- 更新日 : 2025年11月21日
エンゲージメントサーベイとは?目的から分析、組織改善への活用法まで解説
従業員の定着率や生産性の向上は、多くの企業にとって重要な経営課題です。その解決の鍵として注目されているのが「エンゲージメントサーベイ」です。エンゲージメントサーベイは、従業員が仕事にどれだけ熱意を持ち、組織に貢献したいと考えているかを可視化する調査です。本記事では、エンゲージメントサーベイの基本的な目的から、具体的な分析・活用方法、そして組織の成長につなげるためのポイントまで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
目次
エンゲージメントサーベイとは?
エンゲージメントサーベイは、従業員のエンゲージメント、つまり「企業や組織に対する愛着心や貢献意欲」を測定し、組織の課題を明らかにするための調査です。単に従業員の満足度を測るだけでなく、組織と従業員が一体となって成長していくための重要な指標を可視化する手段として、多くの企業で導入が進んでいます。ここでは、その基本的な考え方や目的、重要性について掘り下げていきます。
従業員エンゲージメントとは
従業員エンゲージメントとは、従業員が自社の理念や戦略に共感し、仕事に情熱を注ぎ、自発的に組織へ貢献しようとする意欲のことです。「組織への愛着心」「仕事への熱意」「自発的な貢献意欲」などが主な要素とされ、個人と組織が互いの成長のために力を尽くし合う、ポジティブな関係性を指します。エンゲージメントが高い従業員は、自らの能力を最大限に発揮し、組織全体のパフォーマンス向上に大きく貢献します。
エンゲージメントサーベイの目的
エンゲージメントサーベイの主な目的は、組織が抱える課題を客観的なデータに基づいて可視化することです。従業員のエンゲージメントレベルを測定し、その要因を分析することで、「離職率の改善」「生産性の向上」「従業員の働きがい向上」といった経営課題の解決に繋げます。また、従業員の率直な意見を収集し、経営や人事施策に反映させることで、風通しの良い組織風土を醸成する目的もあります。
エンゲージメントサーベイの重要性
2025年9月現在、人材の流動化が加速し、働き方も多様化する中で、企業が従業員から選ばれ続けることの重要性は増す一方です。特に、企業の価値を測る上で「人的資本」への注目度は非常に高く、エンゲージメントはそれを測る重要な指標と位置づけられています。エンゲージメントサーベイを定期的に実施し、組織の状態を継続的に把握・改善することは、優秀な人材の確保と定着、ひいては企業の持続的な成長に不可欠な活動となっています。
従業員満足度調査との違い
エンゲージメントサーベイと混同されやすいものに「従業員満足度調査」があります。従業員満足度は、主に給与や福利厚生、労働環境といった「会社から与えられるもの」に対する満足度を測る指標です。一方、エンゲージメントは、従業員が組織に対して「自発的に貢献したい」という能動的な意欲を測る点で大きく異なります。満足度が高くても必ずしも貢献意欲が高いとは限らず、より深く組織の健全性を示すのがエンゲージメントと言えます。
エンゲージメントサーベイの進め方
エンゲージメントサーベイを成功させるためには、計画的な準備と丁寧な実行が欠かせません。調査を単なるイベントで終わらせず、意味のある組織改善につなげるためには、明確な目的設定から従業員への配慮まで、一つひとつのステップを丁寧に進めることが重要です。ここでは、具体的な進め方を5つのステップで解説します。
目的の明確化
最初に、「何のためにサーベイを実施するのか」という目的を明確にすることが重要です。「若手社員の離職が多発している原因を探りたい」「部署間のコミュニケーションを活性化させたい」など、自社が抱える具体的な課題を洗い出し、サーベイで何を明らかにしたいのかを具体的に設定しましょう。目的が明確であれば、質問項目の設計や結果の分析も一貫性を持って行うことができます。
調査計画の策定
目的が決まったら、具体的な調査計画を立てます。対象者を全従業員とするのか、特定の部署や階層に絞るのかを決定します。一般的には全従業員を対象に、組織全体の状況を把握します。また、実施の頻度は、組織の変化を定点観測するために年1〜2回が一般的です。繁忙期を避けるなど、従業員が落ち着いて回答できる時期を選ぶ配慮も大切です。
