- 更新日 : 2025年7月25日
1ヶ月単位の変形労働時間制は届出不要?10人未満でも必要なケースと手続きをわかりやすく解説
「1ヶ月単位の変形労働時間制を導入したいが、手続きが複雑そう…」「従業員が10人未満なら、労働基準監督署への届出は不要と聞いたけど本当?」このような疑問をお持ちの経営者や人事労務担当者の方も多いのではないでしょうか。
結論、1ヶ月単位の変形労働時間制を導入する際は、原則として労働基準監督署への届出が必要です。この記事では、1ヶ月単位の変形労働時間制における届出の要否について、根拠から具体的な手続き、運用上の注意点まで詳しく解説します。
目次
そもそも1ヶ月単位の変形労働時間制とは
届出の要否を理解する前に、まずは制度の基本をおさらいしましょう。
1ヶ月単位の変形労働時間制とは、1ヶ月以内の一定期間(変形期間)を平均して、1週間あたりの労働時間が法定労働時間(原則40時間)を超えない範囲内であれば、特定の日に法定労働時間を超えて働かせたり、特定の週に法定労働時間を超えて働かせたりすることができる制度です(労働基準法第32条の2)。
例えば、月末の繁忙期に所定労働時間を長く設定し、月初めの閑散期は短くするといった、業務の繁閑に合わせた柔軟な働き方が可能になります。これにより、労働時間を効率的に配分し、残業時間の削減にも繋げることができます。
1ヶ月単位の変形労働時間制の届出は原則必要
労働基準法では、1ヶ月単位の変形労働時間制を労使協定によって導入する場合、その協定を所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないと定められています(労働基準法施行規則第12条の2の2)。
また、就業規則によって導入する場合も、その就業規則の変更を届け出る義務があります(労働基準法第89条、第90条)。
つまり、導入方法が労使協定であれ就業規則であれ、何らかの形で労働基準監督署への届出が関わってくるのです。特に、労働者数10人未満の事業場であっても、労使協定で定める以上は、その協定届の提出が原則として必要となります。
1ヶ月単位の変形労働時間制の届出が不要と誤解されやすいケース
ここでは、1ヶ月単位の変形労働時間制の届出が不要だと誤解されやすい代表的な2つのケースを取り上げ、正しい対応方法を解説します。
ケース1. 常時使用する労働者が10人未満の事業場の場合
常時使用する労働者が10人未満の事業場では、就業規則の作成・届出義務がありません。このことから、変形労働時間制の導入に関する届出も不要だと考えられがちです。
しかし、これは誤りです。たとえ10人未満の事業場であっても、労使協定で制度を導入する場合には、その有効性を担保するために「1ヶ月単位の変形労働時間制に関する協定届(様式第3号 の2)」を労働基準監督署に届け出る必要があります。
ケース2. 就業規則で制度を定めている場合
1ヶ月単位の変形労働時間制は、就業規則で定めることでも導入が可能です。この場合、労使協定届の提出は不要です。しかし、代わりにその内容を盛り込んだ就業規則を作成し、必要に応じて提出しなければなりません。
つまり、協定届が不要であるだけで、届出行為そのものが不要になるわけではないのです。就業規則で定める場合でも、労働者が10人以上いる場合には労働基準監督署への届出というプロセスは必須であると覚えておきましょう。どちらの方法を選択するかは、企業の状況に応じて判断することになります。
| 導入方法 | 必要な手続き | 届出の種類 |
|---|---|---|
| 労使協定 | 労使協定の締結 | 1ヶ月単位の変形労働時間制に関する協定届 |
| 就業規則 | 就業規則に規定 | 就業規則(変更)届 |
1ヶ月単位の変形労働時間制の届出が必要な場合の手続き
それでは、実際に制度を導入するための手続きを3つのステップで見ていきましょう。ここでは、より一般的な労使協定によって導入するケースを解説します。
Step1. 労使協定を締結する
まず、会社と労働者の代表とで、制度のルールについて話し合い、書面で協定を締結します。
- 対象となる労働者の範囲:正社員のみ、〇〇部の従業員など、対象者を明確化します。
- 変形期間の起算日:1ヶ月以内の期間を定めます。
- 変形期間における各日・各週の労働時間と所定休日:勤務カレンダーやシフト表で具体的に特定することを定めます。
- 労使協定の有効期間:厚生労働省により「有効期間は最長でも3年とすることが望ましい」とされています。
Step2. 届出書類を準備する
次に、労働基準監督署へ提出する書類を用意します。
- 必要書類:1ヶ月単位の変形労働時間制に関する協定届(様式第3号の2)
- 入手方法:厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできます。
- 記載内容:Step 1. で締結した労使協定の内容を転記し、使用者と労働者代表の署名または記名押印をします。
参考:主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)|厚生労働省
Step3. 労働基準監督署へ届け出る
書類が準備できたら、管轄の労働基準監督署へ届け出ます。
- 提出期限:定めた変形期間の運用を開始する日まで
- 提出先:事業場の所在地を管轄する労働基準監督署
- 提出方法:窓口持参、郵送、電子申請(e-Gov)が可能
1ヶ月単位の変形労働時間制のスムーズな運用のポイント
届出を済ませれば終わりではありません。制度を適切に運用していくためには、日々の労務管理において注意すべき点がいくつかあります。
シフト表は変形期間の開始前までに周知する
変形期間における各日の労働時間は、シフト表や勤務カレンダーによって具体的に特定し、従業員に周知する必要があります。この周知は、変形期間が開始する前までに行わなければなりません。
例えば、「来月のシフトは来月5日までに知らせる」といった運用は認められません。従業員が事前に自身の勤務日や労働時間を把握できるようにすることが、この制度の前提条件となっています。シフトの作成と周知は、計画的に行いましょう。
残業代の計算方法を正しく理解する
変形労働時間制における時間外労働(残業)の考え方は少し複雑です。以下の3つのケースで残業が発生します。
- 1日単位
労使協定で8時間を超える労働時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間 - 1週単位
労使協定で40時間を超える労働時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(1の残業時間を除く) - 変形期間全体
変形期間の法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(1と2の残業時間を除く)
これらの残業時間を正しく集計し、割増賃金を支払う必要があります。給与計算ソフトが対応しているかどうかも確認しておくと良いでしょう。
毎年の手続きを忘れない
労使協定の有効期間を1年と設定した場合、期間満了後も制度を継続するには、有効期間満了日までに再度、労使協定を締結し、協定届を労働基準監督署へ届け出る必要があります。有効期間満了日までに再届出がなければ、期限の翌日から制度の効力が失われます。 毎年の手続きをスケジュールに組み込み、管理を徹底しましょう。
正しい手続きで、1ヶ月単位の変形労働時間制を有効活用しよう
今回は、「1ヶ月単位の変形労働時間制の届出は不要か」という疑問にお答えしてきました。
結論、常時雇用する労働者が10人未満の事業場を含め、この制度を労使協定により導入する際には原則として労働基準監督署への届出が必要です。10人未満であれば届出不要と安易に自己判断で届出を怠ると、制度が無効とみなされ、未払い残業代の請求など思わぬトラブルに発展するリスクがあります。
1ヶ月単位の変形労働時間制は、正しく導入・運用すれば、企業の生産性向上と従業員のワークライフバランス向上に繋がる有効な制度です。この記事を参考に、労使協定の締結から届出、日々の運用まで、適切な手続きを進めていきましょう。もし手続きに不安があれば、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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