- 更新日 : 2025年11月5日
産休前に有給休暇をくっつけることは可能!社会保険料や出産手当金への影響も解説
「産休前に有給休暇を使って早めに休みたい」「有給と産休を組み合わせることで、どのような影響があるのか知りたい」と考えている方もいるのではないでしょうか。
産前休業(産休)は、労働基準法にもとづいて取得できる休暇で、有給休暇と併用することでさらに早く休暇に入ることが可能です。
しかし、社会保険料の免除や出産手当金の支給タイミングには影響が出ることがあるため、計画的に取得することが重要です。
本記事では、産休と有給休暇の違い、社会保険や出産手当金の影響、具体的な計算方法について詳しく解説します。
目次
産休前に有給休暇をくっつけることは制度上可能
産前休業の前に有給休暇を取得することは、法律上可能です。有給休暇を産前休業の開始前に取得することで、休みをスムーズに繋げられるというメリットがあります。
産前休業と有給休暇の概要については以下のとおりです。
| 休暇の種類 | 概要 | 法律上の根拠 |
|---|---|---|
| 産前休業 | 労働基準法により、出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から取得可能 | 労働基準法第65条 |
| 有給休暇 | 労働者の権利であり、会社の許可なく取得可能 | 労働基準法第39条 |
有給休暇は労働者の権利であり、原則として自由に取得可能です。
ただし、業務に大きな支障が出る場合、会社が時季変更を求めることがあります。
たとえば、出産予定日が12月1日の場合、法律にもとづき10月21日から産前休業を取得可能です。
なお、産前休業は出産日当日まで含まれます。
さらに、その前の1週間(10月14日~20日)に有給休暇を取得することで、実質的に10月14日から休みに入ることが可能です。
なお、有給休暇の取得には事前申請が必要な場合があるため、職場のルールを確認し、計画的に進めることが重要です。
産休の代わりに有給休暇の取得も可能
産前休業は法律で認められた権利ですが、取得は義務ではなく任意です。
そのため、産前休業を取らず、代わりに有給休暇を利用することも可能です。
産前休業の代わりに有給休暇を使用すれば、休業期間中も給与が支払われるため、収入の減少を避けられます。
しかし、産休と違い、いつから休めるかは、勤務先の有給休暇の残日数に依存するため、事前に確認が必要です。
収入を維持しながら休みたい場合は、有給休暇の活用も検討し、最適な方法を選んでください。
産休(産前休業)と有給休暇の違い
産前休業と有給休暇には大きな違いがあります。
産前休業は労働基準法第65条で定められた権利であり、申請すれば取得できるものの、無給になるケースが多いです。
一方、有給休暇は労働基準法第39条にもとづき、取得可能な日数内で自由に取得でき、給与が支払われます。
産前休業と有給休暇の主な違いは以下のとおりです。
| 項目 | 産前休業(産休) | 有給休暇 |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 労働基準法第65条 | 労働基準法第39条 |
| 取得可能期間 | 出産予定日の6週間前から | 勤務年数に応じた日数 |
| 給与の有無 | 基本的に無給 | 給与支給あり |
| 柔軟な取得 | 不可(開始後は継続必須) | 可(分割取得可能) |
会社の制度によっては産休中に手当が出ることもありますが、一般的には有給休暇の方が収入を確保しやすいです。
それぞれの違いを理解した上で、自分の状況に合った休み方を選ぶことが大切です。
産休(産前休業)について
産休(産前休業)は、出産を控えた労働者が取得できる法定休暇です。
労働基準法第65条にもとづき、出産予定日の6週間前(42日前)から取得可能であり、多胎妊娠の場合は14週間前(98日前)から取得できます。
産休(産前休業)の基本ルール
産休を取得できる期間は法律で定められており、出産予定日の6週間前(単胎妊娠の場合)または14週間前(多胎妊娠の場合)から取得可能です。
産休を取るかどうかは本人の判断に委ねられ、会社の許可は必要ありません。
体調が良ければ産休を取らずに勤務を続けることも可能ですが、無理をすると母体への負担が大きくなるため、医師のアドバイスを受けながら判断することが望ましいでしょう。
出産予定日を12月1日とした場合の、産休開始可能日は以下のとおりです。
| ケース | 出産予定日 | 産休開始可能日 |
