- 更新日 : 2025年8月6日
年途中の時短勤務で有給はどう変わる?賃金や付与日数の計算方法を解説
年の途中でフルタイムから時短勤務へ勤務形態を変更した場合、有給休暇の残日数や取得時の賃金がどのように取り扱われるのか、気になる方もいることでしょう。本記事では、有給の付与日数や支給される賃金の計算方法、勤務変更時の注意点について、分かりやすく解説します。
目次
時短勤務で有給はどう変わる?
勤務時間が短くなっても、所定労働日数と勤続年数を満たしていれば、有給休暇は付与されます。
有給の付与日数
有給の付与日数は、勤務形態(フルタイムか時短か)ではなく、「継続勤務年数」と「週の所定労働日数」によって決まります。
例えば、1日の労働時間を8時間から6時間に短縮しただけで、週5日勤務という点が変わらなければ、有給休暇の付与日数はフルタイム勤務者と同じです。これはフルタイムだけでなく、時短勤務者やパートタイム労働者にも同様に適用されます。
有給休暇の付与日数が少なくなるのは「比例付与」の対象となる場合です。週の所定労働日数が4日以下であり、かつ週の所定労働時間が30時間に満たない場合、適用されます。例えば、週5日勤務だった従業員が、時短勤務への変更に伴い週4日勤務になった場合は、フルタイム勤務者よりも付与日数が少なくなります。
以下のとおり、有給休暇の付与基準を表にしてまとめています。
▼ 有給休暇の付与基準の一例
勤続年数/ 週の所定労働日数 | 0.5年 | 1.5年 | 6.5年以上 |
---|---|---|---|
5日以上 | 10日 | 11日 | 20日 |
4日 | 7日 | 8日 | 15日 |
3日 | 5日 | 6日 | 11日 |
時短勤務での有給の賃金
時短勤務になると、1日あたりの労働時間が減るため、有給を取得した場合の賃金も少なくなる場合があります。
有給休暇の賃金は、平均賃金、通常の賃金または労使協定に基づく健康保険法上の標準報酬日額相当額で計算されるため、1日の勤務時間が短くなれば、その分だけ有給取得時の給与も減ることになります。
- 月給制:時短勤務により、短縮された労働時間分が給与から控除されるのが一般的です。有給1日分の賃金相当額も、変更後の給与水準に基づいて再計算されます。
- 時給制:時給はそのままでも、1日の所定時間(例:6時間分)の給与になります。
例えば、8時間勤務から6時間勤務へ変更した社員が有給を取得した場合、支払われるのは6時間分の給与となります。
これは制度上適切な処理ですが、従業員側は「同じ1日分なのに減った」と誤って解釈してしまい、誤解が生まれやすい部分でもあります。
年の途中で時短勤務に変わったときの有給の扱い
年の途中でフルタイムから時短勤務へ変更した場合、すでに付与されている有給休暇の残日数はそのまま引き継がれます。また、時短勤務後に有給休暇を取得した際の賃金は、時短勤務へ変更「後」の契約に基づいて計算されるため注意が必要です。
付与済みの有給休暇はそのまま引き継ぐ
フルタイムから時短勤務に切り替えたとしても、すでに付与された有給の「日数」はそのまま残ります。
例えば、4月1日に11日分の有給が付与され、10月1日から時短勤務に切り替わった場合でも、その11日分は失われずに保持されます。
有給の賃金は、時短勤務の水準になる
年の途中で時短勤務に変更し、その後に有給を取得した場合、支払われる賃金は、時短変更後の所定労働時間に基づいて計算されます。
有給休暇の賃金は、権利が発生した時点(付与された日)の契約ではなく、権利を行使した時点(取得した日)の契約に基づいて支払われます。
つまり、フルタイム(例:8時間勤務)のときに付与された有給休暇であっても、時短勤務(例:6時間勤務)の期間中に取得すれば、支払われる賃金は「6時間分」が基準となります。
時短に切り替える前に有給を使ってもよい
有給の取得は取得日を基準に処理されますが、実務上、変更前(ここではフルタイム)の有給を変更前に使っておいた方が、従業員にとって有利になるケースがあります。
