- 更新日 : 2025年3月19日
外国人雇用における人事管理とは?労務管理との違いや必要な手続きを解説
日本における外国人労働者の数は年々増加しています。外国人労働者を受け入れる際は、日本人労働者とは異なる法的手続きや労務管理が必要です。
適切な人事管理を行わなければ、企業が法的リスクを負うだけでなく、労働者とのトラブルに発展する可能性があります。
本記事では、外国人雇用における人事管理の基本や労務管理との違い、注意点について詳しく解説します。
目次
日本の外国人雇用の現状
日本では少子高齢化の影響で労働力不足が深刻化しており、外国人労働者の受け入れが進んでいます。
2024年10月末時点では、日本国内の外国人労働者数は2,302,587人と過去最多を更新しました。外国人を雇用する事業所数は342,087所となり、前年より23,312所(7.3%増)増加している状況です。
多くの企業が労働力不足を補うために、積極的に外国人雇用を進めていることがわかります。また、労働者数が多い上位の国と、在留資格をそれぞれ下表にまとめました。
【国籍別の外国人労働者数】
国籍 | 労働者数 | 割合 |
---|---|---|
ベトナム | 570,708人 | 24.8% |
中国 | 408,805人 | 17.8% |
フィリピン | 245,565人 | 10.7% |
【在留資格別の外国人労働者数】
在留資格 | 労働者数 | 割合 |
---|---|---|
専門的・技術的分野の在留資格 | 718,812人 | 31.2% |
身分にもとづく在留資格 | 629,117人 | 27.3% |
技能実習 | 470,725人 | 20.4% |
出典:厚生労働省|外国人雇用状況の届出状況【概要版】(令和6年10月末時点)
専門的・技術的分野の在留資格をもつ外国人労働者の増加が顕著であり、企業の高度外国人材の活用が進んでいると読み取れます。一方、外国人労働者の受け入れには、いくつかの課題もあります。
- 法令違反や労働条件トラブルのリスク
- 言語・文化の違いへの対応
- 外国人労働者の定着支援の実施
このような課題を解決するためには、適切な雇用管理やサポート体制の整備を行うことが大切です。
外国人雇用における人事管理とは?
人事管理とは、企業が従業員の採用・配置・評価・育成を通じて、人材を適切に活用するための仕組みを指します。外国人雇用においても、適切な人事管理を行うことが必要です。
- 職場適応のサポート
- 多言語対応
- 評価・待遇の透明性
また、厚生労働省の指針でも、企業が外国人労働者の適正な雇用管理を行うように求めています。外国人労働者が能力を最大限発揮できるように、働きやすい環境を整えることが大切です。
適切な人事管理を行うことで、企業は外国人労働者の定着率を高め、安定した雇用関係を築けるでしょう。
参考:
厚生労働省|外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針
厚生労働省|外国人を雇用する事業主の方へ
人事管理と労務管理の違い
人事管理は、企業の成長に貢献する人材を育成し、最適な配置を行うことが目的です。具体的な内容は、下記のとおりです。
- 採用計画の立案
- 研修の実施
- 評価制度の運用
- 昇進管理
一方、労務管理は、労働環境を適正に整え、従業員が安心して働ける環境を提供することが目的です。入退社の手続きや給与計算、勤怠管理などが該当します。
また、外国人労働者を10人以上雇用する場合は、雇用労務責任者の選任が推奨されています。雇用労務責任者とは、外国人労働者の労働環境の整備や労務手続きの実施、生活サポートなどを担当する者のことです。
このように、人事管理は「人材の活用・成長」に焦点を当てているのに対し、労務管理は「労働環境の維持・適正な労働条件の確保」に重点を置いている点に違いがあります。
外国人雇用において事業主に求められる対応
外国人労働者を雇用する際に、企業は適正な雇用管理を行い、安心して働ける環境を提供する責任があります。外国人労働者の雇用管理の改善は、事業主の努力義務です。
企業に求められる具体的な雇用管理の内容は、下記のとおりです。
