• 更新日 : 2025年8月20日

労働時間管理のガイドラインを徹底解説!厚生労働省が示す具体的な措置の内容とは?

2019年の働き方改革関連法の施行によって労働安全衛生法が改正され、すべての企業に客観的な方法で労働時間を把握する義務が課せられました。しかし、厚生労働省が示すガイドラインの意図を正確に理解し、自社の労務管理に落とし込むのは容易ではありません。

この記事では、厚生労働省による労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインの内容を、企業の経営者や人事労務担当者向けにわかりやすく解説します。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインとは

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインは、使用者が労働者の労働時間を正しく把握し、健康障害の防止や長時間労働の是正を図るために策定されました。すべての事業場に適用されるものであり、企業規模を問いません。単に労働時間を記録するだけでなく、その記録が実態と合っているかを確認し、適正な労働環境を整備することまでが求められます。

参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(PDF) 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(リーフレット)

ガイドラインが目指す大きな目的は、主に2つあります。

1. 労働者の健康確保と生産性の向上

ガイドラインの最も重要な目的は、労働者の健康確保です。かつて、過労死や精神疾患といった過重労働による健康障害が大きな社会問題となりました。長時間労働は心身に大きな負担をかけ、生産性の低下にもつながります。

客観的な労働時間管理は、長時間労働の兆候を早期に発見し、産業医の面接指導につなげるなど、具体的な健康確保措置を講じるための重要なデータとなります。十分な休息は心身の健康を維持し、集中力や創造性を高めます。適切な労働時間管理によってメリハリのある働き方を実現することは、従業員のウェルビーイングを高め、結果として組織全体のパフォーマンスを向上させるのです。

2. 法令遵守と企業リスクの回避

労働時間管理の義務化は、社会的な要請から生まれました。特に2019年4月に施行された改正労働安全衛生法により、客観的な記録による労働時間の把握がすべての使用者に対して義務付けられました。

客観的な把握を怠り、上限を超過する違法な残業が行われた場合には、労働基準法違反となり、罰則が科される可能性があります。また、サービス残業が常態化していると、後から高額な未払い残業代を請求されるリスクもあります。こうした事態は、企業の財務に打撃を与えるだけでなく、社会的信用を大きく損ないます。客観的な記録に基づく公正な労働時間管理は、このような経営リスクから企業を守るための防波堤となるのです。

厚生労働省が定義する労働時間の定義

労働時間とは、就業規則や雇用契約で定められた所定労働時間だけを指すのではありません。厚生労働省は、労働時間を使用者の指揮命令下に置かれている時間と定義しています。これには、明示的な指示だけでなく、黙示的な指示も含まれるため、使用者は実態に即して客観的に判断しなくてはなりません。

労働時間に含まれる可能性が高い時間の具体例は、以下の通りです。

  • 着替えや準備・後片付けの時間
    作業着や制服への着替えが社内で義務付けられていたり、更衣室での着替えを余儀なくされたりする場合は、その時間は労働時間と判断される可能性が高いです。同様に、始業前の清掃や朝礼なども、使用者の指示により全員参加が義務であれば労働時間となります。
  • 義務付けられた研修や学習時間
    使用者が業務に必要であると指示して参加を義務付けた研修や、業務に必要な知識を習得するための学習時間は労働時間に含まれます。
  • 手待ち時間(待機時間)
    運送業の荷待ち時間や、店舗での来客を待っている時間など、すぐに業務に取りかかれる状態で待機している時間は、労働者の自由な利用が保障されていないため労働時間とみなされます。
  • 黙示の指示による時間外労働
    上司が直接残業を命じなくても、納期までに到底終わらない量の業務を指示したり、残業していることを知りながら放置したりした場合は、黙示の指示があったとみなされ、労働時間に該当する可能性があります。

労働時間の把握のために使用者が講ずべき措置の内容

ガイドラインでは、使用者が労働時間を把握するために取るべき具体的な措置が示されています。以下のステップに沿って、自社の管理体制を確認しましょう。

1. 始業・終業時刻の客観的な記録

原則として、使用者が労働日ごとに始業・終業時刻を現認するか、客観的な方法で記録しなければなりません。

客観的な記録方法の例
  • タイムカード
  • ICカード、IDカードの入退館記録
  • PCのログイン・ログアウト履歴
  • 勤怠管理システムの打刻記録

