- 更新日 : 2025年10月6日
交通事故を起こした従業員に退職勧奨はできる?具体的な流れも紹介
従業員が交通事故を起こした場合、事故の内容や影響によっては、業務の継続が困難になります。場合によっては、退職勧奨を検討することもあるでしょう。
しかし、交通事故を理由にした退職勧奨は、労働契約法や判例の観点から慎重な対応が求められます。
本記事では、交通事故を理由にした退職勧奨は可能なのか、どのようなケースで認められるのかなどについて解説します。
目次
交通事故のみを理由に従業員への退職勧奨は可能?
交通事故を理由に、会社は直ちに従業員に退職勧奨を行えるわけではありません。
交通事故を起こした従業員が、加害者なのか被害者なのかによって、留意点は異なります。それぞれのケースについて見ていきましょう。
【従業員が加害者の場合】小規模の事故では退職勧奨は認められない
従業員側が加害者だったとしても、事故の内容が小規模であり、注意や指導の範疇であれば、社会通念上退職すべき相当性に欠けると判断され、退職勧奨は認められません。
たとえば、人身被害が発生しておらず、物損被害のみにとどまるケースは軽微な事故と判断されます。
事故によるケガも軽いむちうちなどの軽傷ものであれば、休職する必要もなく、退職勧奨には相当しないでしょう。
また、たとえ加害者側であったとしても従業員が業務中の事故による負傷の療養中とその後30日間は解雇が認められません。こうした解雇の事情も踏まえて、該当期間中は退職勧奨も避けるのが望ましいでしょう。
【従業員が被害者だった場合】ケガを理由にした退職勧奨は認められない
従業員が交通事故の被害者であり、業務に支障が出るような負傷をしていたとしても、それだけを理由に退職勧奨は認められません。
業務中の事故である場合、加害者である場合と同様に負傷の療養中とその後30日間は解雇が認められません。そのため、該当期間中は退職勧奨も避けるのが望ましいでしょう。
事故によるケガが原因で、これまで従事していた業務を遂行できなくなってしまった場合、まずは他部署への異動や配置転換を検討してください。
これらを怠ったままでは、事前の合理的配慮に欠けると判断され、退職勧奨は無効とされる可能性があります。
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交通事故の原因が会社にある場合、退職勧奨は避けたほうがよい
従業員が交通事故を起こしてしまった場合において、事故の原因が会社にもあると判別されるのであれば、退職勧奨は避けたほうがよいでしょう。
事故の原因が会社の責任であると判別されるケースでは、以下のようなものがあげられます。
- 余裕のないスケジュールで運転を強要した
- 休憩時間を確保せず長時間の運転を強いた
- 安全基準を無視した車両で運転させた
- 運転に不慣れであると承知しながら適切に指導しなかった
- 睡眠不足を承知のうえで運転をさせた
- 出発前のアルコール検査を行わなかった
企業は労働者が安全に働けるよう配慮する必要があります。適切な配慮が欠けていたことが原因で、従業員が事故を起こしたのであれば、会社にも責任が求められるため、退職勧奨は避けましょう。
従業員の交通事故を理由に退職勧奨が認められるケース
具体的にどのようなケースにおいて、交通事故を理由にした退職勧奨が認められるのか紹介します。
交通事故によって会社の信用に悪影響を及ぼした
事故によって会社の信用や利益に重大な損害を与えた場合、退職勧奨が認められることがあります。
たとえば、従業員の起こした交通事故がニュースや新聞で報道され、勤務先の企業名も公表された場合、企業イメージの低下につながるでしょう。
社用車での事故も含め、社会的影響が大きいと判断されれば退職勧奨が認められる可能性が高まります。
執行猶予付きの有罪判決を受けた
従業員が執行猶予付きの有罪判決を受けた場合、退職勧奨が認められることがあります。
多くの会社では就業規則の懲戒事由として、「有罪判決を受けた場合」を定めています。もし、自社の就業規則に同様の記述がないのであれば、退職勧奨で対応せざるを得ません。
ただし、日本では「推定無罪の原則」があるため、有罪が確定する前に退職勧奨を実施するのは避けたほうがよいでしょう。
退職勧奨を実施する際は、判決が決まってからにするのが大切です。
従業員が運転に関する業務に従事していた
交通事故を起こした従業員がドライバー職など、運転に関する業務に従事していた場合、退職勧奨が認められることがあります。
免許停止や免許取消しにつながるような事故を起こしてしまったのであれば、安全配慮の観点から職務適性に欠けると判断されるためです。
通常、能力不足にもとづいて職務適性に欠けると判断し、解雇や退職勧奨を実施するのは合理的理由を満たさず、退職強要と判断されます。そのため、ドライバー職であっても異動や配置転換を検討する必要があるのです。
しかし、重大な事故を起こしてしまったケースであれば、退職勧奨を実施しても、合理性が認められる余地があります。
とくに、飲酒が原因の交通事故であったり、日ごろから注意や指導をしていたりする場合、より退職勧奨が認められやすいでしょう。