- 8月末でフルタイムから時短に変更予定
- 8月中に有給を取得すれば1日8時間分の賃金
- 9月以降に取得すれば1日6時間分の賃金
月途中での変更は賃金計算や勤怠管理に注意
従業員が月の途中(例:10月16日)から時短勤務に切り替わる場合、給与計算や勤怠管理には注意が必要です。
- 給与計算:月給制の場合、変更日を基準に日割り計算が必要です。10月1日から15日まではフルタイムの給与体系で、16日から31日までは時短勤務の給与体系で計算します。
- 有給取得:10月15日に有給を取得すればフルタイム(8時間分)の賃金、10月16日に取得すれば時短勤務(6時間分)の賃金が支払われます。
勤怠管理システムで勤務パターンを複数登録できるようにしておくなど、事前の準備が円滑な運用のために不可欠です。
時短勤務からフルタイムに戻ったときの有給の調整
時短勤務からフルタイムに戻った場合の有給休暇の扱いは、基本的に有給を取得する時点の勤務条件に基づいて処理されます。つまり、有給の取得時にフルタイムであれば、賃金はフルタイムの水準となります。
一方で、有給の付与日数そのものはすぐには変わらず、次回の有給基準日までは時短勤務時の実績をもとに算出されます。 付与と取得、それぞれの基準が異なるため、運用時には注意が必要です。
すでに付与された有給はそのまま使える
勤務形態を切り替えても、すでに付与された有給が減ることはありません。例えば、時短勤務中に6日分の有給が付与されていた場合、その後フルタイムに戻っても、その6日分は失効せず、引き続き有給の取得が可能です。
週3日から週5日に変更の有給付与日数のタイミング
週3日勤務の時短から週5日のフルタイムに変更した場合、有給の付与日数は、変更後に初めて到来する「基準日」の時点で、フルタイム勤務の日数に見直されます。
この「基準日」とは、有給休暇が新しく付与される日のことで、多くの会社では入社半年後や、その1年後(例:4月1日など)に設定されています。
例えば、2026年4月1日の基準日に週5日勤務のフルタイム契約であれば、たとえ前日まで週3日の時短勤務だったとしても、原則としてフルタイムの日数が付与されます。
フルタイム後の有給取得はフルタイムの賃金で計算される
取得時点での勤務条件がフルタイムであれば、有給1日分は1日8時間分の給与として支払われます。
有給取得時の給与は、取得した日時点の勤務条件(所定労働時間)に基づいて計算されます。
そのため、時短勤務中に付与された有給でも、フルタイムに戻ってから取得すれば、1日8時間分の給与が支払われることになります。
- 時短勤務(6時間)中に有給を付与される
- フルタイム復帰後に有給を1日取得
- 支給されるのは8時間分の給与(復帰後の所定労働時間)
勤務形態の変更を台帳とシステムに反映させる
勤務区分が変わると、有給管理や賃金計算時も変更されます。そのため、以下の3点について社内の人事・給与システムに正しく反映させる必要があります。
① 勤務形態変更の事実を台帳に記録
「変更日」「変更前後の所定労働時間・労働日数」「変更理由」を人事台帳に記録することで、有給の付与基準や単価の誤算を防ぐことができます。
② 勤怠・給与システムへの連携
給与計算システムや勤怠管理ソフトには、勤務区分の変更と有給単価の再設定が必要です。反映が遅れると、以下のような問題が発生します。
- フルタイム復帰後に時短勤務だったときの単価で有給が処理される
- 勤務実績が正しく反映されず、次年度の付与日数に間違いが発生する
- 制度改定の内容と社内の実運用にズレが生じる
③ 労働条件通知書・契約書の更新
勤務形態の変更に伴い、労働条件通知書または雇用契約書を更新し、従業員へ交付します。これは労働契約法第15条に基づく義務であり、トラブル回避の観点からも必要です。
時短勤務者の有給に関する社内ルール整備のポイント