|---|---|---|
| 単胎妊娠 | 12月1日 | 10月21日(6週間前) |
| 多胎妊娠 | 12月1日 | 8月26日(14週間前) |
このように、産休の開始時期は単胎妊娠か多胎妊娠によって異なるため、自分の状況に合わせて適切なタイミングで申請を行いましょう。
産休(産前休業)の取得方法
産休を取得するためには、事前に会社へ申請する必要があります。
企業ごとに申請期限や必要書類が異なるため、まずは就業規則を確認しましょう。
一般的な手続きの流れとしては、まず会社の人事・総務に産休の取得意向を伝え、必要書類を提出します。
その後、産休期間の調整を行い、業務の引き継ぎを完了させた上で、休業に入ります。手続きをスムーズに進めるためには、早めの準備が重要です。
とくに、業務の引き継ぎを計画的に行い、産休を取得する労働者にも、他の社員にも負担がかからないよう配慮しましょう。
産休前に有給休暇をくっつける場合の社会保険の扱い
産休前に有給休暇を取得する場合、社会保険料の取り扱いが異なるため注意が必要です。
産休前に有給休暇を多く取得しても、社会保険料(健康保険・厚生年金)の負担に大きな違いはありません。
ただし、つわりなどで欠勤が多くなり、給与が大幅に減ると、雇用保険料(給与に連動する)には影響が出る場合があります。
産前休業・産後休業中は社会保険料が免除される
産前休業・産後休業の期間中は、社会保険料の支払いが免除される制度があります。
社会保険料が免除される制度の概要は以下の通りです。
- 免除の対象:産前休業が開始した月から、産後休業が終了する前月まで
- 産後休業:出産の翌日から8週間(56日)間取得可能
免除される社会保険料の種類
| 保険の種類 | 免除される範囲 |
|---|---|
| 健康保険料 | 本人負担・会社負担の両方が免除 |
| 厚生年金保険料 | 本人負担・会社負担の両方が免除 |
この制度を活用することで、産休・育休期間中の社会保険料の負担を軽減できます。出産後の家計を考えると、免除の対象期間を最大限活用することが望ましいでしょう。
産前休業が始まる月から社会保険料の免除は適用される
社会保険料(健康保険・厚生年金)の免除は、産前休業が開始した月から適用されます。そのため、産休前に有給休暇を取得していても、産前休業に入った月であれば、その月の社会保険料は免除されます。
たとえば、出産予定日が12月1日の場合、法律上の産前休業開始日は10月21日(単胎妊娠の場合)です。
このケースでは、10月が産前休業開始月となるため、10月分の社会保険料から免除の対象になります。
一方で、たとえば9月下旬から有給休暇を長めに取得していた場合、その期間中は給与が発生しているため、9月分の社会保険料の支払いは必要になります。
有給休暇をどのタイミングで取得するかによって、免除が始まる月以前の負担には違いが出るため、収入とのバランスを考えた計画的な取得が大切です。
産休前に有給休暇をくっつける場合の出産手当金の扱い
有給休暇を取得するタイミングによっては、出産手当金の支給開始時期や金額に影響する可能性がありますが、産休中に有給がずれ込まない限り影響はありません。
計画的に休暇を取得し、収入のバランスを考えることが重要です。
出産手当金とは健康保険から支給される給付
出産手当金は、産前休業・産後休業中に給与が支払われない場合に、健康保険から支給される手当です。
出産手当金の支給条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 健康保険の被保険者(扶養者は対象外) |
| 支給条件 | 産前休業・産後休業中に給与の支払いがないこと |
| 支給期間 | 産前休業:出産予定日の6週間前(42日前)~産後休業終了(出産翌日から8週間後・56日) |
出産手当金は、給与が支払われない期間に生活を支えるための給付金です。スムーズに受給するためには、申請のタイミングや取得する休暇の計画をしっかり立てておくことが必要です。
産休前に有給休暇を取得すると出産手当金の支給が遅れる場合あり
有給休暇を取得すると、その期間は給与が発生するため、出産手当金の支給が遅れる可能性があります。
たとえば、出産予定日が12月1日で通常の産前休業開始日が10月21日で、有給休暇を10月11日〜20日に取得した場合を仮定しましょう。
上記の場合、10月11日〜20日の期間は給与が発生するため、出産手当金の支給開始が10月21日からとなります。
