• 更新日 : 2025年8月6日

タイムカードの30分単位計算は違法?給与計算の正しいルールを解説

タイムカードの記録を30分単位で処理して給与を計算する方法は、原則として労働基準法違反となります。すべての雇用形態で1分単位の実労働時間の集計が求められています。

この記事では、タイムカードの30分単位計算がなぜ問題なのか、労働基準法や厚労省の通達に基づく正しい労働時間の考え方、例外的に認められる端数処理の範囲、そして企業がとるべき対応策まで、わかりやすく解説します。

タイムカードを30分単位で計算するのは違法?

タイムカードに記録された時間を30分単位で切り捨てて給与を計算する方法は、原則として労働基準法違反とされます。労働時間は1分単位で集計し、その時間に応じて正確に賃金を支払うことが、企業には求められています。

これは正社員だけでなく、アルバイトやパートといった非正規雇用にも同様に適用されます。

30分単位の時間計算が違法とされる理由

労働基準法第24条では「賃金全額払いの原則」が定められており、労働者が働いた分の対価は全額支払われなければなりません。

(賃金の支払)

第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

引用:第二十四条 労働基準法|e-GOV 法令検索

例えば、17時が定時で17時29分まで残業した場合、30分単位で時間を切り捨てると「17時退勤」とされ、29分間の労働がなかったことになります。

これは、賃金全額払いの原則に反するため違法と判断されます。

昔の30分単位処理は「慣行」に過ぎなかった

過去に企業でみられた30分単位での勤怠計算は、法的に認められていたわけではありません。紙のタイムカードを手作業で集計していた時代には、勤怠処理の簡略化を目的として、30分単位・15分単位で計算することが広く行われていました。

しかし、これらは法的に容認されていたわけではなく、当時の事務効率を重視した非公式な慣行にすぎません。

現在では、打刻時刻をもとに1分単位で集計するクラウド型勤怠管理システムやICカードの導入が進み、事務処理上の手間を理由にした切り捨ては成立しません。

2019年4月に施行された働き方改革関連法により、企業には「客観的な方法による労働時間の把握」が義務化されました。

これにより、PCログやIC打刻、システム記録などをもとに正確な労働時間を管理し、1分単位で賃金を支払うことが、法的にも技術的にも可能であり、かつ義務とされています。

1日ごとの30分単位切り捨ては違反

タイムカードの打刻時刻をもとに、1日ごとの労働時間を30分単位で切り捨てる処理は、労働基準法に違反します。

たとえ就業規則に「30分単位で計算」と記載していたとしても、労働基準法に反する就業規則は無効です。

タイムカードの1ヶ月単位の集計では30分単位が認められる場合も

ただし、例外として、1ヶ月単位で集計した時間外労働、休日労働、深夜労働に関しては、厚生労働省の通達(昭和63年 基発第150号)に基づき、30分単位での端数処理が認められています。

このような月次の端数処理を導入する場合には、就業規則や賃金規程にその根拠と方法を明記しておくことが望まれます。

記載があいまいな場合や、日次処理にまで適用しているような記述があると、労働者とのトラブルや法的な指摘につながりかねません。

この端数処理が可能なのは、以下のような条件をすべて満たした場合に限られます。

■ 例外的な30分単位処理が認められる条件

項目内容
対象月間の「時間外労働」「休日労働」「深夜労働」の合計時間
単位1ヶ月における合計時間のみ対象(※日々の時間には適用不可)
処理方法
  • 30分未満の端数は切り捨て
  • 30分以上は1時間に切り上げ
法的扱い通達で示された範囲を超える処理(例:日次での切り捨て)はすべて違法

例えば、月間の残業時間が20時間25分であれば25分は切り捨て可能です。逆に20時間40分であれば1時間に切り上げ、21時間とすることが認められます。

この処理は、労働者に一方的に不利益を与えるものではないという点が重要です。企業側が一方的に不利益な処理を強行することは認められておらず、あくまで限定的かつバランスを保った方法に限って許容されているのです。

