したものを、9時00分出勤として扱う。

ただし、事務簡便化のための例外として、1ヶ月の時間外労働(残業)時間の合計に対してのみ、30分未満の端数を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる処理が認められています。日々の労働時間の計算で端数を切り捨てることはできないため、注意が必要です。

着替えや準備時間を労働時間に含めない

会社の指示により義務づけられている作業服への着替え、始業前の朝礼への参加、業務で使う機器の起動や準備、終業後の清掃や後片付けなどは、使用者の指揮命令下にあるとみなされ、労働時間に含まれます。これらの時間を労働時間として扱わず、タイムカードの打刻をその前後にするよう指示している場合、実労働時間と記録に乖離が生まれ、未払い賃金の原因となります。

労働時間とみなされる可能性が高い時間の例
  • 就業規則で着用が義務付けられている制服や作業着への着替え時間
  • 参加が必須となっている始業前のミーティングや朝礼
  • 業務開始前のパソコンの起動や、作業場の清掃
  • 業務終了後の後片付けや日報作成の時間
  • 会社が実施する研修や教育訓練への参加時間

休憩時間を自由に利用させない

労働基準法第34条では、休憩時間は労働者が労働から完全に解放され、自由に利用できる時間でなければならないと定めています。休憩時間中に電話対応や来客対応をさせる「手待ち時間」は、実際には業務にあたっているため労働時間と判断されます。

違反となる例
  • 休憩時間中も、事務所内で電話番や来客対応を義務づける。
  • 昼食をとりながら、緊急の業務依頼に対応させる。
  • 休憩中の外出を、合理的な理由なく一方的に禁止する。

従業員が休憩時間を自由に過ごせる環境を確保することが、企業の義務です。

遅刻や早退に対して給与を過大に控除する

従業員が遅刻や早退をした場合、企業はその働かなかった時間分の賃金を控除できます(ノーワーク・ノーペイの原則)。しかし、実際に遅刻した時間(例:5分)を超えて、一方的に「30分」や「1時間」分の賃金をカットするような運用は、過大な控除として違法になります。

ただし、就業規則に懲戒処分として「減給の制裁」を定めている場合は、この限りではありません。その場合でも、減給には上限があり、「1回あたりの額は平均賃金1日分の2分の1を超えてはならず、さらに総額は1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない」と定められています。

年次有給休暇を正しく管理しない

2019年の法改正により、年10日以上の年次有給休暇が付与されるすべての労働者に対して、企業は年に5日間、時季を指定して有給休暇を取得させることが義務づけられました。この義務を履行しない場合、労働者1人につき30万円以下の罰金が課されることがあります。

違反となる例
  • パート・アルバイトを含め、対象者がいるにもかかわらず年5日の有給休暇を取得させていない。
  • 従業員からの有給休暇の申請を、正当な理由なく拒否する。
  • 有給休暇の取得を理由に、賞与の査定を下げるなど不利益な取り扱いをする。
  • 法律で義務付けられている「年次有給休暇管理簿」を作成・保存していない。

労働基準法の勤怠管理義務に違反した場合のリスク

勤怠管理を怠り、労働基準法の関連条項に違反した場合、罰則が科される可能性があります。たとえば、労働時間の記録を怠った場合や、法定の保存期間を守らなかった場合には、労働基準法第120条にもとづき、30万円以下の罰金が科されることがあります。

また、時間外労働の上限規制に違反した場合は、6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される可能性があります。

未払い残業代の請求

不適切な勤怠管理は、未払い残業代請求の大きな原因となります。客観的な労働時間の記録がない場合、裁判などでは従業員が記録したメモやメールの送信履歴などが労働時間の証拠として採用されることもあります。その結果、企業側が想定していなかった高額な未払い残業代と遅延損害金の支払いを命じられるケースも少なくありません。

企業の社会的信用の低下

労働基準法違反が発覚すると、行政による指導や勧告、場合によっては企業名が公表されることもあります。これにより、「ブラック企業」というイメージが定着し、企業の社会的信用が大きく低下するおそれがあります。信用の低下は、採用活動の難化、顧客離れ、取引の中止など、事業活動のさまざまな側面に悪影響をおよぼすでしょう。

適切な勤怠管理がもたらす労働基準法遵守以外のメリット

適切な勤怠管理は、法規制を遵守するという守りの側面だけでなく、企業の成長につながる攻めの側面も持ち合わせています。正確な労働時間の把握は、より良い職場環境と経営基盤を築くための第一歩となるでしょう。

従業員の健康管理と生産性の向上

勤怠データを分析することで、個々の従業員の労働時間や残業の傾向を可視化できます。これにより、特定の従業員に業務が偏っていないか、長時間労働が常態化していないかなどを早期に発見し、業務分担の見直しや人員配置の最適化といった対策を講じることが可能です。従業員の心身の健康を守ることは、休職や離職を防ぎ、結果として組織全体の生産性向上につながります。

コンプライアンス意識の向上と従業員満足度

勤怠管理を正しく行うことは、企業が法律を遵守する姿勢を従業員に示すことになります。労働時間に見合った賃金が公正に支払われる職場環境は、従業員の会社に対する信頼感や安心感を高めるでしょう。このような信頼関係は、従業員のエンゲージメントや満足度の向上に貢献し、優秀な人材の定着にも良い影響をあたえます。

正確な人件費の把握とコスト削減

勤怠データを正確に把握することで、部署ごとやプロジェクトごとの人件費を詳細に分析できるようになります。これにより、無駄な残業が発生している箇所を特定し、業務プロセスの改善や効率化を進めることで、人件費の適正化を図ることが可能です。正確なコスト管理は、健全な経営計画を立てるうえで欠かせません。

労働基準法とあわせて知っておきたい勤怠管理関連の法律

勤怠管理を考えるうえでは、労働基準法だけでなく、労働安全衛生法も深く関わってきます。これらの法律をあわせて理解することで、より多角的な視点から従業員の健康と安全を守る体制を構築できます。

労働安全衛生法における労働時間の把握義務

労働安全衛生法では、従業員の健康障害を防止する目的で、事業者に「労働者の労働時間の状況を把握すること」を義務づけています。これは、長時間労働者に対する医師による面接指導を適切に実施するためです。労働基準法が賃金の支払いや労働時間の上限規制を目的としているのに対し、労働安全衛生法は、より直接的に従業員の健康確保を目的としている点に特徴があります。この義務は、管理監督者や裁量労働制の従業員も対象に含まれます。ただし、高度プロフェッショナル制度の適用者は除かれます。

出典:労働安全衛生法 | e-Gov法令検索

労働基準法に沿った勤怠管理で健全な企業経営を実現する

労働基準法に沿った勤怠管理とは、従業員の始業・終業時刻を客観的に記録し、そのデータをもとに労働時間を正しく把握する仕組みです。2019年の法改正により、すべての企業に客観的記録が義務化され、勤怠記録は原則5年間保存しなければなりません。違反すれば罰則や高額な未払い残業代請求のリスクが生じ、企業の信用低下にも直結します。

タイムカードの運用や労働時間の計算方法など、自社のルールが法律に適合しているか、今一度見直してみてはいかがでしょうか。

客観的で正確な勤怠管理を徹底することが、従業員との信頼関係を築き、企業の持続的な成長へとつながっていくでしょう。

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