- 更新日 : 2025年4月18日
違法な時間外労働は全国1万1,000ヶ所以上!企業が行うべき対策を紹介
時間外労働は労働基準法で厳しく制限されており、36協定を締結していても、月45時間・年360時間の上限を超えると違法になる場合があります。
また、「1ヶ月に100時間の残業は違法?」「1日12時間労働は認められるのか?」など、企業の労務管理担当者や労働者が抱く疑問も多いのが現状です。
本記事では、違法な時間外労働の基準や違反になるケース、企業が取り組むべき時間外労働の対策を解説します。
適正な労働環境を整え、労働者の健康を守るために、企業・個人が知っておくべきポイントを押さえていきましょう。
目次
違法な時間外労働は全国で1万1,000ヶ所以上
厚生労働省が令和5年に実施した調査結果によると、全国で1万1,000ヶ所以上の事業所で違法な時間外労働が確認されています。
違法な時間外労働が発生する主な原因は、以下のようなものが挙げられます。
- 業務量の増加
- 人手不足
- 長時間労働の常態化
違法な時間外労働を防ぐためには、労働環境の見直しが必要です。企業は適正に労働時間を管理し、従業員が健康的に働ける仕組みを整えることが求められます。
参考:長時間労働が疑われる事業場に対する令和5年度の監督指導結果を公表します|厚生労働省
違法な時間外労働は原則36協定が基準
違法な時間外労働の判断基準となるのが「36協定」です。
36協定とは、労働基準法第36条にもとづく協定です。企業が労働者に時間外労働を命じるためには、労使間で36協定を締結する必要があります。
36協定がない状態で従業員に時間外労働を行わせることは違法であり、企業側に罰則が科される可能性があります。
企業は36協定を適切に締結し、労働基準法にもとづいた適正な労務管理を行うことが重要です。
従業員も自身の労働環境が法的に適正か確認し、違法な働き方を強いられないように注意しましょう。
時間外労働で違法になるケース
時間外労働には法律で定められた上限があり、企業が36協定を締結していても、労働基準法の定める基準を守らなければなりません。
違法となるケースは、残業時間の上限時間の超過、特別条項の逸脱、平均残業時間の違反などです。
残業時間が月45時間・年360時間
36協定を締結している場合でも、時間外労働の基本的な上限は「月45時間・年360時間」と定められています。
月45時間・年360時間の基準を超えた残業を命じることは、特別条項付き36協定がない限り違法です。特別条項付き36協定とは、一定の条件を満たせば上限超過が可能だが、無制限ではない制度のことです。
企業は労働時間を適正に管理し、違法な時間外労働を防ぐための体制を整える必要があります。
特別条項がない場合は、月45時間を超えないように業務の効率化を意識しましょう。
残業時間が月100時間以上または年720時間
特別条項付き36協定を締結している場合でも、時間外労働の上限は「月100時間未満」「年720時間以内」と決められています。なお、「月100時間未満」は時間外労働のみならず休日労働も含むので注意しましょう。
残業時間が月100時間以上または年720時間を超えると、特別条項があっても違法となり、企業には厳しい罰則が科される可能性があります。
過労死や健康被害のリスクを避けるため、残業時間の適正な管理を徹底することが必要です。
残業時間が2~6ヶ月平均で月80時間
単月で100時間を超えていなくても、「2~6ヶ月の平均で月80時間を超えた場合」は違法となります。この「2~6ヶ月の平均で月80時間」についても、時間外労働と休日労働の合計時間である点に注意しましょう。
たとえば、2ヶ月間で「1ヶ月70時間・もう1ヶ月90時間」の場合でも、平均が80時間になるため違反となります。
短期間の極端な残業がなくても、長期間続くと違法となり、過度な残業は従業員の過労死リスクの増加にもつながるでしょう。
そのため、企業は単月の残業時間だけでなく、長期的な視点で労働時間を管理しなければなりません。
労働者も、自分の勤務状況が基準を超えていないか定期的に確認することが重要です。
月45時間超えの残業が年6回
特別条項付き36協定を締結していても、「月45時間を超える残業」は年6回までという制限があります。
