• 更新日 : 2025年8月27日

リワークのメリット、デメリットとは?復職への効果やプログラム内容を解説

メンタルヘルスの不調などで休職した方が、スムーズに職場復帰を目指すための「リワークプログラム」。その名前を耳にする機会は増えましたが、「具体的にどんなことをするの?」「本当に復職への効果があるの?」「費用はかかる?」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

この記事では、リワークプログラムのメリットとデメリット、復職への具体的な効果、プログラム内容、費用、そしてどのような方に向いているのかを、人事労務担当者や復職を考えるビジネスパーソンの視点から分かりやすく解説します。

目次

リワークプログラムとは?

リワークプログラムは、「Return to Work(職場復帰)」の略称であり、精神的な不調(うつ病や適応障害など)により休職された方が、無理なく職場へ復帰し、その後も安定して働き続けられるよう支援する専門的リハビリテーションです。単に休職前の状態に戻すだけでなく、再発を防ぎ、より健康的に社会生活を送れるようになることを目指しています。

リワークプログラムは、精神科デイケアの一環として医療機関で提供される場合や、地域障害者職業センター、あるいは民間の専門機関によって運営されるものを指します。

休職中の生活リズムの立て直し、基本的な労働習慣の回復、ストレス対処能力の向上、コミュニケーションスキルの訓練などを通じて、職場復帰に向けた準備を段階的に行います。治療とは異なり、より実践的な「リハビリテーション」に近い位置づけと考えると分かりやすいでしょう。

リワークプログラムが目指すゴール

リワークプログラムの最終的なゴールは、参加者が元の職場、あるいは新しい職場に復帰し、そこで継続して就労できるようになることです。しかし、単に「職場に戻ること」だけが目的ではありません。休職に至った原因を振り返り、自身のストレスパターンや対処法を理解し、再発を予防するためのスキルを身につけることが重視されます。

これにより、復職後の安定した職業生活はもちろん、QOL(生活の質)全体の向上も目指します。企業にとっては、貴重な人材の職場復帰と定着を促し、組織全体の生産性維持にもつながります。

リワークプログラムを提供する機関

リワークプログラムは、「医療リワーク」「職リハリワーク」「企業内・民間の専門施設」が提供しています。

医療機関(医療リワーク)

精神科デイケア内で行われるケースが中心。医師・看護師・臨床心理士・作業療法士らがチームでサポートし、医学的フォローと職場復帰訓練を並行して進めます。

地域障害者職業センター(職リハリワーク)

ハローワークと連携し、職業準備性の向上や職場調整に重点を置く国の公的サービス。

企業内・民間の専門施設

自社社員向けに独自プログラムを整備する企業や、民間リハビリ事業者が提供するコースもあります。内容や費用、対象条件が機関ごとに異なるため、利用前にプログラム内容・サポート範囲・料金体系をよく比較検討することが大切です。

リワークプログラムの従業員にとってのメリット

リワークプログラムは、休職からの復帰の過程を多方面から支え、より確かな復職へと導く手助けとなります。

規則正しい生活リズムの回復

リワークに定期的に通所すると、休職中に乱れがちな生活リズムを整え、日中の活動に必要な基礎体力を無理なく回復させることができます。「朝きちんと起きられるか」「一日働けるだけの体力が戻っているか」を実際に確かめながら進められるため、復職後も安定して出勤できる基盤ができます。

職場復帰への不安軽減

模擬的なオフィス環境での活動や、ストレス対処トレーニングなどで、小さな成功体験を重ねることで、復職への漠然とした不安が「できる」という具体的な自信に変わります。また、グループワークや専門家との面談を通じて報連相のコツや適切な距離感を学び、対人関係のストレスを事前に軽減できます。同じ目標を持つ仲間との交流も孤立感を和らげる助けになります。

専門家の客観的なサポート

産業医や心理士が数値と行動の両面から状態を評価し、「どこで無理をしたか」を可視化してくれます。休職に至った原因の分析から再発予防策、段階的な勤務計画までを一緒に立案するため、復職後もセルフケアを続けやすく、再休職のリスクを長期的に抑えられます。