時短勤務制度を円滑に運用し、有給休暇に関するトラブルを防ぐには、企業側でルールを明文化し、部署間での管理体制を整えることが欠かせません。特に就業規則への記載内容と、経理・人事部門の連携状況が、制度運用の安定性を大きく左右します。
就業規則に明確な基準を定める
就業規則は、会社の労働条件の基盤となるルールブックです。時短勤務者の有給休暇に関しても、以下の項目を具体的に明記する必要があります。
- 賃金の計算方法を定める
有給休暇取得時の賃金を平均賃金、通常の賃金または労使協定に基づく健康保険法の標準報酬日額相当額のいずれで支払うのかを明文化しておきます。記載がなければ、労働基準法では原則として「所定労働時間分の賃金」での支払いになります。 - 時間単位年休の取り扱いを明確にする
時間単位での有給休暇を導入している企業は、対象者(全社員か限定社員か)、取得単位(1時間ごと、30分単位など)、1日の労働時間に応じた時間換算ルール(例:6時間勤務者の0.5日=3時間)などを明記しておく必要があります。 - 勤務形態変更の申請・復帰手続きの流れを定める
時短勤務の申請方法、適用期間、フルタイム復帰時の届出手順も記載します。事前届出の期限や必要書類がある場合は、明示しておくと運用がスムーズです。
経理・人事が押さえておくべき管理ポイント
実務上、有給休暇の管理は人事・労務と経理・給与担当の連携が不可欠です。情報が共有されないと、誤った賃金計算や労使トラブルにつながるリスクがあります。
- 勤務形態の変更情報を即時共有する
勤務パターンの変更(所定労働時間・週の勤務日数・変更日など)を、人事部が経理・給与担当に即時伝達する体制を整えておきます。特に「月途中での変更」は対応の遅れがトラブルを招く要因になることもあります。 - システムの処理内容を事前に確認する
勤怠・給与システムが、勤務形態の変更や時間単位の有給、月途中の変更に対応できるかをあらかじめ確認します。対応できない場合は、人の目で確認するフロー(例:ダブルチェック・手入力記録)を設けることで補完できます。 - 問い合わせ対応のルールを整えておく
有給休暇に関する問い合わせは、現場社員から突然入ることが想定されます。そのため、どの部署がどこまで答えるのか、想定問答(FAQ)や回答の分担ルールを決めておくことで、対応のバラつきを防げます。
制度の変更や適用条件は定期的に見直す
時短勤務や有給の扱いは、法改正や人事制度の見直しによって変更する場合があります。そのため、以下のようなタイミングで社内制度の点検と更新を習慣化しておきましょう。
- 毎年の労務監査や評価制度の見直しタイミング
- 法改正(例えば、時間単位年休のルール見直しなど)
- 社員からの声やトラブル報告を受けたとき
また、新制度や改定内容は、イントラネットや配布資料で従業員にも周知徹底することが重要です。
時短勤務の有給ルールを整備し、円滑な労務管理を実現する
年の途中でフルタイムから時短勤務へ変更した場合、有給休暇の残日数はそのまま引き継がれますが、取得時の賃金は変更後の勤務条件に応じて支払われます。逆に、時短勤務からフルタイムに戻った場合でも、有給の付与日数はすぐには変わらず、次の基準日に勤務実績が反映されます。
こうした取り扱いの違いにより、従業員が「損をしている」と感じやすい場面があるのも事実です。企業側は、労働基準法の原則に基づいて制度の仕組みを正しく理解し、勤務変更前に丁寧な説明を行うことが求められます。
そのうえで、就業規則に明確なルールを記載し、人事・経理部門が連携して正確な賃金計算・有給管理ができる体制を整備することが、トラブルの回避につながります。
有給制度を正しく運用することで、従業員の信頼を得やすくなり、結果的に安心して働ける職場づくりと、労務管理の効率化を両立できます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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