• 更新日 : 2025年8月6日

賃金月額とは?交通費や手当は含まれる?使われる場面や計算方法を解説

賃金月額は、雇用保険の各種給付額を決める際に用いられる基準であり、制度ごとに定義や対象が異なります。本記事では、賃金月額の意味と計算方法、含まれる手当・含まれない手当の区別、使われる場面まで、実務に役立つ情報をわかりやすく解説します。

賃金月額とは?

賃金月額とは、離職日の直近6ヶ月間に支払われた賃金の総額を180で割り、30を掛けて算出された金額のことです。ここでの「賃金」とは、基本給・手当・残業代・深夜手当・休日手当など、労働の対価として支払われた賃金を指します(賞与・退職金などの一時金は除く)。

給付金の公平な算定を目的とした指標

賃金月額が必要とされる理由として、休業時でも従業員が一定の生活水準を維持できるようにするための制度の目的があるからです。支給額に月ごとのバラつきが生じないよう、できるだけ安定して受け取った金額を基に算定する仕組みとなっており、実態に即した基準額を把握することが重要です。

この金額を算出し、「休業開始時賃金月額証明書」に記載して提出するのは、企業の人事・労務担当者または経営者の役割です。金額の誤りは従業員の給付額に影響するため、正確な計算と運用が求められます。

賃金月額とその他の賃金との違い

賃金月額は、基本給や標準報酬月額、手取り額といった、他の賃金関連用語と混同されやすいですが、それぞれ性質や用途、計算に含まれる要素が異なります。

賃金月額と基本給の違い

基本給は、年齢・勤続年数・職務内容などに基づいて定められる、給与の基本的な部分です。賃金月額は、基本給だけでなく、諸手当(役職・資格・住宅・通勤手当など)、および残業代や深夜手当、休日手当なども含めた、毎月の賃金総額(賞与など一時金は除く)です。

賃金月額と標準報酬月額の違い

標準報酬月額は、健康保険や厚生年金保険など社会保険の保険料計算や年金額の基礎として用いられる金額です。

毎年4月から6月の3ヶ月間に支払われた賃金の平均をもとに等級表に当てはめて決定され、その年の9月から翌年8月まで適用されます。

賃金月額との大きな違いは、標準報酬月額には通勤手当(交通費)や変動手当も含まれる点です。目的が社会保険料の算定であるため、より広範囲の手当となっています。

賃金月額と手取り額の違い

手取り額は、従業員が実際に受け取る金額のことで、総支給額から社会保険料や所得税、住民税などを控除した後の金額を指します。

賃金月額には、賞与(ボーナス)は含まれませんが、残業代や深夜手当、休日手当などは含まれます。給付金制度に関する問い合わせがあった際には、この違いを正しく伝えることが求められます。

賃金月額が使われる主なケース

賃金月額は、従業員のライフイベントや企業の雇用維持支援に関連する給付制度において、給付額の基準として使われています。ここでは、代表的な使用ケースを紹介します。

育児休業給付金の算定に使われる

育児のために一定期間職場を離れる従業員には、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。休業中の所得を補うことが目的です。

支給額は「休業開始時の賃金日額 × 支給日数 × 67%(6ヶ月経過後は50%)」で計算されますが、この「賃金日額」を求める際に、賃金月額が基準として使われます。

介護休業給付金の算定にも用いられる

介護のために休業する従業員が対象となる介護休業給付金も、賃金月額をもとに支給額が決まります。

休業前6ヶ月分の安定した賃金をもとに日額を算出し、67%相当の金額が支給されます。申請には「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」の提出が必要であり、急な介護による収入減少を防ぐための制度として活用されています。

高年齢雇用継続基本給付金の基準になる

60歳以降も働き続ける従業員が、60歳時点の賃金よりも75%未満に下がった場合、その差額を補う目的で支給されるのが高年齢雇用継続基本給付金です。

この際、60歳に到達した時点の賃金月額と支給対象月の実際の賃金額を比較し、減少率に応じて給付額が決まります。

賃金月額の計算方法

賃金月額は、雇用保険の「基本手当」(いわゆる失業給付)における「基本手当日額」を算出する金額です。対象となる期間と賃金項目を正しく整理すれば、計算自体は複雑ではありません。ここでは、実務で迷わないための基本的な流れを紹介します。

