- 更新日 : 2025年3月31日
労働基準法第35条とは?休日のルールをわかりやすく解説
人事・労務担当者にとって、従業員の休日に関するルールは労務管理上の基本事項です。労働基準法第35条は、使用者(企業)が労働者に与えるべき休日について定めた規定であり、従業員の健康確保や適正な労働時間管理の要となります。
本記事では、労働基準法第35条の基本的な内容や定義、最新の改正動向、関連する最新判例、中小企業・大企業それぞれの適用上のポイント、そして人事労務担当者が実務で注意すべき点を解説します。ぜひ日々の実務や社内の説明資料としてご活用ください。
目次
労働基準法第35条とは
労働基準法第35条は、従業員に対する週あたりの最低限の休日付与義務を定めています。条文上は以下のように規定されています。
労働基準法第35条
使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも一回の休日を与えなければならない。
前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。
原則として週に1回以上の休日を与える必要があり、例外として4週間を通算して4日以上の休日を与える場合(変形休日制とも呼ばれます)は週1日の休日を厳守しなくてもよいとされています。
後者の規定により、企業は労務管理上、例えば「4週4日の休日」をまとめて与えるような柔軟な運用も許容されています。しかし、過度に休日をまとめすぎると労働者に長期間連続勤務を強いることになり、本条の趣旨に反します。
労働基準法第35条における休日の定義
「休日」とはどのような日か
休日の定義についても確認しておきましょう。労働基準法上の休日とは、「労働契約上、労働義務のない日」を指します。原則として暦日(午前0時から午後12時までの24時間)を一区切りとして労働しない日を休日とみなします。例えば日曜日が休日と定められている場合、日曜日の0時から24時まで一切労働しなければ、その日が休日となります。
深夜勤務が休日にかかる場合
休日の前日に仕事が長引いて、深夜まで働いたとします。例えば、土曜日の勤務が遅くなり、日付をまたいで日曜日の午前0時を過ぎてから退勤するようなケースです。このような場合、本来休日にあたる日曜日に、24時間連続の休息が確保されたとはいえず、「休日を与えた」とはみなされません。休日は暦日の休みが確保されて初めて意味を持つためです。
シフト勤務における休日の取り扱い
交替制勤務(シフト制)などでは、深夜におよぶ勤務や24時間をまたぐ勤務形態が見られます。このような職場では、「カレンダー上の1日を休日とする」という原則をそのまま適用するのが難しい場合もあります。
例えば24時間交替制の業務では、厳密に暦日で休日を与えようとすると、状況によっては「週に2日分の暦日」を休日として設定しなければならないこともあり得ます。
このような事態に対応するため、労働基準監督署などは行政解釈として、一定の条件を満たす場合には「連続した24時間の休み」を1日の休日と認める取り扱いを認めています。
その条件には、「就業規則等で休日の起算時間を定めていること」や、「労働者代表との協定によって適切に運用されていること」などが含まれます。
実際の運用では、週に1回以上、連続する24時間の休息が確保されていれば、必ずしも暦日どおりに休ませる必要はないとされています。ただし、これはあくまで例外的な取り扱いです。多くの企業では、カレンダー上の1日をそのまま休日とする運用で問題ありません。
法定休日と所定休日の違い
実務ではよく「法定休日」と「所定休日」という言葉が使われます。法定休日とは、労働基準法第35条で決められている最低限の休日で、週に1日(または4週で4日)とされています。一方、所定休日とは、法定休日のほかに、各企業が就業規則や雇用契約や就業規則などで定めている休日のことです。
例えば、多くの企業は週休2日制(例えば土日休み)を採用しています。この場合、労働基準法上は週1日の休日があれば足りますので、週2日のうち1日は法定休日、もう1日は法定外の所定休日という扱いになります。どちらを法定休日とするかは企業が決めることができ、通常は就業規則などで「日曜日を法定休日とする」といった形で明記されています。