しかし、もし10月1日から長期間にわたって有給休暇を取得し、出産手当金の対象期間である産前休業期間に重なる場合は、その期間中は給与が支給されるため、出産手当金の開始もその分遅れることになります。
そのため、出産手当金をできるだけ早く受給したい場合は、有給休暇の取得期間を慎重に考えるようにしましょう。
産休期間中に有給休暇を取得すると出産手当金は支給されない
産休中に有給休暇を取得すると、その期間は給与が発生するため、出産手当金の支給対象外となります。
出産手当金が支給されない理由は以下のとおりです。
- 出産手当金は「無給であること」が支給条件
- 有給を取得した日数分だけ、出産手当金の支給額が減少する
たとえば、産休期間中のうち1週間だけ有給休暇を取得した場合、その1週間分の出産手当金は支給されません。そのため、産休中の収入を最大限確保したい場合は、有給休暇を産休前にまとめて取得するか、産休後に活用する方がよいでしょう。
有給休暇をどう活用するかで出産手当金の受給額やタイミングが変わるため、会社の人事担当者や健康保険組合と相談しながら最適な方法を選ぶことが大切です。
産休前に有給休暇をくっつける際の計算方法
産休前に有給休暇を取得することで、通常の産前休業開始日よりも早く休みに入ることが可能です。
ただし、有給休暇の日数や計算方法によって、最終出勤日や産休開始日が異なるため、正確に計算することが重要です。
産前休業の開始日を計算
産前休業(産休)の開始日は、出産予定日から逆算して決定されます。
- 単胎妊娠:出産予定日の6週間前(42日前)から産休開始
- 多胎妊娠:出産予定日の14週間前(98日前)から産休開始
たとえば、出産予定日が2025年5月10日の場合、産前休業の開始日は以下の通りです。
| 妊娠の種類 | 出産予定日 | 産前休業開始日 |
|---|---|---|
| 単胎妊娠 | 2025年5月10日 | 2025年3月30日(42日前) |
| 多胎妊娠 | 2025年5月10日 | 2025年2月2日(98日前) |
産休期間中に給料が支払われるかどうかは、出産手当金とは別に、企業の就業規則の定め等によって異なります。
産休の取得を考えている場合は、この基準日をもとに有給休暇の取得スケジュールを計画し、給料の支給状況も確認しておきましょう。
産前休業開始日より前に有給休暇を適用
産前休業の開始日より前に有給休暇を取得することで、さらに早く休みに入ることが可能です。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 有給休暇は「所定労働日」のみ取得できるため、会社で定められた「所定休日」を除いて計算する
- 最終出勤日は、有給取得日数を考慮して決定する
- 会社によっては、妊娠時のつわり等の症状悪化に対応して「母性保護休暇(休業)」を産前6週(14週)より前に取得できる制度を設けている場合があるため、就業規則を確認する
たとえば、3月29日から産前休業に入る場合、3月10日から10日分の有給休暇を取得すると、最終出勤日は3月9日となります。
シミュレーション例
出産予定日が2025年5月10日(単胎妊娠)の場合のシミュレーションを以下の表にまとめました。
| 取得する休暇 | 期間 | 最終出勤日 |
|---|---|---|
| 産前休業のみ | 3月30日~ | 3月29日 |
| 有給休暇5日+産前休業 | 3月23日~ | 3月22日 |
| 有給休暇10日+産前休業 | 3月16日~ | 3月15日 |
このように、有給休暇を活用することで、早く休みに入ることが可能です。
会社の制度や自身の体調を考慮しながら、最適な休暇スケジュールを組みましょう。
産休前に有給休暇をくっつける際は他の制度も確認しておこう
産休前に有給休暇を取得することで、通常よりも早く休みに入ることができます。
ただし、単に休みを長く取れるというメリットだけでなく、社会保険料の免除対象外になる期間が生じることや、出産手当金の支給開始が遅れる可能性があることにも注意が必要です。
また、会社によっては、妊娠中の体調を考慮して「母性保護休暇」などの独自の休暇制度を設けていることもあります。
そのため、単に産前休業と有給休暇の組み合わせだけでなく、自分の職場の就業規則や労務担当者との相談を通じて、負担の少ないスケジュールを検討しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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