リワークプログラムの企業にとってのメリット

従業員のメンタルヘルス不調による休職は、企業にとっても大きな課題ですが、リワークプログラムを活用することにより、様々な経営上の効果をもたらします。

人材確保とコスト削減

リワークで休職者の復帰を支援すると、経験やスキルを持つ社員を採用・育成し直す費用と時間を大幅に削減できます。準備を整えた社員は業務へスムーズに戻り、早期に戦力化するため、採用コストの抑制とパフォーマンス向上を同時に実現できます。

再休職のリスクを下げる

リワークプログラムには再発予防が組み込まれており、復帰後の再休職率を低減できます。結果としてチームの欠員や業務停滞を防ぎ、部門全体の生産性を安定させる効果があります。人員計画が立てやすくなる点も企業にとって大きな利点です。

職場環境の改善と健康経営ブランドの強化

休職者支援を通じて社内のメンタルヘルス理解が深まり、働きやすい風土づくりが進みます。さらに、復職支援の経験がノウハウとして蓄積され、健康経営に積極的な企業としての社会的評価が高まります。これにより採用力や既存社員のエンゲージメント向上にもつながります。

リワークプログラム従業員にとってのデメリット

リワークプログラムの利用は、必ずしも全てが順調に進むわけではありません。事前に知っておくことで、心の準備や対策ができることもあります。

費用や期間の負担が生じる場合がある

利用するリワーク施設の種類によっては、自己負担が発生し、プログラムも数か月単位になることが一般的です。その間の生活費や復職までのスケジュールをあらかじめ立てておかないと、経済面・時間面で想定外の負担が生じやすくなります。

プログラム内容が合わない可能性

提供されるプログラムが、現在の自身の回復段階や目指す働き方と合致しないと、期待した効果を感じにくいことがあります。参加前に見学や説明会で内容を確認し、「ここなら課題を解決できそうか」を見極めることが大切です。

「行きたくない」と感じることも

通所には職場や家族の理解が必要で、復職後も業務量調整など綿密なすり合わせが求められます。また、他の参加者との関係や回復への焦りで「行きたくない」と感じることもあります。その際は無理をせず、スタッフや主治医に早めに相談する姿勢が重要です。

リワークプログラムの企業にとってのデメリット

従業員の復職支援は企業の責任の一つですが、リワークプログラムの活用には、企業側にもいくつかの負担や配慮すべき点があります。

費用や人的リソースの負担が発生することも

企業がリワーク費用の一部を負担する場合や、休職中の代替要員の確保、復職後の時短勤務などによる人件費の増加が考えられます。また、人事担当者や上司が、リワーク機関との連携や復職プランの調整に時間を割く必要も出てきます。

復職判断の難しさ

リワークプログラムを修了しても、それが直ちに完全復職を意味するわけではありません。主治医や産業医の意見を踏まえつつ、最終的な復職可否や復職後の業務内容・部署を企業が判断する必要があります。適切な業務設計を誤ると再休職リスクが高まるため、慎重な検討が不可欠です。

他の従業員への配慮が必要なことも

復職者への業務量調整や時短勤務が他の従業員に過度な負担や不公平感を与えないよう、丁寧なコミュニケーションと業務分担の見直しが求められます。同時に、休職や治療に関する情報は機微な個人情報となるため、共有範囲を限定しプライバシーを保護しながら、主治医・リワーク施設・人事・所属部署間で適切な情報連携体制を整える必要があります。

リワークプログラムの具体的な内容

「リワーク」と一言で言っても、その内容は提供機関によって様々です。しかし、多くの場合、復職に向けて段階的に心身の状態を整え、必要なスキルを身につけるための共通した要素が含まれています。

