• 更新日 : 2025年9月26日

年次有給休暇とは?日数や付与条件、取得ルールをわかりやすく解説

年次有給休暇(有給)は、働く人の心身の回復や生活のゆとりを守るために、法律によって保障された大切な権利です。しかし「具体的にどのような条件で何日付与されるのか」「正社員だけでなくパートタイマーも対象になるのか」など、ご自身の状況と照らし合わせると、意外と理解が曖昧な方も多いのではないでしょうか。

この記事では、年次有給休暇の基本から、付与される条件、日数の計算方法、企業に課せられた取得義務、そして休暇を計画的に活用するコツまで、わかりやすく解説します。

目次

年次有給休暇とは?

年次有給休暇(「有給」や「年休」とも呼ばれる)とは、原則として勤続6ヶ月以上、全労働日の8割以上出勤という条件を満たしたすべての労働者が、給与を受け取りながら取得できる休暇のことです。

これは労働基準法第39条で定められた、働く人の心と体をリフレッシュさせるための大切な権利です。アニバーサリー休暇など会社が私的に設ける休暇とは異なり法律で保障されているため、会社は原則として労働者からの申し出を拒否できません。

年次有給休暇の目的は心身のリフレッシュ

年次有給休暇制度の根本的な目的は、労働者が日々の仕事から解放される時間を持つことで、心と体の健康を維持し、明日への活力を養う点にあります。プライベートな時間を充実させることは、結果として仕事へのモチベーション向上や生産性の向上にもつながる、企業と労働者双方にとって有益な制度といえるでしょう。

有給の有効期限は2年

付与された有給休暇は、労働基準法第115条により、2年が権利の時効と定められています。

つまり、その年度に使いきれなかった日数は、翌年度に限り繰り越すことができます。しかし、繰り越した休暇も、その翌年度末までに取得しなければ時効によって消滅してしまいます。たとえば、2025年4月1日に付与された休暇は、2027年3月31日までが有効期限となります。

有給の取得率向上には計画的付与で対応

企業側が有給休暇の取得を促す仕組みとして、「計画的付与制度」があります。これは、付与される年休のうち、5日を超える部分について、労使協定を結ぶことで、企業側が計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度です。

たとえば、夏季や年末年始の休業に一斉に割り当てたり、個別に計画を立てたりすることで、計画的な業務運営と労働者の確実な休暇取得を両立させやすくなります。

出典:年次有給休暇制度 |厚生労働省

年次有給休暇が付与される詳しい条件とは?

有給休暇は、法律で定められた2つの条件を両方満たしたときに、初めて取得する権利が発生します。この条件は、正社員やパートタイマー、アルバイトといった雇用形態に関わらず、すべての労働者に共通して適用されます。ただし、企業が法律の基準を上回る、より有利な条件を設定することも可能です。

条件1. 継続勤務6ヶ月以上

有給休暇(年休)を取得するための第一の条件は、雇い入れの日から起算して6ヶ月間、継続して勤務していることです。「継続勤務」とは、在籍期間を指すため、たとえば自己都合による欠勤や休職期間があっても、雇用契約が継続していれば期間は通算されます。

条件2. 全労働日の8割以上の出勤

第二の条件は、最初の6ヶ月間の全労働日のうち、8割以上出勤していることです。この「出勤率」が、休暇を付与するうえでの重要な指標となります。

出勤率は、以下の計算式で8割(80%)以上である必要があります。

出勤率 = 出勤日数 ÷ 全労働日

なお、業務上のケガや病気で休業した期間、育児休業や介護休業を取得した期間、そして年次有給休暇を取得した日については、出勤したものとして扱われます。

法律を上回る日数の付与や入社時付与も可能

法律で定められている付与日数やタイミングは、あくまで「最低基準」です。そのため、企業が就業規則に定めることで、労働者にとってより有利な条件を設定することは何ら問題ありません。たとえば、以下のようなケースが考えられます。

