- 更新日 : 2025年9月22日
異動時に労働条件通知書は必要?再交付のルールや確認すべきポイントを解説
企業から人事異動の辞令を受けると、「給与や勤務地、仕事内容は具体的にどう変わるのだろうか」「そもそもこの異動は法的に問題ないのか」といった不安や疑問を感じる方は多いでしょう。異動はキャリアの大きな転機であり、労働条件の変更を伴うことも多いため、その内容を正確に把握しておくことはとても大切です。
この記事では、人事異動が命じられた際の労働条件通知書の役割に焦点を当て、法的な観点から「通知書は再交付されるのか」「どの項目を重点的に確認すべきか」「企業はどのような点に注意して通知書を作成すべきか」といった疑問について、分かりやすく解説します。
目次
異動時に労働条件通知書の再交付は必要?
労働条件通知書は、雇い入れ時に交付が必要な書類であり、労働条件を変更する際の交付は義務付けられていません。しかし、労働条件を変更する際には、通知書を再交付することがトラブル防止の観点から望ましいとされています。
再交付が不要な場合
入社時に取り交わした労働契約の範囲内で行われる異動であれば、原則として労働条件通知書の再交付は不要です。
例えば、労働条件通知書に「就業の場所:本社および全国の支社」「業務内容:会社の定める一切の業務」といった記載があり、その範囲内での部署異動や転勤であれば、新たな通知書の発行は不要と判断されることが一般的です。この場合、辞令や内示書が異動を通知する書面となります。
労働条件通知書の再交付が望ましい場合
異動に伴い、当初の労働契約で定められた内容を超える変更が生じる場合、企業は労働者に対して変更点を明記した書面を交付することが望ましいとされます。労働条件通知書の内容と相違することになったとしても、就業規則に配置転換や給与改定の定めがあれば包括的同意があったとみなされます。しかし、後のトラブルを防ぐためには書面にて再通知することが望ましいでしょう。
特に、当初の労働条件に変更があった場合、その内容を書面で確かめることが後のトラブルを避ける上で欠かせません。口頭での説明だけでなく、書面での通知を求めるようにしましょう。具体的には、以下のようなケースが該当します。
- 給与体系の変更
- 勤務地の変更
- 職種の変更
- 労働時間の変更
2024年4月1日施行の改正労働基準法施行規則第5条第1項第1号の3により、労働契約締結時または更新時に、就業場所および業務内容の変更の範囲を明示することが義務化されました。
労働条件通知書で確認すべき異動関連の項目
異動を通知された際に、労働条件通知書や辞令のどの部分を注意深く確認すべきかを知っておくことは、自身の権利を守るために非常に重要です。特に場所と仕事内容に関する記載は、将来の働き方に直接影響します。
「就業の場所」と「業務の内容」の変更範囲
まず確認すべきは、「就業の場所」と「業務の内容」です。2024年4月の労働条件明示ルールの改正で、これらの項目について「変更の範囲」を具体的に記載することが求められるようになりました。
「会社の定める場所」といった曖昧な表現ではなく、「〇〇支店および△△支店」や「企画業務、営業業務」のように、想定される異動先や業務内容が明記されているかを確認しましょう。労働条件通知書の変更の範囲の書き方が、予期せぬ異動の可能性を判断する材料になります。
「異動の有無」の記載
労働条件通知書には、「異動の有無」という項目が設けられている場合があります。「あり」と記載されている場合、企業は業務上の必要性に応じて異動を命じる権利を持つことになります。
その際、就業場所の変更範囲がどこまで及ぶのかをセットで確認することが大切です。将来的に転居を伴う転勤の可能性があるのか、あるいは同一市内での異動に限られるのかを把握しておくことは、自身のライフプランを考える上で欠かせません。
配属先が未定の場合の記載
新卒採用や中途採用で、入社後の研修を経てから正式な配属先が決まるケースがあります。このように労働条件通知書で配属先が未定の場合、雇入れ直後の就業場所と、将来的に変更があり得る変更の範囲が区別して記載されているかを確認します。
例えば、「雇入れ直後:本社(研修期間中)」「変更の範囲:全国の支社」といった形です。これにより、入社時点での勤務地と、その後のキャリアで異動する可能性のある範囲の両方を事前に理解できます。
人事異動に関する法律上のルール
人事異動は企業の裁量に委ねられている部分が大きいですが、無制限に認められるわけではありません。労働者を守るための法的なルールが存在します。
企業が持つ人事異動命令権の範囲
企業は、労働契約や就業規則に「業務の都合により異動を命じることがある」という旨の規定があれば、原則として労働者の個別同意なしに異動を命じる「配転命令権」を持ちます。
就業規則に「業務の都合により異動を命じる場合がある」旨の規定がある場合、一般に企業が配転命令を行いやすくなりますが、実際に労働者への配転が法的に認められるかどうかは、具体的な個別の事案や判例で判断されます。
人事異動は何日前までに告知すべきか
人事異動は何日前までに告知すべきかは、実は法律で具体的な日数が定められているわけではありません。一般的には、企業の就業規則で「異動を命じる場合は、発令日の〇日前までに本人に内示する」といった規定が設けられています。
転居を伴う異動に関しては、一般的に準備期間を設けることが望ましいとされますが、法的に「1ヶ月前に内示が必要」と定められた規範はありません。企業ごとの就業規則や労働協約、または労使協議にもよります。
異動を拒否できる正当な理由とは
原則として、就業規則などに定められた正当な人事異動命令を拒否することはできません。しかし、例外的に拒否が認められるケースもあります。
- 勤務地が限定されている契約にもかかわらず、その範囲を超える異動を命じられた場合
- 家族の介護や育児、本人の病気の治療など、転勤によって生活上の著しい不利益を被るやむを得ない事情がある場合
こうしたケースでは、異動命令が権利濫用にあたるとして、拒否の正当性が認められる可能性があります。
人事異動に納得できない場合の対処法
万が一、異動内容に疑問があったり、会社側の説明が不十分だと感じたりした場合は、以下のステップで対応しましょう。
- 人事部や上司に確認する
まずは、異動の理由や労働条件の変更点について、書面(辞令や労働条件通知書)を元に社内の担当部署へ具体的に確認しましょう。 - 労働条件通知書の交付を求める
口頭での説明のみで、労働条件の重要な変更があるにもかかわらず書面が交付されない場合は、明確に書面の交付を依頼してください。 - 外部の専門機関に相談する
社内での解決が難しい場合は、労働基準監督署の総合労働相談コーナーや、弁護士といった外部の専門家へ相談することも一つの方法です。
人事異動時の労働条件通知書を忘れずに
人事異動は、働く人々のキャリアや生活に大きな影響を与えます。異動を命じられた際は、まず労働条件通知書や辞令の内容を冷静に確認し、特に就業の場所、業務の内容、そしてそれらの変更の範囲がどのように記載されているかを把握することが重要です。これにより、今回の異動が契約の範囲内であるか、また将来どのような異動の可能性があるのかを理解できます。
もし当初の契約から労働条件に大きな変更がある場合は、企業側は変更点を明らかにした書面を交付することが望ましいとされます。自分の権利を守り、納得して新しいキャリアをスタートさせるために、正しい知識を持つことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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