- 更新日 : 2025年7月25日
有給休暇は出勤扱いが原則!出勤扱いにならない場合の対応やよくあるトラブルも解説
有給休暇は労働者に与えられた正当な権利です。しかし、取得することで給与や評価に不利な影響が出ないかと、不安を感じる方は少なくありません。特に「有給休暇を取った日は出勤したことになるのか、それとも欠勤扱いなのか」という点は、多くの方が抱く疑問でしょう。
この記事では、有給休暇の出勤扱いに関するルールを労働基準法に基づいて分かりやすく解説します。
目次
有給休暇は出勤扱いが原則
有給休暇がなぜ出勤扱いになるのか、その背景には労働者の権利を守るための法律上の明確なルールが存在します。
出勤率8割の計算では出勤した日として扱う
年次有給休暇が新たに付与される条件の一つに、「全労働日の8割以上出勤していること」という出勤率の要件があります。この出勤率を計算する際に、有給休暇を取得した日は出勤した日として扱わなければなりません。
有給休暇取得日を欠勤扱いにしてしまうと、労働者の出勤率が不当に下がり、権利が侵害される恐れがあるため、このようなルールが設けられています。
育児休業や介護休業を取得した場合も出勤扱いとなる
有給の出勤扱いの原則は、過去の労働基準法関連の通達で「年次有給休暇として休業の日数は出勤したものとして取扱うこと。」と明記されています。(昭和22年9月13日発基第17号)
また、労働基準法第39条第10項では、業務上の負傷や疾病により療養のために休業した期間、育児・介護休業法に基づく育児休業・介護休業期間、産前産後の休業期間も、同様に出勤したものとして扱うことが定められています。これらはすべて、労働者が不利益を被ることなく正当な権利を行使できるようにするための重要な規定です。
出勤扱いにする必要がある理由
もし有給休暇の取得日を欠勤として扱ってしまうと、有給休暇を使えば使うほど出勤率が下がり、「次の有給休暇がもらえなくなるかもしれない」という事態に陥ります。
そうなると、労働者は有給休暇の取得をためらってしまい、心身のリフレッシュや私生活との両立が困難になります。これでは、労働者の心身の疲労回復を目的とする有給休暇制度そのものが形骸化してしまいます。こうした事態を防ぎ、労働者に有給休暇の取得を保障することこそが、出勤扱いを義務付けている最も重要な理由なのです。
有給休暇が出勤扱いになる場合・ならない場合
「出勤率の計算では出勤扱いになることは分かったけど、賞与の算定や手当はどうなるの?」という疑問が湧いてくるかと思います。実は、有給休暇の扱いは、場面によって法律上の義務か、会社の裁量に委ねられるかが異なります。ここではケース別に詳しく見ていきましょう。
出勤率の算定
次年度の有給休暇を付与するかどうかを判断するための出勤率(原則8割以上)を計算する際、会社は有給休暇取得日を「出勤した日」として計算しなければなりません。
もし、有給休暇取得を理由に出勤率が8割を下回ったと判断され、次年度の有給休暇が付与されなかった場合、労働基準法違反となります。これは正社員だけでなく、パートやアルバイトなど、すべての労働者に適用されるルールです。
賞与(ボーナス)の査定
賞与(ボーナス)の金額を算定する際に有給休暇取得日をどのように評価するかは、法律上の定めがなく、原則として会社の裁量に委ねられています。就業規則や賃金規程に「賞与の算定期間中に欠勤や有給休暇があった場合は、その日数に応じて減額する」といった定めがあれば、それに従うことになります。
ただし、有給休暇の取得を抑制するような極端な減額は、権利の濫用と見なされる可能性もあります。賞与の査定基準については、あらかじめ自社の就業規則等で確認しておくことが重要です。
皆勤手当・精勤手当の支払い
皆勤手当(無欠勤の場合に支給)や精勤手当(欠勤が少ない場合に支給)についても、賞与と同様に法律上の規定はなく、会社の就業規則や労使協約の定めによります。
過去の判例では、「皆勤手当の支給要件として、有給休暇取得日を出勤日に含めない(=欠勤扱いとする)ことも、ただちに違法とはいえない」とされた例があります。ただし、その目的や支給金額の減額程度が、有給取得を経済的に抑制するほどのものになった場合は、権利を阻害するものとして無効と判断される可能性があります。
