• 更新日 : 2025年2月21日

副業解禁に向けて!就業規則見直しのポイントをわかりやすく解説

近年、人手不足や働き方改革推進の影響で、副業を禁止するのではなく解禁していく動きが広がっています。

副業の解禁には注意点もありますが、従業員が他社で培った経験を取り入れたりといった、自社へメリットがあるのも事実です。

この記事では、副業を解禁する際の就業規則の見直し方や適切な流れ、そもそも副業を許可するべきかどうかの判断基準を解説します。

副業解禁に必要な就業規則見直しのポイント

副業解禁に向け、まずは就業規則を見直していきましょう。

2018年1月に厚生労働省が「モデル就業規則」から、他社での副業に関する記述を削除しました。

まだ社内の就業規則に禁止規定が残っている場合は、これらから見直していきましょう。

副業を認める範囲を決める

「副業を認めるとしたら、どこまでの副業を認めるのか?」という範囲を決めることが大切です。

「副業なら何でも自由にやってもいいよ」という方針ですと、企業秘密を不正に利用されたり、競合他社への情報漏えいが起こるリスクがあります。

たとえば業務内容が自社と競合しない企業であったり、自社の利益を損なうおそれのない副業のみ許可するなど、認める副業の範囲を厳密に設定しましょう。

副業する従業員の健康を管理する

「労働契約法5条」により、企業は従業員の生命や身体の安全を守るために配慮することが義務付けられています。

副業を解禁した場合、従業員は本業に加えて副業分の労働時間が増えるでしょう。

この際、従業員に過労や健康問題が生じないよう企業には健康管理の責任が生じます。

そのため、従業員が健康を損なわないルール作りを心がけましょう。

とくに危険が伴いかねない製造工場での副業や、車を使った配送に関する副業には、会社としても気をつけておく必要があります。

厚生労働省は従業員の副業を適切に管理するための方法を「管理モデル」で定めています。

こちらも健康管理の参考にするとよいでしょう。

▼参考

労働契約法第5条│厚生労働省

副業・兼業における労働時間の通算について(簡便な労働時間管理の方法「管理モデル」)│厚生労働省

労働時間を通算して管理する

副業を解禁すると労働時間は通算管理になります。

通算管理のルール

  • 本業と副業の労働時間は合算
  • 1日8時間・週40時間を超える場合は時間外労働として割増賃金が必要
  • 割増賃金の支払いは、後から雇用契約を結んだ企業が負担

下記はXX社およびYY社と雇用契約を締結しており、YY社が後から雇用契約を締結した場合の支払いの事例です。

就業場所の移動順勤務時間割増賃金支払い責任
XX社 (正社員)

→ YY社 (副業)

8時間 (XX) → 3時間 (YY)YY社
YY社 (副業)

→ XX社 (正社員)

3時間 (YY) → 8時間 (XX)YY社

また、労働時間を通算管理する際は、従業員が過労に陥らないよう健康にも気をつけましょう。

参考:○副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について│厚生労働省

副業中の通勤災害や業務災害についての対応

副業先で通勤災害や業務災害が起こる可能性もあります。

このようなとき、責任は副業先の会社が負うべきかどうかなど、責任の所在を明確にするために事前に対応を決めておきましょう。

また、副業をしている従業員の厚生年金保険や健康保険などの社会保険は、勤務先ごとに適用されるかどうか判断されます。

そのため、本業の会社と副業先の会社で複数加入となる場合もあります。

規定を守らなかった場合の対応も決める

副業に関する禁止規定に違反した場合の処分も事前に決めておきましょう。

たとえば下記のような、違反が考えられます。

違反の種類具体例
本業に悪影響がある業務時間中に副業をしていた

副業にのめり込み本業に支障をきたしている

情報を漏えいした社内の機密情報を副業先へ漏らしている
競業禁止違反に抵触した競合他社で副業をおこなった

隠れて競合会社を設立した

また、従業員が規定に違反した場合の処罰についても明確にしておきましょう。

たとえば「副業にのめり込みすぎて、仕事中に幾つかミスを重ねてしまった」程度の違反であれば、けん責や減給、出勤停止など比較的軽度の処罰でもよいでしょう。

しかし、競合他社でこっそり副業をおこなったり、自社の機密を他社へ流していた場合など、自社に重大な影響のある違反は懲戒解雇も検討に入れる必要があるかもしれません。

また、処罰に関する規定を定めた後は従業員にしっかり理解してもらえるよう、十分な周知も必要です。

許可制か届出制か決める

副業の許可には、「届出制」と「許可制」の2つの方法があります。

届出制は、従業員が所定の書類を提出するだけで副業をおこなえる仕組みです。

一方、許可制では、企業が提出内容を確認し、許可を出さなければ副業を始めることができません。

窮屈に感じる授業員もいるかもしれませんが、企業としてしっかり従業員を管理したいのであれば、届出内容をもとに許可を出す許可制にしましょう。

一方で、従業員の自由を尊重し、柔軟な働き方を推奨する社風であれば届出制がおすすめです。

また、届出制であっても「どんな副業でもOK」というわけではなく、従業員がどんな副業をしているのかはしっかり確認しておきましょう。

就業規則変更の準備と流れ

就業規則を変更する際は、大きく分けて下記4つの準備が必要になります。

  • 就業規則の変更内容の決定
  • 労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見書の準備
  • 変更後の就業規則の写しの準備
  • 上記の書類+就業規則変更届を管轄の労働基準監督署長へ提出

