• 更新日 : 2025年8月20日

退職に伴う社会保険手続きガイド|従業員本人と会社がやるべきことをそれぞれ解説

退職は人生の大きな転機ですが、同時に健康保険や年金、雇用保険など、これまで会社任せだった社会保険の手続きを自分で行う必要があります。手続きにはそれぞれ期限が定められており、もし遅れてしまうと「健康保険が使えない期間ができて医療費が全額自己負担になる」「将来もらえる年金が減ってしまう」といった事態になりかねません。

この記事では、退職する従業員本人と企業の人事担当者が行うべき手続きについて具体的に解説します。退職を控えている方、退職したばかりで不安な方は、ぜひ最後までご覧ください。

従業員本人向け|退職に伴う社会保険手続き

退職する従業員本人が行うべき手続きは、以下の通りです。

会社へ返却するもの

現在保険証はマイナ保険証に移行しており、資格喪失の場合のみ保険証の回収が必要です。退職日当日、または最終出社日に、会社から貸与されていた健康保険被保険者証(保険証)を返却します。扶養している家族がいる場合は、その家族分の保険証もすべて揃えて返却が必要です。

退職日の翌日以降、その保険証は使用できなくなるため、誤って医療機関で使わないよう注意しましょう。万が一使用してしまった場合、保険者が負担した医療費(7〜8割)を後日返還請求されます。

会社から受け取る書類

退職後、会社から以下の書類が交付されます。これらは国民健康保険への加入や失業給付の申請など、退職後の生活に不可欠です。いつ頃受け取れるのか、事前に担当者へ確認しておくと安心です。

  • 雇用保険被保険者離職票(離職票)
    失業給付(失業保険)の申請に必要な書類です。
  • 健康保険資格喪失証明書
    国民健康保険への加入手続きや、家族の扶養に入る際に必要な書類です。
  • 年金手帳または基礎年金番号通知書
    国民年金への切り替え手続きで必要な書類です。
    会社に預けていた場合は返却してもらいましょう。
  • 源泉徴収票
    年内に再就職する場合、新しい勤務先に提出する書類です。
    再就職しない場合は、自分で行う確定申告で使用します。

健康保険の切り替え手続き

退職後の健康保険には、主に3つの選択肢があります。それぞれの保険料や給付内容が異なるため、ご自身の状況に合わせて慎重に選びましょう。

1. 国民健康保険に加入する

お住まいの市区町村が運営する健康保険です。退職日の翌日から14日以内に、役所で加入手続きを行います。保険料は前年の所得や世帯の人数などによって決まります。

2. 健康保険を任意継続する

退職前の会社の健康保険に、最長2年間継続して加入できる制度です。社会保険を退職後も継続したい場合に利用します。保険料は退職時の標準報酬月額に基づいて計算され、会社負担分も自己負担となるため、原則として2倍になります。退職日の翌日から20日以内に、健康保険組合または協会けんぽへの申請が必要です。

3. 家族の健康保険の扶養に入る

配偶者や親族が加入している健康保険の被扶養者になる方法です。被扶養者になるには、ご自身の年間収入が130万円未満であることなど、一定の条件を満たす必要があります。この場合、ご自身の保険料負担はありません。

国民年金への切り替え手続き

会社員(第2号被保険者)から退職して自営業者や無職になる場合、国民年金の第1号被保険者への種別変更手続きが必要です。退職日の翌日から起算して14日以内に、居住地の市区町村役場・国民年金窓口にて手続きを行う必要があります。手続きの際は、以下のものを準備しておくとスムーズです。

  • 年金手帳または基礎年金番号通知書
  • 退職日を確認できる書類(離職票、健康保険資格喪失証明書など)
  • 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)

なお、退職後すぐに再就職し、転職先で厚生年金に加入する場合は、この切り替え手続きは不要です。

失業保険(雇用保険)の受給手続き

退職後、次の就職先が決まっていない場合は、雇用保険の失業等給付(いわゆる失業保険)を受け取ることができます。失業給付を受給するには、ハローワークに来所し、求職の申込みを行うとともに、以下の条件を満たしている必要があります。

  1. 就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあること
  2. 離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上あること。(ただし、倒産・解雇などによる離職の場合は、離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6か月以上ある場合でも可)

失業給付を受けるための手続きは、お住まいの地域を管轄するハローワークで行います。会社から交付された離職票と、マイナンバーカード、本人確認書類、写真などを持参し、求職の申し込みを行います。その後、受給資格の決定、雇用保険説明会への参加、失業の認定を経て、給付金が振り込まれるという流れになります。手続きの詳細は、ハローワークで直接確認することをおすすめします。

企業担当者向け|従業員退職時の社会保険手続き

従業員が退職する際、企業の人事・労務担当者が行うべき手続きは多岐にわたります。期限内に正確な処理を行うことが、企業の信頼性にもつながります。

健康保険・厚生年金保険の手続き

従業員の退職に伴い、企業は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を、退職日の翌日から5日以内に管轄の年金事務所または健康保険組合へ提出します。社会保険資格喪失届は、日本年金機構のウェブサイトからダウンロードすることも可能です。提出が遅れると、退職者が国民健康保険への加入手続きを進められず、無保険期間中の医療費が全額自己負担になるなど、不利益を生じさせる可能性があるため注意が必要です。

雇用保険の手続き

雇用保険に関しても資格喪失の手続きが必要です。「雇用保険被保険者資格喪失届」を、退職日の翌々日から10日以内に管轄のハローワークへ提出します。これと併せて、退職者が失業給付を希望する場合には「雇用保険被保険者離職証明書」を作成し、ハローワークの確認を受けた後、本人へ離職票が発行されます。

退職後の社会保険手続きに関するよくある質問

ここでは、退職後の手続きに関して多くの方が抱く疑問について解説します。トラブルを未然に防ぐためにも、事前に確認しておきましょう。

社会保険の退職手続きが遅れたらどうなる?

企業側の資格喪失届の提出が遅れると、退職者は国民健康保険への切り替えができず、健康保険が利用できない期間(無保険期間)が生まれてしまいます。この期間に病気や怪我をすると、医療費が全額自己負担となります。

退職後に社会保険料を請求されるのはなぜ?

退職後に社会保険料を請求された場合、保険料が最後の給与から引ききれなかったケースが考えられます。例えば、毎月25日締切・当月末日支払、翌月徴収の会社で4月末に退職した場合を考えてみましょう。この場合、5月に支給される給与は4月26日から30日のものとなります。このように短い期間の給与からは、社会保険料を控除し切れない場合があります。そのような場合には、別途退職者に社会保険料が請求されることになるのです。

転職先が決まっている場合の手続きは?

退職後、間を空けずに次の会社へ入社する場合、新しい勤務先で健康保険と厚生年金への加入手続きが行われるため、自分で国民健康保険や国民年金に切り替える必要はありません。ただし、退職日から入社日まで1日でも空白期間がある場合は、その期間について国民健康保険と国民年金への加入義務が発生しますので、役所で手続きを行ってください。

退職時の社会保険手続きをスムーズに行いましょう

退職時の社会保険手続きは、一見複雑に感じられるかもしれませんが、一つひとつのステップを順番にこなしていけば、決して難しいものではありません。

従業員本人は、まず会社との間で書類の受け渡しを確実に行い、ご自身の状況に合わせて最適な健康保険を選択し、期限内に手続きを完了させることが重要です。企業の担当者は、資格喪失届や離職票の発行などの手続きを速やかに行う必要があります。

この記事が、退職手続きの不安を解消し、スムーズな一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。


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