- 更新日 : 2025年8月6日
同一労働同一賃金は福利厚生にも適用?正社員と非正規の待遇差の見直し方
同一労働同一賃金という言葉を耳にする機会が増え、企業の経営者や人事・労務担当者の中には、その対応に頭を悩ませているかもしれません。給与だけでなく福利厚生にも影響が生じるため、現状の福利厚生制度で待遇差が生じていないか確認することが必要です。
本記事では、同一労働同一賃金が福利厚生にどのように影響するかを解説します。法律やガイドラインを踏まえ、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員を含むすべての従業員にとって公平な福利厚生制度を構築するための具体的な見直し方法、企業成長につなげるためのヒントを解説します。
目次
同一労働同一賃金は福利厚生にも適用される?
同一労働同一賃金の原則は、給与だけでなく、通勤手当、出張旅費、教育訓練、食堂利用、慶弔休暇、健康診断などの福利厚生にも適用されます。不合理な待遇差は法律上禁止されており、企業は「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」を総合的に考慮して待遇を決定しなければなりません。
また、正社員と非正規社員(パート、アルバイトなど)の間で不合理な待遇差を設けることも禁止しています。
同一労働同一賃金とは?
同一労働同一賃金は、同じ内容の仕事(職務内容・責任・配置の変更範囲等)が同じ場合に、不合理な待遇差を設けてはならないという考え方です。2020年4月に施行されたパートタイム・有期雇用労働法(旧パートタイム労働法)と、労働者派遣法の改正によって、義務となりました。
正社員と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差をなくすことを目的としており、賃金だけでなく、福利厚生や教育訓練なども対象に含まれます。
福利厚生とは?
福利厚生とは、企業が従業員やその家族の生活の安定や豊かさの向上を目的として提供する、給与以外の報酬やサービスを指します。
法定福利厚生(健康保険、厚生年金、雇用保険など、法律で義務付けられているもの)と、法定外福利厚生(住宅手当、通勤手当、社員旅行、慶弔見舞金、健康診断における人間ドック補助、保養所利用など、企業が任意で提供するもの)があります。
同一労働同一賃金の議論においては、特に法定外福利厚生における待遇差が焦点となるでしょう。
同一労働同一賃金と福利厚生に格差があると起こりうるリスク
福利厚生に不合理な格差があると、従業員のモチベーション低下や離職率の増加、企業の評判低下、さらには法的なリスクにつながります。
アルバイト、パート、契約社員の意欲を損なう
福利厚生の格差は、パート・アルバイト・契約社員・派遣社員の意欲を大きく損なう要因となります。
「正社員と同じ仕事をしていても、食堂が使えない」「社員割引が使えない」などの不満があると、より良い待遇を求めて他社へ転職するといった「離職」するといった可能性が高まります。
待遇差は人材の定着率にも影響を及ぼす可能性が高く、その認識は経営側にも求められます。
派遣社員への待遇の格差も不満に
派遣社員が派遣先の正社員と比べて明らかな格差が見られた場合、エンゲージメントの低下や離職につながりやすくなります。
例えば、社員は割引価格で商品を購入できても、派遣社員は対象外とされていたり、社員食堂を利用できなかったりするようなケースです。こうした扱いが続いてしまうと、業務への意欲低下や契約更新への影響も懸念されます。
派遣社員の福利厚生の適用範囲は、派遣元・派遣先で分担が決まっているため、契約時に範囲と担当会社を必ず明確化し、派遣労働者にも周知することが必要です。
正社員同士の格差も問題になる
同一労働同一賃金は、主に正社員と非正規社員間の不合理な待遇差を解消する原則ですが、正社員同士の間でも、同一内容の仕事の場合は不合理な待遇差が問題となることがあります。
都市部の正社員には住宅手当が出ていても、地方
在住の正社員には支給がないといった一例も、格差として問題視されるケースがあります。
このような福利厚生の偏りは、従業員同士の一体感や協力体制を弱めてしまう可能性があるので、注意が必要です。
企業のイメージ悪化
SNSや口コミサイトの普及により、企業の評判はすぐに広まります。福利厚生の格差が「ブラック待遇」と捉えられれば、採用活動や企業ブランディングにも影響が出ます。
求職者は企業の待遇について綿密にリサーチしており、「不公平な待遇をする制度がある企業は敬遠されがちです。優秀な人材が集まりにくくなる要因にもなるでしょう。
福利厚生に待遇差があると違法になる?
