- 更新日 : 2025年6月19日
労働条件通知書を変更する場合はどうするべき?変更できる条件や方法を紹介
労働条件通知書を不利益変更する場合は、対象の従業員全員から同意をもらう必要があります。同意なしの変更は原則として認められません。
また「労働条件を変更する場合に満たすべき条件は他にもある?」「労働条件を変更したいときは、具体的にどのような対応をすべき?」などと気になっている人もいるでしょう。
そこで本記事では、労働条件通知書を変更する場合の条件や変更方法などを中心に解説しています。
目次
労働条件通知書とは?
労働条件通知書とは、従業員を採用した際に会社側が交付する書類です。労働基準法の第15条によって交付が義務付けられており、給与や勤務時間などの労働条件を記載します。
労働条件を書面で明示することで、不利な条件から従業員を守るという目的があります。認識の違いやトラブルなどを防ぐことにも期待できるでしょう。
また労働条件通知書は、全ての雇用形態の従業員に交付しなければなりません。正社員だけでなく、パート・アルバイト・契約社員などにも発行する必要があります。交付を怠ると30万円以下の罰金が科されるため、従業員を採用したら必ず発行してください。
雇用契約書との違い
労働条件通知書は、会社が労働条件を明示するための書類です。会社側が一方的に交付するため、従業員からの合意は必要ありません。また、交付が法律で義務付けられており、記載する項目も法律で定められています。
一方、雇用契約書は雇用契約が締結されたことを証明するための書類です。締結のためには、従業員から合意をもらう必要があります。そして、労働条件通知書とは異なり、雇用契約書の交付は法律で義務付けられていません。
労働条件通知書のみを発行しても法的には問題ありませんが、トラブルを防ぐためにも雇用契約書を発行するのが望まれます。最近では、労働条件通知書と雇用契約書を兼ねた「労働条件通知書 兼 雇用契約書」を作成する会社もあります。
労働条件通知書の内容を変更する際に満たすべき2つの条件
労働条件通知書に記載した内容を変更したい場合は、以下の2つの条件を満たす必要があります。
条件1:変更の対象となる従業員全員から同意をもらうこと
1つ目の条件は、変更の対象となる全ての従業員から同意をもらうことです。労働契約法の第3条と第8条にて、会社と従業員の双方の合意に基づいて変更できると規定されています。よって、従業員の合意がなければ、労働条件通知書の内容は変更できません。
正社員だけでなく契約社員やパートなどの労働条件を変更したい場合も、対象者全員から同意を得ることが義務付けられています。ただし、派遣社員の場合は、派遣元が労働条件通知書を発行する義務を負います。そのため、派遣先が労働条件通知書を発行する必要はありません。
なお、従業員から同意を得る必要があるのは、不利益変更をするときです。従業員に有益な変更をするときは、事前に同意をもらわなくても変更できます。不安な場合は、従業員に告知をしたり連絡をしたりすると良いでしょう。
条件2:変更内容が労働基準法に違反していないこと
2つ目の条件は、変更する内容が労働基準法に違反していないことです。
労働基準法に違反する場合、従業員から合意をもらって内容を変更しても無効となります。該当箇所は、労働基準法の最低基準まで自動的に引き上げられます。
労働基準法は改正されることもあるため、変更の手続きを始める前に最新の内容を確認するようにしましょう。直近だと2024年4月に労働基準法施行規則が改正され、労働条件として明示すべき事項が追加されました。
労働条件通知書の内容を変更したいときの流れ
労働条件通知書の内容を変更したいときの流れについて解説します。
1. 従業員から同意を得る
最初に、変更の対象となる従業員全員から個別に同意をもらってください。
変更に至った理由や変更する内容などを、一人ひとりにきちんと説明するのが推奨されます。少人数の場合は個別に面談をすると良いでしょう。人数が多い場合はメッセージツールを使用したり、説明会を開いたりしてから同意をもらうという方法もあります。
全ての従業員の理解と同意を得たうえで、変更を進めてください。強制的に同意させたり勝手に同意したことにしたりすると、変更自体が無効になる可能性があります。