異動や配置転換が拒否された
交通事故が原因で従来の業務を遂行できなくなった場合、会社側は異動や配置転換を提案する必要があります。
しかし、従業員がこの提案を正当な理由なく拒否した場合、退職勧奨が認められることがあるでしょう。
異動や配置転換を拒否できる正当な理由としては、以下のようなケースがあげられます。
- 業務上の必要性が認められない
- 従業員側に大きな不利益が生じる
- 職種や勤務地が限定されている
上記の点に配慮したのにもかかわらず、繰り返し異動や配置転換の提案が拒否された場合、退職勧奨が認められるようになるでしょう。
退職勧奨を実施する流れ
交通事故を起こした従業員に対して、退職勧奨を実施する流れを見ていきましょう。
今回は交通事故によって従業員がケガをしてしまい、従来の業務を継続できなくなってしまったケースにおける退職勧奨の流れを紹介します。
1. 事故について必要な対応を行う
就業中に従業員が交通事故を起こした場合、健康保険は利用できず労災保険の申請が必要となるため、速やかに会社に連絡しましょう。
事故を起こした従業員が加害者・被害者、どちらのケースでも労災保険の申請が必要です。事故から時間が経過してしまうと、補償手続きが遅れてしまう恐れがあるため、極力早い段階での連絡が重要です。
従業員や警察から、事故の詳細(負傷者の有無や相手情報など)を確認し、被害者への補償の対応を進めます。
事故を起こした社用車がリース車両である場合は、リース会社にも連絡をしましょう。契約内容によっては、修理や代替車両の手配が求められることがあります。
2. 異動や配置転換を提案する
交通事故のケガが原因で従来の業務を遂行するのが難しくなった場合、異動や配置転換を提案してみましょう。
たとえば、交通事故によって腰や首を痛めてしまい、外回りの営業ができなくなってしまったのであれば、営業職から内勤へと異動してもらいます。
この時、異動や配置転換が従業員を退職に追い込むような内容だった場合、退職強要やパワハラと判断される恐れがあります。
異動や配置転換が従業員の不利益にならないよう配慮してください。必要に応じて弁護士や専門家に相談するのもおすすめです。
関連記事:配置転換を拒否できる正当な理由とは?退職勧告やパワハラの対処法、企業側の注意点も解説
3. 面談にて退職勧奨を実施する
交通事故が原因で従来の業務を遂行できなくなり、なおかつ異動や配置転換を提案しても拒否されてしまった場合、退職勧奨を検討しましょう。
退職勧奨を実施する際は、電話やメールではなく面談で実施してください。
退職勧奨では、背景や理由、検討期間、拒否することができる旨など、要点を網羅的かつ丁寧に伝える必要があります。電話やメールでは、説明不足や誤解が生じてしまったり、威圧感を与えてしまったりする恐れがあるため、対面で退職勧奨を実施するのが大切です。
4. 退職勧奨同意書を提出してもらう
退職勧奨に同意したら、退職勧奨同意書を提出してもらいましょう。
この時、退職届ではなく退職勧奨同意書を提出してもらうのが大切です。
退職勧奨では、従業員側も企業側の提案に同意したという意思表示が重要です。退職勧奨同意書では、退職勧奨の提案や各種条件に双方が合意した旨を書面に記載します。
これにより、従業員側の不当解雇やハラスメントの主張などを防止し、後々のトラブルを防止することが可能です。
退職勧奨同意書について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:退職勧奨同意書とは?作成するケースや書き方、注意点を解説
交通事故を起こした従業員を雇用し続ける際の注意点
交通事故を起こした従業員を引き続き雇用する場合、どのような点に注意すればよいのか見ていきましょう。
ケガの状況について医師の意見も参考にする
交通事故によってケガをしてしまった場合、休職期間を設けたり、異動や配置転換を行ったりするなどの対応が必要です。
従業員本人の意見だけでなく、医師の診断内容も参考にしましょう。
医学的根拠を無視し、適切な配慮を怠ったことが原因で、従業員の治療を妨げてしまった場合、安全配慮義務違反として損害賠償を請求される恐れがあります。
就業の可否を判断したり、合理的配慮を提供したりする際は、企業や従業員のみで意思決定を行うのではなく、必ず医師や産業医の意見も参考にしてください。
通院できるように業務を調整する
交通事故の後も治療が必要なのであれば、従業員の業務量を調整して通院できるように配慮するのが大切です。
事故直後は軽症に見えたとしても、むちうちや内出血などは遅れて症状が発生することが少なくありません。後遺症を予防するためにも、早期に診断や治療、経過観察を実施できる環境を提供しましょう。
ただし、業務への影響が大きく、通院の予約時間の変更や就業時間外の受診が可能な場合、企業側が従業員に対して業務を優先させることも認められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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