- 更新日 : 2025年7月25日
運送業の労働時間のルールとは?労働基準法の上限規制と改善基準告示について解説
2024年4月の法改正、いわゆる「2024年問題」が適用されてから1年以上が経過しました。運送業界では、トラックドライバーの労働時間管理がこれまで以上に厳格化され、「自社の対応は十分だろうか」「改めてルールを正確に理解したい」とお考えの事業者様も多いのではないでしょうか。
本記事では、運送業の労働時間に適用される「労働基準法」と「改善基準告示」という2つのルールを軸に、事業者が遵守すべき具体的な基準を分かりやすく解説します。
目次
運送業の労働時間を規律する2つのルール
運送業の労働時間を理解するには、まず基本となる2つのルールを知る必要があります。それは、すべての労働者の基本ルールである「労働基準法」と、トラックドライバーに特化した「改善基準告示」です。この2つは密接に関連しており、両方を正しく理解することが法令遵守の第一歩です。
- 労働基準法
労働時間や休日、賃金の最低基準を定めた法律です。時間外労働(残業)の上限などを規律します。 - 改善基準告示
厚生労働省が告示する、ドライバーの拘束時間や休息期間など、より専門的な基準です。正式名称は「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」。過労運転を防ぎ、労働条件を改善することを目的としています。
労働基準法による時間外労働の上限規制のポイント
2024年問題の核心ともいえるのが、労働基準法における時間外労働の上限規制です。
参考:時間外労働の上限規制 | 働き方改革特設サイト | 厚生労働省
原則は「月45時間・年360時間」
法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)を超えて労働させる場合は、労働者の過半数で組織する労働組合などと書面による協定(36協定)を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。この36協定で定められる時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。
特別条項付き36協定では「年960時間」まで
運送業では、突発的な荷物の増加や交通渋滞などの臨時的な事情に対応するため、特別条項付きの36協定を結ぶことで、時間外労働の上限が認められています。
ただし、年960時間という上限が無条件に認められるわけではなく、特別条項付き36協定による延長の要件として、労務過多や緊急時の対応など具体的な事情を記載した文書による労使協定と、労働基準監督署への届け出が必要です。
月60時間超の残業割増賃金率は「50%」
2023年4月からは、大企業・中小企業を問わず、月60時間を超える時間外労働に対して、割増賃金率が50%以上に引き上げられました。これは、年960時間の上限規制と並行して遵守すべき重要な法律です。ドライバーの給与計算に直結するため、正確な理解が不可欠です。
労働基準法の上限規制に違反した場合の罰則
これらの上限規制に違反した場合、事業者には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。これは労働基準法に基づく刑事罰であり、改善基準告示違反による行政指導とは比べ物にならないほど重い処分です。
改善基準告示の改正ポイント
改善基準告示は、労働基準法を補完し、ドライバーの健康と安全を守るための具体的な基準を定めています。2024年4月に改正され、より厳格な内容となりました。
参考:自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示) |厚生労働省
拘束時間の基準
拘束時間には、労働時間のほかに、休憩時間や会社の指揮命令下で待機している時間(手待時間)も含まれます。ただし、ドライバーが会社の指示なく自由に待機場所を離れることができるような自主的な待機時間については、拘束時間に含まれない場合があるため注意が必要です。
- 1年の拘束時間
原則3,300時間以内。労使協定により最大3,400時間まで延長可能。 - 1カ月の拘束時間
原則284時間以内。労使協定により、年6カ月までは最大310時間まで延長可能(ただし、年間3,300時間を超えない範囲で284時間超は連続3カ月までとし、1カ月の時間外・休日労働時間数が100時間未満となるよう努める必要がある)。 - 1日の拘束時間
原則13時間以内で、延長する場合であっても上限は15時間。ただし、宿泊を伴う長距離貨物運送の場合、週2回16時間まで延長可能。
休息期間の基準
休息期間は、勤務終了後から次の勤務開始までの時間で、ドライバーが完全に業務から解放される時間です。