法定休日と所定休日の区別は、休日労働に対する割増賃金率に影響します。
法定休日に労働させた場合の割増率は35%増ですが、法定外の休日(所定休日)に労働させた場合は、法定労働時間を超過しない限り、割増賃金の支払い義務は生じません。適正な割増賃金計算・支払いのため、人事労務担当者は自社の法定休日がどの日かを明確に定めておく必要があります。
労働基準法第35条の適用範囲
労働基準法第35条は、原則としてすべての労働者に適用されます。正社員だけでなく、アルバイトやパート、契約社員など、雇用形態に関係なく、会社の指揮命令のもとで働いている人であれば、この休日に関する規定の保護を受けることができます。
以前は、労働基準法の適用を受けない企業(事業場)も一部ありましたが、1998年の法改正で労働基準法の適用範囲が全面的に拡大され、家事使用人などを除いて、原則としてすべての事業が労働基準法の対象です。そのため、小規模な会社や個人事業であっても、労働基準法第35条に基づく休日の付与義務からは逃れられません。
適用除外となる労働者の例外
一定の条件を満たす一部の労働者については、労働時間や休日、休憩に関する規定の適用が除外されています。
代表的なのが「管理監督者」と呼ばれる管理職です。これは単に役職名が「課長」や「部長」であるというだけではなく、実際に経営に関わる重要な業務を担っていること、出退勤にある程度の自由があること、その地位にふさわしい待遇を受けていることなど、いくつかの要件を満たす必要があります。
- 経営者と一体的な立場
- 出退勤の自由
- 地位に相応しい待遇
このような管理監督者については、労働時間や休憩・休日に関する規定が適用されません。したがって、週1回の休日を与えなくても違法とはなりません。
ただし、形式的に役職を与えただけで実態が伴っていない、いわゆる「名ばかり管理職」については、労働基準法の適用除外にはなりません。この点は裁判でもたびたび争われており、後の判例でも取り上げます。
管理監督者のほかに、監視業務や断続的労働に従事者で、所轄の労働基準監督署から許可を受けた労働者についても、労働時間や休日の規制から除かれる場合があります。
とはいえ、これらはあくまで例外的な取り扱いであり、多くの労働者については、週に1回以上の休日を与えることが原則として必要です。
労働基準法第35条の改正内容
ここ数年、働き方改革関連法など労働基準法の改正が相次いでいますが、労働基準法第35条自体に大きな改正は行われていません。週一回の休日付与義務や「4週4日」の例外規定といった基本的な枠組みは長らく維持されています。これは、第35条の趣旨である「一定の休息日の確保」が労働者の健康管理にとって不可欠な最低基準であり、その意義が変わっていないためです。
しかし、休日制度を取り巻く議論や今後の改正の検討が全くないわけではありません。実は現行制度では、前述の4週4日制の適用により最長48日間連続勤務させることが理論上可能である点が問題視されています。
このような過度な連勤を防ぐため、厚生労働省の研究会などでは第35条の見直しを検討課題の一つとしています。
連続勤務日数の上限規制(14日連続勤務禁止)の検討
厚生労働省の有識者検討会では、「14日以上の連続勤務を禁止する」方向での法改正が2024年末時点で報告されています。
現行法では前述の通り理論上は最大48日間連続で勤務が可能となっており、「連続勤務日数に関する上限規制が事実上存在しない」と指摘されています。そこで少なくとも2週間に1度は休日を取得できるようにしようという趣旨で、2026年の法改正を目指し議論が進められている状況です。
仮にこの「14日ルール」が導入されれば、「4週4日」の規定が見直され、最大でも12日間の連続勤務にとどめ、13日目には必ず休日を設けるという形になることが想定されています。連続勤務が14日を超えないようにすることで、過労による健康被害(過労死やメンタルヘルス不調)の防止につなげる狙いがあります。
なぜ「14日」が基準とされるかというと、週1日の休日(最大12連勤)よりも厳しい規制ととしつつ、週休2日制との整合性を保ち、特殊な勤務形態でも2週間に1日は確実に休めるラインを設定しようとしているためです。
ただし、業種によっては労働力の確保やシフト編成に大きな影響が出る可能性もあり、特に人手不足が深刻な現場では「14日ルール」に対応するために増員が必要になるなどの課題も指摘されています。
