- 更新日 : 2025年7月11日
再雇用で契約更新しないと雇止めになる?リスクや65歳以上への対応を解説
定年後に再雇用された社員との契約更新は、企業にとって慎重な判断が求められるテーマです。再雇用契約を更新しないと決めた場合、雇い止めのリスクなど、事前に把握すべきポイントがあります。この記事では、再雇用契約の終了に伴う法的な注意点や適切な伝え方、トラブル防止策をわかりやすく解説します。
目次
再雇用で契約の更新をしないのは可能?
再雇用契約は有期労働契約のため、期間満了により終了させることは可能です。再雇用契約は、定年退職後の社員を一定の条件で再び雇用する契約であり、一般的には1年ごとの有期労働契約として締結されます。有期契約であるため、期間満了により契約を終了させることは法律上認められています。
ただし、過去に複数回更新している場合や、本人が更新を強く期待しているような事情がある場合は「雇い止め法理」が適用されます。企業には合理的な理由と社会通念上の相当性をもって更新しない判断を説明する責任が生じます。
再雇用の契約を更新しないと「雇い止め」にあたる場合も
再雇用契約は有期労働契約であるため、期間満了で終了することは可能ですが、終了の仕方によっては「雇い止め」に該当します。
雇い止めとは、契約期間満了による終了のうち、企業が更新しないと判断したケースを指します。形式的には契約終了ですが、本人が更新を希望していたような事情がある場合には、労働契約法第19条の「雇い止め法理」が適用され、企業には合理的かつ妥当な理由の説明が求められます。
例えば、過去に再雇用契約が繰り返し更新されていたり、会社側が継続雇用を示唆していたりしたような場合は、社員が更新を希望するのも自然であり、そのため雇用終了は、実質的に解雇と同様の扱いになることがあります。
一方で、契約が初回である、業務縮小など明確な事情がある、更新について何の合意もなかったなどの場合は、雇い止めにあたらないこともあります。
65歳以上や70歳以上であっても、年齢だけを理由に契約を打ち切ることは避けるべきです。業務実績や健康状態など、客観的な基準に基づいて判断し、終了理由を丁寧に説明することが求められます。
再雇用の契約を更新しない場合の適切な伝え方
再雇用契約の更新をしない判断は、社員にとって非常にセンシティブな問題です。伝え方を誤ると、不信感やトラブルにつながるため、企業としては冷静かつ丁寧な対応が求められます。
契約終了の通知は早めに行う
有期労働契約の契約期間満了による終了の通知について、法律上の明確な通知期間の規定はありません。ただし、労働契約法上、できるだけ早く通知することが求められています。実務的には30日前通知が推奨されます。
実務的には、1か月半〜2か月前に伝えることで、社員が次の準備をする余裕を持てます。通知のタイミングが遅れると、法的リスクだけでなく、本人の生活設計にも影響を及ぼします。
書面での通知を徹底する
更新しない旨を口頭だけで伝えるのは避けるべきです。後々「言った・言わない」の争いになることが多いため、必ず書面で通知を行いましょう。
通知書には、「契約期間が〇年〇月〇日で満了すること」「契約を更新しないこと」を明記し、社員に手渡すか郵送で届けます。可能であれば、通知書に署名欄を設けて受け取り確認を取っておくとより確実です。
面談では誠実に説明し、話を聞く
通知書を渡す際は、必ず個別に面談の時間を設けましょう。伝える内容は、事実に基づいたものであり、主観や感情を交えず、冷静に説明します。
社員が不満や疑問を口にしたときには、途中で遮らず最後まで話を聞き、誠意を持って応対することが大切です。「どうして更新しないのか」「何をもとに判断したのか」という問いに対しても、準備しておいた根拠を丁寧に説明しましょう。
表現と対応には十分配慮する
誤解を招く言い回しや、過度に期待を持たせるような発言は避けましょう。
「解雇ではない」「本人に落ち度があるわけではない」と明確に伝えつつ、「頑張れば更新できたかも」といったあいまいな表現や、感情的なコメントは控えることが基本です。
