- 更新日 : 2025年9月22日
企業のマイナンバー対応は法律上の義務!従業員に提出拒否された場合の対処法まで解説
企業の社会保険や税の手続きにおいて、マイナンバー対応は避けて通れない業務です。法律によって従業員のマイナンバーを取得し、適切に管理することが企業には求められています。
しかし、従業員が提出を拒否したらどうなるのか、どこまでが企業の義務なのかといった疑問や不安を抱える担当者の方も少なくないでしょう。
この記事では、企業におけるマイナンバーの取り扱い義務について、法律の観点から具体的に解説します。従業員から提出を拒否された場合の適切な対応や、安全な管理体制の構築方法まで、実務に役立つ情報をお届けします。
目次
企業活動におけるマイナンバー対応の義務とは
企業活動においてマイナンバーを取り扱うことは、単なる事務作業ではなく、法律で定められた責務です。まずは、その基本となる考え方と、なぜ企業が従業員のマイナンバーを必要とするのかを正しく理解することが、適切な対応の第一歩となります。
マイナンバー法での企業の立ち位置
従業員や支払先のマイナンバーを記載した書類を行政機関へ提出する企業は「個人番号関係事務実施者」に該当します。これは、税や社会保障に関する行政手続きを円滑に進めるため、従業員やその扶養家族のマイナンバーを取り扱う役割を担うという意味です。
具体的には、源泉徴収票の作成や健康保険・厚生年金保険の資格取得届など、法律で定められた書類に従業員のマイナンバーを記載して行政機関へ提出する義務があります。この義務を果たすために、企業は従業員に対してマイナンバーの提供を求めることになります。
企業が従業員のマイナンバーを収集する主な理由
企業が従業員のマイナンバーを収集するのは、主に以下の行政手続きが必要となるためです。
これらの書類に従業員のマイナンバーを記載することは、通称マイナンバー法(正式名称:「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」)に基づいて定められています。
参考:行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律|e-Gov 法令検索
企業が法律に違反した場合の罰則
企業がマイナンバーの管理を怠ったり、不正に利用したりした場合には、厳しい罰則が科されます。
例えば、正当な理由なく特定個人情報を不正提供した担当者など「行為者個人」には、4年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金が科されます。さらに、企業には両罰規定により1億円以下の罰金が科される点にも注意が必要です。
また、マイナンバーの安全管理を怠り、個人情報保護委員会から改善命令が出されたにもかかわらず従わなかった場合も罰則の対象となります。
従業員の提出は義務?会社に提出しないとどうなる?
従業員が勤務先にマイナンバーを提出することは、直接的な法律上の義務とはされておらず、提出しなかった場合の罰則もありません。
しかし、企業は行政手続きのために従業員のマイナンバーを収集・提出する義務を負っています。そのため、企業は利用目的を明確に伝え、従業員に提出を求める必要があるのです。この協力関係が、制度の根幹を支えています。
マイナンバーを提出しないことによるデメリット
従業員がマイナンバーを提出しない場合、企業は給与の支払いを停止したり、解雇したりすることはできません。そのような行為は不当な扱いと見なされる可能性が非常に高いです。
ただし、デメリットが全くないわけではありません。
- 企業側のデメリット
行政機関に提出する書類にマイナンバーを記載できず、手続きが煩雑になります。行政機関から指導を受けたり、企業としての義務を果たしていないと見なされたりするリスクがあります。 - 従業員側のデメリット
雇用保険の失業給付や、将来の年金受給など、一部の行政サービスの手続きがスムーズに進まない可能性があります。また、確定申告を自分で行う場合など、結局はどこかのタイミングでマイナンバーが必要となります。
企業としては、これらの事実を丁寧に伝え、提出への協力を求めることが重要です。
従業員にマイナンバーの提出を拒否された場合の対処法
再三依頼しても従業員からマイナンバーの提出を拒否されるケースは、実務で最も悩ましい問題です。感情的にならず、以下のステップで冷静に対応しましょう。
ステップ1. 利用目的の説明と協力依頼
従業員が提出をためらう背景には、制度への不理解や個人情報漏洩への不安があります。まずは、以下の点を改めて丁寧に説明し、理解を求めましょう。
- 税や社会保険の手続きに法律上必要不可欠であること
- 会社が法律上の義務として収集していること
- 厳格な安全管理措置を講じており、目的外利用は絶対にしないこと
国税庁などが発行しているリーフレットを渡すなど、客観的な資料を用いて説明するのも有効な手段です。
