- 更新日 : 2025年4月8日
外国人労働者の日本語教育の現状は?重要性や教育方法を解説
外国人労働者の日本語教育は、業務効率や職場の安全性を高めるために重要です。
日本語が十分に話せないと業務の理解が難しくなり、事故やトラブルの原因にもなります。本記事では、日本国内の日本語教育の現状や外国人労働者に求められる日本語レベル、具体的な教育方法を解説します。
企業が効果的な日本語教育を導入することで、職場環境の改善につながるためぜひ参考にしてみてください。
目次
外国人労働者の日本語教育の現状
日本の外国人労働者数は230万2,587人に達し、平成19年以降、過去最多を更新しました。労働力としての重要性が高まるなか、日本語教育の全国展開と学習機会の確保が必要とされています。
外国人労働者への日本語教育の課題を受け、令和5年5月に日本語教育機関認定法が成立しました。法律が定められたことにより、日本語教育機関の認定制度や登録日本語教員の資格制度が整備され、学習環境の質を向上させる取り組みが進められています。
また、日本語教育の質の維持向上も重要な課題です。教育の質を確保するため、カリキュラムの充実や指導者の育成が進められています。今後も外国人労働者の円滑な社会参加を支援するため、持続的な日本語教育の強化が必要です。
外国人労働者を雇用する際は、日本語能力以外にも注意点があります。下記の記事では、採用時の注意点についても解説しているため、ぜひ参考にしてください。
国内の日本語学習者数
国内の日本語学習者数は、令和元年時点で約28万人と過去最高を記録しました。令和5年11月1日時点では26万3,170人となっており、引き続き多くの外国人が日本語を学んでいます。
日本語学習者の増加に伴い、日本語教育を実施する機関の数も増加傾向にあります。令和5年時点の日本語学習者数は、中国が7万6,425人で最多、ついでネパールが3万7,348人、ベトナムが3万3,971人でした。
今後も外国人の受け入れ拡大に伴い、日本語学習の需要は高まると考えられます。質の高い教育環境を整備し、学習機会を確保することが重要です。
外国人労働者に求められる日本語レベル
日本語能力試験(JLPT)は、N1からN5までの5つのレベルに分かれています。N5が最も易しく、N1が最も難しいレベルです。日本語能力試験のレベルは、以下のとおりです。
- N1:幅広い場面で使われる日本語を理解できる
- N2:日常的な場面に加え、より幅広い場面の日本語をある程度理解できる
- N3:日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる
- N4:基本的な日本語を理解できる
- N5:基本的な日本語をある程度理解できる
参考:日本語能力試験とは N1〜N5認定の目安|日本語能力試験JLPT
また、求められる日本語能力は在留資格や職種によっても異なります。
- 特定技能1号:N4以上
- 特定技能2号:日本語能力に関する規定なし
- 技能実習
- 介護職:1年目 N4以上、2年目 N3以上
- その他:N3〜N4
- EPA看護師・介護士
- インドネシア:N4
- フィリピン:N5
- ベトナム:N3以上
- 高度専門職:日本語能力に関する規定なし
- 日本語力を証明できる場合、N1〜N2で特別加算あり
- 技術・人文知識・国際業務:日本語能力に関する規定なし
- エンジニア・プログラマーはN3程度が必要な場合あり
上記のように、日本で働くためには職種に応じた適切な日本語能力を身につけることが重要です。
外国人労働者に対する日本語教育の重要性
日本では生産年齢人口の減少により、労働力不足が深刻化しています。労働力を補うためには外国人材の活躍が不可欠であり、日本が「外国人材から選ばれる国」になる必要があります。
とくに、営業や接客などの職種では敬語や専門用語が必要で、外国人労働者が言語の壁に直面することも少なくありません。スムーズな職場適応のためには、就労前から実践的な日本語教育を受ける機会が必要です。
さらに、企業や支援機関による受け入れ環境の整備だけでなく、外国人労働者が安心して働き、生活できる「共生社会」の実現も重要です。日本語教育の充実を通じて、外国人労働者の定着と社会全体の活性化を目指しましょう。
外国人労働者が日本語を話せないことで発生する4つのトラブル
外国人労働者が日本語を話せないと、職場でさまざまなトラブルが発生する可能性があります。語学力による問題は、事前に理解し対策することで回避が可能です。
以下では、日本語が話せないことで起こりやすいトラブルについて解説します。
1. 業務効率が低下する