導入に際しては、厚生労働省が公開している労働時間 厚生労働省 リーフレットなども参考にすると良いでしょう。これらの記録は、賃金台帳とともに5年間(経過措置により当分の間3年間)保存する義務があります。

2. やむを得ず自己申告制を導入する場合の厳格な運用

事業場の外での勤務など、客観的な記録が難しい場合にやむを得ず労働時間 自己申告制 ガイドラインを採用することが認められていますが、その場合は厳格な運用が求められます。

自己申告制で講ずべき措置
  • 労働者への十分な説明
    自己申告制の対象となる労働者や管理職に対し、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行う。
  • 実態調査の実施
    自己申告された労働時間が実態と乖離していないか、PCの使用履歴や入退館記録などのデータと照合するなど、定期的または随時に実態調査を実施する。
  • 乖離の是正
    調査の結果、労働時間の実態と自己申告に乖離が見られた場合は、速やかに是正措置を講じるとともに、必要に応じて労働時間の再計算と差額の賃金支払いを行う。

3. 記録された労働時間の実態確認

労働時間の記録は、単に残すだけでなく、その記録が実態と合っているかを確認し、適正な労働環境を整備することまでが求められます。特に、自己申告制の場合は、申告時間と実態が乖離していないかを定期的に確認する責務があります。

労働時間のガイドラインに違反した場合のリスク

労働時間ガイドラインを遵守しない場合、企業は以下のような複数のリスクを負うことになります。

  • 労働基準法に基づく罰則
    時間外労働の上限規制違反などには、6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
  • 高額な未払い残業代の請求
    労働時間の記録が不適切な場合、労働者から過去に遡って未払い残業代を請求されるリスクが高まります。
  • 社会的信用の失墜
    いわゆるブラック企業としての評判が広まると、企業イメージが著しく低下し、製品やサービスの不買運動につながる可能性もあります。
  • 人材獲得・定着の困難化
    労働環境の悪さが知られると、採用活動が困難になるだけでなく、既存の優秀な従業員の離職を招きます。
  • 公共調達からの排除
    国や地方自治体の入札において、法令違反を理由に参加資格を失う場合があります。

労働時間のガイドラインに関するQ&A

最後に、労働時間のガイドラインに関するQ&Aをまとめました。

管理監督者にもガイドラインは適用されますか?

労働基準法上の管理監督者は、労働時間や休憩、休日の規制は適用されません。しかし、これは無制限な労働を許容するものではなく、深夜業の割増賃金の支払いは必要です。また、企業の安全配慮義務が免除されるわけでもありません。したがって、健康確保の観点から、管理監督者の労働時間の状況を把握し、過重労働になっていないかを確認する責務があります。

裁量労働制の正しい運用方法を教えてください。

裁量労働制は、実際の労働時間に関わらず、あらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。しかし、これは労働者が際限なく働いて良いという意味ではありません。対象となる業務は法律で限定されており、制度の導入には厳格な手続きが必須です。また、使用者は対象労働者の健康・福祉を確保するための措置を講じる義務があり、その一環として労働時間の状況を把握することが求められます。

労働時間管理を徹底し、信頼される企業へ

労働時間ガイドラインの遵守は、現代の企業経営において避けては通れない責務です。それは、単に法律を守るというだけでなく、企業の最も重要な資産である人を守り、育てることにつながります。

厚生労働省が示す労働時間管理の核心は、客観的な事実に基づいて労働時間を把握し、従業員の健康を確保することにあります。自己申告制や裁量労働制など、運用を誤解しやすい制度もありますが、基本は使用者の指揮命令下にあるかという一点です。

この記事で解説した内容を参考に、まずは自社の適切な労働時間の管理体制を今一度見直してみてください。適切な管理体制の構築は、従業員の信頼を獲得し、企業の持続的な成長を実現するための確かな一歩となるでしょう。


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