- 更新日 : 2025年7月25日
定年後再雇用のボーナスはいくら?相場やボーナスなしの違法性、交渉のポイントも
「定年後、再雇用で働き続けたいけど、ボーナス(賞与)はどうなるんだろう?」「現役時代より大幅に減らされる、もしかしたらゼロになるって本当?」
人生100年時代を迎え、60歳の定年後も働き続けるのが当たり前になりました。しかし、新しい働き方への期待と同時に、収入、特にボーナスに関する不安を抱えている方は少なくありません。
この記事では、定年後再雇用のボーナスに関する法律の専門知識から、具体的な相場、後悔しないための交渉術まで詳しく解説します。
目次
定年後再雇用のボーナスはいくらもらえる?
ボーナス支給は企業によって異なります。ボーナスの支給はないのが一般的ですが、近年では再雇用の社員にもボーナスを支給する企業も見られます。
ただし、その扱いは企業によって大きく異なり、就業規則や個別の雇用契約で定められているのが一般的です。正社員時代の待遇がそのまま継続されることは稀だと考えておきましょう。
相場は定年時の約50〜70%程度
ボーナスの支給額は、定年時の約50〜70%程度がひとつの目安とされています。
また、企業の業績や個人の評価に応じて変動する業績連動型ではなく、少額の寸志として数万円程度のボーナスが支給されるケースも見られます。
契約形態(嘱託社員など)でボーナスは変わるのか
定年後の再雇用では、嘱託社員や契約社員といった有期雇用の形態をとることが一般的です。この契約形態の違いが直接ボーナスの有無を決めるわけではありません。重要なのは、雇用契約書や就業規則に「賞与を支給する」という規定があるかどうかです。嘱託社員であっても、契約書に賞与支給の記載があれば、会社は支払う義務を負います。契約を結ぶ前に、賞与に関する項目を必ず確認しましょう。
定年後再雇用でボーナスなしは違法?
「同じ仕事をしているのに、定年後再雇用というだけでボーナスが出ないのはおかしいのでは?」と感じる方もいるでしょう。
ここでは、その疑問に答えるための重要な法律「同一労働同一賃金」について解説します。
同一労働同一賃金とは、正規雇用労働者(正社員)と非正規雇用労働者(契約社員、嘱託社員など)との間で、基本給や賞与、各種手当など、あらゆる待遇について、不合理な差を設けることを禁止するルールです。つまり、業務内容や責任の範囲、配置転換の有無などが同じであれば、同じ待遇をしなければならないとされています。
違法ではないとされたケース(長澤運輸事件)
このルールを理解する上で重要なのが、過去の最高裁判所の判例です。例えば、長澤運輸事件の判決では、定年後再雇用の嘱託社員に対して賞与を支給しないことは、直ちに不合理な待遇差とはいえない、という判断が示されました(最高裁 平成30年6月1日判決)。
なぜなら、このケースでは以下の点が考慮されたからです。
- 正社員時代に退職金が支払われている。
- 老齢厚生年金の支給が予定されている。
つまり、ボーナス単体で見るのではなく、退職金や年金なども含めた生涯賃金や、職務内容の違いを総合的に考慮して、「不合理とまでは言えない」と判断されたのです。
違法とされたケース(大阪医科薬科大学事件)
一方で、大学のアルバイト職員(賞与なし)と正職員(賞与あり)の待遇差について、賞与を全く支給しないことは不合理であると判断された事例もあります(最高裁 令和2年10月13日判決)。
これらの判例から言えるのは、「定年後再雇用だからボーナスなし」が直ちに違法になるわけではないものの、仕事内容が正社員とほとんど変わらないにもかかわらず、説明もなく一方的に不支給にすると、不合理な待遇差として違法と判断される可能性があるということです。
定年後再雇用の契約前に確認・交渉すべきポイント
納得のいく条件で再雇用契約を結ぶためには、事前の準備と確認が不可欠です。後から「こんなはずではなかった」と後悔しないために、以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
1. 雇用契約書と就業規則を隅々まで確認する