福利厚生に待遇差があること自体が、直ちに違法となるわけではありません。しかし、不合理な待遇差はパートタイム・有期雇用労働法や労働者派遣法によって禁止されています。特にパートタイム・有期雇用労働法に基づく、同一労働同一賃金ガイドラインに違反するケースは注意が必要です。
不合理な待遇差を判断する
福利厚生における不合理な待遇差の判断は、厚生労働省が公開している「同一労働同一賃金ガイドライン」が重要な指標となります。
このガイドラインでは、個々の福利厚生について、どのような場合に不合理な待遇差となるか、具体的な例を挙げて示しています。
例えば、食堂の利用や慶弔休暇、病気休職といった福利厚生は、基本的にすべての労働者に同様に付与されるべきとされています。一方で、住宅手当や家族手当のように、生活を補助する目的の福利厚生については、その支給目的や状況に応じて異なる取り扱いが認められるケースもありますが、合理的な説明が求められます。
違法と判断される具体的なケース
福利厚生における待遇差が違法と判断される具体的なケースとしては、以下のようなものがあります。
- 通勤手当の不支給:正社員には通勤手当を支給していても、職務内容や責任の程度が同じパート・アルバイトには支給しない場合
- 食堂利用の制限:正社員のみ食堂の利用を認め、非正規雇用労働者の利用を制限する場合
- 慶弔休暇・見舞金の不支給:正社員には慶弔休暇や慶弔見舞金を支給するが、同一の事由が発生した非正規雇用労働者には支給しない場合
- 法定外健康診断の機会の不均等:正社員には人間ドックなどの法定外健康診断の機会を提供していても、非正規雇用労働者には提供しない場合。
これらのケースでは、雇用形態の違いを理由とした待遇差であり、不合理と判断される可能性が高いでしょう。
同一労働同一賃金と同様に福利厚生はどこまで適用すべき?
アルバイトやパートなど非正規社員への福利厚生の適用範囲は、企業の判断に委ねられる部分もありますが、原則として不合理な待遇差をなくすことが求められます。
企業に一定の裁量はありますが、パートタイム・有期雇用労働法や労働者派遣法により、雇用形態のみを理由とした不合理な待遇差を設けてはならないと定められています。その判断基準は、同じ内容の仕事(職務内容・責任・配置の変更範囲など)か否かということになります。
職務内容と責任の程度に応じた適用基準を設ける
アルバイトやパートなどへの福利厚生の適用を検討する際には、まずその従業員が担当する職務内容や責任の程度を明確に評価しましょう。
正社員と同じ職務を同じ責任で遂行している場合は、給与だけでなく、通勤手当、出張旅費、食事補助、健康診断、慶弔休暇、病気休職といった基本的な福利厚生は同等に提供することが望ましいでしょう。
企業独自の制度で満足度を高める
企業独自の福利厚生は法律で義務付けられていませんが、非正規社員への適用を検討したいところです。例えば、以下のような福利厚生は、従業員の満足度向上に寄与し、優秀な人材の発掘と定着につながるでしょう。
- 社内割引制度
自社の商品やサービスを従業員価格で購入できる制度。従業員のエンゲージメント向上につながります。 - スキルアップ支援制度
資格取得費用や研修費用の補助制度。非正規社員のキャリア形成を後押しし、企業全体の知見や業務品質の底上げにもつながります。 - レクリエーション施設の利用補助
スポーツジムや保養施設などの利用補助制度は、従業員の心身のリフレッシュを促し、健康管理の支援にも役立ちます。
これらの福利厚生は、従業員のモチベーション向上や組織の一員として尊重する姿勢を示す有効な手段です。結果的に、職場への定着・貢献意欲の向上という形で企業にもプラスに働くでしょう。
同一労働同一賃金と福利厚生の企業事例
ここでは「福利厚生」の項目で、全従業員への適用が明記されている企業事例を紹介します。
従業員への割引制度:株式会社良品計画(無印良品)
