- 更新日 : 2025年4月17日
有給取得と休日出勤の気になる疑問4選|割増賃金の扱いや適切な運用方法を解説
「休日出勤後の有給休暇」や「有給休暇中の出勤」など、有給休暇と休日出勤の取り扱いは複雑です。賃金の支払いや休日出勤日の有給申請など、どう取り扱えばよいか疑問をもつ人もいるでしょう。
この記事では、有給と休日出勤の気になる疑問について解説します。また、有給休暇と休日出勤を適切に取り扱う方法も解説するため、ぜひ参考にしてください。
目次
有給休暇を取得した週に休日出勤した場合の賃金は?
有給休暇を取得した週に休日出勤した場合、割増賃金が発生する場合があります。
それぞれの割増賃金の取り扱いをおさえて、適切に賃金を支給しましょう。
休日割増(休日出勤手当)の取り扱い
休日割増は、法定休日が確保されている場合、支払う必要がありません。法定休日とは、必ず従業員に与えなければならない休日のことで、労働基準法第35条にて定められています。
法定休日は、「土日祝日」「毎週水曜日と日曜日」のような、会社が独自に定める所定休日とは異なります。
労働基準法第35条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。 労働基準法第35条第2項 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。 |
たとえば、法定休日が日曜日で完全週休2日制の会社に勤める従業員が、木曜日に有給休暇を取得し、土曜日に休日出勤をしたとしましょう。この場合、法定休日の日曜日は出勤していないため、法定休日が確保されていることになります。よって、土曜日に出勤した分の賃金に休日割増は適用されません。
もし木曜日に有給休暇を取得して日曜日に休日出勤した場合は、法定休日に労働しているため、日曜日の労働時間分の賃金は1.35倍の割増賃金が支払われます。
時間外労働の割増賃金の取り扱い
時間外労働の割増賃金の取り扱いは、法定労働時間を超えているかどうかで判断します。法定労働時間は、変形労働時間制を除き、1日8時間・週40時間です。
たとえば、完全週休2日制の会社に勤める従業員が木曜日に有給休暇を取得し、土曜日に休日出勤したとしましょう。この場合、土曜日に8時間働いているのであれば、1日の労働時間は8時間であり、かつ週の労働時間も40時間でいずれも法定労働時間内です。有給休暇は実労働時間にカウントされないからです。よって、土曜日の勤務時間の賃金に時間外手当は支払われません。
一方、土曜日に10時間働いた場合は、1日の労働時間が10時間、週の労働時間が42時間となり、法定労働時間を超えます。そのため、超えた2時間に対しては1.25倍の時間外割増が適用されます。
深夜割増の取り扱い
深夜割増が適用されるかは、「22時以降の勤務実態があるか」によって決まります。
たとえば、完全週休2日制の会社に勤める従業員が木曜日に有給休暇を取得し、土曜日に休日出勤したとしましょう。8時間勤務であれば時間外手当は発生しませんが、勤務時間が14時〜23時、休憩時間が19時〜20時だった場合、22時を1時間超えて働いていることになります。そのため、22時〜23時に勤務した分の賃金は1.25倍の深夜割増が発生します。
もし勤務時間が深夜におよび、労働時間が法定労働時間を超えたとしましょう。この場合は、時間外手当も上乗せされます。さらに、働いた日が法定休日なら、休日割増が上乗せされます。ただし、すべての割増が上乗せされるわけではなく、深夜割増(25%)+休日割増(35%)となり、合計で1.6倍の賃金上乗せになるので注意しましょう。
休日出勤後の振替休日・代休を有給休暇で代用できる?
