• 更新日 : 2025年4月17日

有給を使い切った後に欠勤をしたらどう扱われる?月給や評価への影響についても解説

有給を使い切った後の欠勤は、従業員と企業側のどちらにも重要な問題です。

従業員は、欠勤控除で給与が減るだけではなく、評価やボーナスなどさまざまな部分に影響が出るでしょう。

従業員は、有給を使い切った後の欠勤がどのように取り扱われるのかを把握し、計画性をもって有給を取得しなければなりません。また、企業側は欠勤した従業員への対応方法を把握する必要があります。

本記事では、有給を使い切った後の欠勤がもたらす影響や企業側が注意するポイント、欠勤控除の計算方法などについて解説します。

有給を使い切った状況での欠勤は「労働者都合」の休みと判断される

「欠勤」とは、本来労働日と定められている日に「労働者都合」で休むことを意味します。労働者に与えられた一定日数の有給を超えた分は、欠勤扱いになるのが一般的です。

「労働者都合」には、自身の体調不良や私用だけではなく、家族の看病や通院への付き添いなども含まれます。

会社によっては「特別休暇」や「病気休暇」など名称で、独自に休暇制度を設けている場合もあり、状況に合う休暇に変更してくれる場合もあります。

自身が勤める会社の休暇制度に関する詳細を知りたい方は、人事・労務の担当部署に就業規則について問い合わせるのがいいでしょう。

自身の病気や怪我が理由で長期の欠勤になる場合

従業員本人が病気や怪我で休む場合は、原則「労働者都合」の休みとして扱われます。有給や会社独自の特別休暇制度がなければ、欠勤扱いになる点に注意が必要です。

病気や怪我で長期の欠勤を余儀なくされる場合は、傷病手当金を申請する方法もあります。

傷病手当金とは、病気や怪我が原因で会社を3日以上連続で休んだ場合に、4日目以降の休んだ日を対象に支給される手当です。被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、給与の約3分の2が加入している健康保険から支給されます。

傷病手当金は、会社の健康保険に加入している方のみ受けられる制度です。

欠勤のままにすると、給与が支給されず生活の保障が担保できなくなるかもしれません。長期的に欠勤する方は、勤務先の担当部署や健康保険組合に相談し、申請手続きを行いましょう。

また、インフルエンザやコロナなどの感染によって出社を避けなければならない場合も、有給を使い切っている状態であれば欠勤扱いになります。

体調が回復したら、会社から「診断書」や「治療証明書」などの提出をもとめられる可能性があるので、指示どおり準備しましょう。

子どもの体調不良が理由で欠勤する場合

家族の体調不良が理由で休む場合も、有給を使い切った後に休むと「労働者都合」の欠勤になります。

ただし、子どもが小学校就学前の年齢であれは、従業員は、子どもひとりにつき年間5日(対象となる子どもが2人以上の場合は10日)の「子の看護休暇」を取得できます。

子の看護休暇は、子どもの看病や予防接種、健康診断のための受診などに使える休暇です。時間単位でも申請が可能で、仕事と育児の両立をはかりながら柔軟に取得できるのがメリットです。

子の看護休暇を有給にするか無給にするかは企業側が決定し、就業規則で明示する必要があります。

「令和3年度雇用均等基本調査」によると、「無給」にしている会社が 65.1%、「有給」が 27.5%、「一部有給」が 7.4%でした。各企業で対応が異なるため、詳細を知りたい方は就業規則を確認するか、担当部署に問い合わせるのがいいでしょう。

また、2025年4月1日からは、対象となる子の範囲が「小学校3年生修了まで」に延長され、取得事由には「感染症に伴う学級閉鎖等、入園(入学)式、卒園式」が追加されます。

子育て世代の方は、「子の看護休暇」をうまく使いながら有給の調整を行いましょう。

参考:「令和3年度雇用均等基本調査」の結果概要|厚生労働省

参考:育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法の2024(令和6)年改正ポイント|厚生労働省

有給を使い切った後の欠勤は「欠勤控除」の対象になる

有給を使い切った後に欠勤すると「欠勤控除」の対象になります。欠勤控除とは、欠勤日数分が月給から差し引かれる制度です。

労働基準法第11条では、賃金を「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてである」と定められています。

