- 更新日 : 2025年8月29日
36協定の代表者選出方法は?条件や手順、必要書類まとめ
時間外労働や休日労働を従業員におこなってもらうために必須となる36協定。この協定を有効に成立させるためには、労働者の代表を正しく選ぶことが法律で定められています。代表者の選出方法を誤ると、36協定そのものが無効になるおそれもあります。
この記事では、36協定の労働者代表の正しい選出方法について、その条件や具体的な手順、やってはいけないNG例、必要な書類の記入例までをわかりやすく解説します。
目次
36協定の代表者選出方法とは?
36協定の労働者代表を選出する際は、会社の意向が介入しない「民主的な手続き」が求められます。これは、労働者全体の意見を公平に反映させるためであり、協定が法的に有効であるための大前提となります。
36協定の代表者選出が必要な理由
労働基準法では、労働時間は原則1日8時間、週40時間までと定められています。これを超えて従業員に時間外労働や休日労働をさせる場合、会社は労働者の代表と書面による協定(36協定)を結び、労働基準監督署に届け出る義務があります。
この協定を結ぶ相手方として、労働者の代表を選出しなければなりません代表者がいない、もしくは選出方法が不適切な場合、36協定は無効と判断されることがあり、その後の時間外労働が労働基準法第32条違反と見なされて罰則の対象になることがあります。
代表者の役割
選出された36協定の代表者の役割は、単に協定書に署名することだけではありません。時間外労働の上限時間や割増賃金率、労働条件などについて、すべての労働者の意見をふまえ、会社側と交渉し、協定を締結することにあります。
会社からの提案を一方的に受け入れるのではなく、労働者全体の立場から内容を精査し、意見を表明することが求められる、責任のある立場です。
選出方法の基本原則
36協定の労働者代表の選出方法は、法律で特定の方法が指定されているわけではありません。しかし、どの方法をとるにしても、「民主的な手続き」であることが絶対条件です。
具体的には、36協定を締結するために代表者を選出することを明らかにしたうえで、全労働者がその手続きに参加できる機会が保障されていなければなりません。投票や挙手といった、労働者の意思が明確に示される方法が望ましいとされています。
36協定の労働者代表になれる人の条件とは?
36協定の労働者代表は、従業員であれば誰でもなれるわけではありません。法律で定められた明確な条件を満たす必要があり、とくに「管理監督者」に該当する従業員は代表になれないため注意が必要です。
管理監督者ではないこと
36協定の労働者代表は、労働基準法で定められた「管理監督者」であってはいけません。管理監督者とは、経営者と一体的に労働条件の決定や労務管理をおこなう実質的な権限を持つ人のことを指します。例として部長や工場長が挙げられることもありますが、役職名だけではなく実態にもとづいて判断されます。
役職名だけで判断されるのではなく、職務内容や権限、待遇などの実態にもとづいて判断されます。管理監督者は使用者の利益を代表する立場にあるため、労働者全体の代表として会社と交渉をおこなうにはふさわしくないとされています。
出典:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために|厚生労働省
関連:管理監督者とは?労働基準法における定義やトラブル、取り扱いについて解説!