ステップ2. 提出を求めた経緯の記録
それでも提出を拒否された場合は、提出を求めた経緯や、拒否された事実を記録として残しておくことが非常に重要です。これにより、企業側が収集義務を放棄したわけではなく、適切な対応を行ったことの証明になります。
いつ、誰が、どのように提出を依頼し、相手がどのような理由で拒否したのかを具体的に記録してください。
ステップ3. 行政機関への相談と書類の提出
記録を残した上で、書類の提出先である税務署やハローワーク、年金事務所などに連絡し、マイナンバーの記載がない状態で書類を提出してよいか、指示を仰ぎましょう。
基本的には、提出を求めた経緯の記録があることを伝えれば、マイナンバー欄を空欄のまま受け付けてもらえます。ただし、個人番号登録・変更届出書等で番号登録が求められるため、番号の提出は永久に不要と誤解しないようにしましょう。
このプロセスを踏むことで、企業は義務を果たそうと努力したことを客観的に示すことができます。
企業がマイナンバーを安全に収集・管理する方法
マイナンバーを収集した後の管理も、法律で定められた企業の重要な義務です。情報漏洩などの事故を防ぐため、厳格なルールに則った取り扱いが求められます。
収集時の厳格な本人確認
マイナンバーを収集する際は、なりすましを防ぐため、必ず番号確認(正しい番号であることの確認)と身元確認(番号の持ち主であることの確認)の2つを行わなければなりません。
- マイナンバーカードがある場合
カード1枚で番号確認と身元確認が完了します。 - マイナンバーカードがない場合
通知カードや住民票の写し(番号確認)と、運転免許証やパスポートなどの顔写真付き身分証明書(身元確認)がそれぞれ必要です。
提出方法とコピーの取り扱い
提出方法は対面だけでなく、郵送やオンラインも可能です。ただし、マイナンバーカードのコピーを会社に提出してもらう際は細心の注意が必要です。
税や社会保険の手続きでは番号確認(裏面)と身元確認(表面)の双方が必要となるため、マイナンバーカードのコピーは両面を取得・保管するのが原則です。不要な表面情報をマスキングするのではなく、適切な管理措置を講じたうえで両面を保管してください。コピーの保管は、目的外の個人情報収集と見なされるリスクがあります。
取扱担当者の限定と厳格な保管・廃棄
収集したマイナンバーは、漏洩や紛失を防ぐための安全管理措置を講じることが義務付けられています。
- 担当者の限定
マイナンバー取扱担当者以外が情報にアクセスできないようにする。 - 物理的な管理
鍵のかかるキャビネットや引き出しで保管する。 - 技術的な管理
データで保管する場合はパスワードを設定し、ウイルス対策ソフトを導入する。 - 廃棄
退職などで不要になったマイナンバーは、復元不可能な方法(シュレッダー、データ完全削除ソフトなど)で速やかに廃棄する。
企業のマイナンバー対応に関してよくある質問
最後に、企業のマイナンバー対応に関してよくある質問とその回答をまとめました。
パートやアルバイトのマイナンバーも必要?
必要です。雇用形態に関わらず、企業は税や社会保険の手続きを行うすべての従業員のマイナンバーを取得する義務があります。
扶養家族のマイナンバーも必要?
必要です。従業員が配偶者や子を扶養している場合、健康保険の被扶養者届や国民年金の第3号被保険者関係届、年末調整の扶養控除等申告書などに家族のマイナンバーを記載する必要があります。そのため、企業は従業員本人を通じて、その扶養家族のマイナンバーも取得しなければなりません。
退職した従業員のマイナンバーは廃棄していい?
すぐに廃棄してはいけません。退職後も、扶養控除等申告書などの保存義務は最長7年間続くため、その期間はマイナンバーを保有・利用できます。保存期間が経過したら速やかに廃棄しましょう。
マイナンバー法にもとづく企業の義務を理解しましょう
企業におけるマイナンバーの取り扱いは、マイナンバー法によって厳格に定められた義務であり、社会的な責任も伴います。
従業員のマイナンバーを適正に収集・利用し、厳格な安全管理体制のもとで保管・廃棄することは、企業の信頼性を保つ上で不可欠です。
従業員から提出を拒否された場合でも、一方的に強制するのではなく、利用目的
丁寧に説明し、記録を残した上で行政機関の指示を仰ぐという冷静な対応が求められます。
本記事で解説したポイントを再確認し、法令を遵守した適切な事務処理体制を構築・維持してください。自社での対応に不安がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することも有効な手段です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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