- 更新日 : 2025年4月18日
労災保険の休業補償給付を請求する際に医師の証明は必要?請求時に必要な書類も解説
休業補償給付とは、業務上のケガや病気が原因で休業する場合に、休業日の収入の一部を補填するための給付です。休業補償給付をスムーズに受け取るには、医師の証明が必要かどうかを含め、手続きの流れや必要書類に関する正しい理解が必要です。
本記事では、労災保険の休業補償給付を請求する際に、医師の証明が必要なのかどうかを解説します。また、給付を請求する際に提出が必要な書類や、書類の書き方も紹介します。
目次
労災保険の休業補償給付を請求する際に医師の証明は必要?
労災保険の休業補償給付を受け取るには、医師の証明が必要です。給付を受け取るには請求書の提出が必要で、請求書に医師の証明として以下の事項を記載します。
- 傷病の部位及び傷病名
- 療養の期間
- 傷病の経過(療養の現況や、療養のために労働不能だった期間)
- 病院の所在地・名称、医師の氏名、連絡先など
休業補償給付を受給する要件の一つに「ケガや病気を治療するために労働できないこと」があります。医師の証明は、ケガや病気で仕事ができないことを、医学的な観点から示すために必要です。医師の証明がないと給付の請求ができないため、必ず記載してもらいましょう。
休業補償給付を請求するための医師の証明にかかる費用は?
休業補償給付を請求するために医師の証明を取得する場合、2,000円の費用が発生しますが、労災保険の制度で補填されます。
労災保険指定医療機関(労災保険の適用を受けられる医療機関)であれば、無料で医師の証明を取得可能です。労災保険指定医療機関以外の病院では、医師の証明の取得時に2,000円を支払いますが、後で労働基準監督署へ請求すると2,000円が還付されます。
病院によって一度立て替えるかどうかの違いはありますが、出費はないと考えて問題ありません。
休業補償給付の請求に必要な書類
休業補償給付を受け取るには「休業補償給付支給請求書(様式第8号)」の提出が必要です。また、以下の添付書類も提出します。
- 出勤簿の写し
- 賃金台帳
- 障害年金の支給額の証明書(同一の労災が原因で、障害年金を受給中の場合のみ)
休業補償給付支給請求書は労働基準監督署で入手できるほか、厚生労働省のホームページからダウンロードもできます。書類に不備があると給付を請求できないため、必要書類がそろっているか、提出前によく確認しましょう。
休業補償給付支給請求書の書き方
休業補償給付支給請求書は、1枚の用紙と3枚の別紙で構成されます。ここからは、請求書の書き方をいくつかの項目に分けて紹介します。
1.請求書の表面を記入する
まずは、請求書の表面について、以下の箇所を記入します。
引用:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001095739.pdf)
記入事項は以下の通りです。
- 労働保険番号
- 氏名
- 生年月日
- 住所
- ケガ・病気の発生日
- 休業していた期間
- 給付を振り込んでもらう口座の情報
内容に誤りがあると支給が遅れる可能性があるため、正確に記入しましょう。
2.事業主の証明欄を記入してもらう
請求書の表面に、事業主の証明欄があります。
引用:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001095739.pdf)
事業主の証明欄には、会社の事業主に、事業の名称・事業所の所在地・氏名などを記載してもらいましょう。会社が倒産した場合や、事業主が記載してくれない場合は、都道府県労働局や労働基準監督署に相談してください。
なお、2回目以降の請求であって、会社を退職した後の期間についてのみ請求を行う場合は、事業主の証明欄の記入は不要です。
3.医師の証明欄を記入してもらう
事業主の証明欄の下に「診療担当者の証明」の欄があり、ケガや病気を診察した医師に記入してもらう必要があります。
引用:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001095739.pdf)
傷病名や、労働不能と認められる期間などを記入するため、給付の支給に関わる重要な箇所です。記入してもらったら、内容に間違いがないかを念のため確認しましょう。
4.請求書の裏面を記入する
裏面には、自分の職種や、災害発生時の状況などを記載します。
引用:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001095739.pdf)
災害発生時の状況は、以下のポイントを押さえて詳しく記載しましょう。
- どこで作業をしていたか
- どのような作業をしていたか