人事担当者としては、こうした今後の法改正の動向を注視し、自社の勤務シフトが適応できるか検討を進める必要があります。
法定休日の「事前特定」義務化の案
もう一つ注目されている改正案が、法定休日(週1日の休日)の事前特定を義務づける案があります。現行法では、第35条に「休日をあらかじめ特定せよ」という規定はありません。
企業側は就業規則等で所定休日を定めている場合が多いものの、法的には必ずしも「何曜日を法定休日とする」と明示しなくても形式上は違法ではない状況です(ただし行政通達で「具体的に一定の日を休日と定める方法を規定するよう指導」する旨が示されています)。
この点について、有識者からは「法定休日をあらかじめ特定するルールを法令上に整備すべき」との意見が出ています。
仮に法改正が実現すれば、「使用者は毎週少なくとも1回のあらかじめ特定した休日を与えなければならない」といった条文への修正が想定され、事前に週のどの日が休日かを決めておく必要が生じます。
これにより、労働者にとっては自分の法定休日が明確になり、休日労働が発生した場合の割増賃金請求などもスムーズになります。一方で、企業側から見れば、業務都合に応じた休日の休日の振替がしにくくなる恐れがあり、事前特定を怠った場合にいつの時点で違反とされるかなど、新たな論点も生まれる可能性があります。
例えば休日を事前に特定していなかった週に休みを与えられなかった場合、いつ違反と評価されるのかといった解釈の問題も出てくるでしょう。
現時点では、こうした休日特定義務化や「4週4日」規定の削除はまだ検討段階にあり、具体的な法改正には至っていません(2025年2月執筆時点)。ただし、働き方改革の流れの中で、休日の管理をより厳格にしようとする動きが強まっているのは事実です。
人事・労務担当者としては、今後の動向を継続的に把握し、自社の就業規則や勤務シフトの見直しに備えておくことが必要です。
なお、最近の労働基準法改正の例としては、残業代未払い防止策や年5日の年次有給休暇取得義務化(2019年施行)、賃金請求権の時効延長(2020年施行)、中小企業への月60時間超残業の割増率引上げ適用(2023年施行)などがあります。
ただし、これらは労働時間・賃金・年休に関する改正であり、休日付与のルールそのものには変更がありません。したがって労働基準法第35条のルールは基本的にこれまで通りと考えて差し支えありません。とはいえ、今後の議論次第では第35条にも影響が出る可能性があるため、最新情報のアップデートを怠らないよう注意が必要です。
労働基準法第35条に関する最新の判例
企業の人事労務担当者として知っておきたい労働基準法第35条関連の判例をいくつか紹介します。休日のルール違反や運用の不備は、従業員とのトラブルや法的紛争に直結しかねません。判例を通じて重要なポイントを押さえておきましょう。
労働基準法第35条と休日振替・代休に関する判例
「休日振替」と「代休」の違いは実務上極めて重要です。休日振替とは、あらかじめ定めている休日に出勤させる代わりに、他の労働日を休日に振り替えることをいいます。これに対し代休とは、法定休日に労働させた後で、その埋め合わせとして別の日を休ませる措置を指します。似たような概念ですが、法的な扱いが異なり、特に割増賃金の支払い義務に大きな差が生じます。
この点について示唆的な判例が「ブルーハウス事件」(札幌地裁平成10年3月31日判決)です。この事件では、破産した会社の元従業員が「休日労働に対する割増賃金が一部未払いである」として訴えを起こしました。会社側は「休日出勤させた場合は事後的に代休を取得させているので割増賃金を支払う必要はない」と主張しました。しかし裁判所は、会社が行っていたのは代休の付与に過ぎず、厳密な意味での休日振替措置を取っていたわけではないと認定しました。
判決理由ではまず、休日振替(事前または事後に特定の労働日を休日に振り替える措置)を適切に行えば、もともと休日だった日に労働させても通常の労働日の扱いとなり割増賃金は不要と解されていることを示しました。しかし、その割増賃金支払い義務の免除が認められるのは「現実に特定の他の日を休日に振り替えた場合に限る」としています。なぜなら、労働基準法は本来「休日に労働させた場合には割増賃金を支払うこと」を原則としており、この原則を容易に潜脱させないためだと述べています。労働基準法第35条が休日の付与を義務付けている趣旨(労働者の健康配慮)を没却しないようにするためには、単なる事後的な代休取得だけでは不十分というわけです。