パートやアルバイトも選出母数に含めること
労働者代表を選出する際の「労働者」には、正社員だけでなく、パートタイマー、アルバイト、契約社員、嘱託社員など、雇用形態にかかわらず事業場で働くすべての人が含まれます。
したがって、代表者を選ぶための投票権はすべての労働者にあり、また、パートタイマーやアルバイトが労働者代表として選出されることも可能です。
選出の母数から一部の従業員を意図的に除外すると、過半数代表とは認められず、選出自体が無効になることがあります。
36協定の代表者選出方法と手順
36協定の代表者の選出は、事業場の実態に合った方法で、公平性が保たれる手順をふむことが大切です。ここでは、一般的に用いられる選出方法の具体的な流れを4つのステップで解説します。
手順1:選出方法の告知
最初に、36協定の締結のために労働者代表を選出することを、事業場で働くすべての労働者に周知します。掲示板への貼り出し、社内メール、回覧などの方法で、以下の内容を明確に伝えましょう。
- 労働者代表を選出する目的(36協定締結のため)
- 代表者の任期
- 選出の日時と場所
- 選出方法(投票、挙手など)
- 立候補の受付期間や方法
手順2:候補者の推薦または立候補
次に、36協定の代表者の候補者を募ります。従業員による自薦または他薦で候補者を募るのが一般的です。会社側から特定の従業員を指名したり、候補者になるよう働きかけたりすることは、労働者の自主性を妨げるため認められません。
従業員が自由に立候補や推薦ができる環境を整えることが求められます。
手順3:投票・挙手・話し合いの実施
告知した方法で、36協定の代表者の選出をおこないます。どの方法でも、労働者の過半数の支持を得ていることが客観的にわかるように進めることが大切です。
- 投票:
労働者の意思を明確に示しやすい方法。無記名投票にすることで、従業員は気兼ねなく投票できる。開票作業は、複数の従業員の立ち会いのもとでおこなうと、より公平性を保てる。 - 挙手:
事業場の全員が一堂に会せる場合に適した方法。候補者への支持を挙手で示し、その場で過半数の支持を得た人を選出。誰が誰に投票したかがわかるため、人間関係への配慮が必要になる場合もある。 - 話し合い:
従業員数が少ない事業場で有効な方法。従業員全員で話し合いをおこない、代表者を選出する。合意形成の過程と結果を議事録として残しておくことが望ましい。
手順4:代表者の決定と周知
選出の結果、労働者の過半数の支持を得た人が新しい36協定の代表者となります。決定した代表者の氏名と任期を、あらためて全労働者に周知します。
この際、選出が適正におこなわれたことを証明するために、投票結果や議事録などの記録を保管しておくことが、後のトラブルを防ぐうえで有効です。
36協定の代表者選出方法が無効となる場合
適正な手続きをふまずに36協定の代表者を選んでしまうと、締結した36協定が無効になるおそれがあります。ここでは、とくに注意すべき代表者選出のNGケースを解説します。
会社が一方的に指名する(勝手に決める)
会社が特定の従業員を労働者代表として一方的に指名することは、最も典型的な無効となる例です。これは、労働者の自主的な意思にもとづく選出とはいえず、使用者の意向が強く反映されていると見なされるためです。
たとえその従業員が人望厚く、代表にふさわしいと思われたとしても、必ず民主的な手続きをふまなければなりません。
親睦会の代表などを自動的に選任する
従業員の親睦団体の幹事や代表者を、自動的に労働者代表とすることも認められていません。親睦会は福利厚生や懇親を目的とする任意の団体であり、すべての労働者が加入しているとは限らないためです。
労働条件に関する協定を結ぶための代表者は、その目的のために、全労働者の意思をふまえて選出される必要があります。
会社が候補者を選び信任投票にかける
会社が候補者を推薦し、その候補者に対して従業員が信任投票をおこなう形式も、使用者側の意向が反映されたものと見なされ、適正な手続きとは認められない場合があります。労働者が候補者を自由に選べる状態ではなく、会社の意向が働いた選出と見なされるためです。
あくまで、立候補や推薦の段階から労働者の自発性に委ねることが求められます。
36協定の代表者選出で必要な書類と記入例
適正な段階を経て36協定の代表者が選ばれたことを客観的に証明するため、関連する書類を整備し、保管しておきます。ここでは、代表者選出に役立つ書類の様式や文例を紹介します。
厚生労働省が運営する「確かめよう労働条件」のウェブサイトでも、選出方法の解説や36協定のひな形が提供されており、プロセス全体の理解に役立ちます。
参照:確かめよう労働条件:時間外・休日労働と割増賃金|厚生労働省
選出を知らせる通知文(文例)
