• 更新日 : 2025年9月26日

管理監督者(管理職)の勤怠管理は義務?労働時間を把握する方法を解説

「管理監督者(管理職)には残業代を支払う必要がないから、タイムカードなどの勤怠管理は不要」と考えている企業は少なくありません。しかし、その認識は現在の法律に即しておらず、大きなリスクを伴います。2019年の法改正により、企業は管理監督者を含むすべての労働者の労働時間を客観的に把握することが義務づけられました。

この記事では、管理監督者の勤怠管理がなぜ必要なのか、その法的根拠から、何をどこまで管理すればよいのか、具体的な労働時間の把握方法までをわかりやすく解説します。

なぜ管理監督者にも勤怠管理(労働時間の把握)が必要なのか?

管理監督者であっても勤怠管理、すなわち労働時間の客観的な把握は法律上の義務です。この義務は、単に残業代計算のためではなく、過重労働を防ぎ、従業員の心身の健康を守るという、より重要な目的のために課せられています。

2019年の法改正で労働時間の客観的な把握が義務化された

2019年4月の働き方改革関連法施行により、労働安全衛生法が改正されました。これにより、企業は高度プロフェッショナル制度の適用者を除き、管理監督者を含むすべての労働者について、健康管理を目的として労働時間を客観的な方法で把握することが義務づけられました。これは、長時間労働による健康障害のリスクを早期に発見し、医師による面接指導などの必要な措置を講じるためのものです。

出典:労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)|e-Gov法令検索

目的は長時間労働の抑制と健康管理

管理監督者はその職責から長時間労働に陥りやすく、自身の労働時間を自己管理に委ねていると、気づかぬうちに過重労働となっているケースが少なくありません。労働時間を客観的に把握し「見える化」することは、本人と会社の双方が健康リスクを認識し、適切な業務配分や休息を確保するための第一歩となります。健康で意欲的に働ける環境を整えることは、企業の持続的な成長にとっても不可欠です。

「名ばかり管理職」のリスクを回避するため

役職名だけが「管理職」で、実態として経営に関与する権限や勤務時間の裁量がない従業員は「名ばかり管理職」と判断されることがあります。この場合、法的な管理監督者とは認められず、企業は一般の従業員と同様に残業代を支払う義務を負います。

勤怠管理を怠っていると、後に高額な未払い残業代を請求されるリスクが高まります。適切な勤怠管理は労務リスクの回避にもつながります。

労働基準法における「管理監督者」とは

自社の管理職が法的な「管理監督者」に該当するかどうかは、部長や支店長といった役職名で自動的に決まるわけではありません。労働基準法では、「職務内容・責任と権限」「勤務態様」「待遇」という3つの実態をふまえて、総合的に判断されます。一つでも基準を満たさない場合は、管理監督者と認められない可能性が高まります。

判断基準具体的な内容
職務内容・責任と権限経営方針の決定に関与したり、部下の採用・評価・労務管理についての実質的な権限を持つなど、経営者と一体的な立場にあるか。
勤務態様出退勤時刻や勤務時間について、会社の厳格な管理を受けず、自らの裁量で自由に決定できるか。遅刻・早退による賃金控除などがないか。
待遇時間外手当が支給されないことを考慮しても、一般の従業員と比較して、その地位にふさわしい十分な賃金(基本給、役職手当など)が支払われているか。

経営者と一体的な立場にあるか(職務内容・責任と権限)

管理監督者とは、労働条件の決定や労務管理について、経営者と一体的な立場にある者を指します。具体的には、経営会議に参加して経営方針の決定に関与したり、部下の採用・解雇・評価に関する権限や、部署の予算管理の権限など、企業の経営判断に実質的に関与していることが求められます。単に上司の指示を部下に伝達するだけでは、権限が不十分と判断されます。

労働時間の裁量があるか(勤務態様)

出退勤時刻や勤務時間について、会社の厳格な管理を受けず、自らの裁量で自由に決定できる勤務態様であることも重要な要件です。遅刻や早退をしても人事評価や賃金に影響がなく、業務の遂行方法や時間配分を自身でコントロールできる状態が想定されています。

もし、他の従業員と同様に始業・終業時刻が決められ、遅刻すれば注意を受けるような状況であれば、裁量があるとはいえません。

地位にふさわしい待遇を受けているか(賃金)

管理監督者という重い責任にふさわしい、十分な賃金が支払われている必要もあります。役職手当などが支給されていても、時間外手当が支給される一般の従業員と比べて年収が低くなるような場合は、待遇が不十分と判断される可能性があります。

過去の判例では、店長職の従業員が、残業代が支払われる部下よりも年収が低かったケースで、管理監督者性が否定された事例もあります。

具体的な役職例と判断のポイント

上記の3つの基準をふまえると、役職名ごとに管理監督者に該当するかどうかの傾向が見えてきます。

  • 該当する可能性が高い役職
    本社の部長職、支店長、工場長など、特定の部門や事業所全体を統括し、人事や予算に関する実質的な決定権を持つ役職は、管理監督者と認められる可能性が高いでしょう。
  • 該当しない可能性が高い役職(名ばかり管理職)
    チームリーダーといった役職は、多くの場合、上位者の指示のもとで業務を行うため、経営に関する重要な権限は持っていないことがほとんどです。「飲食店の店長」なども、本社の指示に従って店舗を運営するだけで、自身の勤務もシフトに組み込まれているような場合は、管理監督者とは認められません。
  • そもそも対象外となる役職
    「取締役」や「相談役」などは、会社と雇用契約を結ぶ「労働者」ではなく、委任契約に基づく「役員」であるため、原則として労働基準法の管理監督者には該当しません。ただし、取締役が部長を兼務する「使用人兼務役員」の場合は、その従業員としての働き方の実態によって判断が分かれます。