結局、ブルーハウス事件では会社側の主張は退けられ、代休を与えていても休日労働をさせた以上は割増賃金の支払い義務があるとの判断が示されました。人事担当者への教訓として、この判例は「代休では休日労働の割増賃金支払い義務は消えない」ことを明確に示しています。仮に法定休日に社員を出勤させる必要が生じる場合、事前に就業規則で休日振替を規定し、できるだけ同一週内(遅くとも4週以内)に振替休日を特定・通知することが重要です。それが難しく事後的に休ませるだけになった場合は、法定休日労働としての割増賃金(35%増)を必ず支払うようにしましょう。
なお、「あらかじめの振替休日なら割増不要」とはいえ、振替休日の運用にもルールがあります。就業規則に振替休日制度を定めておき、週1回(または4週4日)の休日が確保される範囲内で振替を行い、遅くとも振替実施前日までに本人に通知することが求められます。これらを怠ると振替自体が無効とみなされ、結局休日労働の割増賃金が発生するので注意が必要です。
労働基準法第35条と連続勤務・休日未取得に関する判例
労働基準法第35条が定める休日を適切に与えずに働かせ続けた場合、企業にはどのようなリスクがあるでしょうか。その一端を示したのが「ザ・スポーツコネクション事件」(東京地裁平成12年8月7日判決)です。この事件では、スポーツクラブ運営会社で管理職(課長職)であったXさんが、大量の未取得振替休日を抱えたまま退職したケースが争われました。
会社は就業規則で「業務上やむを得ない場合は公休日(所定休日)を1週以内の他の日に振り替えることがある」と定め、実際には社員が休日出勤した場合は当月または翌月に振替休日を取得させる運用をしていました。しかし多忙などの理由で振替休日を消化できない場合、最大2年間は繰り越せるという緩い扱いになっており、Xさんは結果的に133日もの未取得振替休日を抱える状況になっていました。ところが平成10年になり会社は方針を変更し、「管理職(課長代理以上)は今後一切、過去の振替休日を取得させない」と決定したのです。これを受けてXさんはその決定が有効と誤信し、「自分は膨大な休みを失うのだ」と思い詰めて退職願を提出、退職してしまいました。
裁判では、まずXさんの退職は錯誤による無効ではないか(休暇喪失の誤解に基づく退職の意思表示は取り消せるか)が争われましたが、こちらは認められず退職有効とされました。しかし次にXさんは予備的に「仮に退職が有効でも、133日分もの未取得休日が消滅させられたのは不当利得ではないか」と主張しました。裁判所はこの点を認め、会社は労働者から提供された労務によって不当に利得を得ているとして、その利得の返還義務を負うと判示しました。具体的には、1日当たりの基本給×未取得休日133日分の金額の支払いが命じられました。
この判例のポイントは、たとえ管理職で労働基準法上の残業代請求権がなかったとしても(本件でもXさんが労働基準法41条の管理監督者に当たるか争点となりました)、約束されていた休日を与えないまま労働させ続ければ民事上の不当利得請求が認められる可能性があるという点です。労働基準法第35条違反そのものは行政処分や刑事罰の問題ですが、実際に働かされた労働者からすれば「本来休むはずの日に働いた」対価を請求したいのは当然です。管理職で割増賃金の請求が難しい場合でも、企業が得た労働力という利得を返還せよ(賃金相当額を支払え)とのアプローチがとられるわけです。
人事労務の実務では、未消化の振替休日や代休を長期間積み上げないことが大切です。適宜消化させるか、消化できないなら割増賃金を支払って精算するなど、労使トラブルになる前に対処しましょう。本件のように「取らせないまま消滅させる」といった措置はリスクが高いです。また、管理監督者だからといって無制限に休日なしで働かせてよいわけでもありません。管理監督者は労働基準法上の休日規制は適用除外ですが、人間として休息は必要ですし、会社が就業規則で休日を定めているなら契約上は休みを与える義務があります。過労による健康被害が生じれば安全配慮義務違反に問われる可能性もあります。「管理職だから休ませなくても良い」は通用しないと心得ましょう。