- どのようなものに、どういった不安全・有害な状態があったか
- どういった災害が発生したか
- 災害発生日と初診日が同じ場合、所定外労働時間内に受診したか
- 災害発生日と初診日が異なる場合、その理由
裏面の右上にある「平均賃金」欄は、後で平均賃金を求めた際に記入しましょう。
5.平均賃金算定内訳を記入する
ここからは別紙の「平均賃金算定内訳」の記入方法を紹介します。
引用:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001095739.pdf)
平均賃金とは、労災が起こった日の直前3ヶ月間に支払われた賃金の総額を、当該期間の暦日数で割った額です。平均賃金算定内訳の様式に従って、直前3ヶ月間の賃金額と暦日数を割り出し、平均賃金を求めましょう。月給や週給の場合はA欄に、その他の場合はB欄に必要事項を記入してください。
平均賃金を計算できたら、休業補償給付支給請求書の裏面の「平均賃金」欄も忘れずに記載します。
6.別紙2を記入する(休業中に一部の手当等を受けた場合のみ)
休業中に、短時間労働による賃金や各種手当など、一部の賃金を受けた場合は別紙2の準備が必要です。
引用:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001095739.pdf)
休業期間における、まったく賃金を受けていない日と賃金の一部を受けた日の日数を記入し、賃金を受けた日は賃金額も記入します。賃金を受けた日は、受けた額によって休業補償給付の支給の有無が変わるため、正確に記入しましょう。
7.別紙3を記入する(複数の職場で働いている場合のみ)
労災が発生した職場以外に勤務先がある場合は、別紙3の提出が必要です。
引用:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001095739.pdf)
別紙3には、休業補償給付支給請求書で記載したものと別の職場について記入します。別紙3は、ほかに働いている職場の数だけ準備が必要です。
たとえば、勤務している職場が3つある場合は別紙3を2つ準備します(1つは労災事故が発生した就業先として、休業補償給付支給請求書に記載するため)。
別紙3には各職場の事業主の証明も必要なため、早めに準備しましょう。
休業補償給付支給請求書はいつまでに出せばよい?
休業補償給付支給請求書は、休業した日の次の日から2年以内に提出が必要です。休業補償給付は休業した日ごとに支払われますが、休業した日の翌日から2年間が時効であり、時効を過ぎると請求できなくなります。
特に、休業期間が終わった後に複数日分をまとめて請求する場合は、時効が過ぎる日がないように注意しましょう。
時効が気になる場合は、休業期間が1ヶ月過ぎるごとに請求すると確実に受け取れるためおすすめです。
休業補償給付の支給要件
休業補償給付を受け取るには、大きく分けて3つの支給要件を満たすことが必要です。ここからは、休業補償給付の支給要件を解説します。
ケガや病気が労働災害によって発生した
労働災害は大きく「業務災害」「通勤災害」の2種類に分けられます。
業務災害とは、業務中に発生した事故です。事業主の管理下で作業を行っており、作業と事故との間に因果関係があれば、業務災害と認められます。
一方、通勤災害とは、通勤中に発生した事故です。具体的には、職場への移動中の事故であれば、通勤災害と認められます。
ケガや病気の原因である事故が労働災害に当てはまるかは、労働者の申請をもとに、労働基準監督署が判断します。
療養のために労働できない
休業補償給付は、あくまで労災によるケガや病気で休業せざるを得ない労働者に対して支給されるものです。受給するには、療養のために労働不能であることを医師に証明してもらう必要があります。
労働時間のすべてが労働できない場合だけでなく、通院のために一部の時間しか労働できない場合でも、休業補償給付を受給できる可能性があります。
賃金の支払いを受けていない
休業補償給付は、休業で収入が途絶えている労働者への補償です。そのため、受給するには賃金の支払いを受けていないことが必要です。
すべての賃金は受け取っていないが、一部の手当等を受けている場合でも、休業補償給付を受給できる可能性があります。
一部の手当等を受けている場合は、休業補償給付支給請求書の別紙3に詳細の記入が必要です。記入した内容をもとに、給付を受給できるか判断されます。
休業補償給付を受給できる期間
休業補償給付を受給できる期間は、原則として休業の4日目から、療養のための休業が終わる日までです。休業期間の最初の3日間は「待期期間」とされており、給付は受け取れません。
また、以下に該当する場合、休業中であっても休業補償給付の支給が打ち切られます。