働いた分の賃金しか発生しないことを意味する「ノーワーク・ノーペイの原則」にもとづき、欠勤した分は欠勤控除が適用され、月給から差し引かれます。

有給を使い切った後の欠勤による「欠勤控除」の計算方法を解説

欠勤控除の計算方法は労働基準法で定められていません。会社ごとに労働契約や就業規則において、どのようなケースにどの程度控除されるのかを明記する必要があります。

ここでは控除方式(欠勤日数に応じて月給から給与を差し引く方法)を使い、1日単位と時間単位の欠勤控除の計算方法を紹介します。

【1日単位で控除する場合】

月給制の従業員が1日欠勤した場合、以下の計算式で控除額を算出します。

月給÷その月の所定労働日数×欠勤日数=欠勤控除額

この計算式を以下の例に当てはめて計算してみましょう。

(例:月給30万円・その月の所定労働日数:20日・欠勤日数2日)

30万円÷20日×2日=3万円

欠勤控除額は3万円となり、この月の月給は27万円になります。

【時間単位で控除する場合】

月給制の従業員が早退や遅刻をした場合、以下の計算式で控除額を算出します。

月給÷1ヶ月の所定労働時間×欠勤時間数=欠勤控除額

この計算式を以下の例に当てはめて計算します。

(例:月給30万円・1ヶ月の所定労働時間:160時間(労働日数20日×1日8時間)・欠勤3時間)

30万円÷160時間×3時間=5,625円

欠勤控除は5,625円となり、この月の月給は29万4,375円になります。時間単位で控除する場合、欠勤時間は1分単位で計算しなければならない点にも留意しておきましょう。

欠勤の取り扱いに関して企業側が注意するポイント

企業側は、従業員とのトラブルを防ぐため、欠勤した場合の対応について就業規則に詳しく明記し、事前に従業員へ周知をする必要があります。

1. 欠勤の対応を就業規則で明確にしておく

企業側は、従業員とのトラブルを防ぐため、欠勤があった場合の対応に関して具体的に就業規則で明示する必要があります。

就業規則の記載方法がわからない方は、厚生労働省の「モデル就業規則」を参考にするといいでしょう。欠勤に関する箇所を一部抜粋してご紹介します。

(遅刻、早退、欠勤等)

第18条 労働者は遅刻、早退もしくは欠勤をし、または勤務時間中に私用で事業場から外出する際は、事前に_に対し申し出るとともに、承認を受けなければならない。ただし、やむを得ない理由で事前に申し出ることができなかった場合は、事後に速やかに届出をし、承認を得なければならない。

2 前項の場合は、第45条に定めるところにより、原則として不就労分に対応する賃金は控除する。

3 傷病のため継続して_日以上欠勤するときは、医師の診断書を提出しなければならない。

参考:モデル就業規則P21(R5.7版)|厚生労働省

第18条では、遅刻・早退・欠勤をした場合の取り扱いに関して記載されています。欠勤を事前に申し出る場合の報告先や、診断書の提出が必要な欠勤日数は、企業ごとに定める必要があります。

(欠勤等の扱い)

第45条 欠勤、遅刻、早退および私用外出については、基本給から当該日数または時間分

の賃金を控除する。

2  前項の場合、控除すべき賃金の1時間あたりの金額の計算は以下のとおりとする。

(1)月給の場合

基本給÷1ヶ月平均所定労働時間数

(1ヶ月平均所定労働時間数は第40条第3項の算式により計算する。)

(2)日給の場合

基本給÷1日の所定労働時間数

参考:モデル就業規則P62(R5.7版)|厚生労働省

第45条には、欠勤控除について記載されています。ノーワーク・ノーペイの原則にもとづき、労働者が欠勤や遅刻、早退をした際は、その分の賃金を差し引く方法について書かれています。

2. 働いた分の給与は支給する

会社は、従業員が有給を使いきった後に欠勤したとしても、1ヶ月間で労働した分の給与を支払わなければなりません。

たとえば、所定労働日数が20日で、実際に勤務できたのは1日だったとしてもその分を支払う必要があります。

就業規則に記載されていれば、そのルールに沿っていない従業員の給与を減給することは可能です。

その際は、労働基準法第91条で「1回の減給は平均賃金の1日分の半額を超えてはならない」「総額は月給の10%を上回ってはならない」と定められている点に注意しましょう。

3. 従業員の欠勤理由を明確にする

企業は、従業員に欠勤理由を確認し、正当性を把握する必要があります。欠勤理由が自身や家族の体調の問題によるものであれば、状況に見合った休暇に変更する必要があります。

