• 更新日 : 2025年8月6日

派遣社員は産休が取れる?契約期間の関係や給与、給付金を解説

派遣社員として働く方でも、一定の条件を満たせば産休(産前産後休業)を取得できます。ただし、契約期間が短い、契約終了が近いといった場合、手続きや支給対象に不安を抱える方も少なくありません。

本記事では、派遣社員が産休を取得できる条件、手続きの流れ、契約終了との関係、育休との連動までをわかりやすく解説します。

派遣社員でも産休は取れる?

派遣社員であっても、契約が継続していれば産前産後休業(産休)を取得することが可能です。労働基準法第65条により、雇用形態を問わず、出産予定日の6週間前(多胎妊娠は14週間前)から産前休業、出産翌日から8週間は産後休業の取得が認められています。また、産後8週間は就業させてはならないとされており、これは正社員・契約社員に限らず、派遣社員も適用されます。

派遣先の契約が短期(1ヶ月、3ヶ月など)であっても、産休の開始日時点で契約が有効であれば取得できます。注意点は、産休開始日より前に契約が終了し、更新されない場合です。この場合、雇用関係がなくなるため、派遣元で産休を取得することはできません。

手続きに関しては、派遣先企業ではなく雇用主である派遣元(派遣会社)を通じて行う必要があります。

また、妊娠や産休を理由に契約を更新しない対応は、男女雇用機会均等法に抵触するおそれがあります。契約更新の有無については、事業主側も合理性と公平性を持って判断することが必要です。

派遣社員の産休取得に必要な条件

派遣社員の産休取得の条件は、「産休を開始したい日において、派遣元との雇用契約が有効であること」です。

例えば、産前休業を8月1日から開始したい場合、8月1日時点で雇用契約が継続していなければ、その派遣元で産休に入ることはできません。この場合、7月31日で契約が修了した場合は、産休取得の対象外です。

妊娠や産休の申し出を理由に契約を更新しないことは、男女雇用機会均等法で禁じられている不利益な取り扱いにあたります。これはあくまでプロジェクトの終了など、妊娠とは無関係の正当な理由で契約が終了する場合に限られます。

上記の条件を満たしていれば、雇用形態を問わず、出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から産休を取得することが可能です。実際に休業に入るためには、以下の2点を派遣元に提出・確認する必要があります。

  • 出産予定日の証明(母子健康手帳や医師の診断書など)
  • 休業の意思表示(産前休業にいつから入るかの希望)

派遣社員の産休取得と契約期間の関係

派遣社員の産休そのものは法律で認められた権利ですが、その権利を実際に行使するには、産休中も雇用関係が存続している必要があります。ここでは、派遣社員の産休取得との契約に関する留意点をまとめました。

契約終了前に産休に入る場合

契約期間中は、派遣社員も問題なく産休を取得できます。このとき、特に重要なのは産休中および産休明けの契約更新の取り扱いです。本人が復帰を希望している場合、派遣元は原則として契約更新を前提に準備を進める必要があります。

実務的には、産休前にあらかじめ契約更新について合意を得ておくと、本人も安心して休業に入ることができ、後々のトラブルを回避しやすくなります。

産休中に契約が満了する場合

産休の途中で契約期間が終了する場合は、判断に注意が必要です。本人が復帰を希望している場合、派遣元は事業終了などのやむを得ない合理的理由がある場合を除き、産休を理由とした雇止めは違法です。仮に、プロジェクトの終了などによる明確な業務終了が理由であれば、契約満了によって雇用を終了すること自体は認められます。

ただし、その終了が産休取得と時期的に重なることで「産休を理由とした雇い止め」と見なされ、男女雇用機会均等法に抵触するおそれが高くなります。派遣元は契約終了の理由が客観的・合理的であることを証明できるよう準備し、できる限り契約を更新して継続雇用とすることが望ましい対応です。

産休明けに契約が満了する場合

産後8週間の休業終了後に契約満了日を迎える場合、その後に育児休業を取得できるかが問題になります。育児休業を取得するためには、「子が1歳に達する日を超えて、引き続き雇用されることが見込まれること」という要件があります。

契約の更新予定がなく、雇用継続の見込みがないと判断されると、育児休業や育児休業給付金の対象外になります。

こうした状況を防ぐには、産休前の段階で本人と復帰後の働き方について話し合い、雇用の継続が見込まれる形を整えることが求められます。派遣元は、事前に十分な対話を行い、将来の雇用計画を明確にしておくことが重要です。

派遣社員の産休中に受け取れる給付金や給料は?

