• 更新日 : 2025年9月26日

評価制度設計で目指すべき3つのゴールとは?進め方や成功のコツを徹底解説

人事評価制度の設計とは、企業の目標達成と従業員の成長を結びつける、公平な仕組みを構築することです。しかし、制度設計の具体的な進め方や自社に合ったやり方がわからず、何から手をつければよいか悩む担当者の方も少なくありません。

この記事では、人事評価制度の目的や具体的な設計手順、代表的な種類と選び方、そして運用でつまずかないための重要なポイントまで、わかりやすく解説します。従業員が納得し、会社の成長につながる制度作りのために、ぜひご活用ください。

評価制度設計で目指すべき3つのゴールとは?

人事評価制度の設計は、企業の成長と従業員の成長を結びつけ、組織全体の活力を高めるための経営戦略です。制度を通じて企業の方向性を示し、従業員一人ひとりの納得感を得ることが、設計におけるゴールといえるでしょう。

企業のビジョンを評価制度で示す

評価制度は、会社がどのような働き方を大切にしているかを伝えるメッセージになります。経営理念やビジョンを評価項目に具体的に盛り込むことで、従業員は日々の仕事で何を意識すればよいかがはっきりします。その結果、会社全体が同じ目標に向かって進みやすくなるでしょう。

従業員の成長を促しモチベーションを高める

評価制度の本来の目的は、従業員をランク付けすることではありません。評価を通じて個々の強みや課題を明らかにし、次の成長へつなげるための機会です。具体的なフィードバックは、従業員の成長意欲を引き出し、仕事へのモチベーションを高める効果が期待できます。

公平な処遇で納得感をつくる

評価結果は、昇給や賞与、昇進といった処遇に反映されます。その基準が明確で公平であれば、従業員は結果に対して納得しやすくなります。透明性の高い評価制度は、会社への信頼感を育み、エンゲージメントの向上にもつながるのではないでしょうか。

人事評価制度の設計で用いられる主な種類

人事評価制度には、目標管理制度(MBO)や目標に対する成果指標(OKR)、コンピテンシー評価、360度評価などさまざまな種類があります。自社に合った制度を選ぶことが大切です。ここでは代表的な4つの制度について、どのような場合に適しているか、具体的な評価方法やメリット・デメリットを解説します。

目標管理制度(MBO)

目標管理制度(MBO)は、従業員自身が設定した目標の達成度で評価を決める手法です。個人の自主性を引き出し、組織全体の目標達成につなげたい企業に向いています。

やり方としては、期初に上司と面談し、企業の目標に沿った個人目標を設定します。たとえば、営業職なら「新規顧客を期末までに10社獲得する」、開発職なら「担当機能のバグ発生率を前期比で20%削減する」といった具体的な目標です。期末にその達成度を自己評価と上司評価で判断し、最終的な評価を決定します。

メリット
  • 従業員の自主性や主体性を引き出しやすい
  • 目標が明確なため、評価基準がわかりやすい
  • 企業の目標と個人の目標を連動させられる
デメリット
  • 達成しやすい低い目標を設定してしまう可能性がある
  • 目標設定や進捗管理に時間がかかる
  • 目標の難易度に個人差が出やすく、公平性の担保が難しい

目標に対する成果指標(OKR)

OKRは、達成が困難なほど高い「目標(Objectives)」と、その進捗を測る複数の「主要な結果(Key Results)」を設定するフレームワークです。組織全体で高い目標に挑戦し、急成長を目指す企業で多く導入されています。

たとえば、会社全体の目標が「顧客満足度No.1のサービスになる」だとします。それに対し、チームの主要な結果として「NPS(顧客推奨度)を40から60に向上させる」「平均応答時間を24時間以内から8時間以内に短縮する」などを設定します。達成度が60~70%でも成功とみなされる挑戦的な目標を掲げるのが特徴で、評価結果は給与に直結させず、あくまで成長のための指標として使うことが多いです。

メリット
  • 高い目標を掲げることで、組織の成長スピードが上がる
  • 目標の共有により、チームの一体感が生まれやすい
  • 進捗がわかりやすく、優先順位をつけやすい
デメリット
  • 運用に慣れが必要で、定着するまでに時間がかかる
  • 主要な結果の設定が難しい
  • 人事評価として利用する場合は、別途評価基準が必要になる