適切な雇用管理を行い、外国人労働者と企業がともに発展できる職場環境を整えましょう。
外国人雇用に必要な法的手続き
外国人労働者を雇用するには、適切な在留資格の確認と、法的手続きを遵守することが必須です。手続きの不備は、企業側にも罰則が科せられる可能性があるため、慎重に進めましょう。
ここでは、外国人雇用に必要な法的手続きについて解説します。
以下の記事では、外国人労働者を雇用する際のメリットや採用方法について詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。
在留資格(就労ビザ)の種類と取得方法
外国人が日本で働くには、就労可能な在留資格(就労ビザ)を取得する必要があります。在留資格は、職種や業務内容に応じて異なり、適切な資格をもたないと働けません。
以下で詳しく解説します。
就労が認められる在留資格
在留資格に定められた範囲で、就労が認められる在留資格18種類は、下記のとおりです。
- 外交
- 公用
- 教授
- 芸術
- 宗教
- 報道
- 投資・経営
- 法律・会計業務
- 医療
- 研究
- 教育
- 技術
- 人文知識・国際業務
- 企業内転勤
- 興行
- 技能
- 技能実習
- 特定活動
(ワーキングホリデー、EPAにもとづく外国人看護師・介護福祉士、ポイント制等)
出典:厚生労働省|外国人の方を雇い入れる際には、就労が認められるかどうかを確認してください。
企業は、外国人労働者がもつ在留資格と、雇用予定の業務内容が一致しているかを確認する必要があります。
また、業務内容に該当する在留資格がなくても資格外活動許可がある場合は、アルバイトなどの副業が可能です。ただし、就労時間(週28時間以内)などの制限に注意しましょう。
在留資格申請の手続き
外国人労働者を雇用する際には、在留資格の確認と申請手続きを行いましょう。在留資格とは、外国人が一定期間、日本で活動できることを証明する資格であり、状況に応じて更新や変更が必要になります。
在留資格申請の流れは、下記のとおりです。
- 在留カードの確認
- 在留資格認定証明書の申請(国外から新たに外国人を採用する場合)
- 在留資格の更新手続き(在留期間が満了する3ヶ月前から可能)
- 雇用契約書の準備と提出(就労ビザ申請のための必須書類)
2025年4月からは申請手数料が改定され、更新許可・変更許可は6,000円(オンライン申請は5,500円)となります。
なお、在留資格の申請は手間がかかるため、専門家に業務委託する企業も多い傾向です。手続きの代行費用は、10~15万円程度かかります。
申請に不備があると許可が下りるまでに時間を要するため、事前に必要書類を確認し、余裕をもって手続きを進めましょう。
参考:
出入国在留管理庁|在留手続
出入国在留管理庁|在留手続等に関する手数料の改定
雇用契約の手続き
外国人労働者を採用したら、雇用契約書を作成し、労使双方が合意する必要があります。在留資格申請時には、雇用契約書の提出が求められるため、早めに準備しましょう。
雇用契約の流れは、下記のとおりです。
- 内定後に雇用契約書を作成
雇用条件を明記し、外国人労働者が理解できる言語で説明する - 雇用契約書を提出する(在留資格申請のために出入国管理局へ提出)
- 雇用開始後にハローワークへ「外国人雇用状況届出」を提出する
参考:厚生労働省|外国人の雇用
雇用保険・社会保険などの加入手続き
外国人労働者も、日本人と同じく雇用保険・健康保険・厚生年金に加入する義務があります。下記のポイントを押さえて、適切な手続きを行いましょう。
保険の種類 | 適用要件 | 手続き内容 |
---|---|---|
健康保険・厚生年金保険(社会保険)の加入手続き |
|
|
雇用保険の加入手続き |
|
|
参考:
日本年金機構|厚生年金保険・健康保険制度手続きガイド
日本年金機構|外国人従業員を雇用したときの手続き
厚生労働省|労働保険の成立手続
厚生労働省|外国人を雇用する事業主の皆さまへ
社会保険の手続きは、日本の制度に不慣れな外国人労働者にとってわかりにくい部分も多くあります。そのため、事前に説明し、トラブルを防ぐことが大切です。
外国人雇用における人事管理のポイント