1. 算定対象期間の決定

賃金月額の計算の基準となるのは、「休業開始日前6ヶ月間」に支払われた賃金です。この6ヶ月間には、賃金支払基礎日数が11日以上ある月をカウントします。11日未満の月(たとえば長期欠勤があった月など)は除外し、6ヶ月分そろうまでさかのぼります。

2. 賃金総額の集計

算定に用いる賃金には、離職理由を問わず、労働の対価として支払われた全賃金(基本給、役職手当、残業代、深夜手当、通勤手当など)が含まれます。臨時的な賞与や退職金など、一部の例外を除き、ほぼすべての賃金項目を合算します。

【例】
  • 基本給:300,000円
  • 役職手当:50,000円
  • 住宅手当:20,000円
  • 通勤手当(交通費):15,000円
  • 時間外手当:35,000円
    → 賃金月額に含める金額=300,000 + 50,000 + 20,000 + 15,000 + 35,000 = 420,000円/月
    → 6ヶ月分の賃金総額=420,000 × 6 = 2,520,000円

3. 賃金日額を計算する

前述の6ヶ月分の対象賃金をもとに、以下のように計算します。

  1. 6ヶ月分の総賃金を180で割って「賃金日額」を算出
    例:2,220,000 ÷ 180 = 12,500円
  2. 失業保険の1日あたりの給付額が算定
    なお、「基本手当日額」には上限・下限の定め(年度ごとに改定)があるため、厚生労働省の最新資料をご確認ください。

賃金月額を管理するポイント

賃金月額の管理ができていなければ、給付金などの申請手続きに時間がかかるだけでなく、従業員の給付額にも影響を及ぼす可能性があります。ここでは、日常業務で気をつけておきたい管理のポイントを紹介します。

賃金台帳を正確に整備する

賃金台帳での基本は、正確な作成と保管です。労働基準法では、労働日数、労働時間、時間外労働、基本給や各種手当などを個別に記録することが求められています。

必ず手当の項目を分けて記載し、月ごとに確認できるようにしておきましょう。

就業規則や賃金規程で手当の定義を明確にする

雇用保険の賃金月額算定では「固定的手当」と「変動的手当」の区別なく、賃金(残業代・深夜手当・通勤手当など)を含めて集計します。ただし、就業規則や賃金規程上は手当の種類や支給基準を明確にしておくことが、制度運用上は重要です。

給与計算ソフトを正しく設定・運用する

多くの企業では給与計算ソフトを使っていますが、その設定が適切でなければ、出力される数値が賃金月額の計算に使えない可能性があります。

固定残業代も通常の残業代も、雇用保険の賃金月額算定上はどちらも賃金に含めて集計します。手当の属性や名称によらず、実際に支給された賃金全額を正しく反映できる設定が必要です。

法改正や実務運用の変化に注意する

雇用保険や社会保険に関する制度は、法改正や通達の変更によって運用が見直されることがあります。たとえば、賃金に含める・含めないの判断基準が細かく変更される場合もあります。定期的に厚生労働省の通知や実務解説をチェックし、必要に応じて社内のルールや処理方法を更新するようにしましょう。

必要に応じて専門家に相談する

判断に迷うケースや制度改正に対応しきれない場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することを検討しましょう。特に複数の雇用形態がある場合や、過去の賃金体系が複雑な企業では、外部の視点が有効です。

顧問契約を結んでいない場合でも、スポットでの相談やチェックサービスを活用することで、トラブル防止につながります。

賃金月額は給付額の基準となるため、日ごろの管理が大切

賃金月額は、育児休業給付金や介護休業給付金、高年齢雇用継続給付など、雇用保険制度をはじめとする給付制度で支給額の基準として使われます。

基本給や固定手当だけでなく、通勤手当や残業代、深夜手当、休日手当なども含まれるため、他の賃金制度との違いを理解しておく必要があります。

日頃から賃金台帳や就業規則を整えておくことで、正確な申請とスムーズな対応につながります。


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