1日の休息期間は、連続11時間以上を与えることが原則です。ただし、やむを得ず連続した休息期間を与えることが難しい場合には、分割休息が認められることがあります。分割休息は、1回あたり連続3時間以上の休息を与えることが基本で、2分割の場合は合計10時間以上、3分割の場合は合計12時間以上とされています。
運転時間の基準
- 連続運転時間
4時間以内。運転開始から4時間以内に、合計で30分以上の休憩等を確保し、運転を中断する必要があります(1回おおむね10分以上での分割も可)。 - 1日あたりの運転時間
2日を平均して9時間以内。 - 1週間あたりの運転時間
2週間を平均して44時間以内。
運送業の労働時間のルールを遵守するための具体的な対策
法令遵守と事業継続を両立させるためには、具体的な対策を講じる必要があります。ここでは4つの視点から対策を提案します。
1. 勤怠管理システムの導入と適正な記録
客観的で正確な労働時間の記録は、すべての基本です。デジタルタコグラフ(デジタコ)と連携できる勤怠管理システムを導入すれば、運転時間、作業時間、休憩時間などを自動で記録し、管理者の負担を大幅に軽減できます。手書きの日報だけでは、正確な管理は困難です。まずは労働実態を正確に「見える化」することから始めましょう。
2. 荷主との連携による荷待ち時間の削減
長時間労働の大きな原因の一つが、荷待ち時間です。荷主側の都合で発生する待機時間を削減するためには、データに基づいた交渉が不可欠です。勤怠管理システムで記録した正確な待機時間データを提示し、予約システムの導入やパレット輸送への切り替えなどを提案することで、荷主の理解を得やすくなります。粘り強い交渉が、ドライバーの負担軽減に繋がります。
3. 運行計画の見直しとDX化の推進
無理のない運行計画を立てることも重要です。AIを活用した配車計画システムや動態管理システムなどのDXツールを導入することで、最適なルートや車両の割り当てを自動で算出し、属人化しがちな配車業務を効率化できます。これにより、拘束時間や運転時間の上限を超過するリスクを未然に防ぎ、輸送全体の生産性を向上させることが可能です。
4. 多様な働き方の導入と人材確保
中長距離輸送だけでなく、地場輸送やリレー輸送を組み合わせることで、ドライバーが毎日自宅に帰れるような勤務形態を増やすことができます。また、短時間勤務制度や週休2日制を導入するなど、多様な働き方を認めることで、これまで獲得が難しかった女性や若年層の人材を確保しやすくなります。働きがいのある職場環境を整備することが、最大の定着率向上策です。
運送業の労働時間管理でよくある質問
ここでは、運送業の現場で判断に迷いがちなポイントをQ&A形式で解説します。
待機時間(荷待ち時間)は労働時間に含まれる?
はい、労働時間に含まれる可能性が高いです。労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。荷待ち時間中にドライバーが自由にその場を離れることができず、いつでも対応できる状態で待機している場合は、労働時間と見なされます。たとえ運転していなくても、拘束されている時間は労働時間として管理する必要があります。
休憩時間と休息期間の違いは?
休憩時間は労働時間の途中に取るもので、拘束時間に含まれます。一方、休息期間は1日の勤務が終了してから次の勤務が始まるまでの時間で、拘束時間には含まれません。休息期間はドライバーが完全に業務から解放され、自由に使える時間です。この2つを混同せず、休息期間をしっかり確保することがドライバーの健康維持に繋がります。
分割休息はどのような場合に認められる?
分割休息は、継続した休息期間を与えることが困難な場合に限り認められる例外的な措置です。1回あたり連続3時間以上とされており、2分割の場合は合計10時間以上、3分割だと合計12時間以上を与える必要があります。この特例が適用できるのは、車中泊を伴う長距離輸送で、かつドライバーが仕事から完全に解放されることが保証されている場合に限られます。安易な適用は避けるべきです。
運送業の労働時間管理は、企業の未来を創る投資
2025年現在、運送業における労働時間管理は、企業の存続を左右する重要な経営課題です。「労働基準法」と「改善基準告示」という2つのルールを正しく理解し、遵守することは、罰則回避だけでなく、事故防止、人材確保、そして企業の競争力強化に直結します。
勤怠管理の徹底、荷主との交渉、DXの推進など、やるべきことは多岐にわたりますが、これらはコストではなく未来への投資です。ドライバーが健康で安全に、そして誇りを持って働ける環境を整えることが、運送業界全体の持続的な発展に繋がっていくでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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