無印良品を展開する株式会社良品計画では、パートタイマーやアルバイトも、正社員と同様に従業員割引制度を適用しています。これにより、全従業員が自社製品を割引価格で購入できる仕組みとなっており、福利厚生の格差を解消する姿勢が明確に示されています。
参照:待遇・福利厚生|良品計画
食事の補助制度:株式会社サイゼリヤ
株式会社サイゼリヤでは、店舗で働くアルバイトやパートタイマーを含む全従業員を対象に、食事補助制度を設けています。初勤務の日からメニューが5割引きで食べられる制度で給与天引きの後払い制が採用されています。
全パートナー対象の割引:スターバックス コーヒー ジャパン
スターバックス コーヒー ジャパンでは、「パートナー」と呼ばれる全従業員(正社員、契約社員、アルバイト・パートを含む)に対し、さまざまな福利厚生を提供しています。
代表的な制度として、全店舗で利用できる30%のパートナー割引や、週1回のコーヒー豆支給(パートナービーンズ)があります。
また、eラーニングの受講補助も導入されており、雇用形態に関係なくスキル向上の支援も行われています。
福利厚生の格差をなくすには?見直しの進め方
福利厚生の格差に対応するためには、制度の見直しと社内への丁寧な説明が欠かせません。計画的に進めましょう。
現状の制度を棚卸しする
福利厚生の見直しは、まず現状を把握するところから始めます。現在提供している福利厚生を一覧化し、各制度がどの雇用形態の従業員に適用されているかを確認しましょう。具体的なステップは以下のとおりです。
- 福利厚生をリストアップする:法定福利と法定外福利を区別して一覧にします。
- 適用範囲を確認する:正社員、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員(派遣元・派遣先)ごとに適用状況を整理します。
- 待遇差を洗い出す:雇用形態間で差がある項目を抽出します。
- 合理性を検証する:職務内容や責任の有無、転勤の有無などをもとに、差が妥当かどうかを検討します。
公平な福利厚生制度を設計する
待遇差に合理性がないと判断された場合は、福利厚生の制度を再設計します。設計のポイントは次のとおりです。
- 原則として一律に適用する項目:通勤手当、出張旅費、社員食堂の利用、慶弔休暇、健康診断、病気休職中の取り扱いなどは、職務に関わらず、全従業員に提供することが望まれます。
- 合理的な理由で差を設ける項目:住宅手当や家族手当、退職金など、支給の目的が限定される制度は、その理由を明示します。例えば、「住宅手当は転勤者向け」「退職金は長期雇用への対価」といった考え方を、社内にきちんと伝えるのが適切です。
- 選択型制度の導入を検討する:カフェテリアプランのように、従業員が福利厚生を選べる制度は、公平性と柔軟性の両立が図れます。
変更点を従業員に説明し、理解を得る
制度を見直したあとは、すべての従業員に対して背景や内容をわかりやすく説明することが不可欠です。説明会の開催、社内報やイントラネットでの周知、制度概要の配布資料などを活用しながら、丁寧な情報提供を行いましょう。また、従業員からの質問や相談を受け付ける窓口を設けておくことで、不満や誤解の防止につながります。
同一労働同一賃金に即した福利厚生の見直しで企業価値を高める
同一労働同一賃金の原則は、給与にとどまらず福利厚生にも及びます。企業が不合理な待遇差を放置すれば、従業員の不満や離職、ひいては企業の信頼失墜や人材確保の難航といったリスクを招きかねません。
本記事で紹介したように、職務内容に応じた公平な制度を設計し、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員などすべての従業員に丁寧に説明することが大切です。公平な制度を構築することで、社員の安心感を高め、企業価値の向上につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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