タイムカードの30分単位と他の単位との違い

勤怠管理における時間の丸め処理にはさまざまな単位がありますが、15分や5分単位での切り捨ても原則として認められません。

ここでは、給与計算における正しい時間の考え方を詳しく見ていきましょう。

5分・15分単位の丸め処理も原則として違法

30分単位だけでなく、より短い5分や15分といった単位で労働時間を切り捨てることも同様に違法です。労働時間を一律に切り捨てる処理は、単位の大小にかかわらず原則として違法です。

例えば、退勤時刻が18時14分だった場合、15分単位で処理して「18時00分退勤」とする行為は、14分間の賃金不払いとなります。これは明確な労働基準法違反です。

特に残業時間の処理に関しては、未払い残業代として過去にさかのぼって請求されるリスクもあります。

「切り捨て」か「四捨五入」かで意味は大きく異なる

時間の丸め処理には、「切り捨て」「四捨五入」「切り上げ」などの方法がありますが、一律に労働者に不利となる方法(特に切り捨て)はNGとされます。

遅刻・早退時の時間単位に注意する

従業員が遅刻や早退をした場合、実際に働いていない時間分の賃金を控除することは問題ありません。ただし、この控除でも1分単位の原則が適用されます。例えば、10分の遅刻に対して、30分単位で切り上げて控除すると、控除しすぎた20分が未払い賃金に該当し、労働基準法違反となります。時間管理が自動化されている企業であっても、設定内容によっては違法な控除が生じるリスクがあるため、丸め処理のルールは十分に精査する必要があります。

残業代の計算で30分単位の切り捨ては許される?

残業代の計算においても、30分単位で労働時間を切り捨てて集計することは認められていません。残業は1分単位で正確に記録・計算し、その分の割増賃金を支払うことが法令で定められています。

残業時間を正確に記録・集計する

時間外労働、いわゆる残業も労働時間の一部であるため、通常の勤務時間と同じく1分単位での記録・集計が必要です。

しかし、「30分未満の残業時間は切り捨てる」といった社内ルールを運用している企業も一部見受けられます。

例えば、毎日25分の残業を行っていた従業員がいたとしても、それを日々ゼロとみなしてしまえば、1ヶ月で10時間以上の未払い残業が発生する可能性があります。

このような処理は労働基準法違反に該当し、労働基準監督署の調査や是正勧告、過去の残業代請求の対象になるリスクがあります。

割増賃金を正しい基準で計算する

残業代の計算には、通常賃金に加えた割増率の適用が義務付けられています。法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた部分には25%以上の割増率が適用され、深夜労働(22時〜翌5時)にはさらに25%以上、法定休日に働いた場合は35%以上の割増賃金が必要です。

このような割増計算を行うためにも、残業時間は1分単位で正確に把握することが大切です。

1ヶ月単位の集計に限って端数処理は可能

1ヶ月単位での時間外労働の合計に対してのみ、端数処理が厚生労働省の通達により認められています。

具体的には以下のようなルールです。

  • 合計時間のうち30分未満 → 切り捨て
  • 合計時間のうち30分以上 → 切り上げて1時間とする

例えば、「20時間25分」の残業であれば20時間、「20時間40分」であれば21時間として扱うことが可能です。
ただし、この処理はあくまで月間の合計時間に対するものであり、日ごとの残業時間に適用することはできません。