質問項目の設計
質問項目は、サーベイの目的に沿って設計します。一般的には、「組織への共感(理念・ビジョン)」「仕事のやりがい(成長実感)」「人間関係(上司・同僚)」「労働環境」など、多角的な視点からエンゲージメントに影響を与える要素を網羅します。既存のツールに用意された設問テンプレートを活用するのも有効です。質問数が多すぎると回答者の負担になるため、バランスを考慮しましょう。
従業員への事前説明
サーベイの実施前には、従業員に対して目的や趣旨を丁寧に説明することが不可欠です。「サーベイの結果は、より良い職場環境を作るために活用する」というポジティブなメッセージを伝え、従業員の不安を払拭し、協力を促します。調査が個人の評価に影響しないことや、匿名性が厳守されることを明確に伝えることで、率直な意見を引き出しやすくなります。
匿名性の確保と注意点
従業員が安心して本音で回答するためには、匿名性の確保が絶対条件です。「回答しても個人が特定されるのでは」という不安は、回答率の低下や当たり障りのない回答につながります。個人が特定できないよう、一定数以上の回答が集まった部署でなければ集計結果を開示しないルールを設けるなど、プライバシー保護には細心の注意を払いましょう。このルールは事前説明の段階で従業員に伝えておくことが重要です。
エンゲージメントサーベイ結果の分析方法
サーベイを実施した後は、集まったデータを正しく分析し、組織の現状を正確に把握するフェーズに移ります。データは多角的な視点から読み解くことで、漠然とした組織の課題を具体的な改善点として浮かび上がらせることができます。ここでは、基本的な分析方法を4つのステップでご紹介します。
全体像の把握
まずは、全社の回答結果を集計し、総合的なエンゲージメントスコアや各項目の平均値を確認します。これにより、組織全体の強みと弱みを大まかに把握することができます。過去にサーベイを実施している場合は、今回の結果と比較して数値がどのように変化したかを見ることで、これまでの取り組みの効果を測定したり、新たな課題を発見したりする手がかりになります。
属性別のクロス分析
次に、部署、役職、勤続年数、年代、性別といった複数の属性を掛け合わせて比較する「クロス分析」を行います。これにより、「どの部署のエンゲージメントが特に低いのか」「若手社員はどのような点に課題を感じているのか」といった、より具体的な課題の所在を特定できます。全社一律の施策ではなく、特定の層に向けた効果的なアプローチを考える上で非常に有効な分析手法です。
フリーコメントの分析
選択式の回答だけでは見えてこない、従業員の具体的な意見や感情が表れるのがフリーコメントです。一つひとつ目を通し、ポジティブな意見、ネガティブな意見の両方から、その背景にある従業員の想いを読み解きましょう。定量データで明らかになった課題の「なぜ」を深掘りする貴重な情報源であり、現場のリアルな声から改善のヒントが得られることも少なくありません。
課題の特定(ドライバー分析)
より高度な分析として、総合的なエンゲージメントスコアと各質問項目の相関関係を分析する「ドライバー分析」があります。これは、「どの要素がエンゲージメントを向上(または低下)させる強い要因か」を統計的に特定する手法です。例えば、「上司との関係」の相関が高いと分かれば、そこを優先的に改善することが効果的だと判断できます。限られたリソースで最大の効果を出すための重要な分析です。
エンゲージメントサーベイ結果の活用と組織改善
エンゲージメントサーベイは、結果を分析して終わりではありません。明らかになった課題に対して具体的な改善アクションを起こし、組織をより良く変えていくプロセスこそが重要です。「調査疲れ」や「やっても意味がない」という従業員の不信感を招かないためにも、サーベイ後の丁寧なフォローアップが成功の鍵を握ります。
結果のフィードバック
調査結果は、経営層や人事だけでなく、必ず従業員にもフィードバックしましょう。全社や各部署の状況、見えてきた課題、そして今後どのように改善に取り組んでいくのかを誠実に共有することが重要です。会社が従業員の声を真摯に受け止め、課題解決に取り組む姿勢を示すことで、組織への信頼感が醸成され、次回のサーベイへの協力にもつながります。