休日出勤後には、振替休日や代休を取得するのが一般的です。しかし、代わりに有給休暇を使いたいと考える従業員もいるでしょう。
休日出勤後の振替休日や代休の代わりに、有給休暇の使用は認められるのでしょうか。休日出勤後の有給休暇処理について解説します。
就業規則にルールがなければ代用可能
就業規則に休日出勤後の休暇取得に関する明確なルールがなければ、有給休暇での代用は可能です。有給休暇は労働義務のある日なら取得できるためです。
有給休暇は休暇中も賃金が発生します。従業員のなかには、休日出勤の割増賃金を受け取ったうえで、有給休暇を取得して受け取る賃金を増やしたいと考える人もいるでしょう。こうした行為は法令違反ではありません。就業規則で規制を設けていない限りは、基本的に有給休暇の取得が認められています。
もし「休日出勤した際の休暇取得については振替休日のみ有効」といったルールがある場合は、有給休暇での代用はできません。
有給休暇での代用ができないケース
有給休暇での代用ができないのは、従業員に有給休暇自体が付与されていない場合です。
有給休暇は、以下の2つの要件を満たさなければ付与されません。
- 正社員・パート・アルバイトにかかわらず、雇い入れの日から6ヵ月経過していること
- 全労働日の8割以上出勤したこと
労働基準法では以下のように明記されています。
労働基準法第39条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。 |
有給休暇を付与されていない人が振替休日を有給に変更したいと申し出ても、有給休暇が与えられていないため、代用はできません。
このケースでは、従業員が「自分に有給が付与されている」と勘違いしている可能性があります。「雇い入れからまだ6ヵ月経っていない」「労働日の8割以上の出勤がなされていない」といった理由を、従業員に丁寧に説明するとよいでしょう。
休日出勤時の代休と有給休暇の優先順位
代休と有給休暇では、基本的に有給休暇が優先されます。代休は休日に勤務した際に代わりに取る休暇です。労働基準法には規定がなく、各会社の就業規則で規定します。
代休は勤務後に取得する日程を決められますが、有給と違って給料は発生しません。また、労働基準法第35条にて定めている「週1回」「4週に4回」の法定休日が守られている場合は、取得しなくても構いません。
有給休暇は、従業員が希望した日の取得が原則認められます。よって、代休よりも有給休暇が優先されるのです。ただし、就業規則で「休日出勤後の休暇は代休や振替休日の取得に限る」といったようなルールを明記しているのであれば、休日出勤後の休日確保のために有給休暇を取得することは認められません。
振替休日・代休を有給休暇として処理する際の注意点
振替休日や代休を有給休暇として処理する際は、賃金計算に注意が必要です。有給休暇は、休暇中も賃金が発生します。
一方、代休は有給休暇と異なり休暇中は無給です。また、振替休日は労働日と休日を入れ替えたものであるため、本来法定休日とされる日に働いたとしても労働日とみなされ、割増賃金は発生しません。そのため、代休や振替休日を取得した日を除いて、賃金を計算しましょう。
加えて、週に1日、4週間に4回の休日取得がなされていないと、労働基準法違反となります。適切なタイミングで従業員が休暇を取得できるよう、上司や労務担当者が従業員へ休暇の取得を促すのも重要です。
休日出勤日に有給休暇を取得してもよい?
