• 更新日 : 2025年3月19日

ホテルで外国人雇用できる就労ビザ(在留資格)や業務範囲を解説

ホテル業において外国人を雇用したいと考える宿泊施設は増えています。ただし、外国人の就労ビザ(在留資格)によって許可されている業務範囲が異なるため注意が必要です。

この記事では、ホテルで外国人雇用できる就労ビザ(在留資格)や業務範囲について解説します。

外国人雇用はホテルの人手不足解消につながる

コロナウイルスが収束してから外国人観光客が増加しており、ホテル業界では深刻な人手不足が問題となっています。ホテル業界における人手不足の解消には、外国人雇用が効果的です。

宿泊業において、日本人労働者は年々減少している一方で、外国人労働者は増加しています。また、インバウンド需要の高まりにより、多言語対応や異文化理解ができる人材へのニーズが強まっています。

外国人スタッフの雇用は、人手不足の解消だけでなく、インバウンド対応のサービス向上にも効果的です。

参考:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】

ホテルで外国人を採用できる就労ビザ(在留資格)とは?

ホテルで外国人を採用できる就労ビザ(在留資格)として以下が挙げられます。

  • 技術・人文知識・国際業務
  • 特定活動46号
  • 身分系の就労ビザ(在留資格)
  • その他の就労ビザ(在留資格)

就労ビザ(在留資格)の種類によって異なる業務範囲も含めて解説します。

「技術・人文知識・国際業務」

最も一般的な就労ビザ(在留資格)が「技術・人文知識・国際業務」です。実務上は「技人国(ぎじんこく)」と呼ばれます。

大学等で学んだ専門的な知識や技術を活かす職種に就労するための在留資格です。「技術・人文知識・国際業務」のビザを申請するには以下の要件を満たしている必要があります。

  • 学歴や職歴と業務内容に関連性がある
  • 日本の大学卒に相当する学歴か日本の専門学校を卒業している
  • 日本人と同等以上の給与水準
  • 受け入れ企業の経営状態が良好

「技術・人文知識・国際業務」のホテルでの業務範囲

「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で認められる業務は、専門性にもとづく業務です。外国人労働者の専門的な技術や知識を活かすことが目的とされています。「技術・人文知識・国際業務」のホテルでの業務範囲に該当するのは以下のとおりです。

  • 広報
  • 企画・マーケティング
  • 営業
  • 経理
  • エンジニア
  • フロント・コンシェルジュ
  • 通訳・翻訳

単純作業や単純労働の業務は対象外となります。また、ベッドメイキングや客室の清掃業務などはできません。認められている業務内容以外で雇用した場合、不法就労となり外国人労働者だけでなく企業も罰則を科せられる可能性があるため注意しましょう。

「特定活動46号」

「特定活動46号」は、2019年5月に追加された比較的新しい就労ビザ(在留資格)です。

「特定活動46号」は「技術・人文知識・国際業務」より認められている業務範囲が広いのが特徴です。「特定活動46号」のビザを申請するには以下の要件を満たしている必要があります。

  • 日本の4年制大学卒業以上
  • 日本語能力試験N1合格またはBJTビジネス日本語能力テストで480点以上

常勤の職員として直接雇用契約を結ぶことや、日本人と同等額以上の給与水準が求められます。「特定活動46号」は勤務先が指定されるため、ほかのホテルに転職する場合は、在留資格変更許可の申請が必要です。

「特定活動46号」のホテルでの業務範囲

ホテル業では、翻訳業務を兼ねた外国語ホームページの開設や広報業務、外国人客への通訳を兼ねたドアマンとしての接客業務などを行うことが可能です。

「特定活動46号」は「技術・人文知識・国際業務」では認められなかった清掃業務や接客業務などの単純労働も認められています。ただし、翻訳や通訳要素のある業務がメインであり、単純労働のみに従事することはできないため注意しましょう。

「特定活動46号」は「技術・人文知識・国際業務ビザ」よりも店頭に立つ外国人に適しており、インバウンド業に最適な就労ビザです。日本国内のホテルでも多く活用されています。