労働基準法第35条と管理監督者(名ばかり管理職)に関する判例
管理監督者の適用除外ですが、企業がこの範囲を広く解釈しすぎてトラブルになるケースもあります。いわゆる「名ばかり管理職」問題です。これに関連して有名なのが「日本マクドナルド事件」(東京地裁平成20年1月28日判決)でしょう。
この事件では、日本マクドナルド社の直営店店長が「店長を管理職とみなして残業代(休日手当を含む)を支払わないのは違法だ」として訴えを提起しました。マクドナルド社は就業規則で店長職を労働基準法41条の管理監督者に該当するとしていましたが、店長は長時間労働や休日出勤を繰り返しており、待遇面でも一般社員と大差ない状況でした。東京地方裁判所は、「店長の職務内容や待遇は管理監督者とはいえない」と判断し、会社に対して過去2年分の未払い割増賃金約755万円を支払うよう命じました。
判決はまず、労働基準法の労働時間・休日規制は最低基準であり、これを超えて働かせるなら割増賃金を払うのが全ての労働者についての原則であることを確認しました。その上で、「管理監督者」とは経営者と一体的な立場で重要な職務と権限を与えられ、待遇面でも優遇されている者だと定義づけました。そして本件の店長については、アルバイトの採用やシフト決定など一定の権限はあるものの、それは店舗内に限られ企業経営全体に関わる権限ではないこと、労働時間の裁量も乏しく、賃金待遇も管理職として十分優遇されているとは言えないことから、管理監督者には当たらないと判示したのです。
この結果、店長は労働基準法第35条や時間外労働規制の適用を受ける労働者と認められたことになり、会社は休日労働や残業に対する割増賃金を支払う義務を負いました。本件は主に残業代請求事件ですが、根底には「休日も含めた長時間労働をさせられていた」実態があります。管理職か否かの線引きは企業にとって難しい問題ですが、仮に管理職と主張するならば相応の権限付与と待遇改善が必要不可欠です。そうでなければ、第35条の休日付与義務違反や時間外労働規制違反となり、未払い残業代や休日割増の請求を受けるリスクが高まります。
人事担当者は、管理職の範囲設定に慎重を期すとともに、名ばかり管理職を生まない職務設計を行うことが大切です。特に店長職や支店長職など現場で長時間労働しがちな管理職については、定期的に労働実態をチェックし、必要ならば人員配置を見直す、事業場外みなし労働時間制や裁量労働制などの労働時間制度の適用を検討するなど、適切な対応を取りましょう。
労働基準法第35条における大企業と中小企業の対応
労働基準法第35条の休日付与に関する規定は、企業の規模を問わずすべての事業者に等しく適用されます。中小企業であっても週1日の休日を与える義務があり、大企業であるからといって特別な追加義務があるわけではありません。しかし、実務面では企業規模や業態に応じて対応すべきポイントに違いが出てきます。
大企業の場合
多くの大企業では、週休二日制が定着しており、休日管理もシステム化されています。人員にも余裕があるため毎週必ず休みを取得できる体制が整っているでしょう。しかし、大企業ならではの留意点もあります。
まず、労働者が多いため、交替勤務や変形労働時間制を導入しているケースが考えられます。工場やコールセンターなど24時間稼働の現場では、各従業員に異なる法定休日が設定されていることがあり、就業規則やシフト表で明確に休日を特定しておく必要があります。
人数が多いほどシフト作成は複雑になりますが、ここに漏れがあると一部の従業員が長期間連続勤務になってしまう恐れがあります。
最近では勤怠管理システムで自動チェックする企業もありますが、「誰もが最低でも○日ごとに休んでいる」ことを常に検証しましょう。
また、管理職や裁量労働制の対象となる社員への対応も重要です。大企業では管理職層が厚く、専門業務型裁量労働制が導入されているケースもありますが、これらの社員についても心身の健康維持が求められます。
管理職にもリフレッシュ休暇や連続休暇取得の奨励制度を設けるなど、実質的に休める環境を整える必要があります。万一、管理職が長時間労働により健康を損ねたり、過労自殺するといった事態になれば、労働基準法違反の有無に関係なく企業責任が問われ、大きな社会問題となります。