なお、前述の通り同意をもらわなければならないのは、従業員にとって不利益な変更をする場合です。有益な変更をする場合は同意をもらう必要はありません。
2. 覚書に署名をもらう
従業員から同意を得られたら、覚書を作成して一人ひとりから署名をもらうことをおすすめします。
覚書とは、会社と従業員が変更することに同意したと証明する書類です。労働条件通知書を変更する場合のほか、契約書の内容を変更したり契約の締結後に条件を追加したりする場合にも覚書を作成します。
覚書を作成することは義務ではありませんが、作成しておいた方がトラブルを防げる可能性があります。
覚書に記載する内容は以下の通りです。
- 労働条件通知書の変更内容
- 覚書の部数
- 覚書の作成日
- 当事者双方の署名や捺印
マネーフォワーでも覚書のテンプレートを用意しているため、必要な人はこちらからダウンロードしてご活用ください。
3. 労働条件を変更する
対象の従業員全員から覚書を回収できたら、労働条件を変更できます。変更後は、変更箇所を反映した新しい労働条件通知書を交付することが適切とされます。
ただ、就業規則の範囲内で変更する場合や会社の移転によって内容を変更する場合などは、労働条件通知書を発行し直す必要は特にありません。
パートやアルバイトから正社員になるといった、労働条件に大きく変更がある場合は新しい労働条件通知書を発行すると良いでしょう。
従業員から同意を得られなかった場合でも変更できる?
原則として、もし従業員から変更についての同意を得られなければ、労働条件の変更はできません。
同意がないまま変更しても無効となり、従来の労働条件が継続して適用されます。また、従業員の同意なしで一方的に変更すると、訴訟問題に発展する可能性もあるため無理に変更するのはやめましょう。
ただ、同意が得られない場合は、就業規則を変更することで対応できる可能性があります。就業規則を変更する際は、以下の2つの条件をどちらも満たさなければなりません。
- 就業規則の変更が不利益の程度や必要性、相当性などの事情に照らして合理的である
- 変更後の就業規則を従業員に周知する
就業規則の変更方法については、下の「就業規則を変更する際の手順」という見出しで詳しく解説しています。
就業規則を変更する際の手順
就業規則を変更する際の手順を紹介します。
- 就業規則の変更案を作成する
- 従業員に周知する
- 「就業規則変更届」を作成する
- 変更に対する労働者代表の意見を書面にした「意見書」を作成する
- 就業規則・変更届・意見書を労働基準監督署長へ届け出る
最初に就業規則の変更箇所を決めて変更案を作成します。従業員へ変更案を周知したり説明会を開いたりすると、従業員の理解を得やすくなります。
次に「就業規則変更届」を作成してください。特に決まった様式はありませんが、厚生労働省の公式サイトからテンプレートがあるため、必要な人はダウンロードしてご活用ください。
また「意見書」も作成する必要があります。労働者の過半数を代表する従業員(もしくは労働者の過半数が加入する労働組合の代表者)に意見を聴取し意見書を作成してください。
意見書まで作成できたら、変更後の就業規則・就業規則変更届・意見書の3つを労働基準監督署へ提出します。
提出したあとは、変更後の就業規則を従業員に必ず周知してください。周知まで行えば、仮に労働者代表の意見が変更に反対であっても有効となります。
労働条件通知書を変更するにあたっての注意点
労働条件通知書を変更する際に注意すべきことを紹介します。
従業員にとって不利益な変更をする場合は同意をもらう必要がある
従業員にとって不利益となる労働条件に変更する場合は、原則として同意をもらう必要があります。
また、変更に同意する覚書に署名・押印をもらったとしても、真に同意したと認められない可能性があるため注意してください。
不利益な変更をする際は、従業員が自由な意思のもとで同意したかどうかが重要となるためです。無理にサインさせない、解雇や退職などで脅さない、同意について時間を求められたら応じるなど、自由な意思のもとで判断できるよう十分に配慮しましょう。
なお、労働条件通知書を有益変更する場合は、従業員の同意は不要です。
労働条件通知書の内容によっては変更できない可能性がある
