• 更新日 : 2025年10月6日

退職勧奨はパワハラになる?該当する事例と3つの対処法

「退職勧奨をしなければならないが、パワハラにならないだろうか」「パワハラにならないための対策を知りたい」

このように悩む方もいるのではないでしょうか。

退職勧奨自体は違法ではありませんが、方法や状況によってはパワハラととられる場合があり、従業員とトラブルになる可能性があります。

本記事では、パワハラに該当した実際の事例や、適切に退職勧奨を進める方法について解説します。

パワハラの概要を掴むことでリスクを減らし、自社の状況に応じた従業員への対応ができるようになるでしょう。

退職勧奨はパワハラに該当するのか

退職勧奨とは会社から従業員に対して退職を勧める「お願い」であり、法的な強制力はありません。

退職勧奨自体は違法行為ではありませんが、その態様によってはパワハラに該当する可能性があります。

退職勧奨がパワハラに該当するかどうかは、その内容や方法、回数など、さまざまな要素を総合的に考慮して判断されます。

もしパワハラと認定された場合、企業は損害賠償責任や社会的信用の失墜などの大きなダメージを受けることになるため、慎重な対応が求められるでしょう。

退職勧奨がパワハラと誤解されやすい理由

退職勧奨がパワハラと誤解される理由の例として、以下が挙げられます。

  • 退職というデリケートな話題を扱うため
  • 企業側と従業員側の認識にギャップがある
  • 双方のコミュニケーション不足によるもの

これらの要因が複合的に作用することで、退職勧奨がパワハラと誤解され、問題に発展してしまうことがあります。

従業員にとって、退職はキャリアや生活に直結する重要な問題です。

会社からの退職勧奨は、たとえ穏便な形で行われたとしても、多かれ少なかれ精神的な負担やプレッシャーを従業員に感じさせるため、誤解されやすいといえるでしょう。

退職勧奨でパワハラに該当する6つの種類

パワハラとは、以下の3つの要素を満たす行為を指します。

  1. 優越的な関係を背景とした言動である
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

令和2年6月から大企業に、令和4年4月からは中小企業に対しても改正労働施策総合推進法が適用され、パワハラの防止が義務付けられました。

参考:e-GOV 法令検索|労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律

労働施策総合推進法について詳しくは、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:労働施策総合推進法とは?概要と2022年施行のポイントを解説!

具体的にどのような行為がパワハラになるのか、6つの種類別に分けて見ていきましょう。

1. 身体的な攻撃

身体的な攻撃とは、文字通り、人の身体に直接的な危害を加える行為を指します。

例として、以下のような行為が挙げられます。

  • 殴る、蹴る、突き飛ばす
  • 物を投げつける
  • 胸ぐらを掴む

もっともわかりやすいパワハラの一種で、退職勧奨の際に暴力行為が行われるパターンです。

どのような理由でも許されず、従業員に申告されると法的に問題になる可能性が高いでしょう。

2. 精神的な攻撃

ふたつめは、言葉や態度によって人の精神に苦痛を与える行為です。

脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言などが該当します。

身体的な攻撃のように目に見える傷は残らなくても、被害者の心に深いダメージを与え、長期にわたって影響を及ぼすことがあります。

具体的には、以下のような例が考えられるでしょう。

  • 「お前には何もできない」などといった人格を否定するような発言をする
  • 大勢の前で執拗に退職を促す
  • 他の社員と比べて、極端に差のある対応をする
  • 長時間にわたり拘束して面談を繰り返す