人格や能力を否定するような言葉はトラブルの火種になります。社員の尊厳を尊重し、冷静かつ丁寧に伝える姿勢を崩さないことが、円満な契約終了のカギになります。
65歳以上の再雇用契約を更新しないときの留意点
65歳以上の社員に対して再雇用契約を更新しないと判断する場合、企業は年齢に関する法制度を正しく理解し、慎重に対応する必要があります。
65歳までの継続雇用は企業の義務
高年齢者雇用安定法では、企業に対し、希望する社員を原則として65歳まで継続して雇用することが義務付けられています。これは、定年年齢が60歳など65歳未満の場合、定年後に再雇用制度などを設けて65歳までの雇用機会を保障しなければならないという内容です。
この義務がある期間内に、正当な理由なく再雇用契約を更新しないと、法令違反となる可能性があります。したがって、65歳未満での雇い止めは原則として認められません。
70歳までの就業機会確保は「努力義務」
2021年4月から、企業には70歳までの就業機会を確保する「努力義務」が課されています。この努力義務はあくまで強制ではありませんが、制度として整えている企業も増えつつあります。
65歳以降、再雇用契約を更新しない場合でも、これまでの更新状況や本人の勤務実績などにより、更新を期待する合理的な理由があると判断されれば、労働契約法第19条の「雇い止め法理」が適用される可能性があります。
年齢を理由とした更新拒否は避ける
企業が65歳以上の再雇用契約を更新しない場合、年齢そのものを理由とするのは適切ではありません。「高齢だから更新しない」といった判断は、差別的と見なされ、トラブルのもとになります。
更新しない場合には、勤務実績、業務遂行能力、健康状態などを客観的に評価し、合理的な理由があることを説明できるようにしておくことが必要です。特に長期間勤務してきた社員に対しては、より丁寧な対応と説明が求められます。
再雇用契約の更新を希望しない場合の対応方法
社員の側から「更新を希望しない」と申し出るケースもあります。その際は、企業としても誠実かつ丁寧な対応が求められます。
意思確認と背景の把握を丁寧に行う
まずは、社員が本当に更新を望んでいないのか、その意思を明確に確認します。健康面、家庭の事情、職場の環境など、背景に何か解消できる理由がないかを把握することも重要です。もし業務や人間関係の不満が理由であれば、話し合いの中で改善の余地があるかを検討します。
退職手続きを円滑に進める
社員が更新しない意思を固めた場合は、契約期間満了をもって退職となります。自己都合退職に該当するため、退職届の提出、離職票の発行、健康保険や年金の手続き、貸与物の返却など、必要な手続きを漏れなく進めましょう。
引継ぎと業務整理の配慮も忘れずに
退職日までに業務に支障が出ないよう、引継ぎ内容を明確にし、後任者の調整やサポート体制を整えておくことが大切です。特に長く在籍していた社員であれば、知識や対応履歴の共有にも時間を要する場合があります。
社員の再スタートに配慮する
社員が次のステップに進めるよう、必要に応じて情報提供や支援を行います。ハローワークの案内や、希望があれば推薦状の発行など、できる範囲でのサポートを申し出ると、企業としての誠意も伝わります。
再雇用で契約更新しない場合の失業保険への影響
再雇用契約が更新されずに終了したとき、その離職理由が「自己都合退職」か「会社都合退職」によって、失業保険(雇用保険の基本手当)の受給条件や給付開始時期に影響があります。
会社都合と自己都合による退職の違い
社員が契約更新を希望していた場合の再雇用契約の満了による退職は、原則として会社都合(特定受給資格者または特定理由離職者)として扱われます。会社都合の退職の場合、失業保険の給付制限期間(通常2ヶ月)がなく、7日間の待期期間経過後に給付が始まります。給付日数も自己都合より長くなることがあります。