就業規則の変更に関する詳しい手続きは、下記の記事で解説していますので参考にしてみてください。

関連記事:「就業規則の変更の仕方 – 手続きの流れと注意点」

就業規則で副業を解禁する3つのメリット

副業の解禁は自社への利益をもたらす部分もあり、ここでは3つのメリットを紹介します。

①従業員のスキルアップにつながる

従業員の副業を認めることで社外との人間とも積極的に関わり、自社では得られない知識や経験、人脈を得ることができます。

副業で得たノウハウを本業へ活かしてもらうことで、思いがけない優れた業務提案が出てくる場合などもあるかもしれません。

②従業員の社外流出を止められる

副業を始める理由はさまざまです。

しかし、従業員が成長意欲を強く持っていたり、活躍の機会を求めている場合、副業を禁止するとモチベーションの低下につながりかねません。

結果、会社への不満が高まり離職するおそれもあるでしょう。

このような場合、副業を認めることで従業員の能力を自由に活用・発揮できる環境を提供できます。

また、「従業員の希望を柔軟に聞いてくれる会社」と捉えてもらえれば、従業員との信頼関係の強化や、会社への満足度を高める効果が期待できるでしょう。

③新たな人材を確保できる可能性がある

自社での副業解禁をきっかけに、他社で働きながら副業を希望する人材を受け入れることで、採用の幅を広げられる可能性があります。

たとえば、自社で副業の機会を提供することで、自社の魅力を体感的に感じ取ってもらえれば、結果的にその人材を正社員として採用できるチャンスが生まれるかもしれません。

就業規則で副業を解禁する3つのデメリット

本業に身が入らなくなるといった、副業を認めた場合のデメリットもあります。

自社の状況次第では副業の解禁を見送ったほうがよい場合もあるため、紹介する内容を参考にしてみてください。

①情報漏えいのおそれがある

従業員が他社で副業する中で、社内で取り扱っている機密情報が外部に漏れてしまう危険があります。

とくに副業先が同業の場合はノウハウをそのまま転用できる可能性があるため、情報漏えいのリスクは非常に高いでしょう。

下記は副業ではなく転職の際の話ですが、転職者が不正に企業秘密を持ち出すケースが近年増加しています。

参考:転職者採用、高まる賠償リスク 営業秘密漏えいの相談最多

副業に関しても同じリスクを抱えており、仮に規模の大きい会社であれば大々的に情報漏えいの影響が報道され、企業イメージを損なうおそれもあります。

同じ業界での副業を禁止したり、情報漏えい時の罰則を重くしたり、就業規則をしっかり定めることが重要です。

また、従業員に秘密保持の義務について入念に伝えることも大事です。

②本業でのパフォーマンスを落とす可能性がある

副業を始めると、本業以外の労働時間が増えるうえに休息の時間も減ってしまいます。

そのため、ワークライフバランスを保つことが難しくなり、体調を崩したりなど本業でのパフォーマンスが低下するおそれがあります。

健康管理が問題で労災が起きた場合は、本業と副業のどちらに原因があるか判断が難しくなる場合も考えられるでしょう。

また、健康問題とは別にして、単純に副業にのめり込むあまり本業がおろそかになるような可能性もゼロではありません。

いざというときのため、授業員が無理なく健康的に働くためのルール作りや、責任の所在を明確にすることが大切です。

③収入次第では確定申告が必要になる

事業者というよりは従業員のデメリットになりますが、副業による所得が年間20万円を超えた場合は確定申告が必要になります。

無申告であった場合、納税額を加算される「無申告加算税」や「延滞税」を課されるおそれもあります。

申告漏れがないよう、副業をする従業員には確定申告の重要性をしっかり周知しておきましょう。

参考:No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人

就業規則の副業記載に関するQ&A

就業規則の副業記載に関するよくある質問にお答えします。

Q.そもそも副業の禁止は違法?

公務員は別として、憲法では職業選択の自由があり労働基準法で副業は禁止されていません。

副業は下記に当てはまる場合のみ禁止できます。

①労務提供上の支障がある場合

②企業秘密が漏えいする場合

③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

④競業により、企業の利益を害する場合

引用:モデル就業規則について│厚生労働省(令和5年7月・P90)

上記のように、自社への悪影響が懸念される場合は副業の禁止・制限が可能です。

副業の禁止について、詳細は下記の関連記事をご確認ください。

関連記事:「副業禁止は法律的にOK?解禁されない理由や就業規則との関係についても解説!」

Q.副業を禁止する場合はどこに記載する?

社内で副業を禁止する場合は就業規則に「副業・兼業規程」のような項目を作りましょう。

そこに従業員の副業を禁止・制限する理由やその範囲を具体的に記載します。

禁止・制限の例

  • 労働時間の確保のため
  • 利益相反の回避のため

また、「副業を認めている会社も多いのに、ここは自由度のない会社だ」と従業員が考え不満を溜めないよう、副業希望者がいれば十分な説明もしましょう。

Q.就業規則への副業の記載例はある?

厚生労働省の「モデル就業規則」をベースにし、自社の状況に合わせて就業規則を作成するとよいでしょう。

もし作成が難しければ、担当の社労士などに相談するのもひとつの手です。

参考:モデル就業規則│厚生労働省

Q.就業規則に副業規定が書いてない場合どうすればいい?

これから副業を解禁するなら、新規に規定を作成する必要があります。

もしあなたが従業員であれば、自社の規定がどうなっているのか人事の方に確認してみてください。

副業解禁はポジティブな影響をもたらすチャンスでもある

副業を解禁する際、企業は就業規則の整備、労働時間の管理などさまざまな点に注意を払う必要があり、道のりは簡単ではありません。

しかし、就業規則の定め方次第で、本人のスキルアップやモチベーションの向上など、副業の解禁が自社にポジティブな影響をもたらす可能性も秘めています。

適切な準備と健康管理をおこない、副業解禁の効果を最大限に引き出しましょう。


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