変形労働時間制を導入している企業は、制度上の誤解にも注意が必要です。例えば、1ヶ月単位や1年単位の変形制を採っていたとしても、それはあくまで労働時間の平均化であり、法定休日の付与義務が免除されるわけではありません。どのような変形制を用いていても、週1回または4週4日の休日付与は必須です。
繁忙期に連続勤務が増えがちな1年単位の変形制でも、暦週で1回の休日は抜き取ることがマストです。
さらに、年次有給休暇の計画的付与制度などを利用して休暇取得を進めている場合も、法定休日との混同には注意が必要です。有給休暇は労働義務のある日を休みに変える制度であり、法定休日とは別物です。「うちは有給消化率が高いから、法定休日を隔週にしても大丈夫」という考え方は認められません。あくまで年休と法定休日は別枠で管理する必要があります。
大企業では社会的責任が大きく、法令違反が明るみに出れば企業イメージの低下につながります。コンプライアンス体制を強化し、システムによるデータ分析や異常値のモニタリングを通じて、未然の防止策を徹底することが重要です。
中小企業の場合
中小企業では、限られた人員と業務量の兼ね合いから、「なかなか毎週きちんと休みを出せない」という声も聞かれます。確かに少人数の職場では交替要員の確保が難しく、週休二日制を実現できない場合もあるでしょう。その場合でも最低限、週1日の休日は死守しなければなりません。「忙しいから2週間休みなし」などは明確に労働基準法違反となります。
労働基準監督署の是正勧告事例でも、36協定を締結していないのに休日労働をさせたケースや、協定があっても限度を超えて休日出勤させたケースは指摘の対象となっています。
また、中小企業では労働組合がないことも多く、時間外・休日労働に関する協定(36協定)を社員代表と締結する必要があります。注意したいのは、その36協定に休日労働の項目を入れておくことです。
注意したいのは、その協定に「休日労働」についての定めを必ず含めておくことです。
仮に時間外労働については協定が結ばれていても、休日労働についての取り決めがなければ、その休日出勤は違法となります。これは中小企業で見落とされがちなポイントなので、必ず36協定の様式(労使協定届)で休日労働の上限日数等を定め、所轄の労基署に届け出ておきましょう。
さらに、中小企業では就業規則や雇用契約書の整備が不十分なことも少なくありません。就業規則や雇用契約書に週の休日を明示し、振替休日や代休の取り扱いについてもルールを明文化しておく必要があります。
法定休日を曜日固定せず、シフト制で運用する場合も、「どのように法定休日を決定・通知するか」のルールが必要です。これが曖昧だと、社員から「自分の法定休日はいつなのかわからない」「代休を与えられたがそれで休日労働の賃金を払わないのはおかしい」といった不満やトラブルにつながります。
最後に、法違反があった場合のリスクも十分に認識しておく必要があります。労働基準法第35条違反(法定の休日を与えなかった)や第36条違反(36協定なしの残業・休日出勤)は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。
中小企業は監督署の調査が頻繁ではない場合もありますが、労働者からの申告や、過労による事故が発生すれば、厳しい処分や企業名の公表といった処分を受けることもあります。
「うちは小さい会社だから見逃してもらえる」といった油断は禁物です。人事労務担当者は、法定休日の付与がきちんと行われているか、記録やシフト表をもとに定期的に確認する仕組みを整えておくことが求められます。
労働基準法第35条を遵守するためのポイント
最後に、人事労務担当者が労働基準法第35条のルールを実務で守るためのポイントを整理します。
週1回以上の休日を必ず確保する
どんなに忙しい時期でも、4週4日の例外を悪用して2週間以上連続で働かせないよう注意します。シフトや勤務表を作成する際には、各従業員について連続勤務日数を確認し、適宜休みを入れるようにします。極端な連続勤務は労働基準法違反のみならず健康被害にも直結するため、管理職にも「○日以上連続勤務は禁止」と周知し遵守させましょう。
就業規則等で休日を明示する
