- 更新日 : 2025年8月6日
労働時間を勝手に短くされた!シフト変更や賃金カットの違法リスクと注意点
労働者に予告もなく労働時間を勝手に短くする行為は、労働契約違反となる可能性があります。また、シフトの削減や賃金カットを一方的に行った場合、契約上の問題が発生するおそれがあり、事業主にもリスクが伴います。
本記事では、「労働時間を減らされたがどうすればよいか」と悩む労働者や、現場での適切な対応を考えなければならない管理者向けに、違法性の判断基準や正しい対応方法をわかりやすく解説します。
目次
労働時間を勝手に短くされたら違法なのか?
労働契約は雇用主と労働者の合意によって成立するため、労働時間を一方的に短縮することは、違法となる場合があります。賃金も事業主が一方的に変更できません。ここでは、違法のトラブルに巻き込まれないために、事業主が知っておきたい行動をまとめました。
労働契約を確認する
事業主が労働時間を短縮する前に、従業員の労働契約の内容を確認しましょう。労働契約書や就業規則には、労働時間に関する取り決めが明記されています。例えば、勤務時間やシフトに関する規定、変更の条件などが記載されています。これらの合意内容に反して一方的に労働時間を短縮した場合、労働契約法第8条に違反する可能性があります。
労働契約法第3条では、「労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」と定められています。そのため、一方的な変更は労働者に対し誠実に労働契約を締結したとはいえないでしょう。
労働時間短縮と不利益変更の原則
労働契約法第9条には、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と明記されています。そのため、原則として労働者の同意なしに労働条件を不利益に変更することはできません。
雇用形態による労働時間短縮の適用
正社員だけでなく、パートやアルバイトといった有期雇用労働者であっても、労働契約に基づいた労働時間の変更には同意が必要です。
労働契約書や雇用通知書に定められた労働時間や日数がある場合、事業主が一方的にこれを減らすことは原則としてできません。
たとえ「シフト制」であっても、労働契約書や就業規則、あるいは継続的な勤務実態によって、事実上一定の労働時間や日数が恒常的に確保されてきた場合、または実質的に期間の定めのない雇用と判断されるような場合は、一方的な労働時間短縮は労働契約の不利益な変更とみなされます。
これは、労働契約法やパートタイム・有期雇用労働法における「不合理な待遇差の禁止」の観点からも判断されることがあります。
事業主の事情を把握する
事業主が労働時間の短縮を検討する背景には、経営状況の悪化、業務量の減少、事業再編などさまざまな理由が考えられます。
これらの理由が正当なものとして認められるかどうかは、労働時間の変更がやむを得ないものかどうかの判断基準となります。
例えば、かつての新型コロナウイルス感染症拡大の影響による事業縮小など、客観的に見て経営上の必要がある場合は、労働時間の短縮が検討されることもありました。ただし、その場合でも、事業主は労働者との合意形成に努める義務があります。
シフトを減らされたときの賃金カットは違法?
シフト削減に伴う賃金カットは、労働基準法において違法と判断されることがあります。特に労働者に責任がない場合には、休業手当の支払い義務が発生する可能性が高くなります。そのため、事業主は誤った対応をしないよう、十分に注意を払いましょう。
休業手当の支払い
労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合、事業主は労働者に対して平均賃金の60%以上を休業手当として支払う義務があると定められています。
例えば、次のようなケースが該当します。
- 事業主の経営判断で営業時間を短縮し、勤務シフトが削減された
- 人員調整を理由に、パート・アルバイトの勤務時間が減らされた
- 店舗改装や機材トラブルなど、会社都合による一時的な休業
これらはすべて「使用者の責に帰すべき事由」に含まれ、労働者の合意がなくシフトが減らされ、該当時間分の賃金が支払われない場合、休業手当の対象となる可能性があります。
賃金カットが不当かどうか
シフト減少による賃金減額が不当と判断されるかどうかは、主に以下の観点から判断されます。
- 労働契約書やシフト表に明記された勤務時間を一方的に削減していないか
- 減額(経営難など)の理由が合理的かどうか
- 労働者に十分な説明を行い、同意を得たか
- 他の従業員との公平性が保たれているか
会社都合での労働時間の短縮が認められるケース
会社都合による労働時間の短縮は、経営上やむを得ない事情がある場合に限り、合法と認められることがあります。ただし、これは労働者への十分な説明と合意が前提です。
経営上やむを得ない事情がある場合
労働時間の短縮が認められる代表的なケースとして、通常の事業継続が困難という経済的打撃を受けている場合が挙げられます。
主に以下のような状況が該当しますが、労働時間の短縮は最終手段とされています。
- パンデミックや自然災害に伴う店舗閉鎖や営業制限
- 取引先の急な倒産により受注が激減した場合
- 社会的・政治的な要請により、業務を縮小せざるを得ない場合
労働者に配慮した運用であれば違法にならない
仮に事業主の都合による労働時間短縮であっても、以下のような対応ができていれば、違法と判断されない場合があります。
- 短縮の必要性と一時的措置であることを明確に説明している
- 休業手当(平均賃金の60%以上)を支払っている
- 配置転換や時差勤務などの代替案を提示している
- 対象者の選定が恣意的でなく、客観的な基準である
例えば、売上が一時的に落ち込んだ飲食店で、店舗の営業時間を短縮せざるを得ず、パート従業員全員に休業手当を支給したケースは、適切な対応としてみなされるでしょう。
一方で、正社員は通常どおり勤務しているにもかかわらず、パートのシフトを大幅に削減して手当を支給をしないという場合、合理的理由を欠く差別的取り扱いとみなされ、違法となる可能性があります。
このように、事業主の都合での労働時間短縮が許されるのは、やむを得ない状況に加え、労働者に対する誠実な対応が取られている場合に限られます。制度としては認められていても、運用次第で法的責任を問われることもあるため、慎重な判断が必要です。
労働時間の短縮は拒否できる?