外国人労働者を雇用する際、適切な人事管理を行うことで、職場への定着率を高め、企業の成長につなげられます。ここでは、外国人雇用における人事管理のポイントを解説します。
1.外国人採用時の適正な評価と選考を行う
外国人労働者を採用する際は、在留資格が適正か確認し、業務適性や言語能力を適切に評価を行いましょう。
具体的な方法は下記のとおりです。
- 在留資格と業務内容の一致を確認する
- 職種に求められるスキル・日本語能力を適切に評価する
- 公平で透明性のある採用基準を設定する
- 文化・習慣の違いを考慮した選考方法を導入する
適切な評価基準を設けることで、企業と外国人労働者の双方にとって納得のいく採用が可能となります。
2.就業規則を整備する
外国人労働者が安心して働ける環境を作るには、就業規則の整備と多言語対応が必要です。
労働基準法第3条では、国籍を理由とした差別的な取り扱いが禁止されています。そのため、日本人と外国人で異なる就業規則を設けることはできません。しかし、従来の就業規則を外国人向けに翻訳することは問題ないです。
就業規則を整備する際のポイントは、下記のとおりです。
- 就業規則を英語や母国語に翻訳し、内容を明確に伝える
- 従業員が10人以上の企業は、労働基準監督署への届出が義務がある(労働基準法第89条)
10人には外国人労働者も含まれるため、適正な対応が必要となる
- 外国人労働者にも適用できるように規則を見直す
在留資格ごとに業務の範囲が定められているため、業務内容を考慮する
参考:e-Gov法令検索|労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)
日本の職場文化に馴染みのない外国人が、適切に働けるようにするためにも、多言語対応の就業規則を準備して労働条件を明確にしましょう。
3.給与・福利厚生などの労働条件を明確にする
給与や福利厚生の管理は、労働トラブルを防ぎ、企業の信頼を維持するために大切です。最低賃金の遵守、日本人と同等の給与基準、同一労働同一賃金の適用について理解し、適切な対応を行いましょう。
【給与・福利厚生の適正な管理ポイント】
項目 | 詳細 |
---|---|
最低賃金の遵守 | 日本国内の最低賃金は地域ごとに異なり、外国人労働者にも適用される |
日本人と同等以上の給与水準を確保する | 「特定技能」の在留資格を取得するためには、日本人と同等以上の給与が求められる |
同一労働同一賃金の適用 | 同じ業務を行う労働者には、国籍に関係なく同じ賃金を適用する必要がある |
参考:厚生労働省|最低賃金とは?
e-Gov法令検索|特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令(平成三十一年法務省令第五号)
厚生労働省|同一労働同一賃金ガイドライン
外国人労働者は、日本の税金・社会保険の仕組みに慣れていない場合が多く、理解しにくい可能性があります。そのため、給与の内訳や控除項目(所得税・社会保険料など)を事前に説明し、給与明細を母国語やわかりやすい日本語で提示するのが望ましいです。
適正な給与・福利厚生の管理を行うことで、外国人労働者が安心して働ける環境を整え、雇用の安定化を図れるでしょう。
外国人雇用における労務管理のポイント
外国人労働者を雇用する際は、適切な労務管理を行うことで、職場の安定と長期的な雇用の確保につながります。ここでは、外国人雇用における労務管理のポイントについて解説します。
1.労働時間・業務内容の適正な管理を行う
外国人労働者も、日本の労働基準法が適用されるため、適切な労働時間管理が求められます。
労働時間管理のポイントは、下記のとおりです。
- 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を遵守する
- 時間外労働・休日出勤が発生する場合は、適正な割増賃金を支払う
- 技能実習生・特定技能労働者は、契約内容にもとづいた業務のみを行う
- 外国人労働者に対して適切な勤怠管理システムを導入する
また、在留資格の範囲内で適正な業務を遂行しているかを定期的に確認し、違反がないようにする必要があります。企業が適切な管理を行うことで、労働環境の透明性が保たれ、トラブルを未然に防げます。