昇給・昇格の評価
昇給や昇格といった人事評価においても、有給休暇の取得日をどのように考慮するかは、基本的には会社の自由な判断となります。勤務態度や実績など、総合的な評価の一部として考慮されることが一般的です。
判例では、「労働基準法上の権利である不就労日(有給を取得した日)を稼働率算定の基礎とすることは公序に反し無効である。」とされた例もあります。また、労働基準法第136条では、「有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。」とされており、「不利益取扱い」は広く解釈されるため、個別の状況に応じて慎重な判断が求められます。
有給休暇の出勤扱いに関してよくある誤解とトラブル
有給休暇の出勤扱いに関するルールは、時に誤解や会社とのトラブルの原因になります。ここでは、労働者として知っておきたい注意点と、万が一の際の対処法について解説します。
有給を取ると評価を下げるのは不利益取扱いに当たる可能性
会社が労働者の有給休暇取得を理由として、賃金の減額その他不利益な取扱いをすることは、労働基準法で禁止されています(労働基準法第136条)。これには、解雇、降格、減給、賞与の不支給・減額、不利益な配置転換などが含まれます。
賞与や各種手当の算定で、有給取得日を欠勤として扱うこと自体が直ちに違法とはならないケースもありますが、その程度や目的が有給取得を著しく抑制するようなものであれば、この「不利益取扱いの禁止」に抵触する可能性があります。不当だと感じた場合は、泣き寝入りせずに行動することが大切です。
パート・アルバイトの有給休暇も出勤扱い
有給休暇は、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトなど、すべての労働者に与えられた権利です。したがって、パート・アルバイトの方の有給休暇取得日も、次年度の有給付与のための出勤率算定においては出勤扱いとしなければなりません。
付与される日数は所定労働日数に応じて比例的に決まりますが(比例付与)、出勤扱いの原則は正社員と全く同じです。「パートだから有給はない」「有給を取ると次のシフトを減らす」といった扱いは違法ですので、注意してください。
就業規則の確認が重要
賞与や皆勤手当など、会社の裁量が認められている部分のルールは、すべて就業規則や賃金規程に定められています。トラブルを未然に防ぐためには、まず自社のルールがどうなっているかを確認することが第一歩です。
就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場では作成と届出が義務付けられており、労働者への周知も義務付けられています。いつでも閲覧できる場所に掲示されたり、社内ネットワークで共有されたりしているはずですので、一度内容に目を通しておきましょう。
有給休暇が出勤扱いにならないと言われた場合の対処法
もし会社から「有給休暇は出勤扱いにならない」と誤った説明をされたり、不利益な扱いを受けたりした場合は、どうすればよいのでしょうか。
まずは、この記事で解説したような法律上のルールを基に、人事・労務担当者に冷静に確認を求めてみましょう。単なる担当者の勘違いである可能性もあります。ただし、不利益な扱いの範囲は広く解釈されていますが、「出勤扱いにならない」という口頭説明そのものが直ちに違法とは限りません。実際に具体的な処遇変更や不利益が発生した場合には、監督署や専門家への相談を検討しましょう。
正しい知識を身につけ、安心して有給休暇を取得しましょう
今回は、有給休暇の出勤扱いというテーマについて、法律上のルールから実務上の注意点まで詳しく解説しました。
有給休暇は、心身をリフレッシュさせ、より良い仕事をするために不可欠な労働者の権利です。正しい知識を身につけることで、不当な扱いや無用なトラブルを防ぎ、安心して休暇を取得することができます。この記事が、あなたの健やかなワークライフバランスの実現に繋がれば幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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