外国人労働者が日本語を十分に理解できない場合、業務指示や伝達内容の理解に時間がかかることがあります。理解が不十分であれば、作業の進行が遅れ、全体の業務効率が低下する可能性があります。
とくに接客業では、言語や文化の違いによって顧客のニーズを正しく理解できず、対応の質が下がることも少なくありません。また、製造業やサービス業では、指示の誤解によるミスが増え、品質やサービスの低下につながる可能性もあります。
職場の生産性を維持するためにも、日本語教育を充実させることが重要です。
2. 事故につながる可能性がある
外国人労働者が日本語を十分に理解できない場合、指示や注意点が正しく伝わらず、作業ミスや誤解が生じ、重大な事故につながる可能性があります。
危険性の高い業務では、安全ルールを理解しないまま作業すると、本人だけでなく周囲の労働者にも影響を及ぼす恐れがあります。そのため、母国語のマニュアルを用意したり、動画を活用して視覚的に理解しやすくしたりすることが重要です。
従業員の安全を守るためにも、日本語教育を行い、事故を未然に防ぐ環境を整える必要があります。
建設業で外国人労働者を雇用する方法については、下記の記事で解説しているため、あわせてご覧ください。
3. 人間関係がうまくいかない可能性がある
日本語が話せないと、職場でのコミュニケーションが円滑に進まず、意思疎通が難しくなることがあります。日本語で伝えても理解してもらえない状況が続くと、外国人労働者だけでなく、日本人従業員もストレスを感じるでしょう。
また、日本語がなかなか上達しない外国人に対する不満が募れば、職場の雰囲気が悪化することも考えられます。
円滑な人間関係を築くためには、「なぜできないのか」と責めるのではなく、日本語学習の難しさや文化の違い、本人の心理的な負担を理解することが大切です。
互いに歩み寄る姿勢が、良好な職場環境の維持につながります。
4. モチベーションの低下につながる可能性がある
日本語能力が低いと、外国人労働者は業務指示を理解できず、何をどうすべきか正確に判断できません。その結果、仕事のやりがいを感じにくくなる可能性があります。
また、日本語が話せないことで本来の能力を発揮できない状況は、本人にとって大きなストレスです。さらに、十分なコミュニケーションが取れないと、重要な仕事を任せてもらえず、自信や意欲を失う原因ともなります。
職場のモチベーションを維持するためには、日本語教育の機会を提供し、外国人労働者が自信を持って働ける環境を整えることが重要です。
企業による外国人労働者への3つの日本語教育方法
企業が外国人労働者に日本語教育を提供することは、職場での円滑なコミュニケーションや業務効率の向上につながります。適切な教育方法を選ぶことで、言語の壁を克服し、労働者の定着率やモチベーションの向上も期待できます。
事前に教育方法を確認し、職場環境に合った学習支援を行うことが重要です。以下では、企業が実施できる日本語教育の方法について解説します。
1. 日本語研修を実施する
企業内で日本語研修を実施すると、外国人労働者も参加しやすく、効果的な学習機会を提供できます。業務に必要な日本語を習得できるため、業務効率や職場のコミュニケーションの向上につながります。
研修方法としては、自社独自の専門教材を用いた指導や、外部の日本語講師を招いて授業を実施する方法などです。どちらの方法でも、外国人労働者が実際の業務で使える日本語を学べる点がメリットです。
また、勤務時間内に学習時間を確保できるため、外国人労働者の負担が少なく、継続的に学習しやすくなります。企業が積極的に研修を導入することで、日本語能力の向上が期待できます。
2. 日本語教室や日本語学校に通う機会を提供する
企業が外国人労働者に日本語教室や日本語学校への通学機会を提供することで、専門的な指導を受けながら効率的に日本語を学ぶことが可能です。日本語教育に関する知識を持つ講師から学ぶことで、正しい文法や発音の習得が期待できます。
また、外国人労働者の母国語を話せる講師やアシスタントがいる教育機関を選ぶことで、母国語でのサポートを受けることも可能です。
ただし、日本語教室や学校にはさまざまなレベルの生徒が在籍しているため、講義内容が企業の業務に特化していない場合があります。そのため、学習目的に合った教育機関を選ぶことが重要です。
3. 日本語学習教材やサービスを提供する
企業が外国人労働者に日本語学習教材やオンライン日本語講座を提供することで、柔軟に学習できる環境を整えられます。オンライン学習システムを活用すれば、時間や場所に制約されず、スキマ時間を活用して学ぶことが可能です。
また、外国人労働者の日本語レベルや業界、受験予定の試験に応じて適切な教材や講座を選択できるため、実務に直結した日本語を習得しやすくなります。