最も重要なのが、書面での確認です。再雇用にあたって提示される雇用契約書(労働条件通知書)の賞与の項目を隅々まで読み込みましょう。「なし」と明記されているのか、「会社の業績と個人の評価に応じて支給することがある」といった記載になっているのかで大きく異なります。不明な点があれば、必ず人事担当者に質問し、回答を書面で残してもらうのが理想です。
2. 業務内容と責任範囲を具体的にすり合わせる
同一労働同一賃金の観点からも、業務内容と責任の範囲は待遇を決定する重要な要素です。契約前に、再雇用後の具体的な仕事内容、役職、権限、負うべき責任の範囲について、会社側としっかりすり合わせを行いましょう。もし正社員時代と同等の役割を期待されているのであれば、それを根拠に待遇交渉を行うことも可能です。
3. 自身の経験とスキルを具体的にアピール
長年培ってきた経験、専門知識、人脈は、あなただけの強力な武器です。会社が「この人には、ぜひ残ってほしい」と思うような価値を具体的に提示できれば、待遇交渉を有利に進められる可能性があります。「〇〇のプロジェクトを成功させた実績」「後進の育成指導能力」など、自身の強みを整理し、会社にとってどれだけ貢献できるかを積極的にアピールしましょう。
定年後再雇用のボーナスの事例
企業の規模や業種によっても、再雇用者のボーナス事情は異なります。ここでは、代表的なケースを見ていきましょう。
大手企業の傾向
大手企業では、比較的早くから高齢者雇用の制度設計に取り組んでいます。
- トヨタ自動車
60歳定年後、65歳まで再雇用された社員を対象に、65歳以降も働ける「シニア・エキスパート(SE)制度」を導入(2024年4月〜)。個人の役割や貢献に応じて処遇が決定されます。 - 富士通
全社員共通の職務等級制度に基づき、再雇用者の評価や処遇を決定しています。
このように、大手企業では独自の職務等級や評価制度を再雇用者向けにも設け、それに基づいて給与やボーナスが決定される傾向があります。労働組合との交渉でルールが明確に定められているケースも多く、比較的安定した処遇が期待できます。
公務員の再任用制度
公務員の場合、定年延長の流れの中で再任用制度が運用されています。再任用職員にも、民間でいうボーナスにあたる期末手当・勤勉手当が支給されます。支給月数は法律や条例で定められており、常勤の職員よりも低い割合で計算されますが、民間企業のように不支給や寸志といったケースは基本的にありません。給与や手当の体系が法律で明確に定められているため、安定性が高いのが特徴です。
定年後再雇用のボーナスに関してよくある質問
最後に、定年後再雇用のボーナスに関してよく寄せられる質問にお答えします。
60歳の再雇用の給与相場はどれくらい下がりますか?
一般的に、定年後再雇用の給与は現役時代のピーク時から3割〜5割程度下がることが多いと言われています。厚生労働省の調査などを見ても、60〜64歳の賃金は55〜59歳の約7割程度というデータがあります。ただし、これはあくまで平均であり、企業規模や職種、個人のスキルによって大きく異なります。給与と合わせて、年金収入なども含めたトータルの生涯設計を考えることが重要です。
ボーナスが不支給になった場合はどこに相談できますか?
まずは社内の人事部や労働組合に相談しましょう。それでも解決しない場合や、同一労働同一賃金の原則に反する「不合理な待遇差」が疑われる場合は、各都道府県の労働局にある「総合労働相談コーナー」に相談することができます。専門の相談員が無料でアドバイスをしてくれるほか、必要に応じてあっせんという形で解決の手助けをしてくれます。
正しい知識で、納得のいくセカンドキャリアを
定年後再雇用のボーナスは、企業の就業規則によって異なります。重要なのは、同一労働同一賃金のルールを正しく理解し、契約前に自身の雇用条件をしっかりと確認することです。
長年会社に貢献してきたあなたの経験とスキルは、会社にとって貴重な財産です。その価値を正当に評価してもらい、納得のいくセカンドキャリアをスタートさせるために、本記事で解説した知識と交渉術をぜひご活用ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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