精神的な攻撃は被害者の自己肯定感を奪い、うつ病などの精神疾患を引き起こす原因となることもあります。

3. 人間関係からの切り離し

人間関係の切り離しとは、退職勧奨に応じない、または退職させたい特定の従業員を、職場の人間関係から意図的に排除する行為を指します。

仲間外れや無視などが該当し、例として以下のような行為が該当するでしょう。

  • 特定の社員だけ会議の連絡をしない
  • 業務上必要な情報共有から除外する
  • ひとりだけ別室に長期間隔離する

このようなパワハラは、被害者を孤立させて退職に追いやるために行われることがあり、陰湿な退職勧奨の一種です。

4. 過大な要求

過大な要求は、遂行が不可能なこと、あるいは能力的に明らかに困難なことを強制する行為を指します。

従業員に過度なプレッシャーをかけ、失敗を誘発させたり、精神的に追い込んだりして退職させる目的で行われることがあります。

例として、以下のような行為があるでしょう。

  • 到底達成不可能なノルマを課す
  • 規定以上の残業をさせる
  • 業務の妨害をする
  • 業務に関係のない私的な雑用をさせる

このような行為も、従業員に過度なストレスを与え、健康を害する恐れがあるため、パワハラとして問題視される可能性があります。

5. 過小な要求

過小な要求とは、合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、あるいは仕事そのものをまったく与えなかったりする行為のことです。

能力のある社員のモチベーションを奪い、自己成長の機会を妨げることで、退職に追い込むことを目的に行われることがあります。

例として挙げられるのは、以下のような行為です。

  • 1日を通して、ただ座っているだけの指示を与える
  • 管理職の従業員を退職に追いやるために、誰でもできるような簡単なデータ入力ばかりをさせる
  • 異動と称して、まったく仕事のない部署に配置転換させる

過小な要求を長期間続けることも、従業員の能力やキャリアに対する自信を喪失させることにつながり、違法な退職勧奨にあたる可能性があります。

6. 個の侵害

個の侵害とは、業務上まったく関係のない、労働者の私的なことに過度に立ち入る行為を指します。

個人の尊厳を損なうもので、職場における関係性を利用して従業員のプライバシーを侵害し、退職を強要するような場合が考えられるでしょう。

例として、以下のような行為があります。

  • 職場の内外で継続的に監視する
  • 家族や恋人のことを執拗に尋ねる
  • 性的嗜好、病歴などを理由に退職を迫る

結婚や病気、趣味など、業務に関係のない個人的な理由を背景に退職を強要することは個の侵害であり、パワハラ行為です。

このような退職勧奨も被害者の人権を傷つけ、違法行為とみなされます。

退職勧奨がパワハラにならないための3つの対策

退職勧奨がパワハラにならないためにできる対策を、3つ紹介します。

それぞれ見ていきましょう。

1. 専門家に相談する

ひとつめの対策は労働問題に詳しい弁護士や、社会保険労務士などの専門家に相談することです。

法律の専門家は、退職勧奨が合法的に行われるための具体的なアドバイスをしてくれます。

弁護士:退職勧奨時の法的リスクの助言、ハラスメント防止の方法などについて相談できる

社会保険労務士:退職時の社会保険の手続き、給与計算などについて相談できる

たとえば、退職勧奨をする対象者の選定基準が客観的かつ合理的であるか、また提示する退職条件が法的に問題ないかなど、専門的な視点から精査してもらうことが可能です。

面談の進め方や記録の残し方についても、法的な観点から具体的な指導を受けられるでしょう。

専門家の介入は、企業が法的なリスクを回避し、公正なプロセスで退職勧奨を進めるためのサポートとなります。

2. 面談のやり方に気を配る

ふたつめの対策は、面談の方法に気を配ることです。

退職勧奨の面談は、従業員にとってデリケートな問題であり、その進め方がパワハラと受け取られるかどうかに影響してきます。

注意する点は、以下の通りです。

  • 長時間、多数回にわたる面談を避ける
  • 威圧的な状況で行わない
  • 差別的、脅迫的発言をしない
  • 面談の記録を残しておく

面談の場所は、他の従業員に内容が聞こえないように配慮しましょう。また、面談時間も、従業員が精神的に疲弊しないよう適度な長さに設定し、一方的な説明ではなく従業員の意見を傾聴する姿勢が求められます。

退職を強要するような発言や、従業員のキャリアや能力を否定するような発言はしてはいけません。あくまでも、企業の現状と今後の方向性を説明し、従業員にとっての選択肢のひとつとして退職を提示する、というスタンスを保つことが大切でしょう。