自社の法定休日が何曜日(あるいはシフト上どの日)に相当するかを就業規則で明記します。例えば、週休2日制の場合は「○曜日を法定休日とし、もう1日を所定休日とする」などと記載しましょう。加えて、休日の振替方法や代休の取り扱いについても規定しておきましょう。これにより、万一休日に出勤させる場合のルール(事前通知期限や振替可能期間など)が明確になります。
36協定を締結する
時間外労働・休日労働が見込まれる場合、必ず過半数労組または従業員代表との間で36協定を結び、所轄労基署へ届け出ます。協定書には休日労働に関する項目も忘れずに記載し、法定休日に労働させる可能性があるなら何日まで可能か上限を定めます。36協定で休日労働に触れていないと法的には休日労働が一切許されないので要注意です。
振替休日は事前に特定する
やむを得ず休日に出勤させる場合、可能な限り事前に振替休日を特定・通知しましょう。それができず事後的な代休取得になった場合は、休日出勤分の割増賃金(35%)を必ず支給します。また、振替休日を設定する際も、週をまたぐ場合は時間外労働の扱いに注意が必要です(振替が別週になると一週の労働時間が法定超過し割増賃金が発生する場合があります)。
労働時間管理と記録を徹底する
出勤簿やタイムカードを活用し、各労働者の休日取得状況を把握します。特に振替休日・代休の未取得分は一覧で管理し、長期間未消化とならないよう定期的に消化を促します。先述のスポーツコネクション事件のように大量の未取得休日を放置すると後で問題になります。
労働基準法第35条を正しく理解して運用しましょう
労働基準法第35条を正しく理解・運用していれば、従業員の健康と企業の法令遵守の両立が図れるはずです。休日は労働者にとって英気を養う大切な時間であり、その付与は法律上の義務です。
人事・労務担当者は単に法律違反を避けるためだけでなく、従業員のワークライフバランスとモチベーション向上の観点からも、適切な休日管理に努めましょう。その積み重ねが、結果的に生産性向上や優秀な人材の定着にもつながることを念頭に置き、日々の実務に活かしていただければ幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
労働基準法第41条とは?適用除外・管理監督者などわかりやすく解説
労働基準法第41条は、一定の要件を満たす労働者について労働時間や休憩、休日に関する規定を適用しない、いわゆる「適用除外」について定めた条文です。 労働時間制度の運用に不安がある場合は、社会保険労務士や弁護士といった労務の専門家に相談すること…
詳しくみる試用期間中に解雇はできる?不当解雇になるのかを解説
社員としての適性を判断するため、新規採用者に対して試用期間を設けることは一般的に認められています。試用期間中は通常よりも広い範囲での解雇が認められているものの、理由によっては不当解雇と判断されます。また入社後14日を過ぎてから解雇する場合は…
詳しくみる労務担当の仕事内容は?やりがいと面白さ、業務効率化の方法を知る
労務担当の仕事内容とは?人事と労務の違いと 人事と労務。どちらも企業で働く人に関わる仕事です。似ているようで、仕事内容も求められる要件も全く違います。 人事の仕事は採用活動・人事管理・社員研修や教育・人事制度の設計が主です。採用や研修の計画…
詳しくみる無給休暇は給料が減る?欠勤との違いや注意点を徹底解説
無給休暇を取得すると、休暇中は給料の支払い義務はありません。無給休暇と欠勤は給料が発生しない点では共通しますが、概念や労務管理上の扱いが異なります。 本記事では、無給休暇について徹底解説します。無給休暇と他の休暇との違いや種類、注意点につい…
詳しくみる会社都合で勤務時間は変更できる?違法リスクやトラブルを防ぐ方法を解説
企業の業務効率化や経営の見直しによって、勤務時間の変更を検討するケースは少なくありません。しかし、会社都合で勤務時間を変更する際には、法律上のルールを守る必要があり、適切な手続きを踏まないと違法と判断されるリスクがあります。 とくに急な勤務…
詳しくみる60連勤は違法?労働基準法に基づき分かりやすく解説!
60連勤特有のきつさは、体力と精神力をすり減らし、回復の余地がない状態に追い込まれることです。 本記事では 「60連勤は違法なのか?」 という疑問を労働基準法に基づいて分かりやすく解説します。法令遵守はもちろん、従業員の健康や働きやすさを守…
詳しくみる