オフィスワーク模擬訓練や軽作業

実際のオフィス環境に近い形で、パソコン作業、書類作成、電話応対、会議への参加といった模擬的な業務訓練を行います。これにより、集中力や持続力、作業遂行能力といった職業的なスキルを段階的に回復させます。また、軽作業やグループでの共同作業を通じて、協調性や指示理解能力などを養うことも目的としています。

最初は短時間から始め、徐々に活動時間や負荷を増やしていくことで、復職後の勤務に耐えうるスタミナをつけていきます。

ストレスマネジメントやセルフケア技法の習得

ストレスは誰にでもありますが、その感じ方や対処法は人それぞれです。リワークプログラムでは、自身がどのような状況でストレスを感じやすいのか(ストレッサーの特定)、ストレスを感じた時に心身にどのような反応が出るのか(ストレス反応の理解)を学びます。

その上で、リラクセーション法(呼吸法、漸進的筋弛緩法など)、気分転換の方法、問題解決技法といった具体的なストレスマネジメントスキルや、睡眠・食事・運動といった基本的な生活習慣を見直すセルフケア技法を習得します。これらの習得は、セルフコントロール能力の向上という効果につながります。

認知行動療法などの心理プログラム

認知行動療法は、うつ病や不安障害などに対する有効性が科学的に認められている心理療法の一つです。自身の思考パターン(認知)や行動パターンが、気分や身体反応にどのように影響しているかを理解し、より現実的でバランスの取れた考え方や、適応的な行動を身につけることを目指します。

グループ形式で行われることが多く、他の参加者の経験を聞くことも学びにつながります。その他、対人関係療法やマインドフルネスといった心理学的なアプローチを取り入れている施設もあります。物事の捉え方の柔軟性を高める効果が期待できます。

キャリアデザインや再発予防策の検討

復職はゴールではなく、新たなスタートです。リワークプログラムでは、休職に至った経緯や自身の価値観、強みや弱みなどを振り返り、今後のキャリアプランや働き方について考える機会が提供されます。

また、これまでの経験やプログラムで学んだことを踏まえ、具体的な再発予防策を立てることも大切なプロセスです。

どのようなサインが出たら注意が必要か、困難に直面したときに誰に相談するか、どのような働き方を会社に求めるかなどを明確にし、復職後の安定した就労を目指します。これにより、主体的なキャリア形成と再発防止という効果が得られます。

リワークプログラムの費用と保険適用について

リワーク利用にかかる費用は、プログラムの種類(公的か民間かなど)や個人の状況によって、自己負担額や使える制度が異なります。

リワークプログラムの費用は主に3タイプ

リワークプログラムは、提供している場所によって費用が異なります。主なものは以下の3タイプです。

  1. 医療リワーク:
    病院やクリニックなどの医療機関が提供。健康保険が適用され、自己負担は原則1~3割(1日数百円~数千円程度)。「自立支援医療制度」の対象となる場合もあります。
  2. 職リハリワーク:
    地域障害者職業センターが提供。無料で利用できます。
  3. 民間企業のリワーク:
    民間の会社が運営する就労移行支援事業が提供。所得に応じて自己負担額は異なりますが、記事執筆時点では上限が37,200円に設定されています。

なお、勤務先で行われるリワークについては、勤務先企業の福利厚生として実施されるため利用者の自己負担は発生しません。

自己負担を軽くする「自立支援医療制度」

医療リワークを利用する場合、「自立支援医療(精神通院医療)」という制度が使えることがあります。これは、精神的な不調で継続的に通院治療が必要な方の医療費負担を軽くするための国の制度です

この制度のメリットとして、医療費の自己負担が原則1割になること、そして所得に応じて1ヶ月あたりの自己負担額に上限が設けられることが挙げられます。

制度を利用するには、お住まいの市区町村の窓口で申請が必要です。その際には、主治医の診断書などが求められます。

利用を検討する際の確認ポイントとしては、利用したいリワーク施設がこの制度の対象になっているか、またご自身が制度の対象になるか、という点です。これらは、主治医やリワーク施設の相談員、市区町村の窓口で確認するとよいでしょう。

勤め先の会社からのサポートも確認

会社によっては、リワークプログラムの利用をサポートしてくれる制度があるかもしれません。会社の支援内容の例としては、リワーク費用の補助(一部または全額)や、会社が提携しているリワーク施設を安く利用できるといったケースがあります。

確認方法としては、まずは会社の人事労務担当者や産業医に相談してみることです。社員のメンタルヘルスケアに積極的な会社であれば、経済的なサポートが期待できる場合があります。

どのような人がリワークプログラムに向いている?