コンピテンシー評価

コンピテンシー評価は、高い成果を出す人材に共通する行動特性を基準に評価する手法です。結果だけでなく、仕事の進め方やプロセスを重視し、社員に求める行動を具体的に示したい企業に適しています。

まず、職種や役職ごとに求める行動特性(コンピテンシー)を定義します。たとえば「課題解決力」という項目に対し、「レベル1:指示された手順どおりに作業できる」「レベル3:自ら課題を発見し、解決策を提案できる」「レベル5:前例のない課題に対し、周囲を巻き込み解決に導ける」のように段階的な基準を設定します。評価者は、期末の行動がどのレベルに達していたかを判断して評価します。

メリット
  • 企業の理念や求める人物像を社内に浸透させやすい
  • 評価基準が明確で、従業員が行動の改善をしやすくなる
  • 人材育成の指針として活用できる
デメリット
  • コンピテンシーモデルの作成に時間と手間がかかる
  • 時代や事業内容の変化に合わせて、モデルの見直しが必要
  • 評価者の主観が入りやすい可能性がある

360度評価(多面評価)

360度評価は、上司、同僚、部下など、複数の関係者が一人の従業員を評価する手法です。客観的な視点を取り入れ、従業員の自己認識を促し、自律的な成長を支援したい場合に有効です。

評価対象者に対し、複数の評価者が匿名でアンケートに回答します。「リーダーシップ」「協調性」などの項目について、「いつもできている」から「あまりできていない」といった選択肢で評価したり、自由記述でコメントを寄せたりします。集計された結果は本人にフィードバックされ、自己評価とのギャップを認識し、今後の行動改善に役立ててもらうことを主な目的とします。

メリット
  • 客観性や公平性が高まり、評価への納得感が得られやすい
  • 自己認識が深まり、従業員の自律的な成長を促す
  • 普段の勤務態度などが評価に反映されやすい
デメリット
  • 評価者への負担が大きい
  • 人間関係に配慮し、当たり障りのない評価に偏る可能性がある
  • 評価を直接処遇に結びつけるのが難しい

評価制度を設計する具体的な進め方

評価制度の設計は、いくつかのステップに分けて計画的に進めることが成功の鍵です。ここでは、現状分析から導入、改善までの一連の流れを7つのステップで解説します。

ステップ1:現状分析と目的の明確化

最初に、自社の人事に関する現状の課題を洗い出します。「従業員のモチベーションが低い」「若手の離職率が高い」「評価基準が曖昧」など、具体的な課題をリストアップしましょう。そのうえで、新しい評価制度を通じて何を達成したいのかという目的をはっきりさせます。

ステップ2:評価制度の全体像(フレームワーク)を設計する

目的が明確になったら、制度の骨格を決めます。等級制度、評価制度、報酬制度の3つは連動しているため、それぞれの関係性を整理し、全体像を設計することが大切です。たとえば、「等級ごとに求める役割を定義し、その達成度を評価制度で測り、結果を報酬制度に反映させる」といった流れを考えます。

ステップ3:評価項目と基準を設定する

次に、何を評価するのか、具体的な項目と基準を設定します。評価項目は、一般的に「成果評価」「能力評価」「情意評価」の3つの観点から考えます。

  • 成果評価:期間内にあげた業績や目標の達成度を評価
  • 能力評価:業務遂行に必要な知識やスキル、企画力などを評価
  • 情意評価:勤務態度や協調性、規律性などを評価

職種や役職ごとに、ウエイトを変えるなどして、公平性を保つ工夫が求められるでしょう。

ステップ4:評価方法とフローを決定する

評価項目が決まったら、誰が、いつ、どのように評価するのかを決めます。評価期間(半期・通期)、評価者、評価シートの様式、フィードバック面談の実施方法など、具体的な運用フローを設計します。評価者による評価のばらつきを防ぐため、評価者研修の計画もこの段階で立てておくとスムーズです。

ステップ5:等級・報酬制度との連携を設計する

評価結果を、どのように昇給・賞与・昇進などの処遇に反映させるかを決定します。評価ランク(S・A・B・C・Dなど)ごとに、昇給額や賞与の係数を設定するのが一般的です。従業員の納得感を得るためには、この連携ルールを明確にしておくことがきわめて大切になります。