ただし、自主学習が基本となるため、継続的な学習を促す仕組みが必要です。定期的な進捗確認や学習支援を行い、モチベーションを維持する工夫が重要です。
外国人労働者に対する日本語教育を成功させる6つポイント
外国人労働者に対する日本語教育を成功させるためにはポイントがあり、事前に確認することが重要です。
成功のためのポイントを事前に把握することで、企業は効果的な支援を提供でき、外国人労働者も安心して学習を続けられます。以下では、日本語教育を成功させるための6つのポイントについて解説します。
1. 必要な日本語レベルを設定する
外国人労働者に日本語教育を提供する際は、業務で必要な日本語を明確にし、適切な日本語レベルを設定することが重要です。具体的な目標を決めることで、学習の方向性が明確になり、効率的な教育が可能になります。
たとえば、接客業では読み書きよりも会話スキルが重視されるため、日本語による円滑なコミュニケーション能力の向上が求められます。一方、製造業では安全管理や作業指示を正しく理解するための読解力が必要です。
また、日本語能力試験(JLPT)の級だけでは業務に必要なスキルを測りきれない場合があるため、自社の業務内容に応じた日本語レベルを設定し、適切な教育を行うことが大切です。
2. 外国人労働者の日本語能力を把握する
外国人労働者の日本語レベルは個人差があるため、一律の研修を実施すると、学習進度に差が生じる可能性があります。そのため、事前に日本語能力を把握し、一人ひとりに適したゴールを設定することが重要です。
たとえば、「来月末までに顧客の質問にわかりやすく答えられるレベル」や、「5年後には現場をまとめられるまでの日本語力を身につける」など、具体的な目標を設定すると、学習の方向性が明確になります。
また、段階的に勉強できるようにすることで、学習意欲を維持しやすくなります。適切な日本語教育を行うためには、まず外国人労働者の現在の日本語能力を正確に把握することが重要です。
3. 学習進捗を管理する
日本語研修を提供する際は、外国人労働者の学習状況を継続的に管理することが重要です。研修中には「サービスの利用方法がわからない」「忙しくて勉強の時間が取れない」などの課題が生じる可能性があります。
日頃から学習状況を把握しておけば、進捗を確認し、学習が順調に進んでいるか判断しやすくなります。進捗が遅れている場合は、個別にサポートを行うことで学習意欲を維持できるでしょう。
具体的な管理方法は、学習サービスの利用率が低い外国人労働者に声をかける、勉強の負担を軽減する仕組みを整えるなどの工夫が挙げられます。継続的なフォローを行うことで、効果的な日本語教育を実現できます。
4. 研修内容を定期的に見直す
有益な日本語研修を実施するためには、研修内容の定期的な見直しが重要です。外国人労働者にとって実用的な研修となるよう、継続的に改善を行う必要があります。
講師や企業側がわかりやすいと感じる内容でも、外国人労働者にとっては難しく、理解しにくい場合があります。そのため、研修内容を改善するために、研修の参加者からフィードバックをもらい、内容が適切かどうかを確認することが重要です。
また、研修をしていると気づきにくい課題もあるため、研修の様子を撮影し、客観的に分析することも有効です。定期的な見直しを行い、効果的な日本語研修を継続する必要があります。
5. 日本人労働者との交流機会を与える
外国人労働者に日本語を習得してもらうためには、日本人労働者との交流機会を設けることが重要です。とくに日本人労働者が多く、外国人労働者が少ない職場では、日本語がうまく話せないことで孤立する可能性があります。
一方、外国人労働者が複数いる場合は、母国語での会話が中心となり、日本語の上達が遅れることも少なくありません。そのため、日本人社員と交流する機会を意図的に作ることで、外国人労働者がネイティブな日本語を学ぶ環境を整えられます。
また、日本人労働者と関わることで、職場の人間関係が円滑になり、働きやすい環境づくりにもつながります。積極的な交流を促すことが、日本語学習の成功に欠かせません。
外国人労働者への日本語教育の現状を理解して業務効率をアップさせよう
外国人労働者への日本語教育は、業務効率や安全性を向上させ、職場環境を改善する重要な取り組みです。
日本語が話せないことで業務の遅れやトラブルが発生する恐れがあるため、企業側のサポートが欠かせません。本記事で紹介した日本語教育の現状や教育方法、成功のポイントを実践することで、外国人労働者の定着率向上にもつながるためぜひ実践してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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