  • 日数を増やす: 勤続6ヶ月で12日付与する、最大付与日数を25日にするなど。
  • タイミングを早める: 勤続6ヶ月を待たずに、入社日に10日付与する。

とくに、入社後すぐに使える有給休暇があることは、急な体調不良や役所の手続きなどに対応しやすくなるため、従業員の満足度向上や人材の定着率アップにもつながる施策といえるでしょう。

年次有給休暇の付与タイミング

有給休暇(年休)の付与タイミングは、主に2つのパターンがあります。

  1. 法定どおりの付与(個別管理):
    労働者一人ひとりの入社日に基づき、入社から6ヶ月後、1年6ヶ月後…というタイミングで付与する方法です。公平ですが、従業員ごとに基準日が異なるため、管理が煩雑になることがあります。
  2. 基準日を統一して付与(一斉付与):
    管理を簡素化するため、全従業員の付与日を「毎年4月1日」のように統一する方法です。この場合、法定のタイミングより遅れて付与することがないよう、入社時期に応じて付与日数を調整し、労働者が不利益を被らないような配慮が必要です。

出典:平成6年1月4日基発第一号:○労働基準法の一部改正の施行について5(3) 年次有給休暇の斉一的取扱い|厚生労働省

関連:有給休暇の基準日を1月1日とする場合、付与時期や日数の決め方を解説

年次有給休暇の付与日数とは?働き方による違い

有給休暇(年休)が何日付与されるかは、勤続年数と所定労働日数(週の勤務日数)によって決まります。ここでは、フルタイムで働く正社員などの場合と、パートタイマー・アルバイトの場合に分けて、具体的な付与日数を解説します。

正社員などフルタイム労働者の付与日数

週の所定労働日数が5日以上、または週の所定労働時間が30時間以上の労働者の場合、最初に有給休暇が付与されるのは、入社から6ヶ月が経過した時点です。このとき「10日」が付与され、その後は勤続年数が1年増えるごとに付与日数が増えていき、最大で「20日」となります。

【勤続年数に応じた付与日数】

継続勤務年数付与日数
6ヶ月10日
1年6ヶ月11日
2年6ヶ月12日
3年6ヶ月14日
4年6ヶ月16日
5年6ヶ月18日
6年6ヶ月以上20日

パート・アルバイトの付与日数(比例付与)

週の所定労働日数が4日以下で、かつ週の所定労働時間が30時間未満のパートタイマーやアルバイトなどの労働者には、その勤務日数に応じて有給休暇が比例して付与されます。これを「比例付与」と呼びます。

【週の所定労働日数別の付与日数】

継続勤務年数週4日週3日週2日週1日
6ヶ月7日5日3日1日
1年6ヶ月8日6日4日2日
2年6ヶ月9日6日4日2日
3年6ヶ月10日8日5日2日
4年6ヶ月12日9日6日3日
5年6ヶ月13日10日6日3日
6年6ヶ月以上15日11日7日3日

たとえば、週3日で勤務するパートタイマーの場合、入社して6ヶ月が経過し、出勤率8割以上の条件を満たせば、5日の有給休暇が付与されることになります。

参照:年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています|厚生労働省

年次有給休暇の取得義務とは?企業に課せられるルール

2019年4月の労働基準法改正により、すべての企業に対して、年次有給休暇(年休)の取得に関する新たな義務が課せられました。これは、労働者が気兼ねなく休暇を取得できる環境を整え、取得率を向上させることを目的としています。

年間5日間の取得義務化

有給休暇の付与日数が10日以上のすべての労働者に対して、企業は、付与した日(基準日)から1年以内に、最低でも5日間の休暇を取得させなければなりません。この義務は、正社員だけでなく、条件を満たして10日以上付与されたパートタイマーやアルバイトも対象です。

つまり、年間の付与日数が10日に満たない労働者(勤続年数の短いパートタイマーなど)については、この年5日の取得義務の対象とはなりません。

もし労働者が自ら5日以上の休暇を申請・取得していれば問題ありませんが、取得日数が5日に満たない場合は、企業側が時季を指定して、残りの日数を取得させる必要があります。

違反した場合の罰則

企業がこの年5日の取得義務を果たさなかった場合、対象となる労働者1人につき30万円以下の罰金が科される可能性があります。これは、労働基準法第120条に定められた罰則です。意図的でなくとも、管理不足によって義務違反とならないよう、企業は労働者一人ひとりの取得状況を正確に把握し、管理する体制を整えることが求められます。

年次有給休暇の取得日を変更できる「時季変更権」とは?