改善アクションプランの策定
明らかになった課題に対して、具体的な改善アクションプランを策定します。このとき、経営層や人事だけでプランを決めるのではなく、各部署の管理職や現場の従業員を巻き込むことが成功のポイントです。「自分たちの職場を自分たちで良くしていく」という当事者意識が生まれ、より実効性の高い施策につながります。小さな成功体験を積み重ねることが、改善活動を継続させる原動力となります。
具体的な改善施策の例
改善施策は、サーベイで見つかった課題に応じて様々です。例えば、コミュニケーション不足が課題であれば「1on1ミーティングの定期的な実施」や「社内SNSの導入」、成長機会の不足が課題であれば「研修制度の拡充」や「キャリア面談の実施」などが考えられます。ほかにも、「評価制度の見直し」や「ワークライフバランス支援の強化」など、組織の課題に合わせた施策を実行します。
よくある失敗例と対策
エンゲージメントサーベイでよくある失敗は、「調査を実施すること」自体が目的になってしまうことです。また、ネガティブな結果から目を背けて従業員に共有しなかったり、改善アクションが曖昧なまま実行されなかったりするケースも少なくありません。こうした失敗を防ぐには、サーベイ実施前から「必ず結果を共有し、改善につなげる」という経営層の強いコミットメントが不可欠です。
エンゲージメントサーベイツールの選び方
エンゲージメントサーベイを効率的かつ効果的に実施するためには、自社に合ったツールを選ぶことが重要です。現在では、国内外の多くのベンダーから様々な特徴を持つツールが提供されています。ここでは、特に中小企業の担当者様がツールを選定する際に押さえておきたい3つのポイントと、ツールの種類について解説します。
ツール選定の3つのポイント
ツールを選ぶ際は、主に「設問のカスタマイズ性」「分析機能の充実度」「サポート体制」の3つのポイントを確認しましょう。自社の課題に合わせて独自の質問を追加したい場合はカスタマイズ性が重要です。また、クロス分析や経年比較が簡単に行えるかなど、分析機能の使いやすさも確認が必要です。さらに、導入時の設定や結果の読み解き方を支援してくれるサポート体制の有無も、特に初めて導入する企業にとっては心強い味方になります。
無料ツールと有料ツールの違い
エンゲージメントサーベイツールには、無料で利用できるものと有料のものがあります。無料ツールは、コストをかけずに手軽に始められる点が最大のメリットですが、設問数が限られていたり、高度な分析機能がなかったりする場合があります。一方、有料ツールは、豊富な設問テンプレートや詳細な分析機能、手厚いサポートが魅力です。まずは無料ツールで試してみて、本格的な運用を目指す段階で有料ツールに切り替えるのも一つの方法です。
外部支援サービスの活用
ツール提供だけでなく、サーベイの設計から分析、改善アクションの策定までをトータルで支援してくれるコンサルティングサービスもあります。社内に人事の専門家やデータ分析のノウハウを持つ人材がいない場合でも、専門家の知見を借りることで、より効果的にエンゲージメント向上に取り組むことができます。コストはかかりますが、自社のリソースが限られている場合には有効な選択肢となります。
エンゲージメントサーベイで組織の成長を促す
エンゲージメントサーベイは、単に実施して結果を見るだけでは意味がありません。サーベイを通じて組織の課題を正確に可視化し、従業員一人ひとりの声に耳を傾け、具体的な改善アクションへとつなげることが不可欠です。サーベイ結果の分析と活用を繰り返すことで、従業員は会社への信頼を深め、自律的に行動するようになります。エンゲージメントサーベイを継続的に活用することは、変化の激しい時代において企業が持続的に成長していくための重要な経営基盤となるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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