ステップ6:評価者研修と従業員への説明

新しい評価制度を導入する前に、必ず評価者となる従業員への研修を行います。制度の目的や評価基準、面談の進め方などを正しく理解してもらい、評価のばらつきを抑えるのが目的です。また、全従業員に対して説明会を開き、制度の概要や評価の仕組みを丁寧に伝え、疑問や不安を解消する場を設けることも忘れてはなりません。

ステップ7:試験導入と改善

最初から完璧な制度を作るのは困難です。まずは特定の部署や期間で試験的に導入し、問題点を洗い出すことをおすすめします。従業員からのアンケートやヒアリングを通じてフィードバックを集め、本格導入に向けて制度を改善していきましょう。制度は一度作ったら終わりではなく、定期的に見直すことが重要です。

人事評価制度を設計する際の注意点

人事評価制度の設計や運用では、いくつかの課題に直面しがちです。あらかじめ起こりうる問題を想定し、対策を考えておくことで、制度の形骸化を防ぎ、スムーズな運用が可能になります。

評価基準が曖昧だと不公平感を生む

評価基準が曖昧だと、評価者の主観や個人的な感情が入り込みやすくなり、不公平感を生む原因となります。対策として、評価項目ごとに具体的な行動レベルまで基準を言語化することが有効です。たとえば、「リーダーシップ」という項目であれば、「チームの意見をまとめ、目標達成に向けて主体的に行動できる」のように、誰が読んでも同じように解釈できる基準を設定しましょう。

評価者の負担が大きく形骸化するおそれ

評価制度が複雑すぎると、評価者の負担が増大し、評価が形式的な作業になってしまうおそれがあります。とくに、通常業務で多忙な場合には、評価業務が大きな負担となりかねません。評価項目を絞り込んだり、評価システムを導入して作業を効率化したりするなど、運用しやすいシンプルな設計を心がけることが大切です。

評価結果への納得感が得られにくい

従業員の納得感を得るためには、評価プロセスにおける透明性と丁寧なコミュニケーションが欠かせません。評価結果を伝える際は、一方的に通知するのではなく、必ずフィードバック面談の場を設けます。評価の根拠を具体的に伝え、従業員の自己評価とのギャップをすり合わせ、次の成長に向けた対話を行うことが、納得感を高める上で効果的です。

評価制度の設計と運用を成功させるポイント

効果的な評価制度を設計し、組織に根付かせるためには、いくつかのポイントがあります。制度作りの段階からこれらの点を意識することで、従業員の成長と企業の発展につながる、生きた制度となるでしょう。

経営層がコミットし、目的を社内で共有する

評価制度は、経営の根幹に関わる重要な仕組みです。経営層が制度設計に主体的に関わり、その目的やビジョンを従業員に繰り返し伝えることが、制度を浸透させる第一歩となります。なぜこの制度が必要なのか、会社としてどこを目指しているのかというメッセージが明確であれば、従業員も前向きに評価制度と向き合えるようになるのではないでしょうか。

シンプルでわかりやすい制度から始める

最初からすべての要素を盛り込んだ完璧な制度を目指す必要はありません。とくに中小企業の場合は、まず自社の現状にもっとも合った、シンプルでわかりやすい制度から始めるのが現実的です。運用しながら課題を見つけ、少しずつ自社流に改善していくほうが、結果的に組織に定着しやすくなります。

定期的な見直しと改善を前提とする

企業の事業内容や組織の状況は、時間とともに変化します。一度設計した評価制度が、数年後には現状に合わなくなっていることも少なくありません。年に一度は見直しの機会を設け、必要に応じて評価項目や基準をアップデートしていく姿勢が大切です。

丁寧な評価制度の設計が企業の持続的な成長を支える

人事評価制度の設計は、企業の理念を形にし、従業員の成長を後押しするための重要な基盤です。自社の課題や目指す姿を明確にし、MBOやコンピテンシー評価といった手法の中から最適なものを選択することが求められます。

設計プロセスにおいては、現状分析から始め、従業員への丁寧な説明を経て、試験導入と改善を繰り返すことが成功の鍵となるでしょう。公平性と納得感のある評価制度を丁寧に設計し、適切に運用していくことが、最終的に企業の持続的な成長を支える力となります。

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