原則として、有給休暇は労働者が指定した日に与えなければなりません。ただし、労働者が指定した日に休暇を取得することが「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、企業は例外的に他の日に休暇日を変更するよう求めることができます。これを「時季変更権」と呼びます。

時季変更権が認められる・認められない具体例

時季変更権は、企業がいつでも使える権利ではありません。「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、企業が例外的にその取得日を他の日に変更できる権利です。

認められる可能性が高い例
  • 代替が困難な業務を担当する従業員が、大規模な研修期間中に休暇を申請した場合。
  • 同じ部署の多くの従業員が同日に休暇を希望し、代替要員を確保できず、事業の運営が麻痺してしまう場合。
認められない可能性が高い例
  • 「繁忙期だから」という漠然とした理由。
  • 慢性的な人手不足を理由にした拒否。
  • 業務の引き継ぎや事前の調整で対応可能な場合。

企業側は、時季変更権を行使する前に、代替要員を確保する努力や、勤務シフトを調整する努力を尽くす義務があります。

時季変更権を行使する、行使された場合の対応

企業が時季変更権を行使する場合、まずシフト調整など従業員が希望通りに休めるよう最大限努力する義務があります。それでもなお事業運営に支障が出る場合に限り、その具体的な理由を従業員に丁寧に説明し、代替となる休暇日を速やかに提示したうえで協議しなくてはなりません。

一方、従業員は、会社から示された理由が「事業の正常な運営を妨げる」という客観的な要件を満たしていない(例えば、慢性的な人手不足や漠然とした繁忙期であるなど)と判断した場合は、その変更要請を断ることも可能です。

時季変更権は、あくまで労使双方の正当な理由と協議に基づいて成立するものです。

出典:しっかりマスター 有給休暇編|厚生労働省

年次有給休暇の申請方法とは?

有給休暇の権利を行使するための申請手続きは、会社のルールに従って行うのが一般的です。ここでは、どのような申請方法があるのか、また一般的な手続きの流れについて解説します。

申請方法の一般的なフロー

有給休暇の申請方法は、勤怠管理システムやメール、紙の申請書など、企業によって就業規則で定められています。

どのような方法であれ、一般的にはまず上司や同僚と取得希望日を調整し、会社のルールに沿って正式に申請します。その後、上長が内容を確認し、休暇中に業務が滞らないよう引き継ぎを行ったうえで休暇を取得する、という流れになります。

有給の申請に理由は必要か?

結論からいうと、有給休暇の取得に理由は必要ありません。休暇をどのように利用するかは労働者の自由であり、会社側は休暇の取得理由によって取得を拒否することはできません。申請書に理由欄があったとしても「私用のため」と記載すれば十分です。会社側が執拗に理由を聞き出すことは、パワーハラスメントにあたる可能性もあるため注意が必要です。

有給の申請は何日前までが適切か?

法律上「何日前までに申請しなければならない」という明確なルールはありません。しかし、多くの企業では、円滑な業務運営のために就業規則で「取得希望日の〇日前まで」といった申請期限を定めています。まずは会社のルールを確認しましょう。

突然の体調不良などを除き、業務の引き継ぎや人員の調整をふまえ、周囲への配慮としてできるだけ早めに(たとえば1週間前など)申請することが、円滑な職場関係を保つうえで望ましいでしょう。