タイムカードの30分単位計算を続けるリスクと罰則

タイムカードの記録を30分単位で処理し続けることは、法令違反による行政指導や訴訟のリスクだけでなく、会社の信頼関係にも大きく影響する問題です。

是正勧告や書類送検につながるリスク

30分単位での労働時間の切り捨ては、労働基準法第24条「賃金全額払いの原則」に明確に違反します。

従業員からの通報や監督署による調査によって違反が発覚すれば、是正勧告の対象となります。

是正勧告に応じなければ、書類送検や罰金(30万円以下)に発展する可能性もあります。

違反が認定された場合、厚労省の公表資料に掲載されることもあり、企業イメージへの影響も避けられません。

未払い賃金請求で高額の支払いが発生するリスク

30分単位で切り捨てた時間は、従業員から未払い賃金として過去にさかのぼって請求される可能性があります。

賃金債権の時効は現在3年(将来的に5年へ延長)となっており、過去数年分の残業代や手当を一括で支払うケースもあります。

さらに、裁判で悪質性が認定された場合には、未払い賃金と同額の「付加金(制裁金)」の支払いが命じられることもあります。

従業員の不信感や離職につながるリスク

労働時間の切り捨てを黙認している企業では、「きちんと働いたのに給料が減っている」という不満が蓄積しやすくなります。

これが退職理由になり、口コミサイト・SNSで不当な勤怠管理として拡散されれば、採用活動や社内の士気にも悪影響を与えます
勤怠や給与は、従業員との信頼関係の根幹です。軽視すれば、企業の継続的な成長にとって大きな障害となります。

タイムカードの勤怠管理を適法に行うには?

勤怠管理を適正に行うには、1分単位での労働時間記録と正しい賃金支払いが基本です。社内ルールやシステム設定の見直しを行い、法令違反のリスクを排除する必要があります。

労働時間の記録方法を見直す

まず、タイムカードや出退勤記録が1分単位で管理されているかを確認しましょう。

30分や15分単位で丸める設定が残っている場合は、即座に修正が必要です。現在の勤怠管理システムの多くは1分単位での管理に対応しているため、運用設定の見直しで対応できるケースがほとんどです。

また、ICカードやスマートフォンアプリによる打刻機能を使うことで、記録の信頼性も高められます。紙のタイムカードを使っている場合は、デジタル化への移行も検討する価値があります。

就業規則を適法な内容に修正する

就業規則に「30分単位で処理する」といった記述が残っていると、労働基準法違反の根拠とみなされる可能性があります。

労働時間の記載は、「1分単位で計算する」「端数処理は月単位の法定外労働に限る」といった表現に明確に修正することが必要です。
また、変更後の就業規則は、労働基準監督署に届け出たうえで、従業員に周知しなければ効力を持ちません。

勤怠管理システムの設定を正しく行う

すでに勤怠管理システムを導入している企業でも、設定によっては切り捨て処理が自動適用されていることがあります。

1分単位での打刻ができても、給与計算時に15分単位や30分単位で丸められてしまう場合があります。

システム導入企業は、自社の設定が法令に準拠しているか、ベンダーに確認することが欠かせません。

特に、勤怠と給与計算が連動しているクラウドサービスでは、勤怠側が正確でも、給与側で丸め処理されていることがあるため注意が必要です。

従業員への説明と社内の理解を促す

運用ルールを改定するだけでなく、それを現場レベルで共有・理解させることも重要です。「数分の丸めなら問題ない」「昔からそうだった」といった誤解が、担当者レベルで残っていることも少なくありません。

制度変更時には、説明会や社内通知などを通じて方針を明確に伝えることが効果的です。

従業員にとっても、正確な勤怠管理は納得感のある賃金支払いにつながるため、制度変更を前向きに受け入れてもらいやすくなります。

正しい勤怠管理で信頼される職場環境へ

タイムカードを30分単位で処理する勤怠管理は、法令に反するリスクがあり、企業の信用を損なう原因になります。労働時間や残業は1分単位で記録・計算し、就業規則や運用ルールも見直す必要があります。

こうした見直しを確実に実現するには、1分単位での記録に対応した勤怠管理システムの導入が有効です。未払い賃金や是正勧告のリスクを防ぎ、労使間の信頼を築くうえでも、正確な勤怠管理体制は欠かせません。働きやすく、公平な職場づくりは、正しい時間管理から始まります。


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