• 更新日 : 2025年6月19日

月160時間労働は法律違反?法的リスクと改善策を解説

月160時間労働が違法になるかどうかは、それが総労働時間なのか残業時間なのかによって、異なります。労働時間管理は、法的な基準やリスクについての正しい理解が大切です。

労働基準法における労働時間のルールや、社内の労働管理を見直し、労働者が働きやすい環境づくりに努めましょう。

月160時間労働は違法になるのか

月160時間働いたからといって、すぐに法律違反になるわけではありません。ただし、労働時間には法律で決められた上限があり、働き方によっては違法とみなされる可能性もあります。

ここでは、法定労働時間や時間外労働の上限規制、違法となりうる「月160時間労働」について解説します。

法定労働時間の上限

労働基準法では、原則として1日8時間、週40時間を「法定労働時間」と定めています。法定労働時間を超えて働く場合は「時間外労働」として扱い、特別な手続きが必要です。

労働者が時間外労働をするには、労働基準法第36条にもとづき、会社と労働者の間で「36協定」を結びます。36協定締結後は、労働基準監督署に届出が必要です。

時間外労働の上限規制

時間外労働は原則として、月45時間、年360時間までと上限が決められています。ただし、事情がある場合は、36協定に特別条項を加えることで、上限を引き上げられます。

特別条項付きの36協定を締結した場合も、以下の上限があるため注意してください。

  • 月100時間未満(時間外および休日労働時間の合算)
  • 年720時間以内(時間外労働時間のみ)
  • 2~6ヶ月平均80時間以内(時間外および休日労働時間の合算)
  • 時間外労働が⽉45時間を超えられるのは、年6ヶ月が限度

上限を超えると、企業は6ヶ月以下の懲役や、最大30万円の罰金が科されることがあります。

過度な時間外労働は労働者の健康にも影響を与えるため、法律で定められたルールを守ることが重要です。

関連記事:労働基準法第36条とは?時間外労働(残業)や休日労働、36協定をわかりやすく解説

違法とみなされる「月160時間労働」

違法とされるのは「時間外労働」を月160時間行う場合です。160時間の時間外労働は、36協定で定められた「月45時間」の上限を大きく超えます。

また、特別条項付きの36協定を結んだ場合でも「月100時間未満」の上限規制を超えるため、違法です。

さらに、月160時間の時間外労働が、長期に渡って続く場合、特別条項付き36協定の「2〜6ヶ月で平均80時間以内」の基準も満たしません。

過剰な労働時間が続くと、労働者の体調不良や企業が法的トラブルに直面する可能性があります。過度な残業が必要ない業務量に調整し、労働時間を適切に管理することが大切です。

労働時間の計算・管理で押さえるべきポイント

労働時間を正しく計算し、適切に管理することで、過剰な労働を防ぎます。正しい知識が法的トラブル防止につながるでしょう。

ここでは、労働時間の管理で注意したい点について解説します。

法定労働時間の計算方法

法定労働時間は、通常1週間で40時間が基本です。ただし、1ヶ月単位で考える場合は、月の日数によって法定労働時間の上限が変わります。たとえば、28日の月では160時間、31日の月ではおよそ177時間です。

月ごとの法定労働時間は、以下の計算式で求めます。

40時間 × 月の日数 ÷ 7日

月の日数ごとの法定労働時間の上限は以下の表の通りです。

月の日数法定労働時間の上限(時間)
28日160時間
29日約165.7時間
30日約171.4時間
31日約177.1時間

月ごとに変わる上限を適切に管理し、過剰な労働を防ぎましょう。

関連記事:月177時間は法定労働時間の範囲内!違法になるケースや有給取得時の対応を紹介

残業時間と総労働時間の違い

「月160時間労働」が違法であるかどうか判断するには、その労働時間が「残業時間」なのか「総労働時間」なのかを区別する必要があります。

総労働時間160時間の場合、法定労働時間は1週間40時間で計算されるため、月によっては法定労働時間内に収まります。月の日数によっては、総労働時間が160時間を超えても違法にはなりません。

一方、残業時間として160時間働く場合、月100時間未満や平均80時間以内という基準を大きく超えるため、ただちに違法となります。

総労働時間と残業時間を混同しないよう正確に管理することが大切です。

みなし残業制度を使う際の注意点

みなし残業制度は、あらかじめ決めた時間分の残業代を定額で支払う仕組みです。ただし、月160時間のように過剰な残業をこの制度に含めるのは、法的に問題となるおそれがあります。

企業がみなし残業を導入する際には、労働基準法に違反しないよう注意が必要です。

みなし残業制度の注意点は以下の通りです。

  • 残業時間月45時間を目安にする
  • 就業規則・雇用契約書にみなし残業の詳細を明記する
  • 残業時間を正しく把握する

書類上の法律順守だけでなく、実際の残業時間が就業規則と大きくずれていないかも確認しましょう。

長時間労働によって発生する3つの企業リスク

無理な長時間労働は、法的な問題だけでなく、従業員の健康への影響や企業の社会的信用にも関わります。

ここでは、長時間労働によって発生する主なリスクを解説します。

労働基準法違反による罰則

法定労働時間を超えて働かせる場合、企業は36協定を結び、労働基準監督署へ届出をしなければなりません。手続きを怠ると労働基準法違反となり、罰則の対象です。

また、時間外労働の上限を超えて働かせた場合、企業は6ヶ月以下の懲役刑、または30万円以下の罰金を科される可能性があります。仮に従業員ひとりのみが違反したとしても罰則が科される恐れがあるため、従業員数が多いほどリスクも大きくなります。