労働条件通知書の内容によっては、変更できない可能性がある点にも注意が必要です。
労働契約法の第10条にて、労働条件通知書に「就業規則の変更による影響を受けない」といった記載がある場合、就業規則を変更しても無効となると規定されています。
また、2024年4月の労働基準法施行規則の改正により、一部の労働条件は労働条件通知書に「変更の範囲」も記載する決まりとなりました。つまり「変更の範囲」から外れる条件への変更は、基本的にできなくなります。
たとえば、就業場所を記載する場合、雇入れ直後の就業場所と変更の範囲を明記する必要があります。変更の範囲として「本社」とだけ記載すると、原則として本社でしか勤務できません。本社以外の支店や支社で勤務してほしい場合は、従業員本人に同意を得る必要があります。
内容変更の手続きを始める際は、労働条件通知書に「就業規則の変更による影響を受けない」といった記載がないか、変更の範囲から外れていないか確認しておきましょう。
参考:労働契約法 | e-Gov 法令検索、2024年4月から労働条件明示のルールが変わりました|厚生労働省
覚書は内容を確認しつつ丁寧に作成する
覚書はトラブルを防ぐための補助的な書類ではありますが、しっかり確認しながら丁寧に作成してください。内容によっては、法的拘束力を持つ可能性があるためです。
特に、権利・義務や違反に対する罰則などに関する覚書を作成すると、強い効力を持つことが大半です。
今回のような労働条件通知書の変更に関する合意は、強い効力があるわけではありませんが、トラブルに発展した際に重要な証拠となります。変更に関する箇所だけでなく、作成日や当事者の署名なども間違えないように記入しましょう。
労働条件通知書の変更に関するよくある質問
最後に、労働条件通知書の変更に関するよくある質問を紹介します。
労働条件変更通知書や覚書はパートやアルバイトにも署名をもらうべき?
パートやアルバイトなど雇用形態は関係なしに、全ての従業員から労働条件変更通知書や覚書に署名をもらうのが望ましいです。
労働条件変更通知書や覚書の交付は義務付けられていませんが、認識の違いやトラブルなどを防ぐためにも、全ての従業員の覚書を証拠として残しておくことを推奨します。
また変更の合意は、雇用形態に関係なく対象の従業員全員からもらう必要があるため、合意を得る際に署名と押印をお願いすると良いでしょう。
労働条件を勝手に変更するのは違法?
従業員にとって不利益な変更をする場合、会社が勝手に変更すると違法になります。一方的に変更した場合の罰則は設けられていませんが、訴訟問題に発展して損害賠償金を請求される可能性があります。従業員からの信用を失って生産性が下がってしまうことも考えられるでしょう。
原則として不利益な変更をする場合は、対象の従業員全員から同意をもらう必要があります。ただ、就業規則を変更することで、同意がなくても変更後の内容を適用可能です。
就業規則を変更するには、必要書類を用意して労働基準監督署へ提出する必要があります。詳しくは本記事の「就業規則を変更する際の手順」をご参照ください。
異動時や会社の移転時にも労働条件通知書を新しく発行し直す必要がある?
異動や会社の移転などで就業場所が変更になったとしても、わざわざ労働条件通知書を発行し直す必要はありません。
2024年4月の改正により「就業場所」について変更の範囲を明示することが義務付けられました。よって、変更の範囲として就業場所が変わる可能性がある旨がきちんと記載されていれば問題ありません。
労働条件の変更について通知をするのは義務?
労働条件を変更する際は従業員に通知することが、労働契約法によって義務付けられています。同法の第3条の第1項にて、労働契約は会社と従業員が対等の立場における合意に基づいて変更できると記載されています。
従って、きちんと変更の内容を従業員に通知し、合意を得ることが必要です。
なお、従業員にとって有益な変更をする際は合意をもらう必要はありませんが、不安な場合は変更を確定する前に通知だけしておくと良いでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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