繁忙期や急激な業務量増加などで、休日出勤させなければならない場合もあるでしょう。休日出勤を命じた日に、従業員が有給休暇を申請してきた場合、認めてよいのでしょうか。休日出勤時の有給休暇の申請について解説します。
休日出勤時の有給取得は認めなくてよい
業務命令による休日出勤日の有給休暇の取得は、認める必要はありません。有給休暇は本来の所定労働日に取得できる休暇であり、もともと労働義務のない所定休日での取得はできないためです。
休日の出勤命令は、本来は所定休日の日に出勤を命じるものです。休日を労働日とみなして出勤を命じているわけではありません。そのため、有給休暇の取得は認められないのです。
休日出勤の命令には要注意
休日出勤時の有給休暇の取得は認められませんが、休日出勤の命令の効力には注意が必要です。就業規則や労働協約に休日出勤を命じることがある旨が記載されているか、労使協定で時間外労働に関する合意があるかを確かめておきましょう。記載や合意がなければ、休日の出勤命令は認められません。
もし休日出勤や時間外労働についての記載や合意があるにもかかわらず、従業員が出勤を拒否する場合は、就業規則や労働協約に基づき、懲戒処分の対象になりうることを伝えてもよいでしょう。
また、出勤命令を出して勤務を終えた後は、従業員がリフレッシュに努められるよう、代休や有給休暇の申請を促すのも大切です。
有給休暇日に出勤していた場合は有給を取り消してよい
有給休暇の申請を受理したにもかかわらず、なんらかの事情で従業員に有給当日に出勤してもらい、業務に当たってもらわなければならないケースもあるでしょう。この場合、有給休暇はどのように扱えばよいのでしょうか。有給休暇の取り消しについて解説します。
基本的には取り消して別の日に取得させる
有給休暇日に従業員が出勤して労働した場合は、たとえ労働時間がわずかであっても、有給休暇を取り消して別の日に取得させる必要があります。また、労働時間分の賃金の支払いも必要です。
もし通常の労働日と同じスケジュールで働いた場合は、通常通りの賃金が支給されます。また、残業した際は時間外手当が支給されます。有給休暇を取得した日は本来労働日のため、休日割増は適用されません。
「午前だけ」「2時間だけ」のように出勤時間が短時間の場合は、働いた時間分の賃金を支給し、残りの時間を有給休暇として処理するケースが多いです。会社で時間単位や半日単位での休暇取得が認められていない場合は、1日分の賃金を支払います。もしくは、労働基準法第26条に基づき、通常労働日の6割にあたる賃金を支払います。
労働基準法第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。 |
有給休暇を取得した日に出勤の事実があった場合は、実際の労働時間に対して賃金を忘れずに支給しましょう。
無断で有給取得日に働いていた場合
あまり起こり得るケースではありませんが、従業員が有給休暇を取得したにもかかわらず無断で出勤し業務をしている場合は、賃金を支払わなくてよい場合があります。
「従業員が従事していた業務に緊急性があり急遽出勤しなければならなかった」といった明確な理由があれば、その労働時間分の賃金を支払う必要があります。しかし、無断で出勤しボランティア感覚で仕事をしているようであれば、賃金を支払う必要はありません。
休暇取得日はよほどのことがない限り自己判断で出社しないよう、従業員に周知しておきましょう。
有給休暇と休日出勤を適切に取り扱うには
有給休暇と休日出勤に関する賃金や取得・取り消しを適切に扱うには、以下の3点を重視しましょう。
- 就業規則に休日出勤時の有給に関して明記する
- 有給取得時に業務の進捗や依頼したいタスクを部署で共有する
- 自己判断での休日出勤を控えさせる
就業規則に休日出勤後の有給休暇の取得を認めるかどうかを記載しておけば、従業員と会社との間でトラブルが起こるリスクを減らせます。有給休暇は休暇中も賃金が発生するため、従業員としては積極的に使いたいものです。休日出勤後の休暇取得方法については会社ごとに決めてよいため、賃金コストなども考慮しながらどの休暇を取得させるのか、就業規則に明記しておきましょう。
また、有給休暇を取得した日に出勤することがないよう、休暇中に起こりうる可能性のある出来事やその日に依頼したいタスクを部署内で共有しておくのも効果的です。タスク共有は、社内の勤怠管理システムやチャットツールを使うとよいです。従業員が十分リフレッシュできる環境づくりに努めましょう。
加えて、従業員に自己判断での休日出勤を控えさせるのも大切です。自己判断での休日出勤を認めてしまうと、従業員自身が十分にリフレッシュできません。また、自己判断で出勤したにもかかわらず、賃金を要求されるといったトラブルが起こる可能性もあります。
休暇を取得している日や休日は出勤せず、リフレッシュや家族と過ごすことに充てるよう、従業員への周知を徹底しましょう。
休日出勤と有給休暇の関係性をおさえて適切な勤怠管理を
休日出勤と有給休暇の取り扱いは、適切に管理しないとトラブルを招く可能性があります。従業員への注意など軽微なもので済めばよいですが、法令違反となると企業として処分が下される可能性もあるでしょう。
休日出勤と有給休暇の処理の仕方や考え方をおさえて、適切な勤怠管理に努めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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