管理監督者の勤怠管理のルール

管理監督者は労基法第41条により、労働時間・休憩・休日規制の適用除外となりますが、深夜労働の割増賃金や年次有給休暇の付与は適用されます。勤怠管理においては、適用されるルールと適用されないルールを正確に理解しておくことが、適切な労務管理の基本です。

適用されるルール

  • 労働時間の把握義務:
    労働安全衛生法に基づき、健康管理の観点から労働時間を客観的に把握する義務があります。
  • 深夜労働の割増賃金:
    22時から翌朝5時までの深夜時間帯に労働した場合、管理監督者であっても25%以上の割増賃金の支払いが必要です。この計算のためにも、始業・終業時刻の記録は欠かせません。
  • 年次有給休暇:
    一般の従業員と同様に、年次有給休暇を付与する義務があります。また、年10日以上の有給休暇が付与される場合は、年間5日間の取得義務も適用されます。

適用されないルール

  • 労働時間規制:
    1日8時間・週40時間という法定労働時間の規制は適用されません。そのため、時間外労働に対する割増賃金(残業代)の支払いは不要です。
  • 休憩:
    労働時間の途中に休憩を与える義務はありません。
  • 休日:
    週に1回または4週に4回の法定休日を与える義務はありません。

管理監督者のための勤怠管理(労働時間把握)の方法

管理監督者の労働時間を把握する際は、厚生労働省のガイドラインに基づき、客観性が担保された方法を用いることが原則です。これにより、正確な労働時間を記録し、健康管理へとつなげることができます。

タイムカードやICカードによる打刻

最も客観的で信頼性が高い方法です。一般の従業員と同じようにタイムカードやICカードで出退勤時刻を記録することで、日々の労働時間を正確に把握できます。勤怠管理システムと連携すれば、集計作業も自動化でき、管理部門の負担を軽減できます。

PCのログや入退室記録の活用

テレワークなどで打刻が難しい場合には、PCのログイン・ログオフ履歴や、オフィスの入退室記録なども客観的な記録として認められます。これらの記録を組み合わせて、始業・終業時刻を推定します。ただし、PCのログだけでは休憩時間や業務から離れていた時間を正確に把握しにくいという側面もあります。

自己申告制の場合の注意点

やむを得ず自己申告制を採用する場合は、いくつかの措置が必要です。まず、労働時間の実態と自己申告が乖離していないか、定期的に実態調査を行う必要があります。また、申告された労働時間が実態と異なることを知りながら放置するなど、会社側の不適切な対応は認められません。自己申告とPCログなどの客観的記録に大きな差がある場合は、その理由を確認するなどの対応が求められます。

出典:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省

管理監督者の勤怠管理に関するよくある質問

ここでは、管理監督者の労働時間の上限・下限など、実務でよく生じる疑問についてお答えします。

管理監督者に労働時間の上限はありますか?

管理監督者に法定の時間外労働の上限規制はありません。ただし過労死ライン(月80時間超の残業など)を超えると、安全配慮義務違反として法的責任を問われる可能性があります。過労死ライン(月80時間超の時間外労働など)を超えるような長時間労働を放置すれば、この義務に違反したとして損害賠償責任を問われる可能性があります。

したがって、法律上の上限規制はないものの、健康管理の観点から事実上の上限を意識した労務管理が求められます。

管理監督者に労働時間の下限はありますか?

労働時間の上限と同様に、法律で定められた下限もありません。しかし、管理監督者はその職責を全うすることが期待されています。もし労働時間が極端に短く、明らかに職務を遂行しているとはいえない状態が続く場合、その役職にふさわしい働き方をしているかどうかが問題となる可能性はあります。

管理監督者は部下の勤怠を承認する側なのに自分の打刻も必要?

はい、必要です。部下の勤怠を管理・承認する立場であることと、会社が自身の労働時間を把握する義務を負うことは別の話です。あくまで健康管理を目的としているため、承認者である管理監督者自身も、客観的な方法で労働時間を記録することが求められます。

管理監督者の勤怠管理を徹底し、法令遵守と健康経営を実現しよう

管理監督者の勤怠管理は、法改正によって明確に企業の義務となりました。これは、単に法律を守るための形式的な手続きではありません。企業の要である管理職の健康を守り、過重労働を防ぐことで、組織全体の生産性を維持・向上させる「健康経営」の実践そのものです。

自社の管理職が法的な定義に合致しているかを見直し、タイムカードや勤怠管理システムといった客観的な方法で労働時間を適切に把握する体制を整えることが、企業の持続的な成長と従業員からの信頼につながるでしょう。


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