事業主から労働時間の短縮を求められた場合でも、労働者にはこれを拒否する権利があります。労働条件の変更には労使の合意が必要であり、事業主が一方的に変更することは認められていません。
同意がなければ労働時間の短縮はできない
労働契約法第8条は、労働契約の内容である労働条件は、その合意することにより変更できると明記しています。従業員が同意しない限り、事業主は一方的に労働時間を短縮することはできません。
労働契約は、労働者と事業主の双方が合意した労働条件に基づいて締結されています。したがって、事業主が一方的に労働時間を短縮することは、この合意内容の変更に該当します。
もし、事業主が従業員の同意を得ず労働時間を短縮し、賃金を減らした場合、それは違法な賃金カットとして法的に争うことが可能です。
拒否しても正当な理由があれば不利益な扱いは違法
労働時間の短縮の提案を拒否したことにより、事業主から配置転換を示唆されたり、退職を促されたりするケースもあります。しかし、これらが報復的な措置や不当な目的によるものである場合、労働契約法や労働基準法に違反する可能性があります。
例えば、次のような対応は違法とされる可能性があります。
- 労働時間短縮の同意を拒否した直後に人員整理の対象にされる
- 正当な理由のない降格・減給処分を受ける
- 退職届の提出を強要される
このような不当な扱いを受けた場合、労働者は、以下の対策を講じましょう。
- 拒否理由を文書で明確に伝える
- 勤務先との交渉内容を記録として残しておく
- 労働基準監督署、労働局、労働組合、弁護士などに相談する
事業主が違法と知っておきながら強制的に話を進めようとする場合もあるため、拒否したい場合は、同意できない理由を明確に伝え、事業主との対話を試みることが重要です。
また、事業主の対応に不安を感じる場合は、労働組合や労働基準監督署、弁護士などの専門機関に相談することを検討しましょう。
労働時間を減らされたときの対応策
労働時間を一方的に減らされた場合、泣き寝入りすることなく、適切な対応を取ることが大切です。状況に応じた具体的な対応策を知っておきましょう。
事業主との話し合いを試みる
まず、事業主に対して労働時間短縮の理由や期間、今後の見通しについて説明を求めましょう。疑問点や懸念事項を具体的に伝え、納得できる解決策を話し合うことが重要です。
話し合いの際には、日時や内容を記録しておくことをおすすめします。例えば、議事録を作成したり、メールでやり取りを残したりすることで、後々の証拠として活用できます。
この段階で、事業主が誠実に対応し、合意形成に向けて努力すれば、法的手段を取らずに解決できることもあります。
ほっとラインに相談する
事業主との話し合いで解決しない、または対応に不信感がある場合は、労働条件相談「ほっとライン」(※厚生労働省の委託事業)に相談しましょう。
相談する際は、次のような資料を用意しておくと、やり取りもスムーズです。
- 雇用契約書、労働条件通知書
- シフト表や給与明細
- 勤務先とのやり取り(メール・チャット・録音など)
- 就業規則や変更通知書
事業主の法令違反が明らかな場合、労働基準監督署は是正勧告や指導を行うことができます。
相談は無料であり、匿名でも受け付けてもらえます。匿名での相談の場合は、事実関係の特定が難しく、事業所への具体的な指導や是正勧告には至りにくい場合があります。より実効性のある対応を求める場合は、実名での相談が望ましいとされています。
弁護士に相談する
ほっとラインに相談しても解決しない、あるいはより複雑な法的問題が絡む場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談することを検討しましょう。
弁護士は、以下のような対応をしてくれます。
- 会社との交渉代理(内容証明の送付、協議など)
- 労働審判や訴訟のサポート
- 損害賠償請求や賃金の支払請求の提起
初回の無料相談に対応している法律事務所もありますので、まずは相談してみましょう。
証拠を集めておけば交渉・法的手続きに有利になる
労働時間の一方的な削減や賃金カットに対して正当性を主張するためには、客観的な証拠の提示が不可欠です。証拠としては、労働契約書、就業規則、シフト表、給与明細、事業主からの指示書やメール、チャットの履歴などが挙げられます。口頭でのやり取りも、可能であれば録音しておくことも有効な証拠となり得ます。
証拠に出せるものが多ければ多いほど、交渉時や法的手続きで主張の信頼性が高まり、有利に働くことになります。
労働時間を短くされたときの違法性と対処法を知っておこう
労働時間を一方的に短くされた場合、それが事業主の都合であっても、労働者の同意なしに変更することは原則として認められません。休業手当の支払い義務や契約内容の不利益変更の判断基準を把握し、適切に対応することが大切です。
事業主との話し合いを重ねても解決しない場合は、ほっとラインや弁護士などの専門機関に相談しましょう。
証拠を残し、冷静に対処することで、労働条件を守る道は開けます。労働時間を短くされたと感じたときこそ、正しい知識と行動が重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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