- ケガや病気の症状が固定(治療を続けても良くならない状態)された場合
- 傷病補償年金を受給する場合
休業期間のすべてにおいて、必ず給付を受け取れるとは限らないため注意しましょう。
休業補償給付の支給額
休業補償給付の支給額は、休業した日1日につき、原則として給付基礎日額の60%の額です(1円未満の端数は切り捨てます)。給付基礎日額は平均賃金と同じ概念で、労災事故が発生した日の直前3ヶ月間に労働者に支払われた賃金の総額を、当該期間の暦日数で割った額です(1円未満の端数は切り上げます)。
たとえば、毎月末日に月25万円の賃金を受けている労働者が、9月1日に労災でケガを負ったと仮定します。この場合、給付基礎日額は以下の計算式で求められます。
25万円×3ヶ月÷92日(6月、7月、8月の暦日数の合計)≒8,153円 |
給付基礎日額が8,153円であることから、休業した日1日分の休業補償給付は以下の通りです。
8,153円×60%≒4,891円 |
また、休業補償給付とは別に、給付基礎日額の20%が「休業特別支給金」として支給されます(1円未満の端数は切り捨てます)。
先ほどの例の場合、給付基礎日額が8,153円であるため、休業した日1日分の休業特別支給金は以下の通りです。
8,153円×20%≒1,630円 |
以上から、労働者が休業した日1日に受け取れる額は以下になります。
4,891円+1,630円=6,521円 |
休業補償給付と休業特別支給金を合わせると、休業した日1日につき、給付基礎日額の80%の額が支給されます。
休業補償給付以外に医師の証明が必要な給付
労災保険には、休業補償給付以外にも医師の証明が必要な給付があります。ここからは、休業補償給付以外で医師の証明が必要な給付を紹介します。
療養補償給付
療養補償給付は、労災を原因とするケガや病気の治療費を補償する給付です。受診した病院が、労災指定医療機関(労災保険が適用される医療機関)に該当するかどうかで、支給の流れが異なります。
病院が労災指定医療機関(労災保険が適用される医療機関)である場合、療養補償給付の精度によって、無料で受診可能です。病院が労災指定医療機関でない場合は、一旦治療費を自己負担した後、療養補償給付で治療費が還付されます。
療養補償給付を請求する際は、請求書に医師の証明欄を書いてもらう必要があります。
傷病補償年金
傷病補償年金は、療養による休業開始後1年6ヶ月を経過してもケガや病気が治癒せず、傷病等級に該当する場合に受給できる給付です。傷病等級は、ケガや病気の程度に応じて1級から3級まで定められています。
療養による休業開始後1年6ヶ月を経過した際に「傷病の状態等に関する届書」を提出し、届書の内容をもとに傷病補償年金の支給の有無が判断されます。傷病の状態等に関する届書を提出する際は、医師の診断書も必要です。
障害補償給付
障害補償給付は、労災を原因とするケガや病気の後遺症として、障害が発生した場合に支給される給付です。障害の程度に応じて1級から14級までの障害等級があり、障害等級に応じて障害補償給付の額が決まります。障害等級1~7級の場合は年金、8~14級の場合は一時金で支給されます。
障害補償給付を請求する際は、障害の程度の証明として、医師に「障害(補償)等給付請求用診断書」を書いてもらうことが必要です。
介護補償給付
介護補償給付は、傷病補償年金や障害補償年金を受給しており、介護が必要な場合に支給される給付です。介護補償給付は月ごとに支給され、原則として介護に要した金額を基準に支給額が決まります。
介護補償給付を申請する際は、原則として医師または歯科医師の診断書が必要です。傷病補償年金の受給者や、一部の障害等級に当てはまる人は、診断書の添付は不要です。
遺族補償給付
遺族補償給付は、労災を原因とするケガや病気で労働者が死亡した際に、遺族に支給される給付です。遺族補償年金・遺族補償一時金の2種類が存在し、遺族の生活を支援するために支給されます。
遺族補償給付を申請する場合、労働者が死亡した事実や死亡年月日を証明する書類として、死亡診断書が必要です。
労災の休業補償給付を受給するには医師の証明が必要
労災保険の休業補償給付を受給するには、医師の証明が必要です。受給要件として「療養のために労働できないこと」があり、当該要件を満たしていることを医師に証明してもらう必要があります。
医師の証明に関する事項は、休業補償給付支給請求書(様式第8号)の表面に記入します。本記事を参考に医師の証明に関する事項を記入してもらい、給付を受給して療養に専念しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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