一方、従業員が健康体にもかかわらず勤務態度がいちじるしく悪い場合、指導しても改善が見えなければ、減給や出勤停止などの対応が可能です。

従業員の欠勤が続く場合、企業側は理由の把握に加え、有給の計画的な取得に関して指導をする必要があります。また、欠勤控除についても丁寧な説明がもとめられるでしょう。

4. 今後も同様の理由で欠勤する可能性があるか確認する

従業員の欠勤理由が病気や怪我の場合、欠勤が長期的になる可能性があります。企業側は、今後も従業員の欠勤が続くのか把握する必要があります。

仕事をするのが難しい状況であれば、従業員に適切なサポートを提供しましょう。従業員の状況に合わせて「傷病休暇」や「休職」などの選択肢を示し、最適な対応を行いましょう。

有給を使い切った後の欠勤が引き起こすさまざまな影響

有給を使い切った後の欠勤は、「月給・ボーナス・人事評価・解雇」など、さまざまな部分に影響します。

実際は、会社の就業規則によって対応は分かれるでしょう。ここでは、厚生労働省が公開している「モデル就業規則」の例をベースに、欠勤がもたらす影響について解説します。

月給への影響

有給を使い切った後の欠勤は、欠勤控除の対象となり、欠勤日数や欠勤時間数に応じて月給から差し引かれます。

欠勤控除自体は、法律で定められているものではありません。

会社は欠勤控除に関して、各自就業規則で明示し、その内容を従業員に周知する必要があります。労使間でのトラブルを避けるために、従業員側も欠勤控除のルールを把握しておきましょう。

ボーナスへの影響

厚生労働省の「モデル就業規則」では、ボーナスに関して「会社の業績および労働者の勤務成績などを考慮して各人ごとに決定する」と記載されています。

ボーナスに対する評価は、仕事の成果だけではなく勤務日数や勤務態度も含まれるのが一般的なので、欠勤によって勤務日数が少なければ、個人の評価は下がるでしょう。

一方で、欠勤の理由に緊急性や正当性がある場合は、従業員の事情を考慮する必要があります。会社は従業員の欠勤状況を正確に把握し、事情を十分に考慮したうえで評価しましょう。

参考:モデル就業規則P64(R5.7版)|厚生労働省

人事評価への影響

人事評価にどの程度影響が出るかは、欠勤理由の正当性がポイントになります。「欠勤」ひとつをとっても、従業員本人の勤務態度によるものや、本人や家族の長期療養など理由はさまざまです。後者の場合、会社はとくに慎重な対応をしなければなりません。

人事評価は、欠勤理由や勤務態度、業務の成果など、さまざまなポイントを総合的に見て評価する必要があります。

また、「欠勤控除」と「欠勤による人事のマイナス評価」はまったく別物です。欠勤控除が理由で、人事評価がマイナスになることがないように注意しましょう。

解雇への影響

有給を使い切ってからの欠勤にはさまざまな個人の事情が含まれます。そのため、「欠勤をしている」事実だけでは解雇の理由になりません。

厚生労働省が公開している「モデル就業規則」では、懲戒の事由に「正当な理由なく無断欠勤が_日以上に及ぶとき」と記載されており、具体的な日数は会社が決められるようになっています。

欠勤に正当な理由がなく、無断欠勤や曖昧な欠勤理由が続く場合は、解雇の対象となる可能性があります。会社は、欠勤の理由が就業規則で定めた懲戒の事由に当てはまっているかを慎重に確認しましょう。

また、解雇をする場合は労働基準法にもとづき、少なくとも30日前に予告する必要がある点にも留意しておきましょう。

参考:モデル就業規則P86(R5.7版) |厚生労働省

参考:解雇には30日以上前の予告が必要です|厚生労働省

有給を使い切った後の欠勤は慎重に!欠勤がもたらす評価や給与への影響を正しく理解しよう

有給を使い切った後の欠勤は、欠勤控除で給与が減るだけではなく、人事評価やボーナスなどさまざまな部分に影響を及ぼします。

万が一有給を使い切った状態で何かしらの理由で欠勤が続きそうな場合は、人事・労務担当に事前に相談し対応を考えましょう。労使間でトラブルにならないように、企業と従業員双方が、欠勤控除の仕組みや就業規則を把握しておく必要があります。

有給を使い切った後の欠勤については、人事評価や給与への影響を理解し慎重に対応しましょう。


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