産休期間中、企業には従業員に給料を支払う義務はなく、これは派遣社員も同様です。そのため、派遣元企業から給与が支給されることは通常ありません。その代わり、生活を支えるための各種給付金制度が設けられており、要件を満たせば派遣社員も利用できます。

出産手当金

出産手当金」は、出産に伴い会社を休み、休業中に給与の支払いがない場合に健康保険から支給される給付金です。派遣社員がこの手当を受け取るには、派遣元企業の健康保険に被保険者として加入している必要があります。

  • 対象者:産休開始時点で健康保険の被保険者である人
  • 支給額:標準報酬は日額の3分の2程度
  • 支給期間:産前42日間(双子以上は98日)+産後56日間

支給額の算出方法は、以下のとおりです。

支給開始日前12ヶ月間の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 3分の2

この数式で1日あたりの金額が計算されます。

出産育児一時金

「出産育児一時金」は、健康保険の被保険者またはその被扶養者が出産した場合に支給される一時金です。原則として1児につき50万円が支給されます。

この制度は、出産にかかる医療費の補助を目的としており、多くの医療機関では「直接支払制度」により、健康保険組合へ請求が行われます。

そのため、実際には出産費用を本人が立て替える必要はなく、退院時に差額を支払うだけで済むケースがほとんどです。

社会保険料の免除手続き

産休期間中は、健康保険料および厚生年金保険料が、本人・会社ともに免除されます。これは、派遣元企業が年金事務所へ「産前産後休業取得者申出書」を提出することで適用されます。

この免除制度は、被保険者資格を維持したまま適用され、将来の年金額の計算でも「保険料を納めた」として扱われます。派遣社員にとっても非常にメリットが大きいため、派遣元に確認のうえ、確実に手続きを行うことが大切です。

参考:6-1:産前産後休業を取得し、保険料の免除を受けようとするとき|日本年金機構

派遣社員が産休を取得する流れ

派遣社員が産休を取得するには、雇用主である「派遣元企業」と連携しながら進める必要があります。以下のステップに沿って準備を進めましょう。

  1. 医師から出産予定日を記載した証明書(母子手帳など)をもらう
    妊婦健診を受け、医師から出産予定日を記載した証明を取得します。これは申請時に必要となるため、早めの準備が安心です。
  2. 派遣元に妊娠・出産予定を報告し、産休申請の意思を伝える
    妊娠が確認できたら、速やかに派遣元の担当者に報告し、産休を取得したい旨を伝えます。出産予定日や休業開始予定日も一緒に知らせるとよいでしょう。
  3. 派遣元から必要書類(産前産後休業申請書など)を受け取り、記入・提出する
    派遣元から所定の申請書類を受け取り、必要事項を記入して提出します。

    • 産前産後休業取得者申出書:社会保険料の免除を受けるために、派遣元が年金事務所へ提出します。
    • 出産手当金支給申請書:出産手当金を受け取るために、本人が記入し、医師や助産師、そして派遣元の証明を受けて健康保険組合へ提出します。
    • 育児休業申出書:産休に引き続き育休を取得する場合に提出します。

    出産予定日や健康保険の被保険者番号など、記入内容には注意が必要です。

  4. 産休期間の給与・給付金に関する説明を受ける
    出産手当金や出産育児一時金、社会保険料の免除について、派遣元から説明を受けます。不明な点はその場で確認し、必要な書類の手配も済ませます。
  5. 産休開始前に派遣先へ業務引継ぎや退職・復帰予定の相談を行う
    実際の業務を行っている派遣先にも、引継ぎや今後の契約見通しについて共有が必要です。可能であれば復帰時期の希望も伝えておくと、派遣元の対応が円滑になります。

この一連の流れは、原則として産前6週間前(双子以上は14週間前)までに済ませておくのが望ましいです。

派遣社員の産休で企業が注意すべき3つの注意点

派遣社員から産休の申し出があった場合、企業の対応の一つで法的トラブルや信頼関係の崩壊につながることもあります。ここでは、人事・労務担当者が押さえておきたい注意点を「手続き」「対応」「契約」の3つの観点から解説します。