従業員に代表者の選出をおこなうことを周知するための通知文です。目的や手順をわかりやすく記載します。上記の東京労働局の様式などが活用できます。
投票用紙や信任状のフォーマット
投票や信任をおこなう際に使用する様式です。シンプルなもので構いませんが、選出の目的を記載しておくとよいでしょう。こちらも上記の参考書式に含まれています。
選出の経緯を示す議事録・選出報告書
誰が、いつ、どのような方法で、何人の支持を得て代表に選ばれたのかを記録する書類です。決まった様式はありませんが、以下の項目を盛り込んでおくと、適正な手続きの証明になります。
- 選出日
- 選出方法(投票、挙手など)
- 投票総数
- 有効投票数
- 各候補者の得票数
- 選出された代表者の氏名
36協定届への記入例と電子申請
労働基準監督署へ提出する「時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定届)」には、労働者代表が適正に選ばれたことを確認するチェックボックスがあります。
代表者が労働組合の代表でない場合、「労働者の過半数を代表する者」の欄で、以下の2点にチェックを入れてください。記載漏れがあると、提出後に確認を求められたり、協定が不備とされることがあるため注意が必要です。
- 「投票、挙手等の方法による手続により選出された者」であること
- 「使用者の意向に基づき選出された者でない」こと
作成した36協定届は、労働基準監督署の窓口に持参または郵送するほか、政府が運営する電子申請窓口「e-Gov(イーガブ)」を利用してオンラインで提出することも可能です。
書式ダウンロード:時間外労働・休日労働に関する協定届(様式第9号)|厚生労働省 主要様式ダウンロードコーナー
記入例:時間外労働・休日労働に関する協定届 記載例|厚生労働省
電子申請の方法(解説):電子申請(時間外・休日労働協定など)|スタートアップ労働条件(厚生労働省)
電子申請窓口(ポータルサイト):e-Gov(イーガブ)電子申請
関連:36協定の新様式とは?変更点や記入例、届け出の注意点(2021年4月から)
関連:36協定に関する協定書の記載例や協定届との違い、法的義務を解説(テンプレート付き)
36協定の代表者選出に関するよくある質問
ここでは、代表者選出の実務において、担当者が抱えがちな疑問や悩みについてQ&A形式で回答します。
Q1. 労働者代表になるデメリットはありますか?
労働者代表になることに法的なデメリットはありません。会社は、代表者であることや、代表者として正当な行為をしたことを理由に、その従業員に対して解雇や減給、異動といった不利益な取扱いをすることは法律で禁止されています。
ただし、他の従業員の意見をまとめたり、会社と交渉したりする責任や精神的な負担を感じることはあるかもしれません。
Q2. 誰も引き受けてくれない場合はどうすればよいですか?
まず、会社として労働者代表の役割の重要性を丁寧に説明し、不利益な取扱いをしないことを明確に伝えることが大切です。それでもなり手が見つからない場合、改めて全従業員で話し合いの場を設け、協力して選出するよう促すことが求められます。
会社が安易に特定の人を指名することはできません。誰も代表者にならない場合、36協定を締結できず、原則として時間外労働を命じることができませんが、緊急の場合など一定の例外が認められることもあります。
Q3. 少人数の事業所でも同じ手順が必要ですか?
はい、事業所の規模にかかわらず、適正な選出方法は必要です。ただし、従業員が数名しかいないような小規模な事業所の場合、大がかりな投票ではなく、全員参加の話し合いによって代表者を選び、その合意内容を議事録として残すといった、実情に合った簡潔な方法をとることが可能です。
重要なのは、形式ではなく、全員の意思が反映される民主的なプロセスをふんだかどうかです。
36協定を有効にするには代表者を適正に選ぶことが前提
36協定を締結し、法令を遵守した企業運営をおこなうには、労働者代表の選出を適切な手続きで進めることが欠かせません。会社が一方的に代表者を指名したり、選出の方法が不透明だったりすると、行政から是正指導を受けたり、協定が有効と認められないおそれがあります。
投票や挙手、話し合いなど、正社員だけでなくパート・アルバイトを含むすべての労働者の意思が公平に反映される方法を選びましょう。
また、選出の過程は議事録などに記録し、誰が見ても適正な手続きであったと証明できるようにしておくことも大切です。正しい選出を行うことは、36協定の法的な有効性を確保するだけでなく、従業員との信頼関係を保ち、働きやすい職場づくりにもつながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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