一方、社員が自ら「再雇用契約の更新を希望しない」と申し出た場合や、社員側の明確な問題(著しい規律違反や能力不足など)で更新されなかった場合は、自己都合退職と判断されます。この場合、給付制限期間が設けられます。企業は、離職票の記載を正確に行い、社員が適切な失業給付を受けられるよう配慮することが大切です。
失業保険が受給できるのは原則65歳未満
失業保険の基本手当が受給できるのは、原則として離職時点で「65歳未満」の場合です。65歳以上で退職した場合は「高年齢求職者給付金」という別の制度が適用され、基本手当のような月ごとの支給ではなく、一時金(30日または50日分)として支給されます。
したがって、再雇用契約の更新がされず離職した時点で65歳未満であれば、通常の失業保険の対象となります。65歳以上の場合は受給制度が異なるため、事前にハローワークで確認しておくと安心です。
再雇用契約を更新しない場合のトラブル防止策
再雇用契約の更新をしない判断は、企業にとって慎重な対応が求められます。事前に準備すべきポイントを解説します。
就業規則と契約書の整備を徹底する
再雇用制度に関する規程を明文化し、更新基準や雇い止めの可能性を具体的に示しておきます。契約書にも、契約期間・業務内容・賃金・更新の有無・判断基準(例:勤務態度、健康状態など)を記載し、あいまいさをなくすことが基本です。
更新判断の客観的な材料を残す
再雇用社員にも定期的な評価やフィードバックを行い、記録を残しておくことが必要です。業務遂行に問題がある場合には、具体的な改善指導とその内容も記録に残し、更新しない判断の根拠とします。
本人への説明責任を果たす
契約更新しない場合には、理由を本人に丁寧に説明します。口頭に加え、必要に応じて書面で通知し、誤解や感情的な摩擦を防ぐ配慮が求められます。曖昧な表現や感情的な対応は避けるべきです。
公平性と一貫性を保つ
同様の条件で働く他の再雇用社員との間で、対応に差が出ないように注意が必要です。公平な基準に基づいた判断と、その基準の社内共有・周知がトラブル防止につながります。
専門家に相談しながら対応する
雇い止めが妥当かどうか判断に迷う場合は、社会保険労務士や労働法に詳しい弁護士に事前相談することが有効です。第三者の視点からアドバイスを受けることで、企業の対応にも自信が持てます。
再雇用契約更新しない判断と企業のリスク管理
定年後再雇用された社員との契約を更新しない「雇い止め」は、企業にとって慎重な対応が求められる判断です。労働契約法第19条の「雇い止め法理」や高年齢者雇用安定法の継続雇用義務など、企業が負う法的責任を正確に理解しておくことがまず大切です。
再雇用契約を更新しないと決めた場合には、その理由を客観的に明確にし、事前に書面で通知するなどの適切な手続きを踏む必要があります。面談では、社員の気持ちに寄り添い、丁寧な説明を心がけることが、トラブル回避につながります。また、社員が利用できる失業保険などの社会保障制度について情報提供し、必要に応じて再就職支援を行うなど、企業としてできる限りの支援を検討することも重要です。
これらの対策を講じることで、企業は法的リスクを低減しつつ、社員との円満な関係を保ちながら再雇用契約の更新をしないという難しい局面を乗り越えることができるでしょう。
再雇用契約を更新しない判断は慎重に進める
再雇用契約の更新をしない場合、たとえ契約期間の満了でも、内容や経緯によっては「雇い止め」と見なされることがあります。社員が更新を希望していたが、会社都合での終了であれば、失業保険の取り扱いにも影響が出ます。
65歳以上でも年齢だけで打ち切るのは避け、勤務実績などを根拠にすることが大切です。
就業規則や契約書の整備、評価記録の保存、本人への丁寧な説明、公平な対応を心がけましょう。法的リスクを避けるには、社労士や専門家への事前相談も有効です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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