リワークプログラムは、個人の状態や置かれている状況、そしてプログラムとの相性によって、その効果は異なります。ここでは、どのような方にリワークプログラムの利用が特に勧められるのか解説します。

復職への意欲はあるが、不安が大きい人

主治医から「そろそろ復職を考えても良い」と言われたものの、「本当に大丈夫だろうか」「また同じように休んでしまうのではないか」といった強い不安を感じている方にとって、リワークは心強い味方になります。専門家のサポートを受けながら、段階的に負荷を上げていくことで、自信を回復し、安心して復職へ踏み出す準備ができます。一人で抱え込まず、客観的な評価を受けながら進められる点が大きなメリットです。

生活リズムが乱れ、体力に自信がない人

休職期間が長くなると、どうしても昼夜逆転しがちになったり、外出する機会が減って体力が低下したりすることがあります。リワークプログラムは、決まった日時に通所し、日中の活動に参加することで、規則正しい生活リズムを取り戻し、通勤や業務に必要な基礎体力を養うのに役立ちます。

特に、復職後の勤怠の安定に不安がある方には、良いリハビリテーションの場となるでしょう。

コミュニケーションや対人関係に課題を感じる人

職場でのコミュニケーションの難しさや、人間関係のストレスが休職の原因の一つであった方にとって、リワークプログラムは対人関係スキルを学び直す良い機会となります。グループワークやロールプレイングを通じて、他者との適切な距離の取り方や、自分の意見を上手に伝える方法などを実践的に訓練できます。

同じような悩みを持つ仲間との交流も、孤立感を和らげ、新たな気づきを与えてくれます。

再発予防のスキルを身につけたい人

「もう二度と休職したくない」と強く願う方にとって、リワークプログラムで提供される再発予防のための知識やスキルは非常に価値があります。自身のストレスパターンを理解し、具体的な対処法を身につけること、そして休職に至った背景を客観的に振り返り、今後の働き方や生活習慣を見直すことは、長期的な安定就労につながります。

専門家と共に再発予防計画を立てることで、より確かな一歩を踏み出せます。

リワークなしで復職を目指す場合のポイント

もちろん、リワークプログラムを利用せずに復職する方も多くいます。その場合、主治医と十分に連携を取りながら、生活リズムの調整、短時間勤務からの開始(慣らし出勤)、業務負荷の段階的な増加など、職場と協力して慎重に復職プランを立てることが大切です。

また、自身でストレスマネジメントやセルフケアの知識を学び、実践することも求められます。リワークを利用しない場合でも、孤立せずに相談できる相手(主治医、家族、信頼できる同僚や上司など)を確保しておくことが、安定した復職には欠かせません。

リワークのメリットとデメリットを理解し、より良い復職を目指すために

リワークプログラムは、休職からのスムーズな職場復帰と再休職の予防を目的とした有効な取り組みの一つです。生活リズムの再構築、コミュニケーション能力の向上、再発予防スキルの習得など、従業員と企業の双方に多くの利点と復職への効果が期待できます。

しかし、その効果を最大限に引き出すためには、費用や期間、プログラム内容との相性といった課題も理解し、ご自身の状況や目的に合っているかを見極めることが大切です。

主治医や会社の担当者、そしてリワーク施設のスタッフとよく相談し、情報を集め、納得のいく形で復職準備を進めていきましょう。この記事が、人事労務担当者の方々、そして復職を考えるビジネスパーソンの方々にとって、より良い復職への一助となれば幸いです。


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