1. 手続きにおける注意点

派遣社員の産休手続きは、雇用主である派遣元が中心となって行います。申請漏れや対応の遅れは、本人だけでなく企業にも不利益となるため、正確な管理が必要です。

社会保険料の免除は、派遣元が「産前産後休業取得者申出書」を管轄の年金事務所へ提出することで適用されます。申出書を忘れると、不要な保険料を支払うことになり、本人・会社ともに負担が生じます。

また、「出産手当金」の申請では派遣元が事業主欄に記入・押印する必要があります。本人に代わり、書類の案内や手続きをスムーズに行える体制を整えておきましょう。

さらに、派遣先との連携も欠かせません。業務の引継ぎや代替要員の調整は派遣先との協議が不可欠です。三者間での情報共有を早めに行い、休業前の不安を軽減するよう努めましょう。

2. 企業の対応における注意点

前述のとおり、妊娠・出産した従業員への不利益な取り扱いは、法律で禁止されています。派遣元も派遣先も、安心して働ける環境づくりに責任を持たなければなりません。

特に妊娠や出産を理由とした契約終了、減給、配置転換などは、男女雇用機会均等法違反に該当します。

また、つわりや体調悪化などで勤務に支障をきたす場合、医師の指導をもとに休憩の延長や業務の軽減といった母性健康管理措置を講じる必要があります。

マタハラ防止のための相談窓口の設置や管理職研修も、法令に基づく企業の義務です。これらは派遣元だけでなく、実際に業務指示を出す派遣先にも同様に課せられます。

3. 契約における注意点

派遣社員は有期雇用であることが多いため、「産休中に契約が満了したらどうするか」が気になるという方も少なくありません。

妊娠・出産を理由に契約を更新せず終わらせるのは、原則として認められません。契約を終了するには、業務終了や人員整理など、誰が見ても合理的といえる理由が必要です。

また、契約を更新する際の判断基準は、妊娠や出産とは無関係でなければなりません。勤務態度、実績、会社の業績など、本来の評価基準に沿って判断することが求められます。

復帰後、時短勤務や勤務場所の変更がある場合は、事前に内容を確認し、労働条件通知書などで必ず明示しましょう。口頭でのやり取りだけでは誤解が生じやすく、トラブルのもとにつながります。

派遣社員は産休取得後に育休も取れる?

派遣社員も産休に続いて育児休業(育休)を取得することも可能です。育児・介護休業法の改正により、以前よりも取得しやすくなっています。

派遣社員が育休を取得するための主な要件は、申出時点での労働契約が子の1歳6ヶ月に達する日までに満了することが明らかでないことです。このほか、労使協定で「勤続1年未満」の労働者が対象外と定められている場合もあります。

育休を希望する場合は、産休開始前の時点で派遣元に継続雇用の可能性を確認し、書面などで明示してもらうと安心です。

ここでは、派遣社員の産休について、以下のとおり、まとめました。

育児休業給付金の受給資格

育休中は、雇用保険に基づき「育児休業給付金」が支給されます。受給には次の要件が必要です。

  • 育休開始前2年間に、11日以上働いた月(または80時間以上働いた月)が12ヶ月以上あること
  • 育休中に、賃金の8割以上の給与が支払われていないこと

契約が育休中に終了することが決まっている場合、育児休業給付金の支給対象とはなりません。

育休復帰後の働き方を相談する

復帰後は、保育園の送迎や家庭の事情で、勤務条件の調整が必要になることもあります。派遣元は、復帰前に面談を行い、勤務時間・場所・業務内容などの希望を聞いたうえで、適切な派遣先を検討します。こうした柔軟な対応が、派遣社員の継続的な就業と定着にもつながります。

派遣社員が産休を取得するには計画性が必要

派遣社員であっても、産休を取得することは可能です。ただし、派遣契約は1〜3ヶ月などの短期である場合もあるため、産休の取得可否は契約期間のタイミングに大きく左右されます。

産休中に契約が終了してしまうと、出産手当金の支給や育児休業の取得にも影響が及ぶため、事前の計画と派遣元との密な連携が欠かせません。

安心して出産・育児に臨むためには、まずは自分の契約状況を正確に確認し、必要な手続きを早めに進めておくことが大切です。

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