3. 従業員に配慮した退職条件を提示する

みっつめの対策は、従業員に配慮した退職条件を提示することです。

納得して退職に応じてもらうためには、単に法的な最低限の補償だけでなく、従業員の次のキャリアや生活に配慮した条件を提示することが重要です。

例としては、以下が挙げられます。

  • 特別退職金の支給
  • 会社都合理由での退職
  • 有給休暇の消化
  • 再就職支援サービスの提供

また、退職条件は、従業員一人ひとりの状況に合わせて柔軟に検討することも大切です。たとえば、長い年数会社に貢献してきた従業員には、より手厚い特別退職金を用意をするなどの配慮が求められます。

従業員が納得できる退職条件を提示することは、紛争のリスクを低減できます。これにより、企業イメージを損なうことなく、円満な形で関係を解消することが可能です。

退職勧奨がパワハラと判断された3つの裁判例

退職勧奨がパワハラとされた実際の事例について、3つ紹介します。

それぞれの事案を知ることで、会社側にとって適切な対応のための参考となるでしょう。

1. メドエルジャパン事件

ひとつめは、女性社員を退職に追い込もうと、会社がパワハラを行ったケースです。

メドエルジャパンは人工内耳の輸入販売などを行う会社で、女性Aはマーケティングマネージャーとして同社に入社していました。

女性は、2012年10月から半年で14回にも渡る退職勧奨を受けています。

ほかにも、マーケティングと関係のない清掃業をやらされたり、基本給を減額されたり、他の従業員と隔離されたりといった嫌がらせ行為が長期間にわたり続きました。

女性はメドエルジャパンに対して訴訟を起こし、東京地裁はこのような行為はパワハラにあたるとして、会社に約220万円の損害賠償を命じたのです。

2. TRUST事件

ふたつめは、建築物の測量等を主たる業務とするY社で発生した「マタニティハラスメント」の事例です。

女性は正社員として採用され、建築測量、墨出し等の業務を行っていたところ、平成27年1月に妊娠していることがわかりました。

会社と相談したところ、現場の業務継続は難しいということになり、社長は関連会社への派遣登録を提案したそうです。しかし、女性は出産後しばらくしてから、会社から退職扱いになっていることを聞かされます。

退職への合意はしていないとして、女性は会社を提訴しました。

この判例では、女性が自由意志に応じて退職したとは言い難いとして、東京地裁は女性の訴えを認め、Y社に慰謝料20万円の支払いを命じています。

3. 日本航空事件

みっつめは、退職勧奨の際に精神的な攻撃をした点が争点となったケースです。

航空会社の契約社員である客室乗務員が、上司から退職勧奨を受けた際に起きました。

客室乗務員は、明確に退職勧奨を拒否したにもかかわらず、会社側は「懲戒免職になったほうがいいのか」「辞めてもらうのが筋だ」といった脅迫的な言動を繰り返したのです。

このような退職勧奨は不当行為にあたるとして、東京地裁は航空会社に慰謝料20万円の支払いを命じました。

裁判例からわかるように、退職勧奨は、その方法を誤れば重い法的責任を問われる可能性があります。

会社側は退職勧奨を行う際に、従業員の自由な意思を尊重し、人格を傷つけることのないように注意しましょう。

退職勧奨のパワハラに関するよくある質問

退職勧奨のパワハラ行為に関して、よくある質問を解説します。

Q1. 解決金の増額をあとから要求されたらどうすればよいか

従業員との間で合意して解決金を支払った場合は、原則としてあとから追加の支払いに応じる必要はありません。

ただし、退職勧奨の理由が不当であったり、ハラスメント行為が発覚したりした場合は、訴訟により増額を命じられることもあるため、勧奨のやり方に注意する必要があります。

Q2. 退職勧奨でパワハラと判断された場合は、労働基準監督署からの介入があるのか

労働基準監督署は、労働基準法や労働安全衛生法の違反に対して動く機関のため、パワハラの内容次第では注意や指導が入る場合があるでしょう。

事前に専門家などに相談し、適切なやり方で退職勧奨を進めることが重要です。


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