労働時間の状況を把握し、36協定の範囲内で運用することが大切です。

従業員の健康被害

長時間労働は、過労死やうつ病などの深刻な健康被害を引き起こす原因となります。

厚生労働省によると、月100時間以上、または2~6ヶ月の平均で80時間を超える時間外・休日労働はとくに危険とされています。無理な働き方を防ぐために、早めの対策と環境整備が必要です。

企業には、従業員の健康と安全に配慮する責任があります。過度な労働時間を放置して従業員に健康被害が生じた場合、損害賠償を求められる可能性があるため注意してください。

企業イメージの低下

長時間労働が常態化している企業は「ブラック企業」とみなされ、採用活動が難航したり優秀な人材が離れたりする可能性があります。企業イメージを守るためにも、健全な労働環境を維持することが重要です。

近年は働き方改革が進み、企業には労働時間の適切な管理が求められています。

労働時間を正しく管理するために見直すべきこと

長時間労働を防ぐには、日々の労働時間を正しく把握し、適切な管理が欠かせません。

ここでは、労働時間を管理するために見直すポイントをご紹介します。

所定労働時間と法定労働時間の違いを理解する

所定労働時間は企業が独自に定めた勤務時間であり、法定労働時間は法律によって定められた上限です。所定労働時間を超えても、1日8時間以内であれば、ただちに時間外労働にはなりません。一方で、法定労働時間は「1日8時間以内、1週40時間以内」が基本です。

労働時間が法定内か法定外かで、法的義務が大きく異なります。正しい勤怠管理を行うには、2つの違いを理解することが大切です。

過去の残業時間を定期的に確認する

時間外労働には、月45時間、年360時間という上限が定められています。また、特別条項付きの36協定を締結している場合も、月100時間未満や平均80時間以内などの条件をすべて満たす必要があります。日々の労働時間だけでなく、過去の残業時間の推移や平均を確認することも重要です。

36協定にもとづいた基準を守れているかどうかを定期的にチェックし、労働時間の記録を見える形で管理する体制が必要です。継続的に状況を把握し、過度な残業を防ぎましょう。

月100時間を超える残業を防止する

特別条項付きの36協定を結んでいたとしても、時間外労働の合計が月100時間を超えることは認められていません。この上限は「過労死ライン」とも呼ばれ、従業員の健康を守るうえで重要な目安とされています。

万一、労働災害や体調悪化が発生すれば、安全配慮義務違反とされ、企業は損害賠償責任を問われる可能性があります。

企業としては、月100時間を超えないように日々の労働時間を確認することが大切です。

長時間労働を削減するために企業が取り組むべき4つのこと

長時間労働を減らすには、企業が積極的に対策をとる必要があります。

ここでは、労働時間を削減するために企業が取り組むべきことをご紹介します。

勤怠管理システムを導入して労働時間を可視化する

労働時間を適切に管理するには、勤怠管理システムの導入が効果的です。タイムカードや自己申告だけでは正確な把握が難しい場合があるため、勤怠管理システムを導入するとよいでしょう。

勤怠管理システムは、自動的に時間が集計され、アラート機能により長時間労働の兆候にも気づきやすくなります。また、給与計算の効率化にも効果的です。

企業は、客観的な労働時間の記録と管理が求められます。

社内ルールを見直す

長時間労働を減らすには、職場の雰囲気や文化の見直しも欠かせません。「帰りにくい雰囲気」が原因で不要な残業が増えるケースがあります。

社内ルールを見直しノー残業デーの導入や定時退勤の促進といったルールを設けることで、早く帰りやすい環境を整えられるでしょう。

また、管理職が率先して退勤することで、自然と定時退社がしやすくなります。制度だけでなく、日々の行動を通じて意識を変えていくことが大切です。

残業時間を削減することで従業員のモチベーション低下を防ぎやすく、生産性向上にもつながります。

人事評価制度を「成果重視」に変える

「残業している人が評価される」という考え方が根付いていると、長時間労働が当たり前になる可能性があります。

社内の雰囲気を変えるには、人事評価の軸を「成果重視」に移すと効果的です。業務の質や目標の達成度に注目することで、時間ではなく結果重視の働き方が促進されます。限られた時間内で成果を出す意識が広まり、効率的な働き方に自然とつながるでしょう。

評価制度を見直し、労働時間の長さではなく成果にもとづいて評価することが重要です。

健康確保のための取り組みを行う

長時間労働が続けば、過労死やメンタルヘルスの悪化など、深刻な健康被害を引き起こす可能性があります。月100時間以上の残業または平均80時間を超える長時間労働は、従業員の健康被害を伴うため、注意してください。

企業には、従業員の健康を守る義務があります。労働時間の管理や医師による面談、休暇取得の促進など具体的な対策をとりましょう。

健康を意識した取り組みが、従業員の安心と働きやすさにつながります。


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