2.外国人労働者の生活サポートを行う
外国人労働者が長期的に働くためには、職場環境だけでなく、生活面の支援も大切なポイントです。日本での生活に不慣れな外国人に対し、さまざまなサポートを提供することで、安心して働ける環境を整えられます。
主なサポート内容は、下記のとおりです。
- 住居探しの支援(外国人OKの物件を紹介)
- 銀行口座の開設や携帯電話の契約のサポート
- 健康保険・年金制度の説明と手続き支援
- 日本語学習支援や異文化理解の研修を実施
- 相談窓口を設置し、労働者の悩みに対応
外国人労働者が安心して働き続けるためには、職場だけでなく日常生活でも不安を解消できる環境を整えることが大切です。
離職率の低下や労働意欲の向上にもつながるため、企業は外国人労働者に対して適切なサポートを提供しましょう。
外国人雇用における注意点
外国人労働者を雇用する際、企業は法令を遵守し、公平な職場環境を提供する責任があります。ここでは、外国人雇用における注意点を詳しく解説します。
1.国籍・人種による差別を禁止し、公平な職場環境を作る
日本の労働法では、国籍や人種を理由とした差別が禁止されています。企業は、外国人労働者に対しても、日本人と同じく公平な待遇を提供する義務があります。
注意すべきポイントは、下記のとおりです。
項目 | 詳細 |
---|---|
採用時の差別禁止 | 国籍を理由に採用を制限しない |
賃金の公平性 | 最低賃金以上を支払い、日本人と同等の給与体系を適用 |
同一労働同一賃金の遵守 | 同じ業務を行う労働者には、国籍に関係なく同等の給与・待遇を適用 |
職場内のハラスメント防止 | 文化や言語の違いによる差別・嫌がらせを防ぐため、社内教育を実施 |
適切な職場環境を整えて、外国人労働者も安心して働ける職場にしましょう。
2.不法就労を防ぐために採用時のチェックを徹底する
不法就労とは、適切な在留資格をもたない外国人を雇用することを指します。企業が知らずに不法就労者を雇った場合でも、処罰の対象となるため、注意しましょう。
不法就労のリスクは、下記のとおりです。
項目 | 詳細 |
---|---|
不法就労助長罪 | 入管法第73条の2により、3年以下の懲役または300万円以下の罰金 |
集団密航者の受け入れ | 不法就労助長罪のほか入管法74条の4により、5年以下の懲役または300万円以下の罰金 ※営利目的があれば、1年以上10年以下の懲役および1,000万円以下の罰金 |
退去強制を免れさせる目的で、不法入国者・不法上陸者をかくまう行為をした場合 | 入管法第74条の8により3年以下の懲役または300万円以下の罰金 ※営利目的があれば5年以下の懲役および500万円以下の罰金 |
外国人労働者の強制退去・企業の信用失墜の可能性 | – |
出典:厚生労働省|不法就労に当たる外国人を雇い入れないようにお願いします。
このように、不法就労は企業・外国人労働者どちらもリスクがあるため、適正な採用管理が求められます。
不正就労を防ぐために採用時にチェックすべきポイントは、下記のとおりです。
- 在留資格の確認を徹底する(在留カードの確認、資格外活動の有無)
- 業務内容が在留資格の範囲内であるかを確認する
- 雇用契約を適正に締結し、労働条件を明確にする
また、採用担当者だけでなく、現場の管理者や経営層も在留資格や労働条件に関する正しい知識をもつことも大切です。組織全体で適切な雇用管理を行うことで、不法就労を未然に防止できます。
人事管理・労務管理を適切に行い、外国人雇用を成功させよう
外国人労働者の雇用を成功させるためには、適切な人事管理と労務管理を実施することは欠かせません。採用時の適正な評価、労働時間や業務内容の管理など、幅広い視点で対応する必要があります。
また、企業は単に雇用するだけでなく、長期的な視点で人材の定着や育成に取り組むこともポイントです。外国人労働者が安心して働ける環境を整えて、企業の持続的な成長につなげましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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