• 更新日 : 2025年8月27日

産休と失業保険はどっちが得?計算シミュレーションで比較

出産にともなう給付金を受け取る方法として、産休を取得して出産手当金をもらうか、退職して失業保険を受け取るかで迷う人は少なくありません。どちらも条件を満たせば受給できますが、支給額や保険料の扱い、手取り額に大きな差が出ることもあります。

この記事では、それぞれの制度の違いや計算方法、育休との関係までを整理し、選択の判断材料をわかりやすく解説します。

産休と失業保険はどっちが得?

出産にともなって受け取れる公的な給付金を最大限活用したい場合は、会社に在籍しながら産休・育休を取得する方が、金額や保険料の面でも優位になる傾向があります。

出産手当金は、健康保険に加入している会社員が産休期間中に受け取れる給付金で、給与の約3分の2相当が日割りで支給されます。

一方、失業保険(基本手当)は、退職後に求職活動を行う人が条件を満たしたうえで受給できる制度で、退職理由や勤続年数により支給額や期間が異なります。

ただし、退職する事情がある場合や働き続ける意向がない場合には、失業保険をどう活用するかを含めて慎重な検討が求められます。次章では、失業保険を受け取る場合の金額と損得の分かれ目をシミュレーションを通じて見ていきます。

出産手当金と失業保険の主な違い

出産手当金は、会社に在籍しながら産休を取得した健康保険の被保険者に支給される給付です。対象は、出産予定日の42日前(多胎妊娠は98日前)から出産後56日までの期間で、給与の支払いがないことが条件です。支給額は標準報酬日額の3分の2相当で、日割り計算となります。

たとえば、月給30万円の場合、1日あたり約6,600円が支給され、総額はおよそ60〜65万円。健康保険から支払われ、本人の申請が必要です。

失業保険(基本手当)は、退職後に働く意思と能力があり、ハローワークで求職活動を行っている人が対象です。受給日数や支給額は、加入年数、離職理由、年齢によって異なり、自己都合で勤続5年未満の場合は90日です。

また、失業保険には年齢ごとの日額上限があり、30歳未満〜64歳まで段階的に設定されています。収入が高くても上限により支給額が頭打ちになるケースもあります。

出産や育児で求職活動がすぐにできない場合は、「受給期間延長」を申請すれば、最大4年間まで受給資格を保留できますが、その間は失業保険も出産手当金も支給されないため、無収入期間となる点には注意が必要です。

制度名支給条件の概要支給内容の目安
出産手当金健康保険に1年以上加入し産休を取得給与の約2/3 × 約98日間分
失業保険雇用保険に一定期間加入し退職・求職中賃金日額の50〜80% × 90〜330日

出典:出産手当金について|全国健康保険協会(協会けんぽ)
出典:基本手当について|厚生労働省

社会保険料の扱いにも違いがある

産休を取得した場合、出産手当金の支給期間中(産前42日+産後56日)、健康保険料と厚生年金保険料が申請により免除されます。免除された期間も保険の加入期間として扱われるため、将来の年金や健康保険の給付にも反映されます。

退職した場合は、国民健康保険と国民年金に切り替える必要があり、原則として保険料は自己負担になります。ただし、国民年金と国民健康保険には出産を理由に保険料が免除される制度があり、出産予定日または出産日が属する月の前月から4か月間、申請により保険料が免除されます。

また、配偶者の扶養に入る場合でも、失業保険の受給額によっては扶養対象外となることがあるため、事前に条件の確認が必要です。

出典:産前産後休業期間中の保険料免除|日本年金機構
出典:国民年金保険料の産前産後期間の免除制度|日本年金機構

産休後に育休を取る場合の育児休業給付金

産休後も在職を継続する場合、さらに「育児休業給付金」を受け取ることもできます。従業員が職場復帰を前提に育児に専念できるよう、雇用保険から支給される支援制度です。

育児休業給付金の支給額は、育休開始から180日間は休業開始前の賃金の67%、それ以降は50%と、とくに収入がなくなる休業初期の家計を支える仕組みになっています。

支給対象となる期間は原則として子どもが1歳になるまでですが、保育所に入所できないといったやむを得ない事情がある場合は、最長で2歳になるまで延長できます。

さらに、2025年(令和7年)4月からは、育休とは別に産後の休業を支える「出生後休業支援給付金」や、時短勤務による賃金低下を補う「育児時短就業給付金」も創設されています。

なお、失業保険との併用はできないため、制度の選択には注意が必要です。

出典:育児休業等給付について|厚生労働省

住民税の支払いは必要

産休中や退職後であっても、前年の給与所得に基づく住民税の支払いは必要です。出産手当金や失業保険は非課税ですが、住民税は前年の所得に対して課されるため、収入がない時期にも納税通知が届きます。

退職後は自分で支払う普通徴収に切り替わるため、納付時期や金額を見越して資金を確保しておくと安心です。

産休の手当金と失業保険の給付金とのシミュレーション

産休中にもらえる出産手当金と、退職後にもらえる失業保険(基本手当)との支給額の計算方法や手取り額の違いを見ていきましょう。ここでは、具体的な年収例をあげて、どちらがどのくらいもらえるのかをシミュレーションします。

まずは、それぞれの計算方法の基本をおさえておきましょう。

出産手当金の計算方法

出産手当金は、健康保険から支給される手当です。金額は、給与を基に算定される「標準報酬月額」を使います。以下の式で計算します。

1日あたりの支給額 = 支給開始日以前12ヶ月間の各標準報酬月額の平均額 ÷ 30日 × 2/3(67%)

標準報酬月額は、給与額に応じて等級が決まっています。

出典:出産で会社を休んだとき|全国健康保険協会 協会けんぽ
出典:標準報酬月額・標準賞与額とは?|全国健康保険協会 協会けんぽ

失業保険(基本手当)の計算方法

失業保険は、雇用保険から支給されます。1日あたりの支給額を「基本手当日額」といい、離職前6ヶ月の賃金合計を180で割った「賃金日額」のおよそ50%〜80%で計算されます。

基本手当日額には年齢ごとに上限が定められており、30歳以上45歳未満の場合は7,845円です(令和6年8月1日現在)。賃金が高く、計算上の日額がこの上限を超える場合は、上限額が支給されます。

出典:基本手当について|ハローワーク インターネットサービス

産休と失業保険はどっちが得かは収入と働き方で変わる

産休と失業保険のどちらを選ぶかは、手当の金額だけでなく、社会保険料の扱いや今後の働き方の希望によっても大きく変わります。
在職中に産休・育休を取得することで、出産手当金や育児休業給付金、保険料免除などの支援を幅広く活用でき、経済的にもキャリアの継続という面でも選びやすい選択肢になります。

一方で、体調や家庭の事情などでやむを得ず退職する場合は、失業保険の仕組みを正しく理解したうえで、手続きのタイミングや支給条件を踏まえて活用することが大切です。国民健康保険や年金、住民税の支払いなど、見落としがちな出費も含めて準備しておく必要があります。

特に住民税は、前年の所得に基づいて課されるため、退職後で収入がなくても納税通知が届きます。出産手当金や失業保険が非課税であることと、住民税の支払い義務が続くことは別問題です。事前にスケジュールと資金計画を立てておくと安心です。

制度のしくみを理解したうえで、自分のライフスタイルや今後の働き方に合った選択ができるよう備えておきましょう。



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