仮に特別条項のもとで「月70時間の残業」を行ったとしても、6回を超えた時点で違法となるので注意しましょう。
そのため、企業は繁忙期だけでなく、年間の労働時間を計画的に管理することが求められます。
違法な時間外労働を防ぐためには、計画的なシフト調整やタスク管理の工夫などを行いましょう。
36協定で取り決めた残業時間の超過
36協定で合意した残業時間を超えた場合、法律の上限内であっても違法です。
たとえば、36協定で「月30時間までの残業」と定めていた場合、仮に35時間残業させると違反になります。
企業は、法的な基準だけでなく、自社の協定内容も厳格に守らなければなりません。
労働者も、自分の職場の36協定の内容を把握し、違法な長時間労働を未然に防ぐことが大切です。
違法な時間外労働を防ぐために企業が取り組むべき5つの対策
違法な時間外労働を防ぐためには、企業が主体的に対策を講じる必要があります。
労働時間の適正管理や業務効率化を進めることで、従業員の負担を軽減し、法令違反を防ぐことが可能です。
勤怠管理システムの導入
企業が違法な時間外労働を防ぐには、従業員の労働時間を正確に把握し、適正な管理を行うことが必要です。
しかし、手作業での管理には限界があり、不正確な記録や管理ミスも発生しやすくなります。
そのため、デジタル技術を活用した勤怠管理システムの導入が不可欠です。
勤怠管理システムには主に以下のような機能が備わっています。
機能 | 概要 |
---|---|
クラウド型 勤怠管理システム | リアルタイムで労働時間を記録・集計し、企業と従業員がいつでもデータを確認可能 |
ICカード・生体認証 | 打刻ミスや不正な出勤・退勤記録を防ぎ、正確な労働時間を記録 |
自動アラート機能 | 労働時間の上限が近づいた際に警告を出し、管理者が即座に対応可能 |
システムを導入することで、企業は法令違反を防ぐだけでなく、労務管理の手間を削減し、より効率的な業務運営が可能になります。
労働者にとっても、自身の労働時間を可視化できるため、適正な労働環境の維持に役立つでしょう。
36協定の適切な締結と運用
企業が従業員に時間外労働を命じるには、36協定(サブロク協定)の締結が必須です。
未締結のまま時間外労働を命じることは違法となり、企業は行政指導や罰則を受ける可能性があります。
そのため、36協定を適切に締結し、運用することが重要です。
下記では、36協定に関する基本的なポイントや運用時の注意点を整理しました。
項目 | 概要 |
---|---|
締結(原則) | すべての事業所で36協定を締結し、従業員にも内容を周知 |
特別条項の管理 | 特別条項付き36協定を導入する場合は、月100時間未満・年720時間以内を厳守 |
年6回までの制限 | 月45時間超の残業は、特別条項があっても年6回までに制限 |
36協定の運用が適切でない場合、企業は違法労働を強いるリスクが高まり、従業員の健康被害にもつながる可能性があります。
企業は法的ルールを遵守し、適正な労務管理を徹底することで、働きやすい職場環境を整えましょう。
業務効率化と適正な業務分担の実施
違法な時間外労働を防ぐためには、単に労働時間を管理するだけでなく、業務の効率化と適正な業務分担を徹底することが必要です。
業務の負担が一部の従業員に集中していると、長時間労働が常態化しやすくなります。
そのため、業務の標準化や属人化の解消を進めることが重要です。
具体的には、以下の取り組みを意識しましょう。
- 業務のマニュアル化:業務の属人化を防ぎ、誰でも作業できる仕組みを整備
- タスク管理の最適化:仕事の優先順位を明確にし、ムダな作業を削減
- 適切な人員配置:繁忙期の人員補充や業務の分担を徹底し、負担を軽減
また、デジタルツールの活用も業務効率化に有効です。
タスク管理ツールや自動化システムを導入することで、従業員の負担を減らしながら生産性を向上させられます。
従業員の意識改革と研修の実施
違法な時間外労働を防ぐためには、企業だけでなく、従業員の意識改革も重要です。
「残業をすることが評価される」という文化が根付いている場合、不要な時間外労働が発生しやすくなります。