年次有給休暇に関するQ&A

ここでは、有給休暇に関して、とくに疑問に思われがちな点をQ&A形式で解説します。

Q. 退職が決まっています。残っている有給はすべて消化できますか?

A. 退職日までに残っている有給は、すべて消化する権利があります。労働者からの申請があれば、企業は原則としてこれを認めなければなりません。業務の引き継ぎを理由に取得を拒否することはできませんが、円満な退職のためには、引き継ぎ計画を立てたうえで、早めに上司に相談し、計画的に消化することが望ましいでしょう。

Q. 有給の買い取りはできますか?

A. 有給の買い取りは、原則として法律で認められていません。休暇の目的が心身のリフレッシュであるため、金銭の授受で代替することは制度の趣旨に反するからです。ただし、法律で定められた基準を上回って企業が任意で付与した休暇や、退職時に消化しきれず時効で消滅してしまう休暇について、労使の合意のもとで買い取ることは例外的に認められています。

Q. 育児休業や介護休業中も、有給付与の出勤率に含まれますか?

A. はい、出勤したものとして扱われます。

有給休暇が付与される条件の一つに「全労働日の8割以上の出勤」がありますが、その出勤率を計算する際に、以下の期間は出勤日数に含める(または計算の分母となる全労働日から除外する)よう法律で定められています。

  • 育児休業、介護休業を取得した期間
  • 業務上のケガや病気で休業した期間(労災)
  • 産前産後休業の期間
  • 年次有給休暇を取得した日

したがって、これらの休業を取得したことが理由で、翌年度の有給休暇の付与日数が減るなどの不利益な扱いを受けることはありません。

Q. 有給休暇の取得を不当に断られたらどうすればよいですか?

A. 正当な理由なく有給休暇(年休)の取得を拒否された場合は、冷静に段階をふんで対応しましょう。

  1. 人事・労務部門に相談する: まずは直属の上司ではなく、会社の人事・労務担当部署に、取得を拒否された事実と状況を相談します。
  2. 労働組合に相談する: 労働組合に加入している場合は、組合に相談し、会社側と交渉してもらうことも有効な手段です。
  3. 労働基準監督署に相談する: 社内での解決が困難な場合は、事業所の所在地を管轄する労働局や労働基準監督署の「総合労働相談コーナー」に相談してください。匿名での相談も可能で、法的なアドバイスを受けたり、場合によっては会社への是正指導を促したりすることができます。

年次有給休暇と他の休暇制度の違いとは?

会社には、有給休暇以外にもさまざまな休暇制度があります。それぞれの目的や給与支払いの有無などを理解し、状況に応じて適切に使い分けることが大切です。

休暇の種類目的給与支払いの有無法律上の定め
年次有給休暇(有給・年休)心身の疲労回復、ゆとりある生活の保障有り労働基準法
育児休業子を養育するための休業原則無し(雇用保険から給付金)育児・介護休業法
介護休業要介護状態の家族を介護するための休業原則無し(雇用保険から給付金)育児・介護休業法
産前・産後休業出産準備と産後の回復のための休業原則無し(健康保険から手当金)労働基準法
子の看護等休暇子の病気やケガの看護などのための休暇法律上の定め無し(企業の規定による)育児・介護休業法
生理休暇生理日の就業が著しく困難な女性のための休暇法律上の定め無し(企業の規定による)労働基準法

有給休暇の最大の特徴は、休暇中の給与が保障されている点と、取得理由が問われない点にあります。他の休暇制度は特定の目的のために設けられているのに対し、年休は労働者が自由に目的を決めて利用できる権利です。

年次有給休暇を正しく理解し計画的に活用しよう

年次有給休暇は、労基法で保障されたすべての労働者の権利であり、勤続6ヶ月・出勤率8割以上で取得資格が発生します。付与日数は勤続年数や勤務日数によって変わり、最大20日(比例付与あり)。

さらに2019年の法改正により、年10日以上付与された労働者には「年5日の取得義務」が企業に課されています。時効は2年で繰り越し可能ですが、消滅を防ぐためには計画的な取得が重要です。

企業は従業員が休みやすい環境を整備し、労働者は権利を正しく理解して活用することが、ワークライフバランスの実現と生産性向上につながります。


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