「特定技能1号」

「特定技能1号」は、人材の確保が困難な「特定産業分野」に外国人材を受け入れるために創設された就労ビザ(在留資格)です。「技術・人文知識・国際業務」や「特定活動46号」では受け入れられない人材を雇用できる在留資格として期待されています。

宿泊分野において「特定技能1号」の在留資格で就労するためには、以下の要件を満たしている必要があります。

  • 宿泊技能評価試験に合格している
  • 日本語能力試験N4以上に合格している

「特定技能1号」のホテルでの業務範囲

「特定技能1号」のホテルでの業務内容として挙げられるのは以下のとおりです。

  • フロント業務
  • 企画や広報
  • 接客業務
  • 清掃やベッドメイキング
  • レストランサービスの配膳や片付け

「特定技能1号」の在留資格では「技術・人文知識・国際業務」では認められなかった業務も付随的に行うことが可能です。単純労働の清掃やベッドメイキング、レストランの配膳などにも従事できます。

ただし、単純労働は主業務ではなく、あくまでも付随的な業務として従事させる必要があります。

身分系の就労ビザ(在留資格)

身分系の就労ビザ(在留資格)は、就労の制限がなく、さまざまな業務に従事できます。身分系の就労ビザ(在留資格)として挙げられるのは以下のとおりです。

  • 永住者
  • 永住者の配偶者等
  • 日本人の配偶者等
  • 定住者

ほかの在留資格とは異なり、単純労働のみを行うことも可能です。フロント業務はもちろん、ホテルの客室清掃やベッドメイキング、レストランの接客業務などにも従事できます。

労働基準法の範囲内であれば、就労時間の制限もないため、日本人と同様に働けます。身分系の就労ビザ(在留資格)を持つ外国人は、日本との縁が深い可能性が高いため、文化や言葉によるトラブルが少なく、比較的労務管理がしやすいのも特徴です。

その他の就労ビザ(在留資格)

その他の就労ビザ(在留資格)として挙げられるのが「留学」と「家族滞在」です。

日本では原則として就労が認められていませんが、資格外活動許可を取得すれば1週間に28時間以内の就労が認められ、職種を問わずさまざまな業務に就業できます。単純労働のみの業務も可能です。

ただし、働ける時間が1週間に28時間以内となっているため、労働時間が超過しないよう気を付ける必要があります。複数のアルバイトを掛け持ちしている場合、すべての労働時間の合計を28時間以内にしなければならない点にも注意しましょう。

ホテル業での在留資格「技人国」の不許可事例

法務省入国管理局による「ホテル・旅館等において外国人が就労する場合の在留資格の明確化について」には、ホテル業での在留資格「技人国」の不許可事例が詳しく掲載されています。以下に不許可事例の一部を紹介します。

  1. 主たる業務が宿泊客の荷物の運搬及び客室の清掃業務であり「技術・人文知識・国際業務」に該当する業務に従事するものとは認められず不許可となった
  2. 従事しようとする業務の内容が、駐車誘導、レストランにおける料理の配膳・片付けであったことから「技術・人文知識・国際業務」に該当する業務に従事するものとは認められず不許可となった

単純労働には特に注意が必要です。「技術・人文知識・国際業務」の在留資格では単純労働に該当する業務はできません。在留資格で認められていない業務に従事した場合、外国人本人だけでなく、業務を任せた企業側も処罰の対象になります。

ホテル業における外国人雇用のメリット

ホテル業における外国人雇用には、多言語コミュニケーションが可能となる、若い人材を確保できるといったメリットがあります。

多言語コミュニケーションが可能

外国人スタッフの強みの一つが、多言語対応です。英語や中国語、韓国語などによる多言語コミュニケーションができるため、観光客の満足度が向上します。

ホテル業では特に、インバウンドの需要が高まっているため、外国語に対応できるスタッフが不可欠です。日本人スタッフでは対応が難しい場面でも、外国人スタッフの活躍により、クレーム防止やリピーター獲得につながる可能性があります。