そのため、生産性を重視した働き方へシフトすることが求められます。
具体的には、以下のような取り組みが効果的です。
- 研修の実施
- 評価基準の見直し
- デジタルツールの活用
さらに、企業は定期的に従業員の労働環境を調査し、改善点を把握することも重要です。
従業員が自身の労働時間を適切に管理し、ムダな残業を避ける文化を浸透させることで、健全な労働環境を維持できます。
長時間労働を防ぐための経営層の関与
違法な時間外労働を根本的に防ぐには、経営層の積極的な関与が不可欠です。
企業のトップが「長時間労働を是正する」という強い意志を示し、社内全体に意識を浸透させることで、労働環境の改善が加速します。
具体的な取り組みは、以下の通りです。
- 長時間労働の是正に向けた企業方針の策定
- 残業削減を評価する制度の導入
- フレックスタイム制やリモートワークの推進
また、経営層は、従業員の違法な時間外労働が発生しないよう、未然に防ぐ体制を整えることも重要です。
たとえば、労働時間の定期的な監査を実施したり、労働組合との定期的な協議を行ったりすることで、違法な時間外労働を未然に防げるでしょう。
企業全体で長時間労働の削減に取り組むことで、従業員の健康を守りながらも生産性の向上を期待できます。
違法な時間外労働に関するよくある疑問
違法な時間外労働については、多くの人が疑問を抱いています。
「どの範囲までが合法なのか」「罰則はあるのか」といった点は、企業側だけでなく、従業員にとっても重要です。
時間外勤務は違法ですか?
労働基準法第32条において「週40時間、1日8時間を超えて労働させてはならない」と定められています。
ただし、企業が36協定を締結し、就業規則や労働協約等に定めることで、36協定において取り決めた範囲内で時間外労働を命じることが可能です。
よって、企業が36協定を締結していない場合、1分でも時間外労働を命じると違法となり、企業側に罰則が科される可能性があります。
従業員は、自分の会社が36協定を締結しているか確認し、違法な時間外労働を強いられていないか注意しましょう。
1ヶ月に100時間残業したらどうなる?
36協定や特別条項付き36協定を締結していても、「月100時間以上」の残業は違法です。
「月100時間未満・年720時間以内」の残業時間を超えると、企業側には是正勧告や罰則が科される可能性があり、悪質な場合は書類送検されることもあります。
違法な長時間労働を防ぐためには、企業は労務管理を徹底し、従業員の健康を守る意識をもつことが大切です。
1日12時間労働は違法ですか?
労働基準法では、法定労働時間は「1日8時間・週40時間」が上限とされています。
そのため、1日12時間労働は時間外労働となり、36協定を締結していない場合は違法です。
違法となるケースと合法になるケースについては、以下にまとめています。
ケース | 概要 |
---|---|
違法となるケース | ・36協定を締結していないのに12時間労働を命じる ・法定労働時間を超えた分の残業代を支払わない |
合法となるケース | ・36協定を締結しており、時間外労働の上限を超えていない ・残業代を適切に支払っている |
ただし、36協定があっても「月45時間・年360時間」の基本上限を超えると、特別条項付き協定が必要になります。
企業は労働時間の管理を徹底し、従業員の健康を損なわないようにすることが大切です。
企業は違法な時間外労働にならないように気をつけよう
違法な時間外労働は、企業にとって法的リスクがあるだけでなく、従業員の健康やモチベーションにも悪影響を及ぼします。
とくに、36協定の適切な締結と労働時間の管理を徹底し、法令を順守することが重要です。
本記事の内容から、下記のポイントにまとめられます。
- 36協定を締結し、適正な労働時間管理を行う
- 特別条項を導入する場合でも法定上限を厳守する
- 従業員の健康を最優先し、ムリな長時間労働を避ける
企業は適正な労務管理を行い、従業員が安心して働ける環境を整えるようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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