若い人材を確保できる

外国人の雇用により、若い人材を確保できることもメリットです。厚生労働省のデータによると、外国人労働者は「20〜29歳」の割合が最も多く、年々増加傾向にあります。

若年層は体力や柔軟性を兼ね備えている場合が多く、ホテル管理に関する新しい技術にもスムーズに対応することが可能です。日本は少子高齢化により若い人材が減少しているため、外国人雇用を進めることで人材不足の解消にもつながります。

参考:厚生労働省 在留資格別×年齢別にみた外国人労働者数の推移

大量に採用できるチャンスがある

外国人向けの求人には応募者が集中しやすいため、大量に採用できるチャンスがあることもメリットの一つです。

文部科学省の資料では、外国人留学生の就職に関する課題として、外国人留学生向けの求人が少ないことが挙げられています。日本で働きたくても働き口が見つからない外国人が多い状況であるため、求人に応募者が集まりやすく、短期間で多くの人材を採用できる可能性があります。

参考:文部科学省 外国人留学生の就職促進について

企業全体の生産性向上につながる

外国人の雇用により、企業全体の生産性向上が期待できることもメリットです。外国人スタッフの受け入れは、ホテル業務の効率化や社内体制の見直しを促すきっかけになります。

業務マニュアルの整備や言語対応ツールの導入などにより、業務の効率化が進み、生産性の向上につながります。また、異なる文化や価値観を持つ人材が加わることで、新しい発想や柔軟な働き方が生まる可能性があるため、組織全体の活性化にも効果的です。

政府の助成金や補助金を活用できる可能性がある

外国人労働者の雇用には、政府の助成金や補助金を活用できる可能性があります。国や自治体によって、さまざまな制度があるため、活用できる支援策がないか確認することをおすすめします。

申請には要件や期限があるため、事前の情報収集が重要です。上手に活用すれば、雇用コストの削減につながり、企業の外国人雇用を効果的に進められます。

ホテル業における外国人雇用の注意点

ホテル業における外国人雇用には、文化や生活習慣の違いや意思疎通が難しいといった注意点があります。

文化や生活習慣による価値観の違いがある

外国人を雇用する際は、文化や生活習慣による価値観の違いがあることを考慮する必要があります。無意識の言動がトラブルの元になったり、場合によっては法に触れたりする可能性もあるため注意が必要です。

受け入れ企業は、文化の違いを尊重して、共通ルールを明確に設定することが重要です。また、異文化理解に関する研修などを実施することで、相互理解が深まり、働きやすい環境づくりにつながります。

意思疎通が難しい場合がある

雇用した外国人の日本語レベルやコミュニケーションに対する考え方の違いにより、意思疎通が難しい場合があります。業務指示や顧客対応に支障をきたす可能性があるため、指示書の多言語化や通訳ツールの活用などにより、わかりやすく指示することが必要です。

特にクレーム対応や緊急時の連携では、意思疎通のズレが大きな問題になります。業務効率だけでなく、安全面に影響する可能性もあるため注意しましょう。

外国人労働者が孤立しない環境づくりのために、異文化理解の研修を実施することも有効です。

日本人と同様の給与水準を設定する必要がある

外国人だからといって、日本人より安い給与で雇用することはできません。外国人労働者にも最低賃金法が適用されるため、日本人労働者と同様に最低賃金以上の報酬を支払う必要があります。

最低賃金以上の金額を支払わない場合は、入管法にもとづく不正行為の対象となる可能性があるため注意が必要です。給与は外国人本人の生活安定や定着にも直結するため、早期離職につながらない設定が求められます。

ホテルの人手不足を外国人雇用で解決しよう

ホテル業界の人手不足を解消する手段として、外国人雇用は有効です。

就労ビザ(在留資格)による業務範囲の違いには注意が必要ですが、適切な在留資格で人材を確保すれば、人手不足の解消だけでなくサービスの向上にもつながります